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公開日 2003/12/31 00:42

Senka21好評連載中!工藤恒夫「B to B企業のビジネスデザイン戦略」

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●Senka21に好評連載中の平成国際大学教授・東京マーケティングアカデミー学院長の工藤恒夫氏が執筆する『 B to B企業のビジネスデザイン戦略』より、最新1月号「ゼネラル・エレクトリック社(GE)のビジネスデザイン戦略II」をお届けする。

CEOジャック・ウェルチの登場

1981年4月にレジナルド・H・ジョンズが8年間務めた後のGEのCEOにジャック・ウェルチが就任した。1878年に設立されたGEは当時も依然としてアメリカにおける代表的な優良企業であり、世界から最も称賛される企業の一つであった。しかしながら、ウェルチがCEOになる前のGEの利益は、アメリカのGNPとほぼ同率の成長率であったことから、ウェスチングハウスやAT&Tと同様GEも「GNP企業」と呼ばれていたのである。

ところが、ウェルチが行った経営革新の結果、1992年までの過去10年間、GEの利益は、GNP成長率の1.5倍の年率10%強の成長を実現した。1981年における売上高は272億4000万ドル、純利益16億5000万ドルのGEは、1992年には、売上高620億ドル、純利益47億ドルとなり、自己資本利益率では20%以上を記録している。

このような売上高および利益の成長の結果として、1980年に139億ドルだったGEの株式時価総額は2001年12月31日の終値では3982億ドルにまで増加し、GEは時価総額で2年連続世界?.1企業の地位に着いた。また、1960年以降の30年間でも営業利益率の最高は約10%であったが、1998年には、徹底したコスト削減と品質管理によって、営業利益率は史上最高の16.5%を達成したのである。

ジャック・ウェルチは2001年9月7日に、会長兼CEOの座をジェフリー・イメルト社長に譲ったが、ウェルチがCEO在任の最後の会計年となった2000年のGEの売上高は1300億ドル、純利益は127億ドルで、ともに過去最高の実績であった。ウェルチは会長兼CEOに就任した1981年から売上高で5倍、純利益では8倍に伸ばし、世界一の株式時価総額を誇る巨大複合企業に育て上げることに成功したのだ。

ノエル・M・ティシーとストラトフォード・シャーマンは共著「ジャック・ウェルチの革命」の中で、「私のみるところでは、20世紀は、その卓抜なアイデアにより後世に名を残すであろう二人のビジネスリーダーを生み出したのである。それは、GMのアルフレッド・スローンとGEのジャック・ウェルチである」(同著5頁)で述べている。

ウェルチによる官僚主義の打破

誰の眼からも順風満帆に見えた当時のGEの経営について、ウェルチは事業内容、組織、制度、企業文化など多くの面で変革が急務であると感じていた。その証拠に、ウェルチは前任者のレジナルド・H・ジョンズ氏から次期会長の椅子を打診された時に、GEのすべての面を破壊してもよいならば引き受けましょうと答えたと言うエピソードが伝えられている。

ウェルチの考えでは、強い企業は常に売上げと利益を拡大させなければならない。そして売上げの拡大は、強い新製品を競合企業よりも早く市場導入することによってもたらされるものであり、利益の拡大は絶え間のない生産性の向上によるものである。これがウェルチの信念であった。ところが、GEの当時の利益成長率がアメリカのGNP並みの低い成長にまで落ち込んでいるのは、GEの企業体質が内向き志向の官僚主義に犯されているためであるとウェルチは判断したのである。

ウェルチが経営目標とした売上げと利益の成長に対する阻害要因は大企業病であった。その代表的なものはGEの過度に組織された官僚主義文化であった。GEのような大企業にはほとんど例外なく見られる管理体制の強化がやがて官僚主義へ発展したケースである。1980年代初頭、「GEは、重箱の隅をつつくような細かく形式ばった社内の検討や承認の制度に身動きがとれなくなっていた。それが意志決定を遅らせ、社内で常識を通用させにくくし、そして新製品の市場導入をしばしば遅らせる原因にもなったのである。…優れたマネジャーの多くは、顧客のニーズに応えることよりも社内問題の方にはるかに多くのエネルギーを振り向けていた(前掲書「ジャック・ウェルチ革命」8頁)。

ウェルチも、GEの官僚主義体質について、その著書の「ジャック・ウェルチ、わが経営」の中で次のように述べている。

「会長になってまもないころ、マサチューセッツ州リンにあるジェットエンジン工場を訪れた。最後にボイラー室に行くと、セーラムで私といっしょに育った連中をたくさん知っている人たちに出会った。気楽に昔話をしているうちにたまたま、ボイラーの操作を監督する管理職に4つも階層があることがわかる。信じられなかった」(ジャック・ウェルチ+ジョン・A・バーン著・前掲書・上・155〜156頁)

GEのこのような企業体質は、GEに限らず、日本の多くの大企業にも多かれ少なかれ共通して見られる現象であろう。

階層のドラスティックな見直し

ボイラー室での会話がきっかけとなって、ウェルチは官僚体制の破壊に着手した。GEの多重構造階層の悪影響は、予算要求のプロセスに象徴的に表われているとウェルチは言う。ケースによっては、購入申請書にすでに16人のサインがしてあり、その上ウェルチのサインが最後に必要であったのだ。ウェルチはこのプロセスをナンセンスであると判断し、無視した。そして少なくとも18年間、支出承認のサインをしたことはなかったと言っている。

1980年代、ウェルチは従来トップから一番下まで9階層あったのをたったの4階層まで減らした。このような思い切った階層の削減の結果、それまでは権力を振りかざす管理職や監視するだけの検察官のようなマネジャーから事業現場が円滑に動くようヘルプすることが管理職の新しい任務となったのである。

ナンバーワン・ナンバーツー戦略

20世紀の後半20年間において、ジャック・ウェルチは世界ナンバーワン企業経営者として名声をほしいままにした。1998年、1999年と2年連続でGEがフォーチュン誌の「アメリカで最も称賛される企業」のトップに輝いたのもジャック・ウェルチの貢献に負うところが大きいことは言うまでもない。この賞は、フォーチュン誌が独自に、創造性、経営の質、従業員の能力、商品・サービスの品質、長期的な投資価値、財務状況、社会的責任、資産活用の8つの属性について、1万人以上の経営者、取締役、証券アナリストにアンケートを実施した結果によるランキングである。

ところで、世界の多くの企業がGEを世界最強の企業に育て上げたジャック・ウェルチの経営手法を手本にしてきたが、なかでも彼の「ナンバーワン・ナンバーツー戦略」が最も注目され、かつ最も影響を及ぼした経営ポリシイであったと思う。1981年にCEOに就任したウェルチが最初に発表し、現在でも同社の経営方針の柱となっている戦略が、世界市場における「ナンバーワン・ナンバーツー戦略」である。

GEのアニュアル・リポート「株主への手紙」は、ウェルチ自らが執筆することで有名であるが、1984年2月17日付けの1983年度のリポートの中で市場シェアについて次のように述べている。

「業界随一の地位を確保するか、早々に退散するか、取るべき道は二つに一つしかありません。だからこそGEは、世界で最も競争力のある企業になるために、手がける事業のすべてにおいて市場シェア1位または2位を達成するという戦略を採ったのです(GEコーポレート・エクゼクティブ・オフィス著「GEとともに」22頁)。

また、ウェルチは日本での講演の中で、「市場で4位か5位でいると、ナンバーワンがくしゃみをしただけで肺炎にかかってしまう。ナンバーワンなら、自分の命運をコントロールできる。第4位グループの連中は合併に明け暮れ、苦しむ。第4位になると、事情が全く違ってしまうからだ。苦しむことが仕事になってしまう。だからこそ、より強大になるための戦略的方法を見極めることが必要になる。ウェルチは、ナンバーワンかナンバーツーでなければ再建か、売却か、閉鎖かのどれかだと明言している」。

学者の中には、シェアよりも利益だ、などとピントのはずれた論理を展開する人がいるが、少なくとも製造業の世界では、ウェルチが言うようにシェアが高くなくては生き残れないのだ。ウェルチのシェア哲学が日本の多くの企業に与えた影響は計り知れない。


(Senka21編集部)

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