PR開発担当の“ジョンがる隊長”土岐氏にもインタビュー
話題沸騰、光城精工の“挿すだけ”仮想アース「Crystal Ep」。音質/画質のクオリティアップを徹底チェック
アース問題に一石を投じる「仮想アース」(秋山)
「仮想アース」。なんというパワーワードだろう。特にわが国の、アースの接地しない2極コンセントにオーディオ的劣等感を感じる私のような人間にとって、これほど甘美な言葉はない。しかし、その一方で、オーディオ的に良質な “現実アース” を取ることがどれほど難しいかということは、スタジオ施工など、その道のプロフェッショナルたち全員が口を揃えて言うことである。
そんなこともあって、筆者も当初は仮想アースを眉唾物だと思っていたのだが、今年6月に開催されたOTOTEN2022の音元出版「仮想アースケーブル比較試聴」というセミナーでその効果を実感。しかも、そこにゲスト出演された仮想アースの代表的ブランド・光城精工の “ジョンがる隊長” こと土岐泰義氏が、「仮想アースというパワーワードは眉唾!」と自ら宣言されていて、俄然興味が湧いてしまった。
そこで、9月発売の「ホームシアターファイルPLUS」の連載において、土岐氏が “絶対の自信作” と胸を張る新製品「Crystal Ep」をテストしたところ、想像以上の効果を実感。取材後は外せなくなってしまった。
音質については、すでに国外(香港市場先行販売)で高い評価を受けているCrystal Epだが、本稿では自宅での使用方法を紹介するとともに、映像機器に使用した際の効果についても解説したい。さらに「仮想アース」という言葉にモヤモヤする読者を代表して、土岐氏にオンライン取材も敢行した。
ステレオ再生の次元を超越し、「ゾーン」に突入する!?
自宅のオーディオ・ビジュアルシステムで最初に試したのがEDISCREATIONのスイッチングハブ「Silent Switch OCXO “JAPAN STANDARD MODEL”」だった。非常に目立つところにアース端子が装備されていて、これは「アースを取ってほしい」という開発者からのメッセージに違いないと思っていた箇所だ。
とはいえ、自宅のファイル再生プレーヤーはストレージ内蔵のAurender「ACS10」であり、ローカル再生が基本。スイッチングハブはプレーヤーとタブレット端末のやり取りだけに使われているはずだ。
ところが、結論から言ってしまうと、この場所が圧倒的に効いた。よくある音質評価なら「ベールを何枚も剥がしたような」「フォーカス精度が何倍も上がったような」といった表現になるのだろう。しかし、体感的には明らかにもう一段上を行っていて、機器側だけでなく、リスナーの五感までもが研ぎ澄まされるような感覚に捉われた。
メーカーの製品ページには「ステレオの領域を超えたゾーンに突入」と書かれているが、この “ゾーンに入った” という表現はまさに言い得て妙である。一体何が起きているのか? 土岐氏に伺ってみた。
「グラウンド強化装置」としての仮想アース
土岐氏の仮想アースに対するアプローチは非常に理論的で明快だ。詳しくはAudio Accessory 184号に掲載された過去のインタビュー記事をお読みいただきたいが、要約すると、オーディオ・ビジュアル機器にとってグラウンド電位の安定は回路を安定動作させるために必要不可欠であり、設計時には少しでも多くの面積を確保してインピーダンスを下げようと努力する。
光城精工の考える仮想アースとは「グラウンド強化装置」であり、機器の外部にグラウンド面積を拡張し、そこに筐体グラウンドを接続することで、さらに電位を安定させて機器内のノイズレベルを低減。加えて、グラウンド表面積の拡大による静電容量の増加が高周波ノイズも減衰させる、というものだ。
これまで同社は、金属ケースの中に異金属板を積層することで表面積を確保した製品(Crystal Eなど)をリリースしてきた。しかし土岐氏によれば、仮想アースには「表面積の確保」以外にもうひとつ重要な要素があるという。
それが「遠くのアースより近くのアース」という考え方だ。つまり、機器との接続に長さのあるアース線を使用するよりも、機器に直接取り付けたほうがより効果的、ということだ。そこで思いついたのが「プラグ型」だったのだが、そこは言うは易く行うは難し。今度はどのようにして表面積を確保するのかという難問が立ちはだかる。
「そうだ、コンデンサーを使おう!」
「そうだ、コンデンサーを使おう!」。これが大発明の生まれた瞬間である。筆者は不勉強で知らなかったが、電解コンデンサー内部には帯状に加工された高純度アルミニウム箔があり、導体表面を特殊エッチング処理することで、海綿質構造に似た空洞が無数に形成されているという。
Crystal Epで採用した同社監修の特殊電解コンデンサーの場合、実に11,000cm2(110cm×100cm)もの有効面積が確保されており、これはCrystal Eを超える数字だ。なお、Crystal Epでは、電解コンデンサーの電極を利用しているだけで、コンデンサーとしては機能させていないとのこと。
「表面積の確保」と「近くのアース」を見事に両立したCrystal Ep。土岐氏も試作品を聴いた瞬間、「凄いモノを創ってしまった!」と大興奮したというが、こんな小さなプラグ1本でシステム全体がバッキバキに覚醒してしまうのだから無理もない。ただし、これは環境にもよるのだろうが、自宅の場合はアンプやスピーカーなどのアナログ機器よりも、高周波ノイズが発生しやすいデジタル機器で真価を発揮したことをご報告しておこう。
テレビやネットワークハブに繋ぐことで、動画解像度の向上を確認
だから、より高い周波数を扱う映像機器にも効果抜群だったことは言うまでもない。まず、先ほどのスイッチングハブ「Silent Switch OCXO」では、Apple TV 4K経由で視聴する映像配信コンテンツの画質(もちろん音質も)に如実な差が現れた。それも輝度、発色、コントラスト、S/Nといった画質の基本要素だけではない。Crystal Epならではの特徴として、「動画の応答性能が上がる(動画解像度の向上)」という見逃せない変化があった。
この現象は、有機ELテレビREGZA「55X930」やUHD BDプレーヤー「DP-UB9000」の同軸出力にRCAタイプを装着するとより一層強く感じられた。特に分かりやすいのが、カメラがパンニングした際の被写体の切れ味だ。
読者にイメージしやすい作品として『君の名は。』を例に説明すると、作品冒頭で彗星が降る夜空を背景に、ヒロイン三葉の周りをカメラがぐるっとパンニングしてタイトルが映し出されるシーン。この時の三葉が、背景の動きに引っ張られることなく、より鮮明に、まるで自分の動体視力が上がったかのように眼前に浮かび上がってくるのだ。筆者はこれまで様々なアクセサリーを映像機器に使ってきたが、動画の応答性能に働きかける製品は極めて稀である。
動画解像度(4K/2K、60p/24pといった話ではない)は、筆者が映像機器に対して特に重要視する項目であり、それゆえに液晶テレビではなく有機ELテレビを愛用しているわけだが、そんな有機ELテレビにも「ホールドぼけ」と呼ばれるデバイス特有のわずかなタイムラグがある。それが体感的に軽減されて見えるのだ。ひょっとしたら、基準グラウンドの強化がデバイスの特性を改善させているのではないか。想像の域ではあるが、そう信じたくなるだけの説得力がこの画質にはあった。
ただ、テレビには同軸出力がない製品も多い。土岐氏によると、Crystal Epは今後、XLRやLAN、USB端子といったバリエーションが登場予定とのことなので、筆者からもHDMIバージョンの製作をリクエストしておいた。実現した暁にはプロジェクターなどでもCrystal Epを試してみたいと思う。
また、映像機器の開発者の皆様には、ぜひともアース端子の装備をご検討いただきたい。HDMIなどの回路を経由するよりもクリティカルな効果が期待できるからだ。これも「遠くのアースより近くのアース」である。
仮想アースは日本の特殊な電源環境が生み出した将来有望なアクセサリーだ。業界全体でこの機運を盛り上げていきたい。
(提供:光城精工)