【PR】目指す“タイトな低域、明瞭な中高域”をそのまま実現
見事なデビューモデル、傑作の予感。新ブランドclariarのイヤホン「i640」に驚かされた
さて、技術的な注目点の多さから低域周りを特にピックアップしてきたが、このモデルが「低域表現特化機、ではない」ことも改めて確認しておきたい。各帯域のドライバー選択やそれを調和させるネットワークもこだわりの結晶。それに低域周りへの注力も、低域を整理することで上の帯域の明瞭度も向上させられるという狙いもあってのことだ。
それらの構成要素を収める筐体のデザインについては、NOMOSやBRAUNの腕時計、ライカのカメラなど、バウハウス的なプロダクトからのインスパイアが大きいそうだ。円と直線の組み合わせで表現するというイメージで、工業デザイナーの方と組んで完成させたというその筐体は、比較的大柄ではあるが、装着感も問題なし。カスタムイヤーモニター製作の経験が生かされているところだろう。
■背景までクリアに、明瞭度高く再現。豊かな空間表現で魅力的に音楽を展開する
それでは、「i640」のサウンドの印象を紹介しよう。
試聴楽曲の一つ、星野源「不思議」は、アナログシンセの様々な名機を多用し、その肉感的な音色が魅力。ミックスでも全体が柔らかに溶け合うような雰囲気が作り上げられている楽曲だ。
i640で聴くと、その肉感や溶け合い感を生かしつつ、同時に最新録音らしい透明感やすっきり感も強く引き出してくれる。ビンテージシンセのアナログ感や温かみに傾きすぎず、エレクトリックサウンドとしての音の配置の巧みさなどの構築感、クールさもバランスよく描写することで、現代のポップスとしての完成度の高さを際立たせてくれる、そんな表現力を持っているのだ。
音像とその背景のクリアさ、明瞭度を特にわかりやすく感じられる場面としては、曲の冒頭。その歌の息遣い、ブレスのニュアンスがよく届いてくる点に注目したい。息がすっと届いてくることで、歌詞の「手を繋いだら息をしていた」がより生かされる場面なので、そこはぜひしっかりと届けてきてほしい。このイヤホンはそれが完璧だ。
低域側ではベースの安定感に注目。この曲では5弦ベースが使われており、例えばサビ前の「なのになぜ側に居たいの」のところは、5弦のローCから1弦のDまで3オクターブ以上も使った幅広い音域のフレーズになっている。
i640は、その幅広い音域を動く中でも、ローC側を強く響かせすぎてしまうとか、真ん中あたりの音程だけ太くしすぎてしまうといった、音程ごとのばらつきを出さない。そのように再生側での凸凹がないことで、演奏のニュアンスが正確に再現される。
一方で、設計の意図通りのタイトな低音に仕上げらているので、たっぷりとした量感や重みの豊かさを望む方には不足が感じられるかもしれない。Robert Glasper「Human」のベースやバスドラムの重い沈み込みの再現性などといった部分は、少し物足りない印象もあった。
とはいえ、低域が弱いわけではなく、サブベースまですっと伸ばした上で、ローミッドあたりが膨らまないよう引き締めてある。そのようにイメージしてもらえればと思う。このタイトな低域だからこそ、全体の明瞭度にも繋がっているのだ。
ほかにも、文句なしに相性良しと感じた楽曲はYOASOBI「怪物」。透明感と音場の広さのおかげで、Bメロに入った瞬間に空間がパッとした広がるサウンドアレンジが素晴らしく際立つ。ハーモニーを左右に大きく振ったりぐっと奥に配置したりする、立体空間的なボーカルミックスの面白さもより効果的に。空間表現の豊かさによって、曲の展開をよりクッキリさせてくれる。
i640のサウンドは、いわゆる「スッキリとしたBAマルチ構成」の系譜を好んできた方には、特にクリティカルヒットしそうだ。佐々木氏は音作りのイメージについて「ニアフィールドモニタースピーカーとサブウーファーの組み合わせ」とも語っていた。実際、そういった現代的なモニターサウンドを好む方にもフィットしそうなサウンドである。
ブランドやシリーズの第一弾モデルは、後に振り返ったとき「あれこそブランドやシリーズの本質と初期衝動を存分に詰め込んだ傑作だった」という存在になることも多い。「このi640も、いずれきっとそうなる」、そう期待させられるほど、実に見事なデビューモデルだ。
(協力:ミックスウェーブ)