公開日 2017/02/03 14:05
英REGA ガンディー社長インタビュー。“ブレない”開発姿勢の秘密
自然体のスタイルが製品作りにも反映
英国を代表するアナログレコードプレーヤーのメーカーであるREGA(レガ)。同社の社長であるロイ・ガンディー氏に小原由夫氏がインタビューを行った。自然体を貫くガンディー氏が語った製品開発の哲学は、まさにそのライフスタイルを投映するものだった。
■“飾らない”“自然体”というライフスタイルをコンポーネントにも投映する
2016年の7月初旬、都心の某大型ホテル。ロビーに現われた初老の男性は、青いTシャツにグリーンカーキ色のカーゴパンツというカジュアルな出で立ち。それがREGA(レガ)の社長、ロイ・ガンディー氏のトレードマークでありポリシーだ。「ジャケットを持っていないんだ」とおどけてみせるが、“飾らない”“自然体”というのがガンディー氏のライフスタイル。それと同時に、すべてのレガのコンポーネンツにも投影されているコンセプトといって良い。
まずはお茶をしながら、他愛のない雑談から入った。インタビュー時にちょうど開催されていたウィンブルドンテニスの準決勝のこと、日本の気候や観光地のことなど…。初対面なのに、不思議と親近感がわく。
その中で実に興味深い話があった。REGAの本社近く(エセックス州)には、英国の古いロックバンド“プロコル・ハルム”のメンバーが住んでおり、REGAのコンポーネントの愛用者だという。それはとても長い付き合いで、つい先日も修理を請け負ったというのだ。日本でもCMやTVドラマで何度も使われた、あの「青い影」のプロコル・ハルムだ!
来日は今回が3回目とのこと。最初の来日は79年で、日本メーカーにトーンアームを製造・供給してもらうための交渉だったという。今でこそトーンアームの完成度の高さで知られるREGAだが、当初は日本メーカーからOEM供給を受けて自社のプレーヤーに搭載していたとは、意外というか驚きだ。
「そのメーカーのトーンアームは非常に優れていましたが、構造がやや複雑でした。私たちはもっとシンプルなものを望んでいたので、その取引関係はあまり長くは続かなかったのです。ただ、今振り返ると、国が違えば考え方も違うという、文化や民俗性を理解するのにはとてもいい経験でした」という。
日本のオーディオ市場におけるこれまでのREGAは、恒常的なものではなく、幾度か輸入が途絶えた時期がある。その理由は、日本向けの仕様変更を輸入元から要求されたが、それに対応するのが非常にシビアだったからだとガンディー氏は説明する。
「完実電気とのパートナーシップに期待することは、製品のポテンシャルや魅力を正確に伝えてもらうということです。まだお付き合いは始まったばかりですが、過去にない、いいフィーリングを感じています」。
■現在でもガンディー氏が最終的な音決めに参加する
REGAは現在110人の従業員を抱え、昨年10月には工場も拡張。従業員の人種、出身国も様々という。その中で製品開発に携わるエンジニアは、電気/機械を含めて9人ほどとのこと。もちろんガンディー氏もその一角を担う。
「私はオーナーではありますが、メカの設計を中心としたエンジニアチームの一員として籍を置いています。もちろん最終的な音決めにも参加しますが、<ロイ、最後は貴方が決めてくださいよ>と言われて困ることが多いんですよ。そういうジャッジも、若い人に任せたいと常々思っているのですが(笑)。現在は約30種の新規プロジェクトが進行していますが、ストリーミングやネットワークオーディオは、私たちが手を出すべき分野ではないと思っています。期待されていたらごめんなさい」。
REGAの就業スローガンは、一人で仕事に取り組むのでなく、チームで当たるということ。失敗を恐れず、どんどんチャレンジしようという方針も社内で徹底しているという。
現在の売り上げの比重は、アナログプレーヤー(合計7モデル)が50%を占める。この30年間、アナログのビジネスはドラスティックな浮き沈みを経験してきたが、REGAはずっとアナログプレーヤーを作り続けてきた。一時は30%台に売り上げが落ちたけれども、それでも市場から作り続けてほしいという要請があり、それに応えてきたのである。
■REGAの転換点となったトーンアーム「RB300」
私たちのREGAに対するイメージもアナログプレーヤーのそれが強いのだが、その転換点となったのは、自社でトーンアームを設計、製造したことだとガンディー氏はいう。その背景には、アルミダイキャストの高度な生産技術を確立したことが大きい。それが80年代始めに発表したトーンアーム「RB300」だ。
当時としては画期的な“ワンピース・チューブ・キャスト”というのがRB300の凄さだ。高いレベルのアルミ鋳造技術を有する専業メーカーと共同で、2mm厚が限界だった薄いチューブ状のアルミパイプを0.75mmまで、なおかつテーパーをかけた(徐々に薄く仕上げる)長いパイプを製造することに成功したのだ。ガンディー氏はそれをコンピューター制御で実現。今日当たり前の製造技術を30年前に確立し、当時は産業分野で数々のアワードを獲得した。現在もその技術を応用したトーンアームを、世界の約20社にOEM供給している。
昨年REGAは、英国王室から海外で成功した英国企業として表彰された。また、「優れた英国の会社」という雑誌でもトップに紹介されている。私たちが思っている以上にREGAは英国企業のビッグネームなのである。
■ベーシックな形が不変であることは、アナログプレーヤーにも言える
REGAのアナログプレーヤーは、一貫してデザインが変わってきていない。細部はモディファイされているが、薄いキャビネットに2重プラッターのベルトドライブというシンプルな構造を堅守してきたのはなぜだろう。
「サウンドクオリティーのために変更した部分はあっても、他社のものを参考にしたり、流行に左右されたりせず、ぶれない姿勢が大事です。レコードプレーヤーは、音溝をきっちりトレースしていくメジャーメントであるという考え方に立てば、この形と構造がベストだと私は考えます。例えば飛行機のデザインも、今も昔も基本的には変わらないですよね。空を飛ぶためのベーシックな形は不変です。無駄を削ぎ落としていけば、アナログプレーヤーにも同じことがいえると思います」
最新の「Planer3」では、全体のフォルム/デザインは、かつてのモデルとそっくりだが、細かなパーツの精度や品質は格段に向上しており、進化している。そうした細かな積み上げは、当然サウンドクオリティーにも反映されている。
一目でREGAとわかるデザインは美しい。闇雲に重く、硬くするのは、レガの主義には合わない。「サイエンスが感じられなければ」というガンディー氏の言葉が私はとても印象に残った。
(小原由夫)
■“飾らない”“自然体”というライフスタイルをコンポーネントにも投映する
2016年の7月初旬、都心の某大型ホテル。ロビーに現われた初老の男性は、青いTシャツにグリーンカーキ色のカーゴパンツというカジュアルな出で立ち。それがREGA(レガ)の社長、ロイ・ガンディー氏のトレードマークでありポリシーだ。「ジャケットを持っていないんだ」とおどけてみせるが、“飾らない”“自然体”というのがガンディー氏のライフスタイル。それと同時に、すべてのレガのコンポーネンツにも投影されているコンセプトといって良い。
まずはお茶をしながら、他愛のない雑談から入った。インタビュー時にちょうど開催されていたウィンブルドンテニスの準決勝のこと、日本の気候や観光地のことなど…。初対面なのに、不思議と親近感がわく。
その中で実に興味深い話があった。REGAの本社近く(エセックス州)には、英国の古いロックバンド“プロコル・ハルム”のメンバーが住んでおり、REGAのコンポーネントの愛用者だという。それはとても長い付き合いで、つい先日も修理を請け負ったというのだ。日本でもCMやTVドラマで何度も使われた、あの「青い影」のプロコル・ハルムだ!
来日は今回が3回目とのこと。最初の来日は79年で、日本メーカーにトーンアームを製造・供給してもらうための交渉だったという。今でこそトーンアームの完成度の高さで知られるREGAだが、当初は日本メーカーからOEM供給を受けて自社のプレーヤーに搭載していたとは、意外というか驚きだ。
「そのメーカーのトーンアームは非常に優れていましたが、構造がやや複雑でした。私たちはもっとシンプルなものを望んでいたので、その取引関係はあまり長くは続かなかったのです。ただ、今振り返ると、国が違えば考え方も違うという、文化や民俗性を理解するのにはとてもいい経験でした」という。
日本のオーディオ市場におけるこれまでのREGAは、恒常的なものではなく、幾度か輸入が途絶えた時期がある。その理由は、日本向けの仕様変更を輸入元から要求されたが、それに対応するのが非常にシビアだったからだとガンディー氏は説明する。
「完実電気とのパートナーシップに期待することは、製品のポテンシャルや魅力を正確に伝えてもらうということです。まだお付き合いは始まったばかりですが、過去にない、いいフィーリングを感じています」。
■現在でもガンディー氏が最終的な音決めに参加する
REGAは現在110人の従業員を抱え、昨年10月には工場も拡張。従業員の人種、出身国も様々という。その中で製品開発に携わるエンジニアは、電気/機械を含めて9人ほどとのこと。もちろんガンディー氏もその一角を担う。
「私はオーナーではありますが、メカの設計を中心としたエンジニアチームの一員として籍を置いています。もちろん最終的な音決めにも参加しますが、<ロイ、最後は貴方が決めてくださいよ>と言われて困ることが多いんですよ。そういうジャッジも、若い人に任せたいと常々思っているのですが(笑)。現在は約30種の新規プロジェクトが進行していますが、ストリーミングやネットワークオーディオは、私たちが手を出すべき分野ではないと思っています。期待されていたらごめんなさい」。
REGAの就業スローガンは、一人で仕事に取り組むのでなく、チームで当たるということ。失敗を恐れず、どんどんチャレンジしようという方針も社内で徹底しているという。
現在の売り上げの比重は、アナログプレーヤー(合計7モデル)が50%を占める。この30年間、アナログのビジネスはドラスティックな浮き沈みを経験してきたが、REGAはずっとアナログプレーヤーを作り続けてきた。一時は30%台に売り上げが落ちたけれども、それでも市場から作り続けてほしいという要請があり、それに応えてきたのである。
■REGAの転換点となったトーンアーム「RB300」
私たちのREGAに対するイメージもアナログプレーヤーのそれが強いのだが、その転換点となったのは、自社でトーンアームを設計、製造したことだとガンディー氏はいう。その背景には、アルミダイキャストの高度な生産技術を確立したことが大きい。それが80年代始めに発表したトーンアーム「RB300」だ。
当時としては画期的な“ワンピース・チューブ・キャスト”というのがRB300の凄さだ。高いレベルのアルミ鋳造技術を有する専業メーカーと共同で、2mm厚が限界だった薄いチューブ状のアルミパイプを0.75mmまで、なおかつテーパーをかけた(徐々に薄く仕上げる)長いパイプを製造することに成功したのだ。ガンディー氏はそれをコンピューター制御で実現。今日当たり前の製造技術を30年前に確立し、当時は産業分野で数々のアワードを獲得した。現在もその技術を応用したトーンアームを、世界の約20社にOEM供給している。
昨年REGAは、英国王室から海外で成功した英国企業として表彰された。また、「優れた英国の会社」という雑誌でもトップに紹介されている。私たちが思っている以上にREGAは英国企業のビッグネームなのである。
■ベーシックな形が不変であることは、アナログプレーヤーにも言える
REGAのアナログプレーヤーは、一貫してデザインが変わってきていない。細部はモディファイされているが、薄いキャビネットに2重プラッターのベルトドライブというシンプルな構造を堅守してきたのはなぜだろう。
「サウンドクオリティーのために変更した部分はあっても、他社のものを参考にしたり、流行に左右されたりせず、ぶれない姿勢が大事です。レコードプレーヤーは、音溝をきっちりトレースしていくメジャーメントであるという考え方に立てば、この形と構造がベストだと私は考えます。例えば飛行機のデザインも、今も昔も基本的には変わらないですよね。空を飛ぶためのベーシックな形は不変です。無駄を削ぎ落としていけば、アナログプレーヤーにも同じことがいえると思います」
最新の「Planer3」では、全体のフォルム/デザインは、かつてのモデルとそっくりだが、細かなパーツの精度や品質は格段に向上しており、進化している。そうした細かな積み上げは、当然サウンドクオリティーにも反映されている。
一目でREGAとわかるデザインは美しい。闇雲に重く、硬くするのは、レガの主義には合わない。「サイエンスが感じられなければ」というガンディー氏の言葉が私はとても印象に残った。
(小原由夫)
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