PR1グレード上の旧世代機「AVR-X4500H」と比較
AVアンプの“世代差”はどこに表れるのか。デノンの人気最新ミドル機「AVR-X3800H」で検証した
まずは、Dolby Atmosのトレーラー「LEAF」を再生。リスナーの周囲を回転しながら落ちる葉のエフェクトは、音の位置・方向性を重視するDolby Atmosの真骨頂だが、これが面白いほど差が現れた。
X3800Hのほうが葉の位置を掴みやすく、移動がスムーズなのだ。X4500Hでは、リアスピーカーやハイトスピーカーの位置を意識してしまうが、X3800Hは移動する音のつながりが自然でスピーカーの存在は希薄だ。
一昨年来リファレンスにしている『トップガン・マーヴェリック』では、X3800HとX4500Hそれぞれの長所が感じられた。チャプター1では、テーマ曲「Danger Zone」とともに離着陸する戦闘機のジェット音が炸裂するが、より量感を感じさせるのはX4500Hだ。余裕とでもいおうか、腰の座った音はパワーアンプ部の力量によるものだろう。
一方、この映画の見せどころである「キレのある動き」に関していうと、X3800Hに軍配が上がる。たとえば、敵の施設を攻撃に向かうチャプターで戦闘機が橋の橋脚をくぐり抜けるシーンでは、X3800Hのほうが音の方向は明確で、より"飛ぶ"感覚が味わえる。これはプリアンプ部の設計・演算精度ゆえだろう、イマーシブオーディオの肝であるマルチチャンネルの処理においてコンピュータ的な性能はやはり重要だ。
同じことは『フォードvsフェラーリ』でもいえる。ル・マンのレース終盤を描いたチャプターで、独走態勢にあったケン・マイルズに2 - 3位のフォード車が追いつくことを音で表現しているシーンがあるが、それがより明確にわかったのはX3800H。マイルズの両サイドに近づく2台のエキゾーストノートを、しっかりイマーシブオーディオで表現していた。
一方のX4500Hは、エンジン音そのものの力強さ、ボリュームを上げたときの全体のバランスが巧みに保たれている印象がある。やはりAVアンプの音はパワーアンプ部によるところが大きい、と改めて感じ入った次第だ。
今回の取材を通じて感じたことのひとつに「プリアンプ部の演算性能」が挙げられる。X3800Hのほうがより新しく演算性能が高いDSPを搭載しており、最大11.4chプロセッシング対応でサブウーファー最大4台を指向性モードで駆動できるという新機能にくわえ、プロセッシング精度向上を図っている。
多チャンネルが大前提のAVアンプにおいて演算性能は重要であり、それに直結するDSPに負うところは大きい。「LEAF」で葉の落下する様子がスムーズなことも、『トップガン・マーヴェリック』で橋の橋脚をくぐり抜ける戦闘機がリアルに感じられることも、演算性能の向上が寄与しているのだろう。
さりとて、X4500Hの余裕も捨てがたい。特に映画の音の場合、爆発音・衝撃音など瞬間的な大出力を必要とする場面では、パワーアンプ部の力強さがものをいう。メーカー/ブランドを問わず、上位モデルのほうがより大出力に設計されていることには理由があるのだ。
プリアンプ部の新しさか、パワーアンプ部の力強さか……ホームシアターファンには古くて新しい問題だが、グレード別の新モデルを継続的に投入するデノンの姿勢からは、ひとつの回答が読み取れるように思う。
(協力:ディーアンドエムホールディングス)