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公開日 2015/05/21 15:26

【独HIGH END】Playback Designs「IPS-3」を3台使ったDSDマルチch再生に注目

今回のイベント屈指の音の良さと話題に
山之内 正
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欧州でもハイレゾオーディオへの関心は確実に高まっている。ネットワークプレーヤーなどハードウェアの浸透に加え、音源を入手する環境も整ってきたためだ。Linn RecordsやChandosなど、レーベルが運営するハイレゾ配信の利用者が増えるとともに、昨年HD Tracksが欧州に本格参入するなど、ダウンロードポータルの充実も著しい。

DSDマルチチャンネル再生に使われた再生システム

HIGH ENDの会場には、DSDをテーマに掲げた特設リスニングルームが新たに出現した。そのブースを共同主催していた企業の一つが、オランダの新しいポータルサイト「Primephonic(http://www.primephonic.com)」である。クラシックの主要レーベルをカバーし、一部のレーベルについてはWAV、FLAC以外にDSDのステレオ音源、マルチチャンネル音源を揃えるなど、クオリティ志向が強いことが特徴だ。

PrimephonicとともにDSDのリスニングルームを主催していたのが、おなじみのPlayback Designsと、Musikelectronic Geithain(ムジークエレクトロニク・ガイザイン)。後者はドイツのスピーカー専業メーカーで、同軸ユニットを積むモニタースピーカーがプロフェッショナルの間で高く評価されている。


Channel ClassicsのJared Sacks氏
そして、DSD音源の音の良さを紹介するゲストとして、Channel ClassicsのJared Sacks、PolyhamniaのErdo Grootらが登場した。いずれもマルチチャンネル録音に力を入れているレーベルのプロデューサー&エンジニアとして著名な人物である。

これまでもHIGH ENDではEMMラボやリンデマンのブースを利用し、DSDの小規模なデモンストレーションが継続的に行われてきた。しかし従来は基本的にステレオ再生だけで、スペースも時間も限られていた。今回は専用室を確保し、本格的なマルチチャンネルの再生環境を構築、4日間フルタイムでデモンストレーションを行ったことが画期的だ。ハードウェアメーカーとレーベルがタッグを組んだことにも意味がある。

メインの展示スペースからわずかに離れた部屋だったこともあり、S/Nは非常に良い。そして、再生システムの選択も適切だ。Playback designsのDAC内蔵プリメインアンプ「IPS-3」を3台、そしてMusikelectronic Geithainのスピーカーシステム「ME-180」を5本組み合わせたシステムは、シンプルだが贅沢なもの。録音現場やスタジオにかなり近い音が出ていたと思う。他のブースに比べて来場者の滞在時間が長く、朝から4時間通して聴いているという熱心なファンにも出会った。

写真中段がPlayback Designs「IPS-3」。センター、およびサラウンド用にもう2台のIPS-3が用意された

なお、DSDマルチチャンネル音源の再生方法だが、DSDマルチチャンネル信号のUSB出力に対応したariaのNAS(関連ニュース)からダイレクトに1台のIPS-3へとUSB出力。そこからもうPlayback Designsの独自リンクを使って数珠つなぎで接続されたもう2台のIPS-3へ各チャンネルの信号を送るというかたちをとっている。

サラウンド側のシステムの模様

DSDマルチチャンネル音源のUSB出力に対応したariaのNAS「aria mini」

Channel Classicsのマルチチャンネル音源は、Jared Sacksがこのイベントのために厳選した録音だけあって、音の純度の高さと自然な空間描写が素晴らしかった。ポッジャーのヴィヴァルディ「ラ・ストラヴァガンツァ」やThe GENTSのコーラスなど、おなじみの音源を再生したのだが、その音はこれまで聴いたなかでも別格の柔らかさで、スピーカーの存在も意識させないほど、連続的な音場が空間を満たした。音に包まれることよりも、再生装置が介在しないかのようなリアルな響きに息を呑む。

Jared Sacksの話では、マルチチャンネルの録音手法は15年前とほぼ変わっていないという。リアのレベルはオフにするとはじめてその存在に気付くほどが理想で、現実にはフロントに比べて4dBほど抑える例が多いという。また、この試聴会で再生した音源の多くはほとんど編集による加工がないということで、それも鮮度の高さに貢献していたのだろう。

Polyhamniaのデモンストレーションでは、1970年代に録音された4チャンネル音源もいくつか紹介された。同レーベルがSACDをリリースし始めた頃にフィリップスの4チャンネル音源は相当数がSACDで発売されたが、今回はドイツ・グラモフォンの音源がリマスタード・クラシック・シリーズとして、マルチチャンネルを含むハイブリッドSACDで登場。会場では小澤征爾指揮ボストン響のラヴェルなどをマルチチャンネルで再生したが、40年以上の時間を経ていることが信じられないほど音の鮮度が高く、当時の収録技術の高さを思い知らされた。

Playback DesignsのAndreas Koch氏も登場。システムの解説などを行った

音の生々しさに加えて、リアチャンネルを積極的に生かした立体音場の作り方にも感心させられる。いまの時点から見ても斬新かつ創造的で、刺激に満ちているのだ。オリジナルテープを余分なプロセスを経ずにDSD変換したという説明があったが、たしかにそこで鳴っていたのはマスターの音そのものといってよい。再生装置の進化を考えれば、当時のエンジニアやプロデューサーが聴いていた音以上に純度が高い音を聴いているはずで、作り手の意図が初めて正確に伝わるようになった意味は深い。なお、リマスタード・クラシック・シリーズはすでに9タイトル発売されており、日本でもSACDで入手できる。

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