PRポータブルオーディオの “序曲” にふさわしい作り込み
濃密で艶やかな “ブリティッシュサウンド” を手の中に。ONIX「Overture XM5」レビュー
内蔵ストレージは用意されていないため、microSDカードに楽曲データを用意し、カードスロットに挿入することが必須だ。オペレーションにおいてはカスタマイズ性も高めた独自OS「ONIX OS」を搭載。USB-C端子はXMOSの16コア・デコードチップ「XU316」を生かしたUSB-DACモードでも使用が可能な他、Wi-Fiと接続すればDLNA、AirPlayといったネットワークストリーミングも楽しめる。
Bluetooth接続においては送受信でLDAC、aptX HDに対応。さらにアプリソフト「EddictPlayer」との連携で、ボリュームやファイル音源をリモート操作する「SyncLink」機能も利用可能だ。このSyncLinkなど、開発・製造に携わるShanlingの製品と共通の仕様も存在する一方、サウンドチューニングはONIXサイドで徹底していることはブランドとして外すことのできない点である。
バッテリーは大容量な7000mAhのものを搭載しており、バランス駆動でも約12時間と、音質重視設計のパワフルなチップセットを積んだ仕様としては比較的長めのバッテリーライフを持つといえるだろう。
■「Overture XM5」音質レビュー〜同価格帯の中でも際立つ、濃密で艶やかな音色
試聴はビクター「HA-FW10000」とアコースティックリヴァイブ製リケーブル「REC-absolute-FM」(MMCX - 4.4mm)によるバランス接続での確認を行った。基本的な傾向として、音像の滑らかさと見通しの良い音場の清涼さ、艶良く厚みのある低域による濃密なベースサウンドが持ち味といえよう。
高域にかけての煌びやかな倍音の響き方がピアノのトーンをより魅力的に引き立てている。アタックの適度な硬さと透明度の高いハーモニクスは癖になりそうだ。低域方向ではベースの押し出し感、むっちりとした太さと弾力感が絶妙であり、リズム隊の存在感、安定感の高さに繋がっている。
飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート2013『プロコフィエフ:古典交響曲』〜「第一楽章」(96kHz/24bit)は、管弦楽器のしなやかさ、潤い良い旋律が柔らかく響く。太鼓の皮もハリ良く立ち上がり、分離良く定位。ハーモニーのふくよかさ、余韻の華やかさも耳馴染み良い。ローエンドも厚く安定感があり、音場の見通しも自然だ。
ジャズ『Pure2-Ultimate Cool Japan Jazz-』〜「届かない恋」(DSD・2.8MHz)のホーンセクションは、エネルギッシュで鮮やかな立ち上がりを見せ、残響感も爽やかに広がる。シンバルやピアノの響きは硬質だが、エッジを立てすぎず、澄み切った余韻を分離良く表現。ウッドベースは胴鳴りの厚みが前へ出て、粘り良いグルーヴを生む。
ロックはTOTO『TAMBU』〜「Gift Of Faith」(192kHz/24bit)はエレキギターのリフを丁寧に拾い上げ、かき鳴らしたピッキングのニュアンスも上品に再現。ファットな大口径キックドラムのアタックはエアー感も密度良く聴かせてくれる。ベースラインはむんむんと力強く前へ出て全体を下支え。ボーカルの口元はハリ良くクリアで音離れ良い。
milet「Anytime Anywhere」(48kHz/24bit)は、環境によってはドライでしゃがれた音調となってしまう、独特なハスキーさを持つボーカルを艶良く滑らかに描いており、音離れも良い。オーケストラとの距離感、楽器の潤い良い質感が叙情的に迫ってくる。バンドの力強いローエンドの響きに負けず、サビのクラップハンドもクリアに表現。歌詞の世界に浸れる、雄大で抑揚豊かなサウンドだ。
TRUE「ReCoda」(96kHz/24bit)は、くっきり立ちあがるボーカルの口元は柔らかく動き、落ち着き感が漂う。輪郭は倍音の艶が色っぽく際立ち、ヴィブラートも滑らかで大人びている。管楽器パートのハリ鮮やかさ、距離の近さに対し、艶良く滑らかなストリングスが穏やかに包み込む。ベースラインの跳ねるような明るくノリ良い押し出し感もテンポの速さに負けず、リズミカルに追随している。
丁「呼び声」(96kHz/24bit)では、楽器やボーカルの艶っぽさ、息遣いのリアルさを鮮烈に表現。ベースの厚く逞しい描写に負けない、クリアで艶やかなハープやギター、ピアノの浮き立ち感、ヴァイオリンの柔らかい旋律に惹き込まれる。ウェットで滑らかなボーカルとコーラスとの描き分け、前後感の表現も明確で、ボディ感もナチュラルだ。じっと聴き惚れるほど、彩り豊かで流麗なサウンドである。
Overture XM5は十分な解像度と実直な音場再現性を持たせながら、彩り良く音楽を聴かせてくれる、ブリティッシュサウンドを色濃く継承したDAPだ。同じ価格帯の競合モデルでもこの濃密で艶やかな音色傾向を持つものはないだろう。
ある意味兄弟的な存在となるであろうShanlingのDAPと比較しても、一歩も二歩も踏み込んだ艶やかな音質であり、全くの別物である。ONIXならではのサウンドチューニングが適切に効いている証拠といえよう。Overture XM5は解像度指向のサウンドとは一味違う世界観を味わいたいリスナーにはぜひとも一聴いただきたいDAPである。
昨今のONIXポータブル製品は商品投入スピードが早いが、この9月にもドングル型のポータブルUSB-DAC「Alpha XI1」が発売を控えている。シーラスロジック製DACチップ「CS43198」を2基、出力段にオペアンプ「SGM8262」を2基備え、4.4mmバランス出力も装備。PCM 768kHz/32bit、DSD 11.2MHzまでの再生に対応している。ONIX製品に初めて触れるリスナーにとって、その伝統のブリティッシュサウンドを体感するのに最適なアイテムの一つといえるだろう。Overture XM5とともにこの夏注目の製品だ。
(企画協力:MUSIN)