公開日 2010/12/24 18:32
ティートックレコーズ“究極のアナログBOX”への思いを金野貴明氏に聞いた
「アナログレコードの頂点を突き詰めてみたかった」
ティートックレコーズが史上最高スペックといえるアナログレコードBOXを誕生させた(販売ページはこちら)。
デジタル録音世代であるティートックレコーズの代表・金野貴明氏が、35年ものキャリアを積むジャズオルガニストKANKAWA氏を唸らせ、全面的な信頼関係を築き作り出されたバラード集で、アナログメディアのあり方をも問うている。
このたびオーディオライターの鈴木 裕氏が、ティートックレコーズの金野氏にその思いを聞いた。
■最新の192kHz/24bitデジタル録音をダイレクトカッティングしてアナログに
21世紀の今、発売されるアナログレコードのソフトにもいろいろある。ティートックレコーズから発売されたKANKAWA(以下、カンカワ)の『ORGANIST』。このアルバムのBOXセットが大変な内容になっている。
まず、収録されている音楽はカンカワのハモンドB-3オルガンを中心とした、ディープなジャズだ。録音したのはティートックレコーズのプレジデントであり、レコーディングエンジニア、ミュージシャンでもある金野貴明。この二人による、ある意味、共同作業で作り上げたソフトだ。
これが3つの形でリリースされた。まずは通常盤CD(とは言えHQCD)。そして金野自身が、一枚ずつ手作業で焼いていくCD-R(MASTER CD-RUα)。それに加えて192kHz/24bitのデータDVD-Rも来春に向けて発売が予定されている。
そしてこのうちのCD-Rが入り、アナログ4枚の、合計5枚組のアルティメット・マスター・ヴァイナル”が本アナログBOXだ。
60分あまりのアルバムなのにアナログ4枚組の構成になったのは、ひとえに音質のためだ。
200g仕様の盤の片面に1曲ずつしか収録しない、45回転12インチのレコード。だから8曲で4枚構成。しかもカッティングは192kHz/24bitのデジタルマスターからのダイレクトカッティングを採用している。
それだけでも希有な存在だが、しかしそれは語弊を恐れず言えば、音楽の到達した深さ、壮絶なレコーディングに比べれば瑣末なことに過ぎない。
■あまりに克明に録るため演奏家にとって勝負の収録
そもそもは金野の録音した作品、ピアニスト北島直樹のアルバムの音がスタートだった。
ある日それを聴いたカンカワは今まで聴いたことがないようなハイクオリティな録音に驚き、ティートックレコーズへその録音をした男に会いに行った。そういう出会いだった。そして、アルバムを作ることになり、正式なレコーディングの前にハモンドB-3をスタジオに持ち込んでのテスト・セッションを敢行。その後に本番のレコーディングという段階を踏んでいる。
「最初は怖くて弾けなかったよ。あまりにもクリア過ぎて、グルーヴが見えなくなったりして、ティートックのスタジオは難しいと思った。今回は僕のセオリーとかキャリアは通用せんかった。こんなに弾くにくくて困った録音はなかったね。1ミリの指の動きがそのまま収録音に出るんだから、ものすごく練習したよ」とカンカワ。
それに対して金野も「今回はオルガンの起動音とか、レスリーのゴーッていう回転音とか明確に入れるようにしているんですが、一般的な録音であれば避けるポイントにマイクをセッティングしました。カンカワさんが苦労していたのはわかっていたんですが、自分も苦労していました」。
切磋琢磨という言葉があるが、自分たちの身を切り刻むようにしながら、深い迷宮へと降り立ったような音楽であり、録音なのだ。
■デジタル録音とアナログLPの良い部分を融合させたかった
そうやって完成したCD用の音源を元に、さらにとんでもない労力を費やして制作されたのがアナログレコードだ。同ブランド第一弾のアナログということもあって構想4年を費やして準備してきたが、実際に東洋化成のカッティングルームに行ってからも試行錯誤は続いた。結局ミックスダウンのテイクはCD用、アナログ用合わせて200を越えている。あり得ない数字だ。さらにカッティングも、最初のラッカー盤を切る工程は何度となく繰り返され、スタンバー盤まで作っておいて(もちろん4枚分の!)、没にしている。いい意味で、異常である。
どんなアナログ盤を作りたかったのか、金野はこう語る。
「デジタル録音のいいところと、アナログメディアのいいところのハイブリッドをやりたかったんです。次世代のアナログレコードですね。アナログの良さというのは、楽器の彫り、各楽器の立体感、凹凸が出やすいことです。平坦になりづらく、音楽のぐっと来るポイント、中高域がよく聴こえるんです。演奏家の聴きたいポイントなのでミュージシャンの評価がアナログは高いです」。
「一般の人もぱっと聴くとアナログの方がいいと思うはずです。デジタルは、特に自分の作っている録音では、空気感がよく出るし、追い込んでいけばフラットにはなります。自然な感じがデジタルの方が出る可能性が高い」。
取材の段階では10回以上聴いてしまったラッカー盤(すぐに磨耗するので5回程度しかいい音がしない)しか試聴できなかったが、それでも贅を尽くしたアナログ盤ならではの深い音の片鱗があった。筆者の個人的な意見だが、CDよりもアナログ盤の方が、192kHz/24bitで収録されたマスターの音に近い。その良さがきわめて高いレベルで達成されているアナログレコードだ。
デジタル録音世代であるティートックレコーズの代表・金野貴明氏が、35年ものキャリアを積むジャズオルガニストKANKAWA氏を唸らせ、全面的な信頼関係を築き作り出されたバラード集で、アナログメディアのあり方をも問うている。
このたびオーディオライターの鈴木 裕氏が、ティートックレコーズの金野氏にその思いを聞いた。
■最新の192kHz/24bitデジタル録音をダイレクトカッティングしてアナログに
21世紀の今、発売されるアナログレコードのソフトにもいろいろある。ティートックレコーズから発売されたKANKAWA(以下、カンカワ)の『ORGANIST』。このアルバムのBOXセットが大変な内容になっている。
まず、収録されている音楽はカンカワのハモンドB-3オルガンを中心とした、ディープなジャズだ。録音したのはティートックレコーズのプレジデントであり、レコーディングエンジニア、ミュージシャンでもある金野貴明。この二人による、ある意味、共同作業で作り上げたソフトだ。
これが3つの形でリリースされた。まずは通常盤CD(とは言えHQCD)。そして金野自身が、一枚ずつ手作業で焼いていくCD-R(MASTER CD-RUα)。それに加えて192kHz/24bitのデータDVD-Rも来春に向けて発売が予定されている。
そしてこのうちのCD-Rが入り、アナログ4枚の、合計5枚組のアルティメット・マスター・ヴァイナル”が本アナログBOXだ。
60分あまりのアルバムなのにアナログ4枚組の構成になったのは、ひとえに音質のためだ。
200g仕様の盤の片面に1曲ずつしか収録しない、45回転12インチのレコード。だから8曲で4枚構成。しかもカッティングは192kHz/24bitのデジタルマスターからのダイレクトカッティングを採用している。
それだけでも希有な存在だが、しかしそれは語弊を恐れず言えば、音楽の到達した深さ、壮絶なレコーディングに比べれば瑣末なことに過ぎない。
■あまりに克明に録るため演奏家にとって勝負の収録
そもそもは金野の録音した作品、ピアニスト北島直樹のアルバムの音がスタートだった。
ある日それを聴いたカンカワは今まで聴いたことがないようなハイクオリティな録音に驚き、ティートックレコーズへその録音をした男に会いに行った。そういう出会いだった。そして、アルバムを作ることになり、正式なレコーディングの前にハモンドB-3をスタジオに持ち込んでのテスト・セッションを敢行。その後に本番のレコーディングという段階を踏んでいる。
「最初は怖くて弾けなかったよ。あまりにもクリア過ぎて、グルーヴが見えなくなったりして、ティートックのスタジオは難しいと思った。今回は僕のセオリーとかキャリアは通用せんかった。こんなに弾くにくくて困った録音はなかったね。1ミリの指の動きがそのまま収録音に出るんだから、ものすごく練習したよ」とカンカワ。
それに対して金野も「今回はオルガンの起動音とか、レスリーのゴーッていう回転音とか明確に入れるようにしているんですが、一般的な録音であれば避けるポイントにマイクをセッティングしました。カンカワさんが苦労していたのはわかっていたんですが、自分も苦労していました」。
切磋琢磨という言葉があるが、自分たちの身を切り刻むようにしながら、深い迷宮へと降り立ったような音楽であり、録音なのだ。
■デジタル録音とアナログLPの良い部分を融合させたかった
そうやって完成したCD用の音源を元に、さらにとんでもない労力を費やして制作されたのがアナログレコードだ。同ブランド第一弾のアナログということもあって構想4年を費やして準備してきたが、実際に東洋化成のカッティングルームに行ってからも試行錯誤は続いた。結局ミックスダウンのテイクはCD用、アナログ用合わせて200を越えている。あり得ない数字だ。さらにカッティングも、最初のラッカー盤を切る工程は何度となく繰り返され、スタンバー盤まで作っておいて(もちろん4枚分の!)、没にしている。いい意味で、異常である。
どんなアナログ盤を作りたかったのか、金野はこう語る。
「デジタル録音のいいところと、アナログメディアのいいところのハイブリッドをやりたかったんです。次世代のアナログレコードですね。アナログの良さというのは、楽器の彫り、各楽器の立体感、凹凸が出やすいことです。平坦になりづらく、音楽のぐっと来るポイント、中高域がよく聴こえるんです。演奏家の聴きたいポイントなのでミュージシャンの評価がアナログは高いです」。
「一般の人もぱっと聴くとアナログの方がいいと思うはずです。デジタルは、特に自分の作っている録音では、空気感がよく出るし、追い込んでいけばフラットにはなります。自然な感じがデジタルの方が出る可能性が高い」。
取材の段階では10回以上聴いてしまったラッカー盤(すぐに磨耗するので5回程度しかいい音がしない)しか試聴できなかったが、それでも贅を尽くしたアナログ盤ならではの深い音の片鱗があった。筆者の個人的な意見だが、CDよりもアナログ盤の方が、192kHz/24bitで収録されたマスターの音に近い。その良さがきわめて高いレベルで達成されているアナログレコードだ。