PCオーディオの外付けドライブとしても活用
fidata初の“オーディオグレード”CDドライブの実力は? リッピング&リアルタイム再生でテスト
ハイエンドオーディオ機器としての風格を備えるAD10
では、試聴を進めていこう。サウンドレビューは、大きくわけて2つ。まずは(1)fidataオーディオサーバーとUSB-DACを組み合わせた「CDトランスポート」としての再生と、(2)PCオーディオの外付けドライブとしてのパフォーマンスで、それぞれCDのリアルタイムとCDリッピングの2つの再生を行なう。
(1)では、DAコンバーターにアキュフェーズの最新トップエンド機「DC-1000」を用意し、AD10のCDトランスポートとしての実力を確認した。ちなみにRealTime PureReadモードは、マスターモードである。
私の定番リファレンスディスク、パトリシア・バーバーの『Higher』から「ハイ・サマー・シーズン」を聴いたが、声の瑞々しさと音像フォルムの克明さが印象的だ。伴奏のガッドギターは、爪弾くアルペジオの旋律の強弱、ネックをスライドする音の生々しさが格別であった。
ECMからリリースされたマーク・ジョンソンのベースソロ作「Over Pass」では、ベースのピチカートの高い分解能に加え、エネルギーバランスの安定感と重心の低さを感じた。倍音のニュアンスがとても豊かに感じられ、ここまでのチェックで「AD10」がハイエンドオーディオ機器としての音の品位、風格を充分備えていると感じた次第だ。
参考に、国産の130万円クラスの某高級ディスクトランスポートとの比較も行った。「AD10」(約50万円)+「HFAS1-S10」(約40万円)で合計約90万円と、比較的近いプライスとなる。もうひとつ、ドライブにアイ・オー・データ機器製の汎用BDドライブ「BRD-UT16WX」(約2万円)との比較試聴も実施した。
試聴曲は、ジェニファー・ウォーンズのハイブリッドSACD盤『Another Time、Another Place』から「トゥモロウ・ナイト」である(CD層を試聴)。
ディスクドライブ「BRD-UT16WX」での再生も情報量は十二分に感じられ、ヴォーカルの質感が瑞々しい。しかしベースの量感は軽く、ハモンドオルガンの響きにも厚みがない。エネルギーバランスが全体に腰高に感じられた。
対する「AD10」は、ベースがどっしりと低い重心で、ハモンドオルガンの厚みも充分。声には瑞々しさと同時に立体的なフォルムが感じられる。
一方の国産ブランドのCDトランスポートはエネルギーバランスが整っており、声の瑞々しさは3パターン中で最も好ましい。中域の張り出し具合が実にいい感じなのだ。
リッピングにおいても音質差は顕著。リアルタイムとリッピング時の違いもチェック
続いてCDリッピングとディスク再生の音を比較してみよう。音源は前述のジェニファー・ウォーンズを使用し、データの取込みは無圧縮のFLACとした。ここでもfidata Music Appを使用することで、メタデータやアルバムアートはGracenoteから引っ張られてきて、通常のファイル再生もCD再生も同じ感覚で操作でき、ストレスがまったく感じられないのだ。
AD10では滑らかで自然な質感再現が感じられたのに対し、BRD-UT16WXの質感再現はいわば表皮がやや粗く、ディテール描写が甘い印象を受けたのである。この辺りは、オーディオ的にケアされているモデルとそうでないモデルとの差が出たと解釈していい。
また、AD10のリッピングデータの音は、CDのリアルタイム再生と比べて微細なニュアンスや質感が浮き彫りとなり、声も一段と艶っぽく聴こえた。ハモンドオルガンの響きもさらに分厚い。高級トランスポートはベースメントの安定感はあったが、AD10は楽器のアタックの鋭さや倍音の豊かさが感じられた点が見逃せない。
この違いは、再生時に回転系を伴った状態となるか、そうした振動等から解放された状態かの違いが現われたと解釈するのが妥当、というか自然だろう。リッピング環境によってCDデータの音も変わるという、それは紛れもない事実なのである。
今回はオーディオサーバーとしてHFAS1-S10を準備したが、同XS20では聴感上のS/N等の印象が変わってくるかもしれない(もっと奥行きの表現力が高まりそうと期待できる)。
PCオーディオの外付けドライブとしてのクオリティをテスト
次に(2)PCオーディオの外付けドライブとしてAD10のポテンシャルを探るとしよう。これは、汎用的なドライブ「BRD-UT16WX」との組み合わせによるパソコンの音から、AD10+PCがハイエンドオーディオグレードにどこまで肉薄することができるかをチェックするという試みである。
用意したPCは、東京・秋葉原の専門店「オリオスペック」のオリジナル・オーディオ専用PC「Canarino fils9 Rev.3」で、同機に「BRD-UT16WX」とAD10を接続した際の違いを比較した。なお再生ソフトにはfoober2000を準備、DACにはアキュフェーズの「DC-1000」を用意した。試聴CDは、ヒラリー・ハーンの独奏ヴァイオリンによる『PARIS』から「ショーソン:詩曲」である。
まずはCDのリアルタイム再生の比較。「BRD-UT16WX」に対し、「AD10」の音はスケール感、奥行き、S/Nでまったく次元が違った。AD10は立体感と厚みがあり、ヴァイオリンとオーケストラとの距離感も明晰。この辺りは電源系の規模や構成の違いが如実に出たと見ることもできよう(「BRD-UT16WX」の電源供給はACアダプターだ)。
リッピングデータでも同様の明確な違いが感じられた。AD10は柔らかで立体的なハーモニーを背に、ヴァイオリンの独奏がスクッと屹立しているのがはっきりとわかる。音場の奥の方の木管の響き、手前のチェロの実在感が素晴らしい。一方の汎用ディスクドライブでのリッピングの音は、ディテールの描写が大雑把で、全体の質感が粗く感じられた。いやはや、当初の想像以上の差が出て驚いた。
世界的に見ればCDの販売数はここ数年低調のようだが、日本国内においては、現在もCDの需要は高い状態が続いているし、CDアーカイブをいまでも大切に試聴している方は多いだろう。私も手持ちの古いCDの中に、最新リマスター盤CDよりも明らかに音に分厚さが感じられるものもあるし、リマスター化されていない貴重なタイトルもある。自分にとってそうした大事な盤を末永く楽しんでいくうえで、いまのうちに高品質でリッピングしておくというのも手だし、こうして再生系が変わることでまた新しい発見もある。AD10がそのポテンシャルによってそれを見直すいい機会を多くのオーディオファイルにもたらしてくれることを期待したい。