公開日 2020/08/27 13:01
東芝「レグザ」が評価を集める理由とは? キーマンたちが語る戦略と将来展望
VGP2020 SUMMER 受賞インタビュー
受賞インタビュー:東芝映像ソリューション
VGP2020 SUMMERで東芝4K有機ELレグザ「X9400シリーズ」「X8400シリーズ」が総合金賞を受賞した。クラウドと連携して番組レベルで画質を最適化する画期的な「クラウドAI高画質テクノロジー」はじめ、映像美の頂点に挑む画質とリアルな音場を実現。さらに、“大きすぎない感動大画面”を謳った48V型の提案では新規層を掘り起こし注目を集める。テレビ離れしていた若者がテレビの価値に気づき始めるなど、新しい市場の風を機敏に感じ取り市場創造へ腕を鳴らす東芝レグザ。中牟田寿嗣副社長、本村裕史ブランド統括マネージャーに話を聞く。
VGP2020 SUMMER受賞一覧はこちら
東芝映像ソリューション(株)
取締役副社長 マーケティング本部長 営業本部長
中牟田寿嗣氏
プロフィール/1962年6月7日生まれ。福岡県出身。1985年4月 ソニー株式会社入社。パソコン「VAIO」やパーソナルオーディオのマーケティング、大手流通担当の営業に携わる。2019年5月 東芝映像ソリューション株式会社入社。取締役副社長として、マーケティングや量販営業などを中心に東芝映像ソリューションの陣頭指揮を執る。趣味はバレーボール。
インタビュアー 竹内 純(ファイルウェブビジネス編集部)
■テレビ離れしていた若い世代が自分のテレビを買い始めた
―― コロナ禍で大きな打撃を受ける業界も少なくない中、テレビ市場は巣ごもり需要も追い風に堅調な動きを見せています。昨年来、大型化や4K化の流れも見受けられましたが、買い替えがようやく本格化してきたと言えるのでしょうか。
中牟田 テレビ市場ではここ数年にわたり、「今年は買い替えの年です」と言い続けてきたのですが、それがようやく現実のものとなりました。当初、「東京オリンピックの年にテレビを売らずしてどうする」と強気の数字を立てていましたが、新型コロナの影響で一転、世界の工場である中国で物が作れない、国内では緊急事態宣言で消費が落ち込むなど、一時は計画を見直し、目標数字を引き下げました。
ところが、4月、5月と需要が落ち込むどころか、対前年比で2割、3割と目を見張る伸びを見せ始めました。本来、レジャーや外出で使うはずだった資金がステイホームに回り、何に使うのか検討した答えのひとつが、エンターテイメントの雄・テレビでした。中でも面白いデータとして注目しているのは、20代のテレビ視聴時間が急激に伸びていることです。4K化や大画面化と並ぶテレビ需要増の追い風要因となっています。
―― 近年、テレビ離れが指摘されている世代ですね。
中牟田 20年、30年前には子供部屋にテレビがあるのは当たり前の光景でした。それが、スマホが台頭して「テレビなんて要らない」と姿を消してしまいました。ところが、コロナ禍で外出できずにずっと家にいなければならない。かつてない経験を強いられる中で、テレビが地デジの番組だけでなく、スマホで見慣れたネット動画も楽しめることにようやく気づいたのです。
ECが大変好調ですが、若い人たちがECで自分専用のテレビを購入して、「Amazonプライム・ビデオ」や「NETFLIX」「YouTube」など、ネット動画をテレビで楽しみ始めています。テレビ市場は今、ポジティブな方向に大きく流れが変わろうとしています。これを一過性のものにしないためにも、テレビという“新しい”発見をした若者に、その魅力をどう伝えていくかが次のステップとしてとても大事になります。
―― テレビの商品企画としては、新しい流れを意識したラインナップも必要になってきますか。
中牟田 いろいろな選択肢が提示されるべきです。例えば、2Kだけどネットに俄然強いモデルがあってもいい。4K8Kによる高画質化はひとつの方向性ですが、その一方で「ネット動画ビューティPRO」の提案をすでに行っていますが、ネット動画の画質を最優先して徹底してこだわったモデルも“あり”だと思います。ゲーマー向けゲーミングテレビなどはわかりやすい例ですね。画面サイズでも、都市部での住環境にマッチした“大きすぎない大画面”として48V型の有機ELテレビを提案していますが、こちらも大変好評をいただいています。多様化する価値観やライフスタイルに合わせて求められる、いろいろなタイプのテレビの可能性をコロナ禍で気づくことができました。そうした深掘りにこそ、テレビの商品企画の醍醐味があると言えます。
―― 地デジ化後、テレビメーカー各社は台数から利益重視へ、ラインナップも絞り込んで付加価値型へ大きくシフトしましたが、それとはまた異なる方向へのチャレンジが求められているわけですね。
中牟田 武士は食わねど高楊枝、どんな格好いいことを言ったって食えなければ意味がありません。テレビへ関心を高める若い人へ向けた、よりプライベート仕様に訴えられる商品の企画にしても、ただ小さくて手頃で安いだけではもちろん話になりません。今、そこにどのように味つけができるのかです。付加価値をガンガンと載せていく路線ではありませんが、お客様にきちんと買っていただける価格にしてビジネスを成り立たせなくてはなりません。そうしたチャレンジができるのも、ハイセンスのコスト競争力や生産力があるからで、ハイセンスのチームの一員になれたことは、新しいチャレンジを仕掛けられる大きな要素になっています。
■究極の趣味嗜好品としてのテレビ像が復活
―― テレビ市場が勢いを取り戻す中、4K有機ELレグザ「X9400シリーズ」「X8400シリーズ」がVGP2020 SUMMERで総合金賞を受賞されました。おめでとうございます。テレビ需要を創造していく上からも、大きな期待が集まっています。
本村 レグザと言えば液晶のZシリーズが看板商品で、長い間、常に高いご評価をいただいて参りました。しかし、時代が液晶から有機ELへとシフトしていく中、改めて、有機EL市場においても、先行する他社と同じ土俵で戦えることを目指して取り組み強化を図り、2018年には十分に対抗できるフルラインナップを完成しました。そして今回、各社が有機ELのラインナップを強化する中で、4K有機ELレグザの存在感を訴え、高い評価をいただくことができたのが「クラウドAI高画質テクノロジー」です。コンテンツごとの画質特性をクラウドから取得し、視聴しているコンテンツに最適なパラメーターでAI高画質処理し、高精細でリアルな高画質を実現する画期的な技術となります。
高画質技術と一口に言っても、毎回毎回大きなトピックがあるわけでなく、本当に少しずつ改善を積み重ねていく地道な取り組みになります。そんな積み重ねにすら考えあぐねていたある時、技術陣と「こうなったらネットにでもつないで、さらに高画質とか風呂敷を広げてみようか(笑)」と冗談交じりに会話をしていたところ、「いいねそれ」とスイッチが入ってしまったというのがそもそものスタートラインになります。
そこから、レグザの画質チームとクラウドの開発チームが初めて会話を持ち、完成にまで至ることができました。妄想が広がり過ぎてしまったのか、今年中には手を付けられないアイデアがいっぱい出てきていますので、「どんどん進化させていこうよ」と意気込んでいるところです。
中牟田 「エンジン」と「半導体」と「クラウド」が一緒になるコンセプトが大変ユニークですよね。エンジンはもともと積んであるものなのに、それがクラウドの向こうで成長してしまう。“成長するテレビ”ですから、これは凄いの一語に尽きます。
“テレビ”という商品で、こうしていろいろ語れることが楽しい。かつてはそうでしたが、地デジバブルの頃から雲行きがだんだん怪しくなりました。本来、テレビを超えるエンターテインメント商品は存在せず、趣味嗜好品の究極がテレビでした。今、その姿を取り戻しつつある手応えを強く感じています。自分が楽しみたいコンテンツが満喫できるテレビを、かつてのように趣味嗜好品として品定めするお客様が増えてきています。本当にうれしいですね。
―― だからこそ、そこへ若い人も戻ってきているわけですね。巣ごもりで体調を崩したという話も聞かれますが、心を豊かにするオーディオやテレビの存在価値は見逃せませんね。
本村 大画面の感動、高画質の感動とは肉眼で見ているリアルな世界を意味します。それをテレビ空間につくるのが究極のAV(オーディオ・ビジュアル)です。本物を見ているのか、ディスプレイを見ているのかわからなくなるような感動体験が、旅行にも自由にいけないコロナ禍で、今、強く求められています。
中牟田 われわれエレクトロニクス・メーカーが単なるデバイス・メーカーとなり、そこで差別化などできないんだという風潮がここ十数年にわたってはびこっています。まるで、価値はネットの向こうにこそあると言わんがばかりの雰囲気です。現にスマホひとつでなんでも事足りてしまうかもしれません。しかし、実際にはそうではなく、「スマホひとつあればいい」と言っていた若者が、ネット動画をテレビの大画面で見て「やっぱり大画面が最高」と叫んでいます。
画の素晴らしさや音の良さに対し、今の若い子はそんなことは気にしないなどと言われてきましたがそうではないのです。すでに、オーディオではイヤホン、ヘッドホンの良さで音楽体験が劇的に変わることに気づいています。音や映像は本質的なものであるからこそ、絶対にわかってもらえる。ただし、その差分が今は難しくなっているから、伝えるには工夫が必要なんです。
■48V型有機ELで提案する“大きすぎない感動大画面”
―― フルラインナップが完成した4K有機ELレグザの中では、48V型というサイズが注目を集めています。せっかくなら有機ELテレビに買い替えたいけど55V型では大き過ぎるというお客様も少なくなかったと思います。
本村 テレビの大画面と高画質の感動は不変です。そこで、われわれメーカーはサイズアップの提案をずっと行ってきました。60V型、70V型、さらに80V型とサイズはますます大きくなるばかりです。しかし、48V型の有機ELテレビというデバイスに出会ったとき、「これは従来とは何か違う提案ができるぞ」とピンときました。そして、実験室で実機を見たとき、その想像をはるかに超え度肝を抜かれたことを憶えています。
液晶ではできません。近くで見ても、高精細でコントラストが高く粗が見えない有機ELだからこそできる。「そこまで大きなテレビは置きたくない」というお客様の気持ちをブレイクスルーするような新しいカテゴリーが提案できると確信しました。そこで、有機ELテレビの「X8400シリーズ」では、サイズを55V型と48V型にくくり、“大きすぎない感動大画面”を掲げて訴求しています。非常にリアクションもよく、有機ELテレビを選択していただけるお客様の層は確実に広がりつつあります。
中牟田 販売店にもそれぞれの商圏に特徴があります。例えば、都市部の高級マンションなどには48V型有機ELはうってつけで、有機ELの拡販に向け大歓迎いただきました。一方、地方の広い戸建てではより大きなサイズが求められるなど、お客様のライフスタイルに合わせた提案ができる選択肢を揃えることが大切です。これも市場が伸びているからこそできることです。
本村 どれくらい離れてテレビを見ているかが重要なポイントです。大きな家でリビングも広くて、ソファからテレビまで離れていれば、より大きな画面が必要になります。しかし、70平米、80平米のマンションなら、そもそもテレビまでの距離が近くなり、そんなに大きくしなくても自然と大画面で楽しめます。液晶と有機ELとではまた視聴距離の条件が異なりますから、そうしたところを改めて丁寧に提案していく必要があります。
中牟田 レグザのホームページに、見たい人と見たい場所にぴったりのテレビを診断してくれる「なるほど。テレビの選び方」というページを立ち上げました。例えば、テレビのサイズに応じた適切な視聴距離が、50代以上の人には当たり前の知識でも、若い人はそうしたこともご存じない。このページを一番見ていただいているのも20代・30代の若い方で、悩みを解決する手助けをすることができました。テレビの楽しみ方やエンターテインメントについて、これまではカタログを中心に展開していましたが、今後はホームページをもっと活用していく方針です。
■テレビの見方が劇的に変化している
―― レグザと言えばこれまで、重低音バズーカやタイムシフトマシンなど、数々のテレビ“初”にどん欲にチャレンジされてきました。テレビのあるライフスタイルをどう進化させていくのか。今後の意気込みをお聞かせください。
中牟田 商品企画ではこれまで、画期的な技術ができなければ新しい提案はできないと認識されてきましたが、決してそうではないことが随所で証明されてきました。有機ELではフルラインナップを構え、上から下まで勝負しましたが、売上最大化や利益最大化を目指すのであれば、そこまでラインナップを広げる必要はありません。ところが、お客様目線で見ればそれぞれのラインナップにきちんと意味があります。いろいろなお客様に愛してもらえるのは本当にうれしいことです。
本村 タイムシフトマシンもコロナ禍で改めて注目を集めています。ネット動画を当たり前にテレビで視聴するようになったことで、放送番組をタイムテーブルで見るフラストレーションに改めて気づかれたようです。「タイムシフトマシンって本当に便利ね」と多くの方に実感いただいています。
テレビの「高画質」「大画面」の感動は不変ですが、それ一辺倒ではありません。特にこのコロナ禍でテレビの見方が劇的に変化している印象を強く受けます。そうした変化、ニーズに応えた新たな提案ができるものづくりが不可欠になります。大画面・高画質の王道路線にこれまで通りしっかり磨きをかけていくと同時に、新しい提案も次々に仕掛けていく、それが今年、来年にかけてのわれわれの商品戦略になります。「馬鹿だね、東芝は。こんなことまでやって」という声が聞こえてきそうですが、それは圧倒的な誉め言葉だと思っています。皆さんからそう言っていただけるものづくりをとことんやり抜きます。
9月には“プライベートスマート”と命名した新シリーズを投入します。ここに来て若い人がテレビに目を向け始めた流れをしっかりと受け止め、「これまでになかった面白いテレビが提案できる」と大変気合が入った内容に仕上がっています。皆さんに「レグザはHDでこんなことをするのか」と驚いていただける商品になっていますので楽しみにしていてください。
年末に向け、テレビの伸びしろはかなり大きなものだと認識しています。「若者もテレビを見ないし、大丈夫なの?」などと言われてきましたが、新しいアイデアもいっぱい出てきましたし、市場を開拓するためのマインドも理解できました。ご販売店もその変化に気づいていらっしゃるはずで、一緒に盛り上げていきたいですね。
中牟田 テレビにはまだまだチャンスがあることがいろいろなところから見えてきました。液晶が有機ELにシフトしていくこと自体は僕らの力ではありません。商品企画としてそれをどう生かすことができるか。われわれメーカーのまさに醍醐味でもあるわけですから、商品企画はやはり楽しくなければいけません。いろいろな提案に手ぐすね引いています。レグザにどうぞご期待ください。
VGP2020 SUMMERで東芝4K有機ELレグザ「X9400シリーズ」「X8400シリーズ」が総合金賞を受賞した。クラウドと連携して番組レベルで画質を最適化する画期的な「クラウドAI高画質テクノロジー」はじめ、映像美の頂点に挑む画質とリアルな音場を実現。さらに、“大きすぎない感動大画面”を謳った48V型の提案では新規層を掘り起こし注目を集める。テレビ離れしていた若者がテレビの価値に気づき始めるなど、新しい市場の風を機敏に感じ取り市場創造へ腕を鳴らす東芝レグザ。中牟田寿嗣副社長、本村裕史ブランド統括マネージャーに話を聞く。
VGP2020 SUMMER受賞一覧はこちら
東芝映像ソリューション(株)
取締役副社長 マーケティング本部長 営業本部長
中牟田寿嗣氏
プロフィール/1962年6月7日生まれ。福岡県出身。1985年4月 ソニー株式会社入社。パソコン「VAIO」やパーソナルオーディオのマーケティング、大手流通担当の営業に携わる。2019年5月 東芝映像ソリューション株式会社入社。取締役副社長として、マーケティングや量販営業などを中心に東芝映像ソリューションの陣頭指揮を執る。趣味はバレーボール。
インタビュアー 竹内 純(ファイルウェブビジネス編集部)
■テレビ離れしていた若い世代が自分のテレビを買い始めた
―― コロナ禍で大きな打撃を受ける業界も少なくない中、テレビ市場は巣ごもり需要も追い風に堅調な動きを見せています。昨年来、大型化や4K化の流れも見受けられましたが、買い替えがようやく本格化してきたと言えるのでしょうか。
中牟田 テレビ市場ではここ数年にわたり、「今年は買い替えの年です」と言い続けてきたのですが、それがようやく現実のものとなりました。当初、「東京オリンピックの年にテレビを売らずしてどうする」と強気の数字を立てていましたが、新型コロナの影響で一転、世界の工場である中国で物が作れない、国内では緊急事態宣言で消費が落ち込むなど、一時は計画を見直し、目標数字を引き下げました。
ところが、4月、5月と需要が落ち込むどころか、対前年比で2割、3割と目を見張る伸びを見せ始めました。本来、レジャーや外出で使うはずだった資金がステイホームに回り、何に使うのか検討した答えのひとつが、エンターテイメントの雄・テレビでした。中でも面白いデータとして注目しているのは、20代のテレビ視聴時間が急激に伸びていることです。4K化や大画面化と並ぶテレビ需要増の追い風要因となっています。
―― 近年、テレビ離れが指摘されている世代ですね。
中牟田 20年、30年前には子供部屋にテレビがあるのは当たり前の光景でした。それが、スマホが台頭して「テレビなんて要らない」と姿を消してしまいました。ところが、コロナ禍で外出できずにずっと家にいなければならない。かつてない経験を強いられる中で、テレビが地デジの番組だけでなく、スマホで見慣れたネット動画も楽しめることにようやく気づいたのです。
ECが大変好調ですが、若い人たちがECで自分専用のテレビを購入して、「Amazonプライム・ビデオ」や「NETFLIX」「YouTube」など、ネット動画をテレビで楽しみ始めています。テレビ市場は今、ポジティブな方向に大きく流れが変わろうとしています。これを一過性のものにしないためにも、テレビという“新しい”発見をした若者に、その魅力をどう伝えていくかが次のステップとしてとても大事になります。
―― テレビの商品企画としては、新しい流れを意識したラインナップも必要になってきますか。
中牟田 いろいろな選択肢が提示されるべきです。例えば、2Kだけどネットに俄然強いモデルがあってもいい。4K8Kによる高画質化はひとつの方向性ですが、その一方で「ネット動画ビューティPRO」の提案をすでに行っていますが、ネット動画の画質を最優先して徹底してこだわったモデルも“あり”だと思います。ゲーマー向けゲーミングテレビなどはわかりやすい例ですね。画面サイズでも、都市部での住環境にマッチした“大きすぎない大画面”として48V型の有機ELテレビを提案していますが、こちらも大変好評をいただいています。多様化する価値観やライフスタイルに合わせて求められる、いろいろなタイプのテレビの可能性をコロナ禍で気づくことができました。そうした深掘りにこそ、テレビの商品企画の醍醐味があると言えます。
―― 地デジ化後、テレビメーカー各社は台数から利益重視へ、ラインナップも絞り込んで付加価値型へ大きくシフトしましたが、それとはまた異なる方向へのチャレンジが求められているわけですね。
中牟田 武士は食わねど高楊枝、どんな格好いいことを言ったって食えなければ意味がありません。テレビへ関心を高める若い人へ向けた、よりプライベート仕様に訴えられる商品の企画にしても、ただ小さくて手頃で安いだけではもちろん話になりません。今、そこにどのように味つけができるのかです。付加価値をガンガンと載せていく路線ではありませんが、お客様にきちんと買っていただける価格にしてビジネスを成り立たせなくてはなりません。そうしたチャレンジができるのも、ハイセンスのコスト競争力や生産力があるからで、ハイセンスのチームの一員になれたことは、新しいチャレンジを仕掛けられる大きな要素になっています。
■究極の趣味嗜好品としてのテレビ像が復活
―― テレビ市場が勢いを取り戻す中、4K有機ELレグザ「X9400シリーズ」「X8400シリーズ」がVGP2020 SUMMERで総合金賞を受賞されました。おめでとうございます。テレビ需要を創造していく上からも、大きな期待が集まっています。
本村 レグザと言えば液晶のZシリーズが看板商品で、長い間、常に高いご評価をいただいて参りました。しかし、時代が液晶から有機ELへとシフトしていく中、改めて、有機EL市場においても、先行する他社と同じ土俵で戦えることを目指して取り組み強化を図り、2018年には十分に対抗できるフルラインナップを完成しました。そして今回、各社が有機ELのラインナップを強化する中で、4K有機ELレグザの存在感を訴え、高い評価をいただくことができたのが「クラウドAI高画質テクノロジー」です。コンテンツごとの画質特性をクラウドから取得し、視聴しているコンテンツに最適なパラメーターでAI高画質処理し、高精細でリアルな高画質を実現する画期的な技術となります。
高画質技術と一口に言っても、毎回毎回大きなトピックがあるわけでなく、本当に少しずつ改善を積み重ねていく地道な取り組みになります。そんな積み重ねにすら考えあぐねていたある時、技術陣と「こうなったらネットにでもつないで、さらに高画質とか風呂敷を広げてみようか(笑)」と冗談交じりに会話をしていたところ、「いいねそれ」とスイッチが入ってしまったというのがそもそものスタートラインになります。
そこから、レグザの画質チームとクラウドの開発チームが初めて会話を持ち、完成にまで至ることができました。妄想が広がり過ぎてしまったのか、今年中には手を付けられないアイデアがいっぱい出てきていますので、「どんどん進化させていこうよ」と意気込んでいるところです。
中牟田 「エンジン」と「半導体」と「クラウド」が一緒になるコンセプトが大変ユニークですよね。エンジンはもともと積んであるものなのに、それがクラウドの向こうで成長してしまう。“成長するテレビ”ですから、これは凄いの一語に尽きます。
“テレビ”という商品で、こうしていろいろ語れることが楽しい。かつてはそうでしたが、地デジバブルの頃から雲行きがだんだん怪しくなりました。本来、テレビを超えるエンターテインメント商品は存在せず、趣味嗜好品の究極がテレビでした。今、その姿を取り戻しつつある手応えを強く感じています。自分が楽しみたいコンテンツが満喫できるテレビを、かつてのように趣味嗜好品として品定めするお客様が増えてきています。本当にうれしいですね。
―― だからこそ、そこへ若い人も戻ってきているわけですね。巣ごもりで体調を崩したという話も聞かれますが、心を豊かにするオーディオやテレビの存在価値は見逃せませんね。
本村 大画面の感動、高画質の感動とは肉眼で見ているリアルな世界を意味します。それをテレビ空間につくるのが究極のAV(オーディオ・ビジュアル)です。本物を見ているのか、ディスプレイを見ているのかわからなくなるような感動体験が、旅行にも自由にいけないコロナ禍で、今、強く求められています。
中牟田 われわれエレクトロニクス・メーカーが単なるデバイス・メーカーとなり、そこで差別化などできないんだという風潮がここ十数年にわたってはびこっています。まるで、価値はネットの向こうにこそあると言わんがばかりの雰囲気です。現にスマホひとつでなんでも事足りてしまうかもしれません。しかし、実際にはそうではなく、「スマホひとつあればいい」と言っていた若者が、ネット動画をテレビの大画面で見て「やっぱり大画面が最高」と叫んでいます。
画の素晴らしさや音の良さに対し、今の若い子はそんなことは気にしないなどと言われてきましたがそうではないのです。すでに、オーディオではイヤホン、ヘッドホンの良さで音楽体験が劇的に変わることに気づいています。音や映像は本質的なものであるからこそ、絶対にわかってもらえる。ただし、その差分が今は難しくなっているから、伝えるには工夫が必要なんです。
■48V型有機ELで提案する“大きすぎない感動大画面”
―― フルラインナップが完成した4K有機ELレグザの中では、48V型というサイズが注目を集めています。せっかくなら有機ELテレビに買い替えたいけど55V型では大き過ぎるというお客様も少なくなかったと思います。
本村 テレビの大画面と高画質の感動は不変です。そこで、われわれメーカーはサイズアップの提案をずっと行ってきました。60V型、70V型、さらに80V型とサイズはますます大きくなるばかりです。しかし、48V型の有機ELテレビというデバイスに出会ったとき、「これは従来とは何か違う提案ができるぞ」とピンときました。そして、実験室で実機を見たとき、その想像をはるかに超え度肝を抜かれたことを憶えています。
液晶ではできません。近くで見ても、高精細でコントラストが高く粗が見えない有機ELだからこそできる。「そこまで大きなテレビは置きたくない」というお客様の気持ちをブレイクスルーするような新しいカテゴリーが提案できると確信しました。そこで、有機ELテレビの「X8400シリーズ」では、サイズを55V型と48V型にくくり、“大きすぎない感動大画面”を掲げて訴求しています。非常にリアクションもよく、有機ELテレビを選択していただけるお客様の層は確実に広がりつつあります。
中牟田 販売店にもそれぞれの商圏に特徴があります。例えば、都市部の高級マンションなどには48V型有機ELはうってつけで、有機ELの拡販に向け大歓迎いただきました。一方、地方の広い戸建てではより大きなサイズが求められるなど、お客様のライフスタイルに合わせた提案ができる選択肢を揃えることが大切です。これも市場が伸びているからこそできることです。
本村 どれくらい離れてテレビを見ているかが重要なポイントです。大きな家でリビングも広くて、ソファからテレビまで離れていれば、より大きな画面が必要になります。しかし、70平米、80平米のマンションなら、そもそもテレビまでの距離が近くなり、そんなに大きくしなくても自然と大画面で楽しめます。液晶と有機ELとではまた視聴距離の条件が異なりますから、そうしたところを改めて丁寧に提案していく必要があります。
中牟田 レグザのホームページに、見たい人と見たい場所にぴったりのテレビを診断してくれる「なるほど。テレビの選び方」というページを立ち上げました。例えば、テレビのサイズに応じた適切な視聴距離が、50代以上の人には当たり前の知識でも、若い人はそうしたこともご存じない。このページを一番見ていただいているのも20代・30代の若い方で、悩みを解決する手助けをすることができました。テレビの楽しみ方やエンターテインメントについて、これまではカタログを中心に展開していましたが、今後はホームページをもっと活用していく方針です。
■テレビの見方が劇的に変化している
―― レグザと言えばこれまで、重低音バズーカやタイムシフトマシンなど、数々のテレビ“初”にどん欲にチャレンジされてきました。テレビのあるライフスタイルをどう進化させていくのか。今後の意気込みをお聞かせください。
中牟田 商品企画ではこれまで、画期的な技術ができなければ新しい提案はできないと認識されてきましたが、決してそうではないことが随所で証明されてきました。有機ELではフルラインナップを構え、上から下まで勝負しましたが、売上最大化や利益最大化を目指すのであれば、そこまでラインナップを広げる必要はありません。ところが、お客様目線で見ればそれぞれのラインナップにきちんと意味があります。いろいろなお客様に愛してもらえるのは本当にうれしいことです。
本村 タイムシフトマシンもコロナ禍で改めて注目を集めています。ネット動画を当たり前にテレビで視聴するようになったことで、放送番組をタイムテーブルで見るフラストレーションに改めて気づかれたようです。「タイムシフトマシンって本当に便利ね」と多くの方に実感いただいています。
テレビの「高画質」「大画面」の感動は不変ですが、それ一辺倒ではありません。特にこのコロナ禍でテレビの見方が劇的に変化している印象を強く受けます。そうした変化、ニーズに応えた新たな提案ができるものづくりが不可欠になります。大画面・高画質の王道路線にこれまで通りしっかり磨きをかけていくと同時に、新しい提案も次々に仕掛けていく、それが今年、来年にかけてのわれわれの商品戦略になります。「馬鹿だね、東芝は。こんなことまでやって」という声が聞こえてきそうですが、それは圧倒的な誉め言葉だと思っています。皆さんからそう言っていただけるものづくりをとことんやり抜きます。
9月には“プライベートスマート”と命名した新シリーズを投入します。ここに来て若い人がテレビに目を向け始めた流れをしっかりと受け止め、「これまでになかった面白いテレビが提案できる」と大変気合が入った内容に仕上がっています。皆さんに「レグザはHDでこんなことをするのか」と驚いていただける商品になっていますので楽しみにしていてください。
年末に向け、テレビの伸びしろはかなり大きなものだと認識しています。「若者もテレビを見ないし、大丈夫なの?」などと言われてきましたが、新しいアイデアもいっぱい出てきましたし、市場を開拓するためのマインドも理解できました。ご販売店もその変化に気づいていらっしゃるはずで、一緒に盛り上げていきたいですね。
中牟田 テレビにはまだまだチャンスがあることがいろいろなところから見えてきました。液晶が有機ELにシフトしていくこと自体は僕らの力ではありません。商品企画としてそれをどう生かすことができるか。われわれメーカーのまさに醍醐味でもあるわけですから、商品企画はやはり楽しくなければいけません。いろいろな提案に手ぐすね引いています。レグザにどうぞご期待ください。
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