公開日 2001/01/12 19:50
□□□□□井上千岳のラスベガス-西海岸・珍道中!(9)□□□□□
ところがその後サンフランシスコのリカーショップでも同じようにパスポートの提示を求められた。さらにその翌日、今度は独りでまた同じ店に行ったところ、またしてもパスポートと言われたのだそうで、昨日も来たじゃないかと答えたらさすがにこのときばかりはそのままで済んだらしい。そして今日、ロサンゼルスはユニバーサル・シティのレストランでビールを頼んだら、またもパスポート。本人も呆れたのか諦めたのか、なんとも言えない面もちであった。因みに彼は現在30歳である。
昨日は折りからの暴風雨に巻き込まれて往生したが、今日はドルビー研究所のダグラス・グリーンフィールド氏の案内でスタジオを見て回った。このホテルはユニバーサル・スタジオのすぐそばにあるが、そこには行かず、向かったのはサンタモニカにある20世紀フォックスのスタジオ。ダビング・ステージの音がどんなものか、それを知りたいと思ったのである。
これは非常に大事なことで、我々がスピーカーなりアンプなりを聴くときにどういう音を基準にすればいいか、その一番の根本は製作者が聴いている音なのである。これを知らないことには話が前に進まない。映画スタジオの音を聴いてみたいと前々から思っていたのは、そういうわけだからである。
スタジオの音といってもさまざまな段階がある。まずは効果音や音楽などを別々に膨大な数のトラックに収録してそれを一応ミックスしたもの(フリーミキシングというのだそうだ)。これを5.1のチャンネルに振り分け、さらにバランスを整えて最終的なサウンドトラックができあがる。我々が訪ねたときはたまたま『羊たちの沈黙』の続編をミキシング中であった。それもかなりショッキングなシーンで、いいときに来合わせたものだ。
ここで聴く音はさすがにセパレーションがいい。それにいうまでもなくダイナミックだ。音量が通常の部屋とは段違いだから迫力があるのは当然としても、セリフ、効果音、音楽のそれぞれが全く混然とすることなくくっきりと分かれて聴こえている。その点では普段聴いている音が決して方向の違うものではないらしいということがわかった。
ここにはいくつものスタジオがあるが、最終的なミキシングに使う大きなスタジオ(ミニシアター的な規模)では専らJBLの4375というスピーカーが使われている。またもっと小規模な普通の部屋サイズのスタジオでは、日本でもおなじみのM&Kがほとんどであった。
案内してくれたグリーンフィールド氏(本人は緑原と名乗った)は映画の音としてセリフ、音楽、効果音と3つに分けていたが、効果音のことをフォリー(folley)という。このフォリーを専門に録るスタジオがあって、ここには筆者がよく生活音と呼ぶ靴の音や街頭の音を録るためのさまざまな小道具が積み重なっている。車のドアから自転車、男女さまざまな靴その他で、面白いのは色々な足音を録るために床がいくつもの区画に仕切られていることだ。歩くと響く木の板から鉄板、砂利などで、木の葉に混じって裸の音楽テープがばらまかれている。これが木の葉を踏む音によく似ているのだ。昔ながらの擬音の一種である。
<写真>撮影禁止箇所ばかりで本文に対応した画像がありません…。これは20世紀FOXスタジオのマップ