10-30万円台の注目5モデルを徹底試聴!
レコード再生のワンモア・ステップ【特別編】:入門から一歩進んだプレーヤー選び!
■TECHNICS 「SL-1500C」 使い勝手の良い作りで録音ごとの特性も描出
最初に登場したのはテクニクスのSL-1500C。価格は11万円だ(以下、価格はすべて税込表記)。今回の機種の中では唯一のダイレクトドライブ方式である。井上先生によれば、ダイレクトドライブは日本のメーカーの製品に多く、ターンテーブルの駆動力が強く起動がスピーディなため、もともとは放送局用に開発された機構とのこと。
テクニクスではDJ用としてもお馴染みのSL-1200シリーズが代表的だが、本機はその姉妹機。操作系機能などを絞ることで価格を抑えながら、フォノイコライザー内蔵(オン/オフ可能)でMMカートリッジも付属するオールインワン仕様として、ピュアオーディオ用途に特化した製品だ。アームはユニバーサルヘッドシェルタイプなので、録音によってカートリッジをステレオMC/モノラルへと頻繁に替えたい私としては、ヘッドシェルごとサクッと交換できるところはありがたい。
肝心の音については、オラフソンのピアノの録音はもともと柔らかい音色が持ち味だが、その響きの特性が素直に届けられる印象で、心地よく聴き続けることができた。ハイドンの交響曲では、古楽器ならではの音の立ち上がり、つまり弦楽器の弓と弦が接触する際の子音的な要素などまでが生き生きと伝えられ、明るく滑舌の良い演奏が楽しめた。デザインがシンプルなのは好印象。サイズ的にも大きすぎず小さすぎず、どんな部屋にもマッチしそうだ。
■ELAC「MIRACORD 60」 シンプルで美しい外観とクリアで生き生きした再現
続いてはドイツのメーカーエラックから発売のMIRACORD 60。MIRACORDの名を冠したプレーヤーは1950年代に登場し、世界的にヒットした。2016年にエラック創業90周年記念としてMIRACORD 90で復刻。MIRACORD 60は2019年の発売だ。価格は19万8000円。
ストレートタイプのアームは、カーボンファイバー製で軽い。手持ちのカートリッジを使いたければ、つけ替えの手間はかかるがストレート型は強度が高く、最近では主流となりつつあるそうだ。こちらのモデルは専用シェルの着脱型となっており、カートリッジ交換はし易い。音の違いは複数の要因によるが、井上先生の考えではトーンアームがひとつの肝だという。
音の特性はというと、2台目ということで、まずはプレーヤーによる違いがはっきりと味わえたことに驚いた! ピアノの録音は、弱音寄りのダイナミクスが広がり、オラフソンの繰り出す繊細なピアニシモのコントロールが生き生きと伝わった。ハイドンの合奏は、オーボエやクラリネットなどの木管楽器の艶感が増し、低音も空気感としてさり気なく感じられる。1台目のテクニクスとの比較で言えば、音質が全体的にクリアな印象。プラッターの高品質アルミ素材も効果を発揮しているようだ。デザインは本機もシンプルで、台座のピアノブラックのような仕上げが美しい。
■REGA「Planar 6」 ポリシーを極限まで追求し各楽器が躍動的で生々しい
3台目は英国のメーカー、レガのPlanar6。価格は22万5500円(※カートリッジレスモデル)でテクニクスの倍以上となる。だが見た目は薄いため、いわゆる“高級機”感はまるでない(失敬!)。しかし、その音には驚いた。
聴いた印象を先に記すが、演奏の生々しさが一段アップした。ピアノは弦の鳴り響きのみならず楽器自体のボディの共鳴をも感じさせ、オーケストラは古楽器らしい音の立ち上がりの個性と躍動感がしなやかに再現され、ダイナミクスは弱音側にも強音側にも、グラデーデション豊かに広がって奥行きも出た。これはクラシックを聴くにはとても楽しい!
レガは、ダイナミックバランス式のトーンアームも含めて全てを自社製造しているそうで、目指す音の方向性が追求できているのかもしれない。一見すると、安っぽくも見えがちなボディの薄さのヒミツは、電源ユニットを外づけにしていることもあり、本体自体は5.2kgという軽さ。本体の設計は極限までシンプルに抑えて、余計な振動を抑えることに注力しているのだ。プレーヤーは重いほど音が良いと考えるのは、一種の“神話”であることを証明しているかのよう。
プラッターはガラス製。RCA出力ケーブルも自社製の直づけなので、取り替えることはできない。設置したその日からすぐにレコード盤の持つ音の力を引き出し、堪能させてくれる。
■ROKSAN「Attessa Turntable」 残響豊かでアクやクセがない
ロクサンも英国のメーカー。斬新な設計による振動対策で注目され続けてきた。2021年11月に発売となったAttessa Turntableは、スッキリとした軽快なデザインだ。アームのつけ根部分の支持方式が他の4モデルの機構とは異なっており、ユニピボット、つまり、やじろべえのように一点で支えるシンプルで伝統的な方式を採用しているのが特徴。ややデリケートな印象も受けるが、シンプルならではの長所が生かされているという。
ヘッドシェル部分はアームと一体となっていて外すことはできない。オリジナルのMMカートリッジを付属するが、今回の試聴では日頃私が使用しているMCカートリッジに交換をして聴くため、繊細なつけ替え作業が必要になった。プラッターはガラスとアルマイトという異素材を組み合わせることで、それぞれの固有の共鳴音やノイズが相殺される仕組みとなっている。価格は23万1000円。
音の特性は、アクの強さなどはなく、やや控えめな印象。ピアノは残響成分が比較的多く感じられた。オーケストラも軽やかで、クセのない響きを聴くことができた。ひょっとすると、あらゆるエレメントにおいてレンジの広さが求められるクラシックよりも、ポップスやロックやテクノなど、レンジに関しては安定性のあるジャンルの音源の方が、本機には向いているのかもしれないと感じた。
■LUXMAN 「PD-151 MARKII」 基礎力が高く懐の深い正統派
井上先生によれば、いま最も“旬”なプレーヤーのひとつ。見るからに正統派というか、安心感があって「間違いなくハイクオリティな国産車」を目の前にしたような印象。2022年5月に発売の本機は、新モデルのトーンアームとなり、支持方式はナイフエッジ機構。ヘッドシェルごと交換可能なユニバーサルタイプだ。5モデル中で一番大きく重量もある(本体15.8kg)が、ターンテーブルを外せば一人での移動も問題はなさそう。
聴いた印象もこれまた正統派というか、特別な味つけを感じさせない。なおかつどこか余裕があり、ハイレベルな基礎力を感じる。ピアノもオーケストラも、それはそれは晴朗で素直な響きがした。別の見方をすれば、ある意味物足りない。しかし、その物足りなさとは入門機に対するそれとは異なり、「まだまだ展開していく余裕」を感じさせるのである。井上先生はその余裕を“発展性”と呼んで紹介してくれた。いろいろと手を加えても、それに応えられるだけの性能を備えているプレーヤーなのだ。
なるほどターンテーブルシート、電源ケーブルなどのアクセサリー類、さらにカートリッジ、フォノイコライザーなどもステップアップさせてみたくなりそうだ。ユーザーの「手を入れる楽しみ」を見越した設計と基礎力の高さ、何とも心憎いプレーヤーだ。価格は5機種の中では最高値39万3800円である。