ライバル機ひしめく中の「現在地」を探る
値上げした「AirPods Pro」は今も“買い”か、新型を待つべきか。発売3年目の実力レビュー
ノイズキャンセリング
ノイズキャンセリング性能はどうだろう。ノイズを打ち消して得られる静寂にも、メーカーそれぞれの思想が反映されている。ノイズは、ただ単に消せば良いというものでもない。あまりに外音が聞こえないと不安になるし、第一危険だ。
最近の2万円から3万円台の商品と消音性能を比べると、AirPods Proと比べて、ノイズをより綺麗に消し去れるモデルの方が多い。これは、いまや4万円弱の高額モデルになってしまったAirPods Proからすると残念なことだが、事実なのだから仕方ない。
だから、ノイキャン性能を重視し、「とにかくノイズをしっかり消したい」「AirPods Proのノイキャン性能は微妙だ」と感じる方は、積極的に別のモデルを選ぶべきだ。
一方で、これまでの記事で何度も書いていることだが、AirPods Proのノイキャン性能も、決して悪くはない。ほどよくノイズを消し、なおかつ周囲の音も聞こえるため、バランスがよいと感じる。地下鉄や飛行機など、非常に大きな騒音下以外では、あまり性能不足を感じたことはない(逆に地下鉄通勤の方は、もっとノイキャン性能が高いものを選んだ方が良いだろう)。
ノイキャン性能が高いと、どうしても周りの音が入ってきづらくなるので、たとえばソニーでは「アダプティブサウンドコントロール」機能を用意し、周囲の環境や自分の動きにあわせて、外音取り込み量を自動的に調整してくれる。ゼンハイザーも同じような機能を搭載している。
こういった、環境に適応してノイズキャンセリングをコントロールするアプローチも悪くないし、最近ではかなり洗練され、実用的になってきたと感じる。だがAirPods Proでは多くの状況下において、そもそも調整する必要がないよう、あらかじめ作られている。これはiPhoneの設計思想とも似ている。どちらが良いと思うかは好み次第だ。
外音取り込み機能
2019年末に、はじめてAirPods Proを使ったとき、外部音取り込み機能の優秀さに、文字通りぶったまげた。イヤホンをしているのに、まるで何も着けていないような感覚が得られることに驚き、自分の声もあまりくぐもって聞こえないことに、また驚いた。
あれから2年半以上。前述の通り、ノイキャン性能はAirPods Proが後塵を拝することも増えてきたが、この外部音取り込み機能については、いまだにAirPods Proがトップクラスだ。着けながら周囲と自然に会話できるし、オンライン会議でも、自分の声が自然に耳に入ってくるので、とても喋りやすい。
今回あらためてWF-1000XM4と比べてみたら、WF-1000XM4の外部音取り込みモードが、発売時点よりかなり優秀になっているように感じた。着けながら発話したときの、自分の声のくぐもりが、だいぶ緩和されたように思う。装着して歩いたときの着地ショック音も、ほとんど拾わない。かなりAirPods Proの性能に迫ってきた印象だ。
厳密に比べると、外部音や自分の声がより自然に聞こえるのは、1000XM4よりAirPods Proのほうだと感じる。だが、ソニーのLinkBuds Sと比べると話が変わってくる。AirPods Proより外部音がはっきり、くっきりと聞こえるのだ。遅延もほぼ知覚できないほど小さい。ただしLinkBuds Sでは、外部音がやや強調されすぎて、不自然に感じる場面もある。とはいえAirPods Proより良いと思う方もいるはずで、このレベルになってくると、もはや好みの範疇だろう。
ところで最近「ながら聴き」イヤホンが流行っている。ノイキャンイヤホンと「ながら聴きイヤホン」を2台持ちして、状況にあわせて使い分けるのもよいが、AirPods ProやLinkBuds Sが一台あれば、事足りる場合も多いだろうと感じる。
外部音取り込み機能の欄に入れるべきかどうか迷ったが、風切り音についても触れておこう。これについても、AirPods Proはいまだに高い水準にある。
ソニーのWF-1000XM4と比べてみよう。ダイソンの扇風機の前で実験してみると、デフォルト設定では、やはりAirPods Proの方が、より風切り音を低減してくれる。WF-1000XM4もかなり風切り音を抑えてくれるが、それでもやはり、外で風がまともに当たる時などにはノイズが発生する。WF-1000XM4の場合、風切り音をさらに抑えたければ、アプリ「Headphones」で風切り音をより抑える設定も利用できる(ただしバッテリー持続時間が犠牲になるという注意書きがある)。あくまで標準状態では、AirPods Proに軍配が上がる。