公開日 2019/06/29 06:30
「富士フイルムのスピーカー」、問われる “2年目” の真価。最新版はどう進化した?
今日から開催「OTOTEN」で試聴可能
昨年デビューして話題となった、富士フイルムの画期的スピーカー技術「Φ(ファイ)」。今年も「OTOTEN 2019」(事前登録はこちら)の同社ブースで最新バージョンを聴くことができる(ガラス棟5F G501)。
富士フイルムが独自開発した「Φ(ファイ)」は、電気音響変換フィルム「B.E.A.T.」をピュアオーディオ用に活用した技術。今年のOTOTENでは、昨年からさらに進化させた「Φ(ファイ)」のデモンストレーションを行っている。
■意外とオーディオビジュアルに近いメーカー
富士フイルムといえば、かつての写真フィルム最大手であり、現在も「FUJIFILM Xシリーズ」や「チェキ」で世界を席巻している。 レンズメーカーとしての一面もあり、テレビ放送用カメラや映画用シネレンズを作っていたり、独自性の高いプロジェクター用のレンズも作っている。
古くからのオーディオビジュアルファンにとっては、コンパクトカセットオーディオの「AXIA」やビデオテープの「きれい撮り」や「重ね撮り」などを思い出す方もいるかもしれない。そんな富士フイルムが、本業である化学メーカーとして、写真フィルムなどによって培われた技術で開発したのが、電気音響変換フィルム「B.E.A.T.」(ビート)である。
「B.E.A.T.」は、磁石やコイルなしで電気信号で直接振動する電気音響変換フィルム。圧電セラミックスの微粒子と粘弾性ポリマーを複合化したフィルム状の振動板で、圧電セラミックスの特性を活かし、電気を流すだけで振動させ、発音させることができる。
圧電セラミックスを使ったスピーカーやイヤホンといえば、ハイファイ用には不向きというイメージを持たれるかもしれないが、Φ(ファイ)はまったく別格である。一聴すれば分かることだが、その圧倒的な超高速応答性がもたらすクリアな音質と、高い空間再現能力が魅力である。
■ひと足先に試聴。中高域と低域の繋がりが改善した
早速、今年の最新バージョンを取材するべく、OTOTEN準備中のブースでひと足先に試聴する機会を得た。
試聴デモでは昨年同様、クラシック、ジャズ、ロックなどの各ジャンルの音源が聴けた。無指向性ユニット構成の持つ理想的な点音源からの音場の広がりや、中高域のスピード感、透明感はそのままに、低音域を受け持つウーファーユニットとの繋がりが自然だ。ピアノやシンバル、女性ボーカルなどの音色はとてもリアルで感動的なのは、「B.E.A.T.」の超高速応答の特徴だ。それに低域ユニットとの相性が寄り添うようになった。
■中高域ユニット部と専用ウーファーの採用の2つで、「Φ」は進化した
富士フイルムで「B.E.A.T.」ならびに「Φ」の開発を担当する、R&D統括本部 先端コア技術研究所 工学博士の三好 哲氏にお話しを伺うことができた。
−− パッと聴いて、(昨年より)変わった!という印象です。中高音と低音の繋がりが良くなりました。なによりも定位がしっかりしている。何を変えたのでしょうか。
三好:昨年のOTOTENで約500名のアンケートをいただきました。それを1枚1枚、スタッフ全員で目を通して、励ましの言葉や、叱咤激励など様々なご意見がありました。
特に「音」に関しての意見は、いま言われた中高域と低音の繋がりの悪さを指摘する声を多くいただきました。それに対して2つの対策を行いました。ひとつが「B.E.A.T.」を使った中高域ユニットの改善、もうひとつが専用ウーファーの採用です。
昨年は、カットオフ周波数150Hzのアクティブサブウーファー(ECLIPSEのTD725SWMK2)と200Hzで繋いでいたために、クロスオーバー周波数前後で落ち込みがありました。まずひとつめの改善点として「B.E.A.T.」ユニットは、昨年の80cmの長さから100pにすることによって、中域の音圧レベルが上がっています。
さらにふたつめの改善点として、中高域と繋がりの良い専用ウーファーを用意しました。カットオフ周波数を290Hzにすることで、スムーズに「B.E.A.T.」ユニットと繋ぐことができています。ウーファーには、超高速レスポンスを特徴とする「B.E.A.T.」ユニットと相性の良いスピード感のあるフォステックスのウーファーユニットを採用しました。同ユニットは本来、普通に数kHzまで鳴るのですが、我々は敢えて290Hzでカットオフしているので、ある意味ですごく贅沢な使い方ですね。
−− 今回はフロントバスレフで、裏に回るとツインユニットになっていますが、なにか工夫があるのでしょうか。
三好:前後にユニットがある対向型ツインユニットになっていますが、実際は今回のOTOTENデモでは、後ろのユニットはショートさせて使用していません。
−− 先ほどの話ですと、「B.E.A.T.」はユニットを長くすると再生周波数帯域は広がるのですか?
三好:「B.E.A.T.」ユニットは長くすることで、フィルム自身の曲率半径が大きくなり、それによって低域側の帯域(中音域)が広がります。
−− そうなるとウーファーユニットを使わない「オールB.E.A.T.」も可能なのでしょうか。
三好:可能性はあると思います。ただし低音を鳴らすには、それ以外にもアプローチがあると考えています。
−− オーディオファンは「オールB.E.A.T.」を望んでいると思いますよ(笑)。ところで、昨年と大きく変わったところとして、昨年はいい意味で「無指向性スピーカー」だったと思うのですが、今年は定位感がしっかりとあるように感じましたし、昨年に比べてボーカルはちゃんと前に出てきています。
三好:それに関しては、音楽評論家の先生方のご指導のもと、無指向性スピーカーに適したルームチューニングの方法が分かってきたことが大きいと思います。
またウーファーに入る信号と、「B.E.A.T.」ユニットに入る信号の、タイムアライメント調整することで時間的な繋がりも改善されました。ただし、「B.E.A.T.」ユニットは超高速レスポンスを売りにしているので、どんなに応答性に優れるウーファーユニットを使っても限界があります。
−− やはり「オールB.E.A.T.」ですね(笑)。オーディオファンは、いつ商品化されるのかが気になるところです。
三好:現時点では未定です。社内で検討中です。アンケート用紙に込められた皆様の熱い思いに応えるべく頑張っている段階です。オーディオファンの皆様やオーディオ業界の方々と、「Φ」という技術的挑戦を一緒になって育てていきたいと考えています。
富士フイルムが独自開発した「Φ(ファイ)」は、電気音響変換フィルム「B.E.A.T.」をピュアオーディオ用に活用した技術。今年のOTOTENでは、昨年からさらに進化させた「Φ(ファイ)」のデモンストレーションを行っている。
■意外とオーディオビジュアルに近いメーカー
富士フイルムといえば、かつての写真フィルム最大手であり、現在も「FUJIFILM Xシリーズ」や「チェキ」で世界を席巻している。 レンズメーカーとしての一面もあり、テレビ放送用カメラや映画用シネレンズを作っていたり、独自性の高いプロジェクター用のレンズも作っている。
古くからのオーディオビジュアルファンにとっては、コンパクトカセットオーディオの「AXIA」やビデオテープの「きれい撮り」や「重ね撮り」などを思い出す方もいるかもしれない。そんな富士フイルムが、本業である化学メーカーとして、写真フィルムなどによって培われた技術で開発したのが、電気音響変換フィルム「B.E.A.T.」(ビート)である。
「B.E.A.T.」は、磁石やコイルなしで電気信号で直接振動する電気音響変換フィルム。圧電セラミックスの微粒子と粘弾性ポリマーを複合化したフィルム状の振動板で、圧電セラミックスの特性を活かし、電気を流すだけで振動させ、発音させることができる。
圧電セラミックスを使ったスピーカーやイヤホンといえば、ハイファイ用には不向きというイメージを持たれるかもしれないが、Φ(ファイ)はまったく別格である。一聴すれば分かることだが、その圧倒的な超高速応答性がもたらすクリアな音質と、高い空間再現能力が魅力である。
■ひと足先に試聴。中高域と低域の繋がりが改善した
早速、今年の最新バージョンを取材するべく、OTOTEN準備中のブースでひと足先に試聴する機会を得た。
試聴デモでは昨年同様、クラシック、ジャズ、ロックなどの各ジャンルの音源が聴けた。無指向性ユニット構成の持つ理想的な点音源からの音場の広がりや、中高域のスピード感、透明感はそのままに、低音域を受け持つウーファーユニットとの繋がりが自然だ。ピアノやシンバル、女性ボーカルなどの音色はとてもリアルで感動的なのは、「B.E.A.T.」の超高速応答の特徴だ。それに低域ユニットとの相性が寄り添うようになった。
■中高域ユニット部と専用ウーファーの採用の2つで、「Φ」は進化した
富士フイルムで「B.E.A.T.」ならびに「Φ」の開発を担当する、R&D統括本部 先端コア技術研究所 工学博士の三好 哲氏にお話しを伺うことができた。
−− パッと聴いて、(昨年より)変わった!という印象です。中高音と低音の繋がりが良くなりました。なによりも定位がしっかりしている。何を変えたのでしょうか。
三好:昨年のOTOTENで約500名のアンケートをいただきました。それを1枚1枚、スタッフ全員で目を通して、励ましの言葉や、叱咤激励など様々なご意見がありました。
特に「音」に関しての意見は、いま言われた中高域と低音の繋がりの悪さを指摘する声を多くいただきました。それに対して2つの対策を行いました。ひとつが「B.E.A.T.」を使った中高域ユニットの改善、もうひとつが専用ウーファーの採用です。
昨年は、カットオフ周波数150Hzのアクティブサブウーファー(ECLIPSEのTD725SWMK2)と200Hzで繋いでいたために、クロスオーバー周波数前後で落ち込みがありました。まずひとつめの改善点として「B.E.A.T.」ユニットは、昨年の80cmの長さから100pにすることによって、中域の音圧レベルが上がっています。
さらにふたつめの改善点として、中高域と繋がりの良い専用ウーファーを用意しました。カットオフ周波数を290Hzにすることで、スムーズに「B.E.A.T.」ユニットと繋ぐことができています。ウーファーには、超高速レスポンスを特徴とする「B.E.A.T.」ユニットと相性の良いスピード感のあるフォステックスのウーファーユニットを採用しました。同ユニットは本来、普通に数kHzまで鳴るのですが、我々は敢えて290Hzでカットオフしているので、ある意味ですごく贅沢な使い方ですね。
−− 今回はフロントバスレフで、裏に回るとツインユニットになっていますが、なにか工夫があるのでしょうか。
三好:前後にユニットがある対向型ツインユニットになっていますが、実際は今回のOTOTENデモでは、後ろのユニットはショートさせて使用していません。
−− 先ほどの話ですと、「B.E.A.T.」はユニットを長くすると再生周波数帯域は広がるのですか?
三好:「B.E.A.T.」ユニットは長くすることで、フィルム自身の曲率半径が大きくなり、それによって低域側の帯域(中音域)が広がります。
−− そうなるとウーファーユニットを使わない「オールB.E.A.T.」も可能なのでしょうか。
三好:可能性はあると思います。ただし低音を鳴らすには、それ以外にもアプローチがあると考えています。
−− オーディオファンは「オールB.E.A.T.」を望んでいると思いますよ(笑)。ところで、昨年と大きく変わったところとして、昨年はいい意味で「無指向性スピーカー」だったと思うのですが、今年は定位感がしっかりとあるように感じましたし、昨年に比べてボーカルはちゃんと前に出てきています。
三好:それに関しては、音楽評論家の先生方のご指導のもと、無指向性スピーカーに適したルームチューニングの方法が分かってきたことが大きいと思います。
またウーファーに入る信号と、「B.E.A.T.」ユニットに入る信号の、タイムアライメント調整することで時間的な繋がりも改善されました。ただし、「B.E.A.T.」ユニットは超高速レスポンスを売りにしているので、どんなに応答性に優れるウーファーユニットを使っても限界があります。
−− やはり「オールB.E.A.T.」ですね(笑)。オーディオファンは、いつ商品化されるのかが気になるところです。
三好:現時点では未定です。社内で検討中です。アンケート用紙に込められた皆様の熱い思いに応えるべく頑張っている段階です。オーディオファンの皆様やオーディオ業界の方々と、「Φ」という技術的挑戦を一緒になって育てていきたいと考えています。