「Phonitor x」との“120v技術セット”もテスト
極めてナチュラルにして絶大なインパクト。SPL「Director Mk2」は矛盾を超えた先の“理想の音”を現実にしてくれる
■レスポンスの良さを極めることで生まれるナチュラルさを体感
実際にアキュフェーズのA級パワーアンプとELACのフロア型スピーカーを組み合わせて体験してのインプレッションだが、何よりも印象的なのは音のアタックの再現性、再生するべきアタックに対してのレスポンスの見事さだ。120vテクノロジーの威力が特に明らかに発揮されているところだろう。
例えばホセ・ジェイムズ「Bag Lady」のドラムスとベース。曲の前半はクールで抑制の効いたところに静かな力感が込められた感触で、後半から特にドラムスがヒップホップ的にスカッと抜ける感触に切り替わる。その切り替わりのコントラストの鮮やかさにいつも以上にハッとさせられた。前半の抑えと後半の抜け、どちらの再現も完璧だったからこそ生まれた驚きだ。
一方で、その切り替わりの瞬間に至るまでには、良いも悪いもアタックを特に意識させられることはなかった。そこもポイントだ。レスポンスの良さを極めれば、速さを意識させない速さ、すなわちナチュラルという境地に至ると実感させられた。
もちろん他のあらゆる要素も総じてハイレベル。同曲ではボーカルのハーモニーの重なりの美しさも際立ったが、そこは本機の歪みのない透明感、定位の明瞭さによるものだろう。シンバルの音の粒子のほぐれ、様々な曲でのボーカルの艶やかさは、A級駆動アンプとELACのJETツイーターの持ち味を存分に引き出せていることを示す。どこをとっても文句なしだ。
■見事なまでのキレと音圧感を両立、大満足の聴き応え
Director Mk2は前述のように、固定ダイレクト出力のおかげでヘッドホンアンプとも組み合わせやすい。ということで今回は同社「Phonitor x」を用意。120vテクノロジーによる広大なヘッドルームと、同社独自機能「Phonitor MATRIX」の搭載を特徴とするモデルだ。
Phonitor MATRIXとは、ヘッドホン左右の音を相互に絶妙に混ぜ合う「CROSFEED」と左右スピーカーの設置角度をシミュレートする「ANGLE」、2つのコントロールでヘッドホン独特の聴こえ方を緩和し、スピーカーライクな聴こえ方に近付ける技術となる。
本機はバランス駆動にも対応するので、ソニー「MDR-M1ST」のシングルエンド駆動およびゼンハイザー「HD 820」のバランス駆動を共にチェック。総じての印象としては、プリもヘッドホンアンプもSPLで揃えると最初から最後まで120vテクノロジーとなるおかげか、まさにキレキレ! YOASOBI「アイドル」もリズムの切り替わりがポイントな曲だが、その鮮やかさたるや見事すぎる。また、そのキレが崩れてしまう飽和限界寸前まで音にパワーをぶち込んでくれる感じもあり、音圧感も強々だ。大満足の聴き応え。
MATRIXのCROSFEEDとANGLEの効果も確認すると、どちらも最大効果に振り切っても不自然にはならないのがさすが。エフェクティブな機能ではなく、ヘッドホン疲れや違和感を低減するための機能との意図がわかる。ヘッドホンリスニングで疲れがちな方は常時オンでもよいだろう。
加えて、ノブ9時未満の小音量でも問題なく音量を微調整でき、ギャングエラーもバックグラウンドノイズも気にならないというのもポイント。高感度イヤーモニターとの組み合わせも実用範囲だ。このノイズの極小さもまた、システムを120vテクノロジーで揃えた効果が大きいと思われる。
体感したSPLサウンドをひと言で表すなら、「極めてナチュラルにして絶大なインパクト」か。矛盾ありげな表現だが、理想は得てして矛盾を超えた先にあるもの。SPLサウンドはひとつの理想を現実にしてくれている。
(協力:A&Mグループ株式会社)