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公開日 2023/04/05 15:40

100周年を迎えたサントリーのウイスキーづくり。発祥の地「山崎蒸溜所」見学会をレポート

さらなるウイスキー文化の発展と品質向上に取り組む
季刊・アナログ編集部
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サントリー創業者の鳥井信治郎が、山崎の地でモルトウイスキーの蒸溜所の建設に着手して今年で100周年。サントリーは絶えず「ウイスキー文化の創造・発展」「美味品質」に取り組み、ウイスキーの魅力を伝えると共に品質向上へ研鑽を続けてきた。

山崎蒸溜所建設に着手したのは1923年、翌年より蒸溜が開始

創業当時の山崎蒸溜所。サントリー(蒸溜所創業当時は壽屋)創業者、鳥井信治郎が、環境に恵まれた山崎の地を選定

1923年にウイスキー作りを始めて100周年を迎える今年、企業理念である「人と自然と響き合い、豊かな生活文化を創造し、“人間の生命(いのち)の輝き”をめざす」ことを体現する事業として、さらなるウイスキー文化の発展と品質向上に取り組むことを発表。これからの100年に向けて、常に革新を続け、世界中の人々と自然と共生していくことで、「世界中から愛されるサントリーウイスキー」を目指していく。

ここは大阪府で唯一「名水100選」に選定された「離宮の水」として知られる名水の地であり、原料として加える水としてはうってつけ

桂川、宇治川、木津川という3本の河川が交わり淀川となる場所の近くで、ウイスキーの熟成に適した湿度の高い土地でもあるのだという

サントリーウイスキー100周年へ向けた具体的な取り組みとしては、以下のものがある。
(1)新たな設備投資
山崎蒸溜所・白州蒸溜所において、さらなる品質向上や蒸溜所魅力訴求の強化を主な目的として、2024年にかけて100億円規模の設備投資を実施。
(2)品質向上に向けた取り組み
さらなる品質向上に向けた取り組みの一環として、仕込や蒸溜工程だけでなく、原料にまで徹底的にこだわる“原酒のつくり込み”に挑戦。
山崎蒸溜所・白州蒸溜所にて「フロアモルティング」を導入し、さらなる「美味品質」を目指す。

山崎蒸溜所では、「パイロットディスティラリー」という小規模蒸溜施設で、品質向上に向けた新たな技術開発・原酒のつくり分けに挑戦してきたが、今回、直火加熱に加えて電気式加熱も可能な蒸溜釜を導入し、品質向上等の研究を始めるとともに、チャレンジの象徴として活動していく。さらに、白州蒸溜所では、原料の一つである「酵母培養プロセス」を導入するなど、さらなる「美味品質」の向上を実現させる。

以上のような新しい取り組みに加え、山崎蒸溜所と白州蒸溜所の改修を通じ“日本の自然・風土に育まれ、つくり手の技によって仕上げられる、日本人ならではの繊細なウイスキーづくり”や、現場である“蒸溜所の魅力”をよりいっそう体感できる施設を目指す。

また、サントリーウイスキー100周年を記念した限定商品も発売する。
●サントリープレミアムハイボール缶の発売
第一弾として、ハイボールに合う白州モルト原酒のみを厳選した「サントリープレミアムハイボール〈白州〉350ml缶」を6月6日より数量限定新発売する。また「サントリープレミアムハイボール〈山崎〉350ml缶」も、秋ごろに発売予定だ。

6月6日に新発売となる「サントリープレミアムハイボール〈白州〉350ml缶」と、秋頃発売予定の「サントリープレミアムハイボール〈山崎〉350ml缶」

●サントリーウイスキー100周年記念蒸溜所ラベルの発売
サントリーウイスキー100周年を記念し、蒸溜所のデザインをあしらった、2023年限定デザインラベルの「シングルモルトウイスキー山崎」「シングルモルトウイスキー山崎12年」「シングルモルトウイスキー白州」「シングルモルトウイスキー白州12年」を4月中旬から順次発売する。

サントリーウイスキー100周年を記念し、蒸溜所のデザインをあしらった、2023年限定デザインラベル「シングルモルトウイスキー山崎」「シングルモルトウイスキー山崎12年」「シングルモルトウイスキー白州」「シングルモルトウイスキー白州12年」

さて、このようにサントリーウイスキー100周年を迎える今年、記念商品の発売や、新しい取り組みが実施されるが、3月15日に、マスコミに向けジャパニーズウイスキー発祥の地である山崎蒸溜所の見学会が行われた。その様子をレポートする。

サントリーのウイスキーづくりの歴史や概要を解説してくれたサントリー株式会社 山崎蒸溜所工場長の藤井敬久氏

まずは、山崎蒸溜所の20代目となる工場長、藤井敬久氏から、挨拶と山崎蒸溜所の歴史と概要の説明があった。初の国産ウイスキー「白札」の発売、「角瓶」の大ヒット、「オールド」などによる空前のウイスキーブーム、そしてその後の長いダウントレンドを経て21世紀に入り、「シングルモルトウイスキー山崎」などプレミアムウイスキーが世界的なコンペでの高い評価を獲得すると共に、角ハイボールがブームとなり、現在、発売数量は右肩上がりの状態。

藤井工場長は、「この山崎の地に蒸溜所を建設したのは、名水と呼ばれるおいしい水があることと、3つの川の合流ポイントがすぐ近くにあり、湿度が高いことが熟成の環境に適しているため」と説明。さらに、「サントリーの山崎、白州蒸溜所は、様々なタイプの原酒をつくり分けている点が大きな特徴。そして、次の100年に向けて、守るべきものは継続し、変えるべきものに対しては思いきってチャレンジしていきたい」と述べた。

1923年に製造され、再蒸溜に使われたというポットスチルが展示されている。100%銅製で手作りなので表面はデコボコしている

その後は工程見学を行った。ウイスキーの製造工程である【(1)仕込(2)発酵(3)蒸溜(4)貯蔵】という順序で実際に蒸溜所を見学し、各々のポイントの説明を受けた。説明はサントリー(株)ウイスキー事業部の尾下 治課長が担当。尾下氏は「季刊・アナログ誌」で何度も登場いただき多くの名ウイスキーを世に送り出した4代目のチーフブレンダー、輿水精一氏(現・名誉チーフブレンダー)のアシスタントを務め、現在は主に山崎蒸溜所のセミナー講師を務めている。

<仕込工程>
二条大麦を発芽・乾燥させて麦芽にする。それを砕き仕込み水と共に仕込槽へ投入。麦芽中の酵素によりデンプンが糖に分解された後、麦芽を細かく粉砕していることで、皮が下に沈み、層ができクリアな麦汁ができる。それをろ過することで、澄んだ麦汁をつくる。この時の仕込水は山崎の地で生まれた良質な水で、高い品質のウイスキーを生む大きなポイントとなる。仕込み槽は、大きさの異なる2つのタイプが用意されている。

仕込工程を説明する尾下 治氏。麦芽を粉砕し、60℃以上のお湯に浸すことで麦芽に含まれるデンプンを14度ほどの糖度にする。仕込槽は大きさの異なる2つが用意され、またピートを炊いた麦芽の使用により、スモーキーな香りを付与する

<発酵工程>
ろ過した麦汁を発酵槽に移し、酵母を加え発酵させる。ここで酵母は、麦汁の糖を分解してアルコールと炭酸ガスに変え、ウイスキー特有の香味成分をもつ“もろみ”がつくられる。山崎蒸溜所では、様々なタイプの原酒をつくるために木桶発酵槽とステンレス発酵槽の2種類を使い分けると共に、目指すべきウイスキーの香味に相応しい酵母を厳選している。72時間発酵させることでアルコール度が7%程度となる。木桶は4.5mの深さ。乳酸菌の働きで早くアルコールができ、保温効果が高く複雑さが増すという。

木製の発酵槽はこのエリアに8基、ほかの場所にステンレス製の発酵槽が12基を用意し、異なるタイプの麦汁をつくる

今回は特別に発酵中の中身も見ることができた。酵母による発酵によりかさが上がってくるが、それをプロペラで断ち切る

<蒸溜工程>
発酵によって生まれたもろみをポットスチルと呼ばれる蒸溜釜を用いて2度蒸溜(初溜・再溜)することで、アルコール濃度の高いニューポットを生み出す。サントリーでは、大きさや形状の異なる蒸溜釜を使い分けることで、多彩な味わいのウイスキー原酒を生み出している。所内には初溜のポットスチルは8基、再溜のポットスチルは8基用意され、すべて形状が異なっている点でも世界でも稀な蒸溜所といえるだろう。なお、初溜でアルコール度25%の初溜液(ローワイン)となり、再溜でアルコール度は60〜70%のニューポットとなる。
以上の蒸溜までの工程を1週間程度で終了し、樽詰め貯蔵工程に移る。

見学できるエリアには、蒸溜のためのポットスチルが12基用意される。左側に並ぶポットスチルが初溜で、ガスによる約1300℃の直火で加熱する。気化したアルコールを冷却器に通して戻すことで、アルコール度が約20%以上となる。その後、右側にある内部より加熱する方式のポットスチルで再蒸溜するとアルコール度が60〜70%のニューポットになる。山崎蒸溜所には合計16基のポットスチルが稼働している

<貯蔵工程>
蒸溜されたばかりのニューポットを樽に詰めて長時間じっくり寝かせ、熟成の時を待つ。同じニューポットでも詰める樽の大きさ・形状・材質、貯蔵庫内の保管位置など、ウイスキーが熟成される環境によってその香味は複雑に変化していく。現在サントリー全体の貯蔵能力は約180万樽である。見学した蒸溜までの工程は、フル稼働状態で行われているようで、今後貯蔵される樽は、さらに増えていくことになるだろう。

これらの樽の種類により、モルト原酒の仕上がりが異なり、樽による貯蔵は多彩な原酒のつくり分けの重要なポイントである

熟成する樽にはアメリカンホワイトオーク、バーボンバレル、ホッグスヘッド、パンチョン、ミズナラ、シェリー、ワイン樽といぅった材質とサイズの異なるものが用いられる

これらの熟成された原酒は、最終工程である「ブレンド」というブレンダーの「匠の技」によってウイスキーのおいしさが引き出されることになる。ブレンドによってウイスキーの多種多様な個性が調和し、これまで存在しなかった新しい香り・味が創出され、各々の製品となる。ブレンダーは個性のある製品を作り出すとともに、安定した中味の製品を継続して世に送り出しているのである。

人気の「角瓶」から、「山崎」「響」いう製品を各々ブレンドしてつくるためにも、多くのタイプの原酒を用意する必要がある。その核となる100種類以上もの原酒づくりを山崎蒸溜所は担っている。ひとつとして同じ香味の樽はないので、それらの熟成度を見極めて、各銘柄の香味にしていくのがブレンダーの大きな役割なのである。

工程見学の後、プレミアムブレンデッドウイスキーである「響」を構成するモルト原酒のテイスティングを行った。

今回試飲した4種の原酒。いずれも個性的な香りと味を実感できる。度数は50〜60%程度で、10年以上樽で熟成されたものであり、単品でもそれぞれに美味しさを感じることができる。これらの原酒ばかりだはなく相当数のモルト原酒とグレーン原酒がブレンドされて「響」かつくられる

ウイスキー事業部シニアスペシャリストの佐々木太一さんの解説の元で、主に樽の違いによる4種類の原酒の香りと味の違いをじっくりと確認。

試飲したのは、ホワイトオーク樽原酒、スパニッシュオーク樽原酒、ミズナラ樽原酒、スモーキー原酒で、その香りと味わいは、それぞれ個性があり、樽熟成による原酒の違いが明らかに理解できた。これらの多彩な原酒をブレンドすることで、様々なウイスキーがつくられているのである。

その後は、質疑の時間になり、藤井工場長らが回答した。

注目が集まっている、今後本格稼働予定のフロアモルティングについては、「既にテストがスタートしています。手ごたえがあり、蒸かしたイモのような香りが特徴的。さらなる品質向上の可能性が分かってきました。本格稼働後、どういう風に使っていくかは検討中」とのこと。

また100周年を迎えた思いを聞くと、「100年間、ウイスキーづくりを続けてこられたのは、お客様のおかげ。これからはよりたくさんの世界の人々に、我々のつくったウイスキーを楽しんでもらいたい」と締めた。

2003年には世界的な酒類コンペティション「ISC(インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ)」にて「山崎12年」が初めて金賞を受賞。以降現在に至るまで、山崎、白州、響といったプレミアムウイスキーが数多くの酒類コンペティションで最高賞を受賞し続けている。この品質の高さと優れた香味が世界で認められたことで、多くの愛飲家の注目を浴び、ジャパニーズウイスキーの評価が高まっていった

山崎蒸溜所の役割は、多彩で品質の高いモルトウイスキー原酒をつくり続けることで、プレミアムウイスキーから、角瓶のようなたくさん飲まれるウイスキーに対応し、さらには未来に備える原酒をつくることにあるということを確信した。そこには、100年にも及ぶ長い経験と匠の技がベースにあることは間違いない。

前回、山崎蒸溜所を見学したのは3年半ほど前だったが、今回の見学コースはより整備され(例えばポットスチルの銘板など)、分かりやすくなっていたように感じられた。

見学・入場は現在予約制で、4月まですでにいっぱいとなっており、5月から秋のリュニューアルに備えてしばらくお休みとなる。改修を終えて再開された時に、フロアモルティングの工程も含め、山崎蒸溜所はどのような進化を遂げているのだろうか? それは「季刊・アナログ誌」とファイルウェブで、秋以降にレポートしたい。ウイスキー100周年を迎えたサントリーの、未来に向けた意欲的な取り組みに、ぜひ期待していてほしい。

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