<連載>角田郁雄のオーディオSUPREME
エソテリック「Grandiosoシリーズ」は外部クロックでさらなる高みへ。「K1X」×「G1X」を自宅でテスト!
ディスクリートで構成、超大型のクロック・モジュールを搭載
ここまで来ると、3筐体によるシステムを完結したくなります。同社の10MHzマスタークロックジェネレーター「Grandioso G1X」を導入したくなりました。そこで1ヶ月ほどお借りし、自宅で試すことができました。
このGrandioso G1Xの大きな特徴は、完全自社開発のクロックモジュール、Master Sound Discrete Clockを搭載していることです。写真でご覧のとおり、かなり大型のユニットです。
内部には、円形のメタルキャン・タイプの水晶発振器がありますが、これは「ESOTERIC SC1」という、ゆっくりと成長させ、SCカット(Stress Compensated Cut)された水晶発振器です。オーディオ機器ではATカットによる発振器も多いですが、このSCカット水晶は恒温槽(オーブン)で温度制御され使用されます。同社では、振動(発振)を最適に制御するため、量産品としては最大のサイズの水晶を実現したとのことです。中心周波数変動も規格内のものを厳選しています。
驚くことは、最適な温度で保温するために、真空断熱層を備えた恒温槽を開発したことです。分かりやすく説明するなら、一定の温度に保つ魔法瓶のような構造です。温度を制御するヒーターは128ステップの多段階ヒーター制御で、この細かな調整により、ヒーターON/OFF時の電源変動による発信器への影響を低減させたとのことです。発信器自体も微妙な固有特性がありますから、個別のデータ・シートに合わせて最適な温度になるよう、制御プログラムでオーブンを制御するそうです。
受注生産品のように数時間もかけてエージングされるため、1日に数台しか生産できないそうです。このクロック・モジュールから電流強化型バッファー、ESOTERIC-HCLDを使用した分配器により、高精度な10MHzクロックが出力されます。
内部配線は50Ωのインピーダンス特性を重視した同軸ケーブルで、内部は高周波測定器のように精密に製作されています。5系統のBNC出力端子がありますが、使用する端子のみをONにできることに好感を持ちます。使用状態は、フロントのLEDで表示されます。また常時クロック・モジュールに通電し、いつでも最適なパフォーマンスが得られるように、プリヒート機能も装備しています。
もう一つ興味深いことがあります。それは、一般的なノーマルモードの他に、基準電位となるグラウンドを常に0Vにするアダプティブ・ゼログラウンド・モードが選択できることです。これらの技術と使用方法は、他に類を見ない内容と言えるでしょう。これらを駆動する電源部も発振回路、ヒーターなど独立した4系統で、各部との干渉を排除し実に高品位です。
奏者の実在感がさらに鮮明に。空間描写に優れた濃厚な音を体験
さて実際にセッティングして再生してみました。大きく変化したことは、ステージが明らかに拡張し、奏者の実在感をさらに鮮明にしたことです。高域から低域まで再生レンジが高まった印象も受け、一枚も二枚もベールを剥いだような、極めて透明度の高い演奏の臨場感が体験できます。
精度が高く位相ノイズ極小のクロックにより、DACの変換特性が高まり、ノイズフロアに埋もれそうな微細音まで浮き彫りとなり、音楽に一層の深みを感じさせます。一般的なCDを再生すると、CDとは思えない空間描写性に優れた濃厚な音が体験できます。
次にアダプティブ・ゼログラウンド・モードに切り替えました。すると、楽器や声のアタック感がなくなり、自然な音の立ち上がりへと変貌しました。インパルス応答波形のプリリンギングとポストリンギングが排除されたような感じがします。繊細さや柔らかさが鮮明となり、特にイザベル・ファウストの 『シェーンベルク:ヴァイオリン協奏曲』では膨らみのある木質感たっぷりの響きが体験できます。ヴォーカル曲では温度感のある声質が体験できます。
ジャズファンなら、アナログ再生と同質か、それ以上のシンバルやブラスの響きに驚かされるかもしれません。このように、2つのモードにより音質変化が楽しめることにも感激しました。しかも、常時プリヒートしておくと、長期エージング効果によりさらに音質が向上します。この音質特性は、もちろんミュージックサーバーをUSB接続したハイレゾ再生にも反映されます。
私は、この音、このスケールの大きな音楽にすっかり魅了されました。少し時間がかかると思いますが、末長く愛用したいので、Grandioso G1Xを導入し、システムの完結を達成したいと思うところです。