[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域【第265回】
DAPやポタアンだけじゃない!FiiOの “イヤホンブランドとしての決定打” 「FD7」を聴いた
■ギター名演の演奏ニュアンスに、完璧に追従する超レスポンス!
それではいよいよ、試聴レポート!組み合わせるプレーヤーには、Astell&Kern「SA700」を使用した。繊細な表現を得意としつつ、駆動力にも不足はないDAPだ。
まずは、最もスタンダードで中間的な組み合わせと思われる、「バランスタイプの音導管/バランスタイプのイヤーチップ/3.5mmシングルエンド駆動」のセッティングから。
それでは、ホセ・ジェイムズによるカバー曲「Just The Two of Us」にて試聴スタート。
■José James「Just The Two of Us」
……うん。このセッティングをスタート地点として、そこからセッティングを色々変えて、自分好みに追い込んでいく過程をお伝えするつもりだったのだが、いきなり文句なしに好みの音を出されてしまった。
一聴して、帯域バランスはほぼ完璧にフラット。超低域や超高域の本当に両端まで見事なバランスで、中低域の膨らみや高域のピークといった癖は感じられない。
例えばバスドラムの響きが、低域から超低域にかけての空気感として響く雰囲気も、しっかりと再現されている。この響きを全く再現できなかったり、響きの重心をミドルレンジに持ち上げて、もっさりとさせてしまったりするオーディオも少なくはないが、このイヤホンはさらっと正確にこなしてくれる。
音の感触も印象的だ。やや硬質傾向ではあるが、質感が潰れたすべすべやツルツルの硬質さにはならず、滑らかさやしっとりさなどの手触り、肌触りも豊かに届けてくれる。人の声、ボーカルに耳を向けると、その感触は特にわかりやすい。
また、あの鈍色に輝く金属の手触りをイメージしつつ、シンバルに耳を向けてみるのもよいかと思う。この曲と同じように、良質な録音であればそのイメージに導かれるように、金属質の微かなざらつきや、金属粉が舞い散るかのような響きの粒子を感じられることだろう。
煌めくエレクトリック・ピアノの音色が揺らぐ場面などでは、空間表現のハイレベルっぷりも見せつけられた。感覚的すぎる話になってしまうが、何というか、音の置かれ方が「限られた空間に緻密に配置された」ではなく、「余裕ある空間に自然に配置された」ように感じられるのだ。セミオープン構造だからというだけではないだろうが、セミオープンらしい、まさに開放的な空間表現を期待する方も、満足させるものであることは間違いない。
そのほかでは、ジョー・パスのソロギター名演「How High the Moon」を聴いてのインパクトも強かった。本作はフルアコースティックギターのアンプを通さない生音の録音であり、またこの手のソロギターにしては珍しい、ピック中心の演奏でもあり、演奏のタッチが強烈に生々しい作品だ。
それをこのイヤホンで聴くと、弦に対するピックの当て方のダイナミクスやバリエーション、こちらの音はピックで弾いて、あちらの音は指で弾いてというニュアンスの違い、右手のピッキングで出している音と、左手のフィンガリングで出している音が入り混じることでのうねりなど…あらゆるギターならではの演奏ニュアンスが、素晴らしく届きまくる。
そういったニュアンスの多くは、それぞれの音のアタック部分に強く表れている。それが “届きまくる” ということは、このFD7はアタックの再現性が極めて優秀ということだろう。入力に対するレスポンスが速く、そして正確。この点は、ピュア・ベリリウム振動板の貢献が特に大きいと想像できる。
この曲に代表されるように、クリーントーンに近い音色で、タッチの豊かな演奏がされているギター音楽全般との相性は抜群!ということを、強くお知らせしておきたい。ほか、ジミ・ヘンドリックス「Little Wing」も最高だった。