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DSからオーディオNAS、Roonまでを総括

“あの製品”が全てを変えた − ネットワークオーディオ、10年の歴史をふり返る<黎明/拡大編>

公開日 2019/02/21 06:00 逆木 一
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昨年2018年は、ネットワークオーディオの時代を切り拓いたLINNが、単体ネットワークプレーヤー「DS」の生産終了をアナウンスした。Roonやハイレゾストリーミングも話題になるなかで、このニュースはひとつの節目となったのではないだろうか。2019年という平成最後の年を迎えた今、十数年にわたるネットワークオーディオの歴史をふり返ってみたいと考えた。ネットワークオーディオはいかに変遷し、進化してきたのか。年表に沿って、各時代の製品やアプリを取り上げながら、その歴史を前後編にわたってふり返った。

>>記事後編はこちらから

「ネットワークオーディオの歴史」の記述を試みる

平成という時代がいよいよ終わろうとしているこのタイミングで、筆者は「ネットワークオーディオの歴史」を振り返るという大役を仰せつかった。大きな責任をひしひしと感じつつも、ネットワークオーディオにオーディオの未来を見出した身として、ついでに大学では歴史を学んだくらいの歴史好きとして、「ネットワークオーディオの歴史」の記述を試みたい。

本記事では、ネットワークオーディオについて年表を作成し、年表で取り上げた出来事について解説を加えていくという体裁を取っている。また、今に至るネットワークオーディオの歴史を大きく4つ(前史を含むと5つ)に分けて、その概要を紹介する。本記事のベースとなる、ネットワークオーディオの出来事をまとめた年表もご覧いただきたい(※下の画像をクリックすると拡大可能)。この年表に沿って、ネットワークオーディオに関連する製品やアプリ、出来事についてふり返っていく。




サーバー/プレーヤー/コントロールからふり返るネットワークオーディオの歴史

ネットワークオーディオが辿ってきた歴史を紐解き、全体像を把握するためには、実際に発売された「機器」に注目するだけではなく、それらが持つ「機能」を分けて考えることが重要になる。

そこで筆者が注目するのは、「サーバー」・「プレーヤー」・「コントロール」の三要素である。ネットワークオーディオのシステムは音源の保存・データベース化と配信を担う「サーバー」、音源の再生を担う「プレーヤー」、再生操作全般を担う「コントロール」から構成されており、これら三要素の変遷は、そのままネットワークオーディオの歴史に他ならないからだ。

歴史は、それを記述する者の歴史観次第で様々な姿を見せる。この記事で書かれているのはあくまでも筆者の解釈によって構築された歴史であり、それがすべての人にとって完璧だとは最初から思っていない。「なぜ○○に触れていないのか」といった意見も当然出てくるだろう。そのようなことも含めて、この記事が読者の皆様にとってネットワークオーディオについて考えるきっかけとなれば幸いだ。

なお、この記事で扱うのはあくまでも「ネットワークオーディオの歴史」であって、「PCオーディオの歴史」でも「ファイル再生の歴史」でもないということは留意していただきたい。また、年表中の日付は可能な限り正確を期したが、古いものほど情報を追うことが難しいこともあり、多少のずれが生じている可能性がある。


前史:音楽再生に「ネットワーク」が利用され始める



ネットワークには「長距離の接続に強い」「一対多の接続が可能」という特徴があり、これらの利便性に着目した「家庭内にネットワークで音源を配信するジュークボックス」的な製品が早くから登場していた。

ただ、この時代の製品は今と比べると非常に限定された操作性しか持ち得ず、また製品同士の互換性や発展性にも乏しく、「ネットワークオーディオ」というジャンルが本格化するには到らなかった。

▶2001年
LINN、CDリッピング&配信機能を備えたミュージックサーバー「Kivor」を発売

初代iPodが登場する辺りで、「家庭内ネットワークを活用した音楽配信」というアイデアをいちはやく形にしていたLINNの先進性が光る。

LINNのショールームに常設されていた「Kivor」システム(2006年撮影)


▶2001年
Logitech、ネットワークプレーヤー「SliMP3」を発売

後々まで続く「Squeezebox」シリーズの初号機。「Logitech Media Server」と組み合わせて使う。初号機である「SliMP3」はMP3しか再生できず、クオリティ志向とは一線を画していた。


▶2003年
オンキヨー、PC上の音源をネットワーク経由で再生可能なネットワークレシーバー「NC-500X」を発売

PCを「サーバー」兼「コントローラー」として使うというアイデアは、DLNA1.5の「プッシュ再生」を先取りしていたとも言える。

「NC-500X」


▶2003年
ヤマハ、CDリッピング&配信機能を備えたミュージックサーバー「MCX-1000」を発売

MCX-1000は、専用のクライアント/スピーカーと共に「MusicCAST」というブランドで展開。80GBのHDDを内蔵、PCMまたはMP3でCDを取り込んでクライアントへ配信することができた。なお、「MusicCast」は現在のヤマハのネットワークオーディオのプラットフォームの名称で復活している。 (関連ニュース

ヤマハの企業ミュージアム「イノベーションロード」に展示されてい「MCX-1000」(2018年撮影)


▶2004年6月
DLNA1.0が発表される

UPnPをベースにハード/ソフトの相互接続環境の実現を目指した画期的なガイドラインが登場。扱うコンテンツは映像・画像・音楽のすべて。(関連ニュース



第1期:ネットワークオーディオの黎明



DLNA1.5では新しく「DMR」と「DMC」のデバイスクラスが規定され、「サーバー」「プレーヤー」「コントロール」の三要素が明確に示された。特に「コントロール」が独立したことにより、ネットワークオーディオプレーヤー本体のディスプレイやリモコンで音源のブラウズや各種再生操作を行う必要性はなくなり、「居ながらにしてすべてを見、すべてを操ることで得られる、音楽再生における筆舌に尽くしがたい快適さ」への道が開かれた。

UPnPをベースにするDLNAというガイドライン/プラットフォームそのものより、DLNAが示した「アイデア」をもって、筆者はネットワークオーディオが本格的に幕を開けたと考えている。

そして「再生機器と独立した手元の端末からすべての音源にアクセスし、音楽再生のあらゆる操作を行うというスタイル」は、「プレーヤー」としてLINN DS、「コントローラー」としてiPhoneが同時期に登場したことで現実のものとなった。’00年代終盤には、すでにネットワークオーディオは完成されていたのである。

▶2006年3月
DLNA1.5が発表される

1.0で規定されていた音源の保存・データベース化と配信を担う「DMS(Digital Media Server)」にくわえ、1.5では音源の再生機能に特化した「DMR(Digital Media Renderer)」、再生操作全般を担う「DMC(Digital Media Controller)」のデバイスクラスが新たに規定された。様々なメーカーのハード/ソフトを組み合わせられる汎用性と共に、今に続く「サーバー」「プレーヤー」「コントロール」というネットワークオーディオの三要素が明確になった。

「コントロール」まで含めて「機器」と「機能」が明確に分化したDLNA1.5をもって、こんにちまで続くネットワークオーディオの方向性が決定付けられたと言っていいだろう。

しかし、アイデアそのものは画期的だったが、DLNAはオーディオ用途に関しては要領を得ない仕様もあり、長らく禍根を残すことになる。 (関連ニュース

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