OpenHome台頭からRoon登場、そして・・・
ネットワークオーディオはどこから来たのか、どこへ向かうのか − 10年の歴史をふり返る<発展/成熟編>
▶2014年10月
ロスレス音楽ストリーミングサービス「TIDAL」が北米でスタート
CD相当、44.1kHz/16bitのロスレスクオリティで、2千万曲(当時)の音楽が聴き放題という衝撃。ネットワークオーディオプレーヤー側の対応も進み、一例としてLINNとLUMINはいちはやくTIDALを製品にビルトインし、純正コントロールアプリから膨大な音楽にアクセス可能になった。すなわちユーザーからすれば、「数千万曲に及ぶ楽曲が保存されたサーバー」が使用可能になったのと同じである。残念ながら、今に至るまでTIDALは日本で正式にサービスを開始していない。
▶2014年11月
DELAのオーディオ用NASがアップデートで音源の再生機能(OpenHome対応)を追加。USB-DAC接続が可能に
アップデートで追加された音源の再生機能について、当時世界でもまだまだ採用事例が少なかったOpenHome対応を果たす。DELAの製品は「OpenHome対応ネットワークオーディオトランスポート」として機能するようになり、DLNAとは一線を画す優れたユーザビリティを獲得しただけでなく、ネットワークオーディオプレーヤーに比べて圧倒的に製品数の多いUSB-DACを組み合わせることができるようになった。USB-DACとの接続にPCを使わないことによる音質上のメリットもあり、多くのUSB-DACユーザーにネットワークオーディオの可能性を示した。
特に廉価モデルのN1Aがファイル再生全体に果たした功績は大きく、日本のネットワークオーディオのシーンにおいては、「これ以前」と「これ以後」を区別できるレベルの偉業と言える。(関連ニュース)
▶2015年4月
JPLAY、バージョン6でOpenHome対応の「JPLAYStreamer」機能を搭載
「PCの再生ソフトがコントロールのためにOpenHomeを採用する」という例。JPLAYStreamer自体は再生機能しか持たないが、OpenHomeに対応することにより、外部のサーバーとコントロールアプリを用いることで快適な音楽再生が可能になる。
なお、本記事執筆時の最新バージョンである「JPLAY FEMTO」では、音質を最優先する考え方からOpenHomeではなくDLNAが採用されている。
▶2015年4月
PrimeSeat、世界初のインターネットでのDSDライブ・ストリーミングを実施
「東京・春・音楽祭 2015」において、インターネットイニシアティブ(IIJ)、ソニー、コルグ、サイデラ・パラディソの4社が、DSDライブストリーミングの公開実験を行った。そして同年12月には、ハイレゾ音源のライブ・ストリーミングサービスも開始された。TIDALのような「定額聴き放題」のサービスとは異なるが、商用サービスでDSD 5.6MHzをはじめとするハイレゾ音源のストリーミング配信を実現したことは画期的で、後にDSD 11.2MHzでの配信も実現した。(関連ニュース)
▶2015年夏
アイ・オー・データ、オーディオ向けNAS「RockDisk for Audio」を発売
この時既にQNAP TS-119は完了しており、RockDisk for Audioはそれに代わる安価な「ネットワークオーディオ用NAS」として申し分ない仕様を備えていた。Soundgenicの登場まで、RockDisk for Audioは立派に役目を果たした。(関連ニュース)
▶2015年夏
スフォルツァートのネットワークオーディオプレーヤーがOpenHomeに対応
スフォルツァートのネットワークオーディオプレーヤーは製品グレードに関わらずアップデートによる機能拡張を続け、当初のDLNAからOpenHome対応を果たした。これにより、「国産ネットワークオーディオプレーヤー」としてスフォルツァートは頭一つ抜けたブランドとなった。(Net Audio vol.19にて詳細をレポート)
▶2015年10月
アイ・オー・データ、オーディオブランド「fidata」を発表。オーディオ用NAS「HFAS1シリーズ」を発売
音展2014の試作機展示を経て、アイ・オー・データからも「はじめからオーディオ機器として作られた」サーバーが誕生。操作のわかりやすさを重視してディスプレイを搭載したDELAと異なりfidataはディスプレイを搭載せず、純粋にサーバーとしての本懐に徹する研ぎ澄まされたデザインを採用した。発売からあまり間を置かずして、OpenHomeに対応する再生機能もアップデートで追加された。(関連ニュース)
第4期:ネットワークオーディオの成熟
第3期終盤の出来事と多少前後するが、2015年の「Roon」の登場をもって、第4期のはじまりとしたい。
Roonは「聴くだけにとどまらない多面的な音楽の楽しみ」をもたらす「総合音楽鑑賞ソフト」としてファイル再生そのものを高い次元に引き上げただけでなく、「Roon Ready」という仕組みにより、ネットワークオーディオの世界にも新風を吹き込んだ。
従来から続いてきた機能面の拡大はRoonの登場によって一段落し、個々のソフト・ハード・サービスは再生品質や使い勝手を成熟させる方向に向かっていると感じられる。快適な音楽再生を実現したうえで「音楽に触れる喜び」に再注力したLINNのSELEKT DSMは、ネットワークオーディオというジャンルが成熟したことを示す好例と言える。
▶2015年
Roon Labsが発足、総合音楽鑑賞ソフト「Roon」が登場
TIDALとの連携も含め、Roonがもたらすローカルとクラウドの音源を統合した「音楽の海」という未曾有の音楽体験はネットワークオーディオを次のステージへ進めた。メリディアンから離れたことで、Roonは様々なOS・ハードと組み合わせ可能な汎用性を手に入れた。
動作のために強力な処理能力を必要とするRoonの登場で「PC」と「オーディオ機器」の垣根がさらに曖昧なものとなり、海外では「PCベースのミュージックサーバー」が数多く製品化される。(関連ニュース/逆木氏による2015年当時のレビュー)