公開日 2011/11/08 10:05
「ライブに近い臨場感が面白い」− 指揮者・山田和樹さんが聴く「横浜シンフォニエッタ」演奏会まるごとハイレゾ配信
e-onkyo musicで配信中
ブザンソン国際指揮者コンクールで2009年に優勝を飾って以来、2010年にはNHK交響楽団副指揮者を務め、2012年からは名門スイス・ロマンド管弦楽団の首席客演指揮者に就任予定など、国内外に活躍の場を広げている山田和樹さん。
そんな山田さんは、東京藝術大学在学中に「TOMATOフィルハーモニー管弦楽団」を結成し、「横浜シンフォニエッタ」と改称した今も、音楽監督として若い音楽家たちとともに精力的に活動している。
このたびe-onkyo musicにて「横浜シンフォニエッタ」の演奏会をまるごと配信するという意欲的な試みがスタートした。これは開演前のチューニングから指揮者入場の拍手などまで収録したもので、コンサート会場の臨場感をハイレゾの高品位な音で楽しめるというものだ。
今回は山田さんに、指揮者という存在について、「横浜シンフォニエッタ」に対する思い、そして配信音源を聴いた感想などのお話をうかがった。
■ ■ ■
■指揮者を目指したきっかけとは
−− 山田さんは小さい頃から指揮者を目指していらっしゃったのですか?
山田さん:小さいときからピアノを習ったり、高校の吹奏楽で指揮をしたりしていたので憧れはありました。でも自分にそこまで才能があるとも思わなかったし、プロの指揮者になろうとは考えていなかったんです。
大きな転機になったのは、高校2年生の終わり頃ですね。習っていた先生の発表会のカーテンコールでオーケストラを振る(指揮をする)機会がありまして。ほんとうに全身粟立つような興奮を感じて、この道で“人生棒に振る”(笑)のも悪くないかな、と思ったんです。そこから、プロの指揮者を目指そうと真剣に考え始め、東京藝大に入りました。
なので、スタートは結構遅いんです。高校に入るまでオーケストラなんて聴いたこともなかったですし。僕なんかより知識のあるクラシックファンの方は大勢いるんじゃないかと思います。そういう人間がいま指揮者をやっているんですから、不思議なものですね(笑)。
■全人格的なものを求められる「指揮者」という存在
−− 2009年には若手指揮者の登竜門であるブザンソン国際指揮者コンクールで優勝されましたね。指揮者コンクールというのは、どういうものなのでしょうか?
山田さん:たとえばブザンソンでは、1週間という期間のなかで毎日審査があり、だんだん人が減っていきます。毎日だいたい13時から22時くらいまでの間、それぞれの参加者がオーケストラとリハーサル(練習)をし、24時頃審査結果の発表があります。受かっていたらそこから次の日の曲の準備をして、午後にはまたリハーサルが始まります。だから、寝られないんですよね(笑)。僕は期間中1日2時間寝られたかどうかという感じでした。
−− 本当に、「のだめカンタービレ」で千秋くんが挑戦した「プラティニ国際指揮者コンクール」のような感じなんですね。コンクールではどういったことが求められるのですか?
山田さん:指揮者は自分で音を出すわけではありませんが様々な役割を担っていて、棒を振るという作業はその中のほんのわずかな要素でしかありません。なのでコンクールでは、必ずしも指揮が上手な人が優勝するというわけではなく、オーケストラにリハーサルをきちんとつけられるか、限られた時間のなかで効率的に良い音楽を引き出していけるか、オーケストラの気持ちを束ねて音楽を変えられるかどうかなど、総合力を求められ評価されると思います。
フランスでは指揮者のことを「シェフ・ド・オーケストラ」と呼びますが、シェフのように目の前にある材料の最高の味を引き出して美味しい料理を作れるかどうかが、とても大切なんですね。
それと、毎日寝る時間がほとんどないなかで試練を何度も乗り越えなければならない極限状態に耐えられる精神力も求められますし、オーケストラの団員とユーモアを交わしあったりすることも必要ですし…全人格的なものを審査されます。ですから審査員との相性もあると思います。コンクールも巡り合わせですね。
−− ブザンソンで優勝される前とされた後、ご自身でなにか変わったところはありますか?
山田さん:よく聞かれるのですが、いつもうまく答えられなくて…(苦笑)。一番は「心の持ち方が自由になった」ところでしょうか。賞をいただいたことで、きちんとした演奏を見せなければいけないという点でプレッシャーは増えましたが、色々な場所で色々なことを言えるようになりましたしね。
それに、コンクールまでは「ここはこうしなければ」「こういうことはしないようにしなければ」と、自分に制約を設けることが多かったんです。だからこそ優勝できたということもあると思うんですけど、そうでなくてもいいんだなと分かったのが、今の状況ですね。
−− どういう制約を課していらしたのでしょうか?
山田さん:うーん、生き方として小さくうまくまとめようとしていたと言いましょうか。でも演奏家としてそうではいけないので、その流れを変えたくて海外に行ったという部分もあります。
■「横浜シンフォニエッタ」はさまざまなことを勉強させてもらっている場所
−− 国内外の大きな舞台でご活躍されていらっしゃいますが、一方で大学時代に結成したオーケストラである「横浜シンフォニエッタ」で現在も積極的に活動されていますね。
山田さん:はい。「横浜シンフォニエッタ」は小さな編成のオーケストラで、主に古典の楽曲を中心に演奏活動を行っています。「TOMATOフィルハーモニー管弦楽団」として結成したきっかけは、大学の指揮科に入ったのですがなかなか振れる場がなく「それならシンフォニーを振れるオーケストラを作ってしまおう」ということでした。
当初は楽譜の用意・会場取り・楽器手配と運搬・プログラム制作など全てひとりでやっていましたね。そのおかげで、演奏会を開くことがどれほど大変か、どれほど多くの方が関わっているかを知ることができました。自分の作ったオーケストラですが、音楽的なことはもちろん、さまざまなことを勉強させてもらっている場です。
■ ■ ■
−− 8月に行われた第4回演奏会では、伝ハイドンのフルート協奏曲、ハイドンの交響曲第104番「ロンドン」、ライネッケのフルート協奏曲、そしてプロコフィエフの「古典交響曲」を取り上げていました。こちらはe-onkyo musicでまるごと配信されていて、演奏会の雰囲気をハイレゾ音源で楽しむことができますね。この演奏会のコンセプトはどんなものだったのでしょうか。
山田さん:交響曲の父と呼ばれるハイドンをフィーチャーしたプログラムですね。全てニ長調の明るい雰囲気を持つ曲です。
第1部は長年ハイドン作曲と伝えられていたものの、実はL.ホフマンというウィーンの作曲家の作品であったフルート協奏曲と、ハイドンの最後の交響曲である第104番を組み合わせています。
第2部は、プロコフィエフがハイドンの技法をもとに「もしもハイドンが今でも生きていたら書いたであろう作品」というコンセプトで作った「古典交響曲」。作られたのは1917年ですが、古典の雰囲気とモダンな作風が混ざり合った面白い作品なんです。
そしてライネッケのフルート協奏曲は、どなたが聴いても「いいな」と思うような隠れた名曲。非常にロマンチックな作品で、とても好きなんです。この曲は彼が84歳のとき(1908年)の作品なのですが、ドビュッシーやストラヴィンスキー、シェーンベルクらが新しい音楽の波を生み出すなか、彼はロマン派の様式を守り通しました。白尾 彰さんの素晴らしい演奏も聴きどころですね。
−− では実際にe-onkyo musicで配信されている第4回演奏会のハイレゾ音源を聴いてみましょう。
■ハイレゾ音源は蓄音機のような良さを感じさせてくれる
−− 実際にお聞きになって、感想はいかがですか?
山田さん:手前味噌ながらいい演奏だなと思って聞いていたんですが(笑)、指揮台の上とは違って聞こえるものだなあと思いました。客席のいちばんいいところで聞いた感じですね。拍手の音とか、チューニングの音が入っているのも面白いですね。ぼくは一番緊張している瞬間だから、この音を聴くとつい手に汗握ってしまうのですが…(笑)。
聴いてみて、演奏会をまるごとこうやって聴けるのは、またCDとは違った面白さがあるなと思いました。音が良いからそう思うのかな。ライブに近い感じ…臨場感がすごくありますね。
CDに録音するにはどうしても「残ることへの怖さ」というのがあって、ミスのない演奏、繰り返し聴いても耐えうるクオリティを実現しなければいけないと思ってしまいますが、こちらはライブをそのまま聴く感じがするのが本当に面白いです。
たとえばミスがあっても、その時その場所で演奏していたからこその音、という感じがしますよね。演奏会ってまさにそういう場ですから、それを感じられるのは面白い。これは新しい可能性ですね。CDは山のように厳然と存在するものですが、こちらの音源は流れている川のような存在だなと感じました。
それと、僕は一番いい音を出すものは蓄音機だと思っているんです。レコードも空気感の残る音を聴かせてくれる。でもCDやLDなどのデジタル化の中で、ひょっとしたら失われてしまったものもあるのではないかと感じていました。ハイレゾ音源は蓄音機のような良さも感じさせてくれますね。技術的には進化しつつ、これまでの良さもきちんと備えている。ハイレゾ音源を聴く機会は初めてだったので、意外でしたし大きな発見でした。
■ ■ ■
−− 今後横浜シンフォニエッタでは、どういったチャレンジをしていきたいとお考えですか?
山田さん:やはり自分と横浜シンフォニエッタでしかできない演奏をお客さんに楽しんでいただけるようにしていきたいと思います。まだアイディア段階なので決定ではありませんが、モーツァルトの変ホ長調の曲をフィーチャーしたプログラムなど面白いのではと思っています。B,E,Aにフラットのついた変ホ長調は「三位一体」につながるとされているとても特別な調性で、交響曲第39番や「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲(シンフォニア・コンチェルタンテ)」、ピアノ協奏曲第22番、魔笛など名曲揃いなんですよ。
−− 2012年からはスイス・ロマンド管弦楽団の首席客演指揮者に就任されますね。
山田さん:様々なフランスの作品を演奏して勉強できればと思っています。海外でしか得られないものがあるとしたら、それを思い切り吸収して、学んだことを持ち帰ってこられるようにしたいですね。
−− クラシックは敷居が高いイメージを持たれがちですが、これからクラシック界で長くご活躍される山田さんとして、クラシックファンを増やすためにはどんなことが必要だと思われますか?
山田さん:それはすごく難しい質問ですね…。クラシックは誰にでも楽しめるものかと言ったら、やっぱり違うようにも思うんです。以前誰かが「クラシックは複雑にトリックが仕掛けられた推理小説のようななものだ」と言っていましたが、僕もそうだと思います。作曲家が考えて張った伏線(=オーケストレーション)を読み解く面白さが、クラシックの魅力のひとつだと思います。
とは言っても「その推理小説を楽しむにはこれを読んでおくのがオススメ」というのはありますし、横浜シンフォニエッタでは多くの方に聴きに来ていただくため「聴きにくるとなにか面白いことを体験できるぞ」と思ってもらえるよう考えて演奏会を開いています。やっぱり演奏を聴いて感動してもらうことができれば「また聴きにこよう」と思ってもらえるのではないかな、と。
演奏会って美味しいラーメン屋さん巡りのようなもので、当たり外れはどうしてもあるんです。でも、1軒目が好みでなくても、そこでラーメン自体を諦めないで欲しい(笑)。これは好みだなと思える演奏に出会えるまで、ぜひいろいろな演奏会を聴いてみて欲しいなと思います。
そんな山田さんは、東京藝術大学在学中に「TOMATOフィルハーモニー管弦楽団」を結成し、「横浜シンフォニエッタ」と改称した今も、音楽監督として若い音楽家たちとともに精力的に活動している。
このたびe-onkyo musicにて「横浜シンフォニエッタ」の演奏会をまるごと配信するという意欲的な試みがスタートした。これは開演前のチューニングから指揮者入場の拍手などまで収録したもので、コンサート会場の臨場感をハイレゾの高品位な音で楽しめるというものだ。
今回は山田さんに、指揮者という存在について、「横浜シンフォニエッタ」に対する思い、そして配信音源を聴いた感想などのお話をうかがった。
■指揮者を目指したきっかけとは
−− 山田さんは小さい頃から指揮者を目指していらっしゃったのですか?
山田さん:小さいときからピアノを習ったり、高校の吹奏楽で指揮をしたりしていたので憧れはありました。でも自分にそこまで才能があるとも思わなかったし、プロの指揮者になろうとは考えていなかったんです。
大きな転機になったのは、高校2年生の終わり頃ですね。習っていた先生の発表会のカーテンコールでオーケストラを振る(指揮をする)機会がありまして。ほんとうに全身粟立つような興奮を感じて、この道で“人生棒に振る”(笑)のも悪くないかな、と思ったんです。そこから、プロの指揮者を目指そうと真剣に考え始め、東京藝大に入りました。
なので、スタートは結構遅いんです。高校に入るまでオーケストラなんて聴いたこともなかったですし。僕なんかより知識のあるクラシックファンの方は大勢いるんじゃないかと思います。そういう人間がいま指揮者をやっているんですから、不思議なものですね(笑)。
■全人格的なものを求められる「指揮者」という存在
−− 2009年には若手指揮者の登竜門であるブザンソン国際指揮者コンクールで優勝されましたね。指揮者コンクールというのは、どういうものなのでしょうか?
山田さん:たとえばブザンソンでは、1週間という期間のなかで毎日審査があり、だんだん人が減っていきます。毎日だいたい13時から22時くらいまでの間、それぞれの参加者がオーケストラとリハーサル(練習)をし、24時頃審査結果の発表があります。受かっていたらそこから次の日の曲の準備をして、午後にはまたリハーサルが始まります。だから、寝られないんですよね(笑)。僕は期間中1日2時間寝られたかどうかという感じでした。
−− 本当に、「のだめカンタービレ」で千秋くんが挑戦した「プラティニ国際指揮者コンクール」のような感じなんですね。コンクールではどういったことが求められるのですか?
山田さん:指揮者は自分で音を出すわけではありませんが様々な役割を担っていて、棒を振るという作業はその中のほんのわずかな要素でしかありません。なのでコンクールでは、必ずしも指揮が上手な人が優勝するというわけではなく、オーケストラにリハーサルをきちんとつけられるか、限られた時間のなかで効率的に良い音楽を引き出していけるか、オーケストラの気持ちを束ねて音楽を変えられるかどうかなど、総合力を求められ評価されると思います。
フランスでは指揮者のことを「シェフ・ド・オーケストラ」と呼びますが、シェフのように目の前にある材料の最高の味を引き出して美味しい料理を作れるかどうかが、とても大切なんですね。
それと、毎日寝る時間がほとんどないなかで試練を何度も乗り越えなければならない極限状態に耐えられる精神力も求められますし、オーケストラの団員とユーモアを交わしあったりすることも必要ですし…全人格的なものを審査されます。ですから審査員との相性もあると思います。コンクールも巡り合わせですね。
−− ブザンソンで優勝される前とされた後、ご自身でなにか変わったところはありますか?
山田さん:よく聞かれるのですが、いつもうまく答えられなくて…(苦笑)。一番は「心の持ち方が自由になった」ところでしょうか。賞をいただいたことで、きちんとした演奏を見せなければいけないという点でプレッシャーは増えましたが、色々な場所で色々なことを言えるようになりましたしね。
それに、コンクールまでは「ここはこうしなければ」「こういうことはしないようにしなければ」と、自分に制約を設けることが多かったんです。だからこそ優勝できたということもあると思うんですけど、そうでなくてもいいんだなと分かったのが、今の状況ですね。
−− どういう制約を課していらしたのでしょうか?
山田さん:うーん、生き方として小さくうまくまとめようとしていたと言いましょうか。でも演奏家としてそうではいけないので、その流れを変えたくて海外に行ったという部分もあります。
■「横浜シンフォニエッタ」はさまざまなことを勉強させてもらっている場所
−− 国内外の大きな舞台でご活躍されていらっしゃいますが、一方で大学時代に結成したオーケストラである「横浜シンフォニエッタ」で現在も積極的に活動されていますね。
山田さん:はい。「横浜シンフォニエッタ」は小さな編成のオーケストラで、主に古典の楽曲を中心に演奏活動を行っています。「TOMATOフィルハーモニー管弦楽団」として結成したきっかけは、大学の指揮科に入ったのですがなかなか振れる場がなく「それならシンフォニーを振れるオーケストラを作ってしまおう」ということでした。
当初は楽譜の用意・会場取り・楽器手配と運搬・プログラム制作など全てひとりでやっていましたね。そのおかげで、演奏会を開くことがどれほど大変か、どれほど多くの方が関わっているかを知ることができました。自分の作ったオーケストラですが、音楽的なことはもちろん、さまざまなことを勉強させてもらっている場です。
−− 8月に行われた第4回演奏会では、伝ハイドンのフルート協奏曲、ハイドンの交響曲第104番「ロンドン」、ライネッケのフルート協奏曲、そしてプロコフィエフの「古典交響曲」を取り上げていました。こちらはe-onkyo musicでまるごと配信されていて、演奏会の雰囲気をハイレゾ音源で楽しむことができますね。この演奏会のコンセプトはどんなものだったのでしょうか。
山田さん:交響曲の父と呼ばれるハイドンをフィーチャーしたプログラムですね。全てニ長調の明るい雰囲気を持つ曲です。
第1部は長年ハイドン作曲と伝えられていたものの、実はL.ホフマンというウィーンの作曲家の作品であったフルート協奏曲と、ハイドンの最後の交響曲である第104番を組み合わせています。
第2部は、プロコフィエフがハイドンの技法をもとに「もしもハイドンが今でも生きていたら書いたであろう作品」というコンセプトで作った「古典交響曲」。作られたのは1917年ですが、古典の雰囲気とモダンな作風が混ざり合った面白い作品なんです。
そしてライネッケのフルート協奏曲は、どなたが聴いても「いいな」と思うような隠れた名曲。非常にロマンチックな作品で、とても好きなんです。この曲は彼が84歳のとき(1908年)の作品なのですが、ドビュッシーやストラヴィンスキー、シェーンベルクらが新しい音楽の波を生み出すなか、彼はロマン派の様式を守り通しました。白尾 彰さんの素晴らしい演奏も聴きどころですね。
−− では実際にe-onkyo musicで配信されている第4回演奏会のハイレゾ音源を聴いてみましょう。
■ハイレゾ音源は蓄音機のような良さを感じさせてくれる
−− 実際にお聞きになって、感想はいかがですか?
山田さん:手前味噌ながらいい演奏だなと思って聞いていたんですが(笑)、指揮台の上とは違って聞こえるものだなあと思いました。客席のいちばんいいところで聞いた感じですね。拍手の音とか、チューニングの音が入っているのも面白いですね。ぼくは一番緊張している瞬間だから、この音を聴くとつい手に汗握ってしまうのですが…(笑)。
聴いてみて、演奏会をまるごとこうやって聴けるのは、またCDとは違った面白さがあるなと思いました。音が良いからそう思うのかな。ライブに近い感じ…臨場感がすごくありますね。
CDに録音するにはどうしても「残ることへの怖さ」というのがあって、ミスのない演奏、繰り返し聴いても耐えうるクオリティを実現しなければいけないと思ってしまいますが、こちらはライブをそのまま聴く感じがするのが本当に面白いです。
たとえばミスがあっても、その時その場所で演奏していたからこその音、という感じがしますよね。演奏会ってまさにそういう場ですから、それを感じられるのは面白い。これは新しい可能性ですね。CDは山のように厳然と存在するものですが、こちらの音源は流れている川のような存在だなと感じました。
それと、僕は一番いい音を出すものは蓄音機だと思っているんです。レコードも空気感の残る音を聴かせてくれる。でもCDやLDなどのデジタル化の中で、ひょっとしたら失われてしまったものもあるのではないかと感じていました。ハイレゾ音源は蓄音機のような良さも感じさせてくれますね。技術的には進化しつつ、これまでの良さもきちんと備えている。ハイレゾ音源を聴く機会は初めてだったので、意外でしたし大きな発見でした。
−− 今後横浜シンフォニエッタでは、どういったチャレンジをしていきたいとお考えですか?
山田さん:やはり自分と横浜シンフォニエッタでしかできない演奏をお客さんに楽しんでいただけるようにしていきたいと思います。まだアイディア段階なので決定ではありませんが、モーツァルトの変ホ長調の曲をフィーチャーしたプログラムなど面白いのではと思っています。B,E,Aにフラットのついた変ホ長調は「三位一体」につながるとされているとても特別な調性で、交響曲第39番や「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲(シンフォニア・コンチェルタンテ)」、ピアノ協奏曲第22番、魔笛など名曲揃いなんですよ。
−− 2012年からはスイス・ロマンド管弦楽団の首席客演指揮者に就任されますね。
山田さん:様々なフランスの作品を演奏して勉強できればと思っています。海外でしか得られないものがあるとしたら、それを思い切り吸収して、学んだことを持ち帰ってこられるようにしたいですね。
−− クラシックは敷居が高いイメージを持たれがちですが、これからクラシック界で長くご活躍される山田さんとして、クラシックファンを増やすためにはどんなことが必要だと思われますか?
山田さん:それはすごく難しい質問ですね…。クラシックは誰にでも楽しめるものかと言ったら、やっぱり違うようにも思うんです。以前誰かが「クラシックは複雑にトリックが仕掛けられた推理小説のようななものだ」と言っていましたが、僕もそうだと思います。作曲家が考えて張った伏線(=オーケストレーション)を読み解く面白さが、クラシックの魅力のひとつだと思います。
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