PR110周年機をベースに現フラグシップの技術を多数投入
妥協なきデノン “もうひとつの旗艦AVアンプ”。「AVC-A10H」がデノンサラウンドアンプのあらたな一章を告げる
■マルチchアンプとして例外の余裕と地力。心なしか大きく見える
自宅視聴室のスピーカー配置はそのまま、AVC-A10Hにハイトch 4本を含むスピーカー11本プラスサブウーファー、合計12台のスピーカーを接続し7.1.4構成で聴いた。A10Hは一聴して帯域が拡大し再生限界がローエンドまでのびている。初期のモノリスコンストラクションはやや音質に硬さが感じられたが、歪みやノイズ成分を感取できないスムーズで洗練された音質である。
ボブ・ジェームズ・トリオ『フィール・ライク・メイキング・ライヴ!』(ドルビーアトモス)は、ベースやバスドラ等低音楽器がローエンドまで伸びていることが一瞬でわかる。音場は前後に深く音影の密度が濃い。ステージを目の前にした堂々とした音場だ。アコースティックベースが野太いソロを聞かせる楽曲でも、響きが膨満したり暴れたりせず、どっしり沈みながら音程が正確、歪みや付帯音のない澄んだ響きを聞かせる。
このソフトの場合、ソロがセンタースピーカーから出音するが、A10Hは大型のセンタースピーカーB&W「HTM2」を完全に掌中にして鳴らし切っている。このソフトはアコースティックピアノの鋭い入力がしばしば歪みっぽくなる場合があるが、A10Hはボリュームにかかわらず透明感としっかりした音の芯を堅持、マルチchアンプでは例外の余裕と地力を感じさせる。
AVサラウンドアンプにつきまとう課題が、全ch同時駆動時のパワーの頭打ちと歪みの増大である。デジタルサラウンド時代に入って以後、各社が延々と取り組んできたのがそれで、クラスDにするのかアナログで行くのか、といった選択もつまるところこの問題なのである。
電源部の地道な強化によるA10Hの全ch同時駆動時の余裕はあらたかで、映画ソフト『DUNEデューン砂の惑星PART2』(ドルビーアトモス)は、視聴室に出現する音場空間イコール惑星アラキスの天地が見上げるほど高く広い。視聴室の壁が取り払われ天井が消え去ったようだ。
移動表現ではスピードや方向性の明瞭さは無論、オブジェクトが密な質量をそなえている。Chapter7の空中戦では戦闘機の軌跡が重なり合いながら音場を移動し、着陸の金属質の重量感が視聴室の床面を伝播していく。映像と音のスケールが一致という点で過去にない経験が味わえる。
スピリチュアルな大河SFロマン小説「砂の惑星」のハードSFの要素を拡大した今回の再映画化である。セリフでの説明を避け惑星アラキスの秘密の多くがその存在を音で表現される。砂跡、サンパー(起振杭)の振動、ジン(精霊)や小動物、スパイス(香料)をはらんだ砂の動きの鉱物質のノイズ、差中に隠れたフレメンの息遣い。AVC-A10Hはそうした音情報をこまやかに描きだす。そうして聴き手は惑星の秘密をAVC-A10Hによってフレメン(砂漠の民)と共有する。
試聴後のA10HはX8500Hとくらべ大きくみえる。音質の印象がそう錯覚させるのだ。
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