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PR山形県の東北パイオニアと天童木工を訪問

TADスピーカー製造現場で見た「匠の技」。旗艦機「TAD-R1TX」から最新鋭機まで6モデルも一斉試聴!

公開日 2023/05/01 06:30 山之内 正
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「TAD-ME1」 -明るさと透明感、軽やかさを引き出したい人にぜひおすすめ



2016年秋に発売された「TAD-ME1」はEvolutionシリーズのなかでも入手しやすく人気が高い製品だが、発売から7年目と言う事実を忘れてしまうほど鮮度の高い音を引き出すことができた。CSTドライバーの口径は9cmとコンパクトで、14cm口径のミッドレンジを積む「TAD-CE1TX」に比べるとひと回り小さい。ベリリウムとマグネシウムを組み合わせた振動板素材の構成は共通だが、小型化に合わせてドライバーユニットの設計を最適化している。

2016年の発売だが今も人気の根強いコンパクトな「TAD-ME1」。価格は1,386,000円(ペア・税込)。専用スタンドは264,000円(ペア・税込)

この小口径CSTドライバーと16cmウーファーの組み合わせが生むサウンドからは、「TAD-CE1TX」とは少しだけ方向性が異なる魅力が感じられた。ソプラノの高音域から明るさと透明な感触が伝わり、伴奏のリュートの粒立ちもクリアで分散和音の動きに軽やかさがあるのだ。ピリオド楽器の発音の速さを忠実に引き出すスピーカーを探している人には、この「TAD-ME1」をお薦めしたい。

本機のために専用の9cmCSTドライバーを新規開発したことが大きな特徴。また両サイドに設置されたスリット状のポートも上位機種譲りの技術

音像定位の精度の高さは上位機種譲りで、サウンドステージの前後左右を描き分ける空間再現力では小型スピーカーならではのアドバンテージを実感できる。《ヴァルキューレ》の金管楽器群の描写はその好例で、中央やや左寄りのトランペットと上手側に奥行きを伴って広がるホルンの相対的な位置関係を正確に再現してみせた。そこに独唱が加わるとさらに前後の深さが感じられるようになり、当時の録音チームが、ステレオ録音の可能性を最大限に引き出すために繊細な手法で録音に取り組んでいたことを思い出した。

アラン・テイラー《トラベラー》はギターのスチール弦の鋭さと鳴りっぷりの良さを際立たせながらヴォーカルの中低音から本来の温もりと厚みを引き出し、両者の対比のうまさに感嘆させられた。

「TAD-E1TX」 -低音の透明度の高さと深さを絶妙のバランスで両立



続いてフロア型の「TAD-E1TX」をつなぎ、共通の音源で音を聴き比べる。直前に聴いていた「TAD-ME1」と同様、小口径のCSTドライバーを使っているのだが、16cm口径のウーファー2基で低音の再現力を大幅に強化していることが注目すべきポイントだ。側面には前後に放射するスリット状のバイ・ディレクショナルADSポートをそなえ、いわゆるポートノイズの弊害を排除していることが目を引く。

2018年発売の「TAD-E1TX」、2,640,000円(ペア・税込)。「TAD-ME1」と同じ9cmCSTドライバーにダブルウーファーを組み合わせた構成

アラン・テイラーのベースの一音ですぐに気付くほど、低音の量と質にこだわった成果は顕著である。テイラーの声もそうだが、とにかく低音の深さがよく出る。いくら深い低音でも澱んでしまうと音色や音程が曖昧になってしまうのだが、「TAD-E1TX」の低音は透明度の高さと深さを絶妙のバランスで両立させている。ベースの音価が一音一音正確に再現できているかどうか、余分に残って響きを濁らせていないか、注意深く聴けばこのスピーカーの低音再生能力が明らかになる。

左右側面に丸型のポートを搭載、開口部はホーン形状とすることで、効率よくポートを駆動できるという

《ヴァルキューレ》はステレオ音場の左右方向の広さを他のスピーカー以上に強く実感することができた。ヴァイオリンや金管の旋律はもちろんのこと、独唱の聴かせどころを確実に抑えてよく歌うことも長所の一つで、同じCSTドライバーでも低音が変わると表情に余裕が生まれることがわかる。

「TAD-CR1TX」 -音圧感や重心の低さなど、底知れぬ表現力の持ち主



最後に聴いた「TAD-CR1TX」は「TAD-R1TX」とともにリファレンスシリーズの一角を担う重要なスピーカーで、オリジナル(CR1)の発売は2009年といまのラインナップのなかではR1に迫る歴史がある。「TAD-R1TX」と同一口径のCSTは蒸着製法で作られたベリリウム振動板を採用しており、CSTのポテンシャルの高さを確認するには最適な製品である。

2020年発売、Referenceシリーズのスタンドマウント型システム「TAD-CR1TX」。こちらも天童木工がキャビネット製造を担っている。7,700,000円(ペア・税込)、専用スタンドは396,000円(ペア・税込)

自宅試聴室も含めて「TAD-CR1TX」は何度も聴いているが、天童のスタジオでの最新世代の鳴りっぷりの良さはこれまでの体験とは別物で、力強い音圧感や低音の重心の低さなど、外観とは裏腹に強靭な表現力がそなわることをあらためて思い知らされた。

TAD-CR1TXの端子部。ケーブルの接続はバイワイヤリングとしている

今回の試聴音源のなかでは、ワーグナーとアラン・テイラーの実在感豊かなサウンドに強い印象を受けた。特に前者の深々としたサウンドステージはR1TXに肉薄する凄みがあり、聴き手をとらえて離さない吸引力の強さが半端ではない。ローエンドまで曖昧さのない低音楽器の描写もさることながら、ホルンをはじめとする金管楽器群の気迫と重量感は圧巻で、ウィーンフィルの底力を見せつける。ティンパニの押出しと張りの強さも悠揚迫らぬものがあり、音楽表現のスケールがひと回り大きい。

テイラーの低音の説得力も「TAD-R1TX」に匹敵する。コンパクトを名乗るスピーカーだが、小型モデルの制約を感じさせる要素は皆無。底知れぬ表現力の持ち主である。



高級スピーカーを日本国内で開発し、生産するメーカーはごく僅かしか存在しない。一方、海外ではいまも多くの専業メーカーがアグレッシブな姿勢で開発に取り組んでいる。良質な製品の開発・生産を継続して進めているメーカーの共通点は、確固とした設計フィロソフィーをベースに持続的な研究開発に取り組んでいることにあり、そこが弱いメーカーはどこかで壁にぶつかって消えてしまうか、コスト優先の枠を超えられないジレンマに陥っている。

TADは最初に海外での評価を起点にブランドを確立した歴史があるためか、設計思想にブレがなく、スタジオとの付き合いが緊密なので音楽が生まれる現場の空気も熟知している。もちろん技術力も重要だが、何を目指し、どう実現するか、目標設定と方法論が堅固なので、半世紀近い歴史を重ねながら、持続的な研究開発を進めることができるのだ。

天童の生産現場と試聴環境は共通の空気で満たされていた。生産現場には多かれ少なかれ「効率」を重視する指向が強いのが普通なのだが、TADの生産現場も天童木工も品質最優先の空気に満たされていて、「匠の力」が一番上位に置かれていると感じた。大量生産偏重のモノ作りとは一線を画し、機械ができない領域は人の手でじっくり追い込む。そこから生まれるスピーカーが他の方法では到達できない高次元の表現力を獲得するのは当然の結果である。

(提供:テクニカル オーディオ デバイセス ラボラトリーズ)

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