公開日 2008/09/22 00:00
高音質盤『Pure』を歌うSuaraに直撃インタビュー(前半)
岩井喬氏も絶賛
一流ミュージシャンとエンジニアによって制作され、F.I.X.RECORDS(フィックスレコード)から発売されたSACD『Pure〜AQUAPLUS LEGEND OF ACOUSTICS』。昨年秋に発売されて以来、一部のオーディオファイルやメーカー関係者などから非常に高い評価を得ている作品だ。
しかしながら音楽ジャンルとして“ゲーム・アニメ”に属する本作は、その作品のクオリティーにも関わらずこれまで高音質盤として語られる機会はそれほど多くはなかった。Phile-webでも紹介するのは今回が初である。本記事では、発売当初から『Pure』を評価し小社刊行誌「オーディオアクセサリー」等でリファレンスとして使用してきたオーディオ・ライターの岩井喬氏が、F.I.X.RECORDSの取り組む高音質への挑戦を紹介するとともに、『Pure』のボーカルを務めたSuara(スアラ)さんへのインタビューを敢行。8月に発売されたハイブリットSACD盤の新アルバムについてのお話を伺った。
(以下、文・インタビュー 岩井喬)
■究極のスタジオ録音により完成した高音質SACD
『Pure〜AQUAPLUS LEGEND OF ACOUSTICS』
昨年の秋、国内屈指のミュージシャンとエンジニアによって、究極のスタジオ録音に挑戦し、ナチュラルな音質にこだわったSACD『Pure〜AQUAPLUS LEGEND OF ACOUSTICS(以下、Pure)』が発売された。
その意欲的な挑戦は、アルバムを聴いた者、全てを虜にする。『Pure』発売直後、筆者もこのソフトを聴き、その魅力にノックアウトされた。スタジオ収録そのままといっても良いほど、自然でクリアな楽器の質感を感じ取れ、試聴盤としても愛用している。『オーディオアクセサリー』130号においても緊急レポートをさせていただいたこのソフトは、コンシューマー・ゲームソフトの製作・販売を行うアクアプラスが手がける作品で、使われた楽曲をアコースティック用にアレンジ。ストリングスをふんだんに用いており、オフマイクによるスタジオの箱鳴りを有効に活用したナチュラル・リバーブを始め、ボーカルも極力リバーブを使わず(中には意図的にリバーブを全く使わない曲も存在する)、まさにスタジオで聴けるサウンドをそのままディスクに収めたといっても良い作品だ。何の前情報もなく本アルバムを聴いても、原典はゲームミュージックだと全く気付けないだろう。そのクオリティの高さはオーディオリファレンスといえる一枚だ。
この『Pure』に収録された曲中でボーカルを担当しているのが、F.I.X.RECORDS所属のSuara(スアラ)さんだ。同社の看板ボーカリストとして、『ToHeart 2』『うたわれるもの』など、数々のアクアプラス作品の歌を担当するほか、『あさっての方向。』『BLUE DROP』といったアニメの主題歌も手がけており、アニメ/ゲームシーンでは実力派の呼び声高いシンガーの一人である。Suaraさんの“Suara”の語源はインドネシア語で“声”を意味するそうで、深く滑らかな声質で、表現力豊かなボーカルは叙情的であり、まさに“声”の魅力溢れるアーティストであるといえる。
■『Pure』のボーカルSuara待望の新作 − SACDハイブリット盤『太陽と月』
去る8月27日、彼女の3枚目となるオリジナルアルバム『太陽と月』がリリースされた。注目されるのは、2年前に発表された前作『夢路』では通常のCDの他、SACD盤も発売されたのだが、今回はSACDハイブリッド盤のみのリリースとなっている点だ。オーディオファイル用に良い音を収録した『Pure』とは対極的な、アーティストのポピュラーアルバムとなる『太陽と月』では目指すサウンドのベクトルが違うため、同じ土俵上での音質評価はできないのだが、それゆえになぜDSDフォーマットにこだわっているのか、その理由にも興味が沸く。今回、アルバム発売に伴ったライブのリハーサルの合間を縫ってSuaraさんへのインタビューが実現した。本作レコーディングのエピソードや、SACDのメリットについて伺った。
− この度は『太陽と月』完成おめでとうございます。新作は前作『夢路』から大幅にアコースティックの要素が増えて、バラエティ豊かな、幅のあるアルバムになりましたね。
Suara:ありがとうございます。そうですね、今作はアニメの主題歌となったシングル曲も数多く収録していますし、それらのタイアップ曲はストリングスをふんだんに用いて、生のバンドによるサウンド作りがなされているので、そういったところからも感じられる要素なのだと思います。
− その分、アルバム全体のバランスを取るのは大変ではなかったのでしょうか?
Suara:タイアップのシングル曲に関しては、使われる作品のイメージに沿った曲となるので、アレンジも含め、曲調云々は出来上がったものを自分がどう歌い込むかという流れになります。そうした経緯からタイアップ曲だけでもバラエティ色は豊かになりますよね。対してオリジナル曲に関しては、アレンジどうこうというよりも、伝えたい言葉を優先した曲作りをしていきました。良い意味で理想の曲が各作家さんから上がってきたので自然にまとまった印象でしたが、それは私自身を良く理解してくれている皆さんにお願いしたからという要因も多分にあったと思います。ときにこちらのリクエストとは違うものがあがってきたりして、「あれっ?」と思うこともあったんですが(笑)。結果的に完成型が予め見えていたように、ぴったり曲がはまりました。バランスをまとめるという意味では、曲順やミックスのイメージを統一するという作業によって、うまくいったと思います。
− 今回のアルバムセッションは前作から2年経過し、『Pure』のセッションも挟んでいますが、この期間の中でSuaraさんご自身、成長したと感じたところはありますか?
Suara:ボーカリストとして成長していきたいという想いは常に持っていますし、“職業歌手”とでもいうのでしょうか、色んな楽曲を歌い込める歌手でありたいとデビュー当時から思っていました。自分の声で様々な世界観を表現できるのが理想です。シングル曲を依頼される度に色々なことを求められるので、試されているかのようですが(笑)。歌い方に悩んだりしたときは、闇雲に自分でアプローチするよりもディレクターに相談したり、意見を聞いて練習をしながら本番に臨んでいたので、どうアプローチするかというレスポンスは以前よりも早くなりましたね。いかに自分の曲を客観的に分析するか、という点が今回のレコーディングにおける大きなテーマでした。
これまでは自分の感情を形にしたような、歌詞で共感できる部分を見つけて伝えようといった、自分で作り上げた世界観だけで歌っていたところもあったのですが、それだけでは不十分だと思えるようになってきたんですね。歌には正確に伝わるためのポイントというものが存在していて、私の曲であればオリジナルは私自身ですが、それを例えば他の方が歌うとしても“この曲はこう歌った方がきちんと伝わる”という点があるんじゃないかといつも思うんです。
だから“歌を知る”ということに関して積極的に様々なアーティストの楽曲を聴き込んで勉強していますし、聴く側に立って考えたときに、“この曲はここがこう盛り上がってくれれば気持ちよく聴ける”というものを自分自身感じていますから、そういう“歌のツボ”をたくさん知っておかないといけないなと、ここ最近は強く感じましたね。そして、その部分が曲を作ってくださった作家さんの「こう歌って欲しい」というリクエストに応えるために必要な、自分の中の引き出しに繋がるのではないか、と思っています。
(後半につづく)
筆者プロフィール
岩井 喬
1977年・長野県北佐久郡出身。東放学園音響専門学校卒業後、レコーディングスタジオ(アークギャレットスタジオ、サンライズスタジオ)で勤務。その後大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。現在でも自主的な録音作業(主にトランスミュージックのマスタリング)に携わる。プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。小学生の頃から始めた電子工作からオーディオへの興味を抱き、管球アンプの自作も始める。
しかしながら音楽ジャンルとして“ゲーム・アニメ”に属する本作は、その作品のクオリティーにも関わらずこれまで高音質盤として語られる機会はそれほど多くはなかった。Phile-webでも紹介するのは今回が初である。本記事では、発売当初から『Pure』を評価し小社刊行誌「オーディオアクセサリー」等でリファレンスとして使用してきたオーディオ・ライターの岩井喬氏が、F.I.X.RECORDSの取り組む高音質への挑戦を紹介するとともに、『Pure』のボーカルを務めたSuara(スアラ)さんへのインタビューを敢行。8月に発売されたハイブリットSACD盤の新アルバムについてのお話を伺った。
(以下、文・インタビュー 岩井喬)
■究極のスタジオ録音により完成した高音質SACD
『Pure〜AQUAPLUS LEGEND OF ACOUSTICS』
昨年の秋、国内屈指のミュージシャンとエンジニアによって、究極のスタジオ録音に挑戦し、ナチュラルな音質にこだわったSACD『Pure〜AQUAPLUS LEGEND OF ACOUSTICS(以下、Pure)』が発売された。
その意欲的な挑戦は、アルバムを聴いた者、全てを虜にする。『Pure』発売直後、筆者もこのソフトを聴き、その魅力にノックアウトされた。スタジオ収録そのままといっても良いほど、自然でクリアな楽器の質感を感じ取れ、試聴盤としても愛用している。『オーディオアクセサリー』130号においても緊急レポートをさせていただいたこのソフトは、コンシューマー・ゲームソフトの製作・販売を行うアクアプラスが手がける作品で、使われた楽曲をアコースティック用にアレンジ。ストリングスをふんだんに用いており、オフマイクによるスタジオの箱鳴りを有効に活用したナチュラル・リバーブを始め、ボーカルも極力リバーブを使わず(中には意図的にリバーブを全く使わない曲も存在する)、まさにスタジオで聴けるサウンドをそのままディスクに収めたといっても良い作品だ。何の前情報もなく本アルバムを聴いても、原典はゲームミュージックだと全く気付けないだろう。そのクオリティの高さはオーディオリファレンスといえる一枚だ。
この『Pure』に収録された曲中でボーカルを担当しているのが、F.I.X.RECORDS所属のSuara(スアラ)さんだ。同社の看板ボーカリストとして、『ToHeart 2』『うたわれるもの』など、数々のアクアプラス作品の歌を担当するほか、『あさっての方向。』『BLUE DROP』といったアニメの主題歌も手がけており、アニメ/ゲームシーンでは実力派の呼び声高いシンガーの一人である。Suaraさんの“Suara”の語源はインドネシア語で“声”を意味するそうで、深く滑らかな声質で、表現力豊かなボーカルは叙情的であり、まさに“声”の魅力溢れるアーティストであるといえる。
■『Pure』のボーカルSuara待望の新作 − SACDハイブリット盤『太陽と月』
去る8月27日、彼女の3枚目となるオリジナルアルバム『太陽と月』がリリースされた。注目されるのは、2年前に発表された前作『夢路』では通常のCDの他、SACD盤も発売されたのだが、今回はSACDハイブリッド盤のみのリリースとなっている点だ。オーディオファイル用に良い音を収録した『Pure』とは対極的な、アーティストのポピュラーアルバムとなる『太陽と月』では目指すサウンドのベクトルが違うため、同じ土俵上での音質評価はできないのだが、それゆえになぜDSDフォーマットにこだわっているのか、その理由にも興味が沸く。今回、アルバム発売に伴ったライブのリハーサルの合間を縫ってSuaraさんへのインタビューが実現した。本作レコーディングのエピソードや、SACDのメリットについて伺った。
− この度は『太陽と月』完成おめでとうございます。新作は前作『夢路』から大幅にアコースティックの要素が増えて、バラエティ豊かな、幅のあるアルバムになりましたね。
Suara:ありがとうございます。そうですね、今作はアニメの主題歌となったシングル曲も数多く収録していますし、それらのタイアップ曲はストリングスをふんだんに用いて、生のバンドによるサウンド作りがなされているので、そういったところからも感じられる要素なのだと思います。
− その分、アルバム全体のバランスを取るのは大変ではなかったのでしょうか?
Suara:タイアップのシングル曲に関しては、使われる作品のイメージに沿った曲となるので、アレンジも含め、曲調云々は出来上がったものを自分がどう歌い込むかという流れになります。そうした経緯からタイアップ曲だけでもバラエティ色は豊かになりますよね。対してオリジナル曲に関しては、アレンジどうこうというよりも、伝えたい言葉を優先した曲作りをしていきました。良い意味で理想の曲が各作家さんから上がってきたので自然にまとまった印象でしたが、それは私自身を良く理解してくれている皆さんにお願いしたからという要因も多分にあったと思います。ときにこちらのリクエストとは違うものがあがってきたりして、「あれっ?」と思うこともあったんですが(笑)。結果的に完成型が予め見えていたように、ぴったり曲がはまりました。バランスをまとめるという意味では、曲順やミックスのイメージを統一するという作業によって、うまくいったと思います。
− 今回のアルバムセッションは前作から2年経過し、『Pure』のセッションも挟んでいますが、この期間の中でSuaraさんご自身、成長したと感じたところはありますか?
Suara:ボーカリストとして成長していきたいという想いは常に持っていますし、“職業歌手”とでもいうのでしょうか、色んな楽曲を歌い込める歌手でありたいとデビュー当時から思っていました。自分の声で様々な世界観を表現できるのが理想です。シングル曲を依頼される度に色々なことを求められるので、試されているかのようですが(笑)。歌い方に悩んだりしたときは、闇雲に自分でアプローチするよりもディレクターに相談したり、意見を聞いて練習をしながら本番に臨んでいたので、どうアプローチするかというレスポンスは以前よりも早くなりましたね。いかに自分の曲を客観的に分析するか、という点が今回のレコーディングにおける大きなテーマでした。
これまでは自分の感情を形にしたような、歌詞で共感できる部分を見つけて伝えようといった、自分で作り上げた世界観だけで歌っていたところもあったのですが、それだけでは不十分だと思えるようになってきたんですね。歌には正確に伝わるためのポイントというものが存在していて、私の曲であればオリジナルは私自身ですが、それを例えば他の方が歌うとしても“この曲はこう歌った方がきちんと伝わる”という点があるんじゃないかといつも思うんです。
だから“歌を知る”ということに関して積極的に様々なアーティストの楽曲を聴き込んで勉強していますし、聴く側に立って考えたときに、“この曲はここがこう盛り上がってくれれば気持ちよく聴ける”というものを自分自身感じていますから、そういう“歌のツボ”をたくさん知っておかないといけないなと、ここ最近は強く感じましたね。そして、その部分が曲を作ってくださった作家さんの「こう歌って欲しい」というリクエストに応えるために必要な、自分の中の引き出しに繋がるのではないか、と思っています。
(後半につづく)
筆者プロフィール
岩井 喬
1977年・長野県北佐久郡出身。東放学園音響専門学校卒業後、レコーディングスタジオ(アークギャレットスタジオ、サンライズスタジオ)で勤務。その後大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。現在でも自主的な録音作業(主にトランスミュージックのマスタリング)に携わる。プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。小学生の頃から始めた電子工作からオーディオへの興味を抱き、管球アンプの自作も始める。
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