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公開日 2007/01/04 12:11
WEB版 飯塚克味のコレクター魂 − 2006年のDVDはディレクターズ・カット&完全版の嵐
年々、その傾向が強くなるDVDにおけるディレクターズ・カットの存在だが、ユーザーからすれば「最初からそのバージョンで出して欲しい!」のが本音だろう。だが劇場版は興行とのしがらみが絶えず付きまとうので、上映時間の短縮やレイティングのための再編集などがしばしば行われるのが常となっている。DVDでこうやって監督の意図通りの作品が見られること自体、以前は考えられなかったので、自分としては可能な限りチェックして好きな作品の本当の姿を見極めたいと思っているのだが、皆さんはいかがだろう?
ディレクターズ・カットや完全版といったキーワードが一つの商品価値を生み出すことを知った映画会社は、名作が出尽くしたといわれた昨年くらいから続々とリニューアル版のDVDを発売し続けている。
2006年にはまずソニーが突然大量のディレクターズ・カット長尺版をリリースし、驚かせてくれた。タイトルは『パトリオット』、『ロック・ユー!』、『カジュアリティーズ』、『ティアーズ・オブ・ザ・サン』。これらはいずれも特典面でも充実が図られており、お気に入りの作品であれば購入価値は高いといえよう。
日活の『ヒトラー最後の12日間』は劇場版より20分長いロングバージョンで再登場。但し、これは本国ではテレビ版として製作されたもの。ディレクターズ・カットとは意が多少異なるのでその辺は是非了解の上お楽しみ頂きたい。個人的には長尺版の本編以上に原作者であり、実際にヒトラーの秘書をしていたトゥランドル・ユンゲのドキュメンタリー収録の方がうれしかった。旧版も充実した内容だったが、今回のバージョンは「究極BOX」と謳っており、解説書も凝っている。日本語吹替版が入っていないのが玉に瑕だが、こちらもお勧めしたい。
劇場版より20分長いロングバージョンで再登場した『ヒトラー最後の12日間』。本国でテレビ版として製作されたもので、ディレクターズ・カットとは意が多少異なるが、全体的に非常に凝ったモノとなっている (c)2004 Constantin Film Produktion GmbH
ジェネオンの『Mr. & Mrs.スミス』はアンレイテッド・エディションでの登場。つまり子供は観られない表現が増えているのだが、その最大のものといえばやはりブラピとアンジェリーナ・ジョリーの濡れ場だろう。史上最大の夫婦喧嘩をした後だけに、実際に撮影されていた場面も劇場版とはうって変わって激しいものになっていた。もしこれが劇場公開されていれば当時離婚騒動でもめていたブラピの前妻ジェニファー・アニストンの怒りも、もっともっとヒートアップしていたかもしれない。特典もメイキングなど大幅に増えている。もし通常版を持っていないのならば、間違いなく買いの商品だ!
『Mr. & Mrs.スミス』はアンレイテッド・エディション。特典もメイキングなど大幅に増えている。通常版を持っていないのならば買い! 発売元:東宝東和 販売元:ジェネオン エンタテインメント
個人的に最大の収穫だったのが、リドリー・スコット監督の史劇大作『キングダム・オブ・ヘブン』だ。リドリー・スコット監督の作品は『ブレードランナー』もそうだったが、バージョンが違うことで全く違う意図を表現することがあるが、これも正にそうした作品だった。
50分以上長くなっているので、追加された場面は多いが、決定的なのが主人公バリアンの信仰に対する考え方の表現だ。妻が死産のショックから自殺してしまったことから、妻の死後を案じるバリアンは聖地エルサレムに行くことで神の声を聞くつもりだったが、その声は響いてこない。神の存在に疑念を持つバリアンだが、エルサレムを巡る攻防に巻き込まれ、十字軍の騎士だった父親の教えに従い、“正しい行い”をしようと務める。表面的な信仰にとらわれないバリアンの行動は実に現代的だが、それでも神を信じきれない彼の前にある存在が出現する。
この描き方がいかにもリドリー・スコットらしくて大変気に入った。劇場版のエンディングでは故郷に帰ったバリアンがその一帯を見つめるような編集になっているが、ディレクターズ・カットでは神の存在を示す“ある物”を見つめていたのも衝撃だった。『ブレードランナー』以上の変貌を遂げた『キングダム・オブ・ヘブン』。自分は好運にもブルーレイの高画質で観ることができたが、DVDも出ているので是非とも見てもらいたい内容だ。
リドリー・スコット監督の史劇大作『キングダム・オブ・ヘブン』。通常版より50分以上長くなり、主人公バリアンの信仰に対する考えの描き方が、またちょっと違った視点で捉えられる 販売元: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
リドリー・スコット監督作品では『ブラックホーク・ダウン』も長尺版でリリースされた。但しこちらは『キングダム・オブ・ヘブン』のような根本的に内容が変貌するものではないので、よほどのマニアでない限り手に入れる価値はないかもしれない。2005年の年末に登場した『グラディエーター』の長尺版も未公開シーンの復元に留まっただけに、作品によっては「劇場版がオリジナル」と監督が言い切っているものもあるので注意した方がいいだろう。
その他にはジェネオンからようやく出た『荒野の用心棒』を挙げておきたい。黒澤明の『用心棒』の無断リメイクということで、完全版は日本ではなかなか陽の目を見ることはないと思われていたのだが、コアなファンの有志なのか、発売元として表記されている「『荒野の用心棒・完全版』DVD発売委員会」のメンバーたちの努力によって商品化が実現した。収録時間は旧版の96分に対し、100分と僅か4分の追加だが、ハードなバイオレンスシーンが大幅に追加され、映画の印象が一変した。追加シーンが後半のクライマックスに集中していることも特筆したい。
バイオレンスシーンの追加といえば、ポール・バーホーベン監督の『ロボコップ』やマイケル・ベイ監督の『パール・ハーバー』など挙げられるが、この時代の作品でここまでキチンとした修復が成されたことに賞賛の拍手を送りたい。特典面でも貴重な映像がてんこ盛りだ。中でも個人がホームビデオで録画していたという幻のオープニングはこの映画のファンであればビックリ仰天すること間違いなし。映画のカラーが完全に変えられてしまうような内容だ。解説書には各国版のポスターや盗作問題に関する記述、興味深い様々な視点の解説、吹替版の歴史、追加シーンの詳細などがこれでもかと書き込まれ、飽きることがない。もしどこかで見かけたら迷わず手に入れてほしい決定版というべきDVDだ。
紹介した以外にも『キング・コング』や『スーパーマンII』、『クラッシュ』など別バージョンの発売は相次いでいる。邦画でも東宝が『フランケンシュタイン対地底怪獣バラゴン』や『サンダ対ガイラ』のアメリカ公開版を発売する。中には北米版のみで発売されている『エレクトラ』のような作品もあるが、できる限り日本での発売を期待したいところだが、こうしたバージョン違いの場合はレンタルに並ばないことも多いので、ファンは買うしかないのが痛し痒しといったところか?
いずれにしてもこの傾向は来年も続くと思われるので、よくチェックする必要があるだろう。
(飯塚克味)
ディレクターズ・カットや完全版といったキーワードが一つの商品価値を生み出すことを知った映画会社は、名作が出尽くしたといわれた昨年くらいから続々とリニューアル版のDVDを発売し続けている。
2006年にはまずソニーが突然大量のディレクターズ・カット長尺版をリリースし、驚かせてくれた。タイトルは『パトリオット』、『ロック・ユー!』、『カジュアリティーズ』、『ティアーズ・オブ・ザ・サン』。これらはいずれも特典面でも充実が図られており、お気に入りの作品であれば購入価値は高いといえよう。
日活の『ヒトラー最後の12日間』は劇場版より20分長いロングバージョンで再登場。但し、これは本国ではテレビ版として製作されたもの。ディレクターズ・カットとは意が多少異なるのでその辺は是非了解の上お楽しみ頂きたい。個人的には長尺版の本編以上に原作者であり、実際にヒトラーの秘書をしていたトゥランドル・ユンゲのドキュメンタリー収録の方がうれしかった。旧版も充実した内容だったが、今回のバージョンは「究極BOX」と謳っており、解説書も凝っている。日本語吹替版が入っていないのが玉に瑕だが、こちらもお勧めしたい。
劇場版より20分長いロングバージョンで再登場した『ヒトラー最後の12日間』。本国でテレビ版として製作されたもので、ディレクターズ・カットとは意が多少異なるが、全体的に非常に凝ったモノとなっている (c)2004 Constantin Film Produktion GmbH
ジェネオンの『Mr. & Mrs.スミス』はアンレイテッド・エディションでの登場。つまり子供は観られない表現が増えているのだが、その最大のものといえばやはりブラピとアンジェリーナ・ジョリーの濡れ場だろう。史上最大の夫婦喧嘩をした後だけに、実際に撮影されていた場面も劇場版とはうって変わって激しいものになっていた。もしこれが劇場公開されていれば当時離婚騒動でもめていたブラピの前妻ジェニファー・アニストンの怒りも、もっともっとヒートアップしていたかもしれない。特典もメイキングなど大幅に増えている。もし通常版を持っていないのならば、間違いなく買いの商品だ!
『Mr. & Mrs.スミス』はアンレイテッド・エディション。特典もメイキングなど大幅に増えている。通常版を持っていないのならば買い! 発売元:東宝東和 販売元:ジェネオン エンタテインメント
個人的に最大の収穫だったのが、リドリー・スコット監督の史劇大作『キングダム・オブ・ヘブン』だ。リドリー・スコット監督の作品は『ブレードランナー』もそうだったが、バージョンが違うことで全く違う意図を表現することがあるが、これも正にそうした作品だった。
50分以上長くなっているので、追加された場面は多いが、決定的なのが主人公バリアンの信仰に対する考え方の表現だ。妻が死産のショックから自殺してしまったことから、妻の死後を案じるバリアンは聖地エルサレムに行くことで神の声を聞くつもりだったが、その声は響いてこない。神の存在に疑念を持つバリアンだが、エルサレムを巡る攻防に巻き込まれ、十字軍の騎士だった父親の教えに従い、“正しい行い”をしようと務める。表面的な信仰にとらわれないバリアンの行動は実に現代的だが、それでも神を信じきれない彼の前にある存在が出現する。
この描き方がいかにもリドリー・スコットらしくて大変気に入った。劇場版のエンディングでは故郷に帰ったバリアンがその一帯を見つめるような編集になっているが、ディレクターズ・カットでは神の存在を示す“ある物”を見つめていたのも衝撃だった。『ブレードランナー』以上の変貌を遂げた『キングダム・オブ・ヘブン』。自分は好運にもブルーレイの高画質で観ることができたが、DVDも出ているので是非とも見てもらいたい内容だ。
リドリー・スコット監督の史劇大作『キングダム・オブ・ヘブン』。通常版より50分以上長くなり、主人公バリアンの信仰に対する考えの描き方が、またちょっと違った視点で捉えられる 販売元: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
リドリー・スコット監督作品では『ブラックホーク・ダウン』も長尺版でリリースされた。但しこちらは『キングダム・オブ・ヘブン』のような根本的に内容が変貌するものではないので、よほどのマニアでない限り手に入れる価値はないかもしれない。2005年の年末に登場した『グラディエーター』の長尺版も未公開シーンの復元に留まっただけに、作品によっては「劇場版がオリジナル」と監督が言い切っているものもあるので注意した方がいいだろう。
その他にはジェネオンからようやく出た『荒野の用心棒』を挙げておきたい。黒澤明の『用心棒』の無断リメイクということで、完全版は日本ではなかなか陽の目を見ることはないと思われていたのだが、コアなファンの有志なのか、発売元として表記されている「『荒野の用心棒・完全版』DVD発売委員会」のメンバーたちの努力によって商品化が実現した。収録時間は旧版の96分に対し、100分と僅か4分の追加だが、ハードなバイオレンスシーンが大幅に追加され、映画の印象が一変した。追加シーンが後半のクライマックスに集中していることも特筆したい。
バイオレンスシーンの追加といえば、ポール・バーホーベン監督の『ロボコップ』やマイケル・ベイ監督の『パール・ハーバー』など挙げられるが、この時代の作品でここまでキチンとした修復が成されたことに賞賛の拍手を送りたい。特典面でも貴重な映像がてんこ盛りだ。中でも個人がホームビデオで録画していたという幻のオープニングはこの映画のファンであればビックリ仰天すること間違いなし。映画のカラーが完全に変えられてしまうような内容だ。解説書には各国版のポスターや盗作問題に関する記述、興味深い様々な視点の解説、吹替版の歴史、追加シーンの詳細などがこれでもかと書き込まれ、飽きることがない。もしどこかで見かけたら迷わず手に入れてほしい決定版というべきDVDだ。
紹介した以外にも『キング・コング』や『スーパーマンII』、『クラッシュ』など別バージョンの発売は相次いでいる。邦画でも東宝が『フランケンシュタイン対地底怪獣バラゴン』や『サンダ対ガイラ』のアメリカ公開版を発売する。中には北米版のみで発売されている『エレクトラ』のような作品もあるが、できる限り日本での発売を期待したいところだが、こうしたバージョン違いの場合はレンタルに並ばないことも多いので、ファンは買うしかないのが痛し痒しといったところか?
いずれにしてもこの傾向は来年も続くと思われるので、よくチェックする必要があるだろう。
(飯塚克味)