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公開日 2007/04/09 17:36
次世代ディスプレイ「FED」09年にも発売へ − 19型SXGAの試作機が公開
(株)エフ・イー・テクノロジーズは本日、同社の経営方針と技術説明会を開催。その中で、次世代のフラットパネルディスプレイ「FED」(Field Emission Display)の試作機として、19型SXGAモデルを公開した。
今回開発した試作機は19.2型、解像度は1,280×960ドット。輝度は400cd/m2、コントラスト比は20,000対1。デモでは、縦にしたパネルを2枚並べ、26型のフルHD相当にしたディスプレイも展示された。なお、4月11日から東京ビッグサイトで開催される「Display 2007」で、本日公開されたものとほぼ同じ内容のデモが実施されるという。
●FEDとは何か
FEDは電界放出型ディスプレイとも呼ばれ、蛍光体に向けて電子を放出し、発光させるのはCRTと同様だが、CRTが一つの電子銃から電子ビームを放出するのに対し、FEDでは画素ごとに発光領域が設けられ、無数のエミッター(電子放出部)が用意されている。このため、CRTの高い色再現性、高速応答性、階調表現力に加え、固定画素ディスプレイの解像力が同時に得られる。
FEDはエミッターの構造によって、大きく3つに分けられ、それぞれスピント型、SED型、CNT型と呼ばれる。今回エフ・イー・テクノロジーズ社が開発したのはスピント型。SED型は、名前の通り、キヤノンが開発を進めている「SED」に用いられている。
なお、今回同社が採用したエミッターは、ゲートホールが120nmと極小の「ナノスピントエミッター」で、これがエミッター領域の中に、超高密度に配置されている。一つ一つの画素に大量のエミッターがあることで、画素の発光効率が平均化される「アンサンブル効果」が起き、画面の均一性(ユニフォーミティー)が高まる。また、ナノスピントエミッターの採用により低電圧で駆動でき、液晶用のドライバーを流用して開発できるため、コスト削減にもつながるという。
FEDは、液晶のように同じ映像を1フレームのあいだ保持する「ホールド型」のディスプレイと異なり、フレームの最初に一瞬だけ映像が光る「インパルス型」で駆動する。このため、動きの速い映像でもボケて見えないという利点がある。同社説明員によると、APDC方式による動画解像度も測定したとのことで、「SXGAのパネルを使い、720pの映像をテストしたので動画解像度は720本になったが、まったく映像のボケが感じられなかった。フルHDのパネルなら1080本表示できるはず」という。
実際に、120フレームの倍速表示を行った液晶テレビと、60フレーム表示のFEDとで、細かい文字が書かれた動画を高速でスクロールさせる比較展示も行われていたが、液晶では映像がボケて文字が読めないほどなのに対して、FEDでは全くと言っていいほどボケが感じられない。高い動画解像度を実感することができた。
また、FEDは様々なフレームレートに対応できるのも特長。24フレームから240フレームまでの映像をデモ機で駆動して問題ないことを実証しているほか、需要があれば240フレームを超える映像にも対応できるという。また、インターレース駆動にもかんたんに対応できるなど、プロ仕様の特殊用途にも対応することが可能だ。
階調表現力が高いのもFEDの利点の一つで、ガンマ値は約3.6程度と、テレビ放送のガンマ特性のグラフに似ており、無駄なビット数を使わずに高い階調を表現できるという。
色再現性では、特に低階調領域での色再現能力が高いのが特長。全階調領域で安定した色再現特性が得られる。
対環境性では、-20度から+60度での通常動作を確認しており、動画特性はほとんど変わらないという。低温地での活用など、特殊用途にも対応できる。
さらに消費電力が低いのも特筆すべき点で、画面輝度によって実際の消費電力が変わるが、試作機では暗いシーンで数ワット、明るいシーンで40ワット程度だという。これは、同サイズの液晶ディスプレイの半分程度となる。
寿命の面では、蛍光体の寿命、エミッターの寿命とも、10,000時間まではほとんど劣化しないことを確かめている。コストの点でも、液晶に比べるとパネル構造がシンプルなことから、「本質的には安く作ることができるデバイス。ただし量産効果があるので、はじめから低コストで作れるわけではない」(同社技術企画本部の監物秀憲氏)という。
FEDが液晶に比べて明らかに劣っているのは、明所でのコントラスト。これについて同社の担当者は「蛍光体自体が白いので、周りから光が入るとどうしてもコントラストが落ちる」と説明。同社では、明所コントラストはPDPと同程度とアナウンスしている。反面、前述したように暗所でのコントラスト感は非常に高く、業務用のマスターモニターと比べても遜色のない、高い質感が感じられた。
●エフ・イー・テクノロジーズ社 設立の経緯
FEDは、もともと1998年にソニーが開発を開始し、1999年からは米キャンデセント社と共同で開発を進めていた。エフ・イー・テクノロジーズは昨年12月に設立されたが、社長の長谷川正平氏はソニー出身の技術者で、もともとトリニトロンCRTの開発や、PROFEEL PROの設計、PALCディスプレイの開発などを行ってきた、自称「ディスプレイ一筋、きれいな映像大好き人間」。「2005年にソニーが、次世代ディスプレイの開発を有機EL中心で行うことを決定したが、FEDも社内で評判が悪いわけではなかった。そこで、投資ファンドである(株)テックゲートインベストメントからの出資を仰ぎ、“カーブアウト”というかたちで事業化を目指すことになった」と説明する。
“カーブアウト(Carve-Out)”とは、直訳すると「切り出す、削り出す」の意。親会社の手厚い保護のもとで新規事業を育成する社内ベンチャーと、会社を飛び出して新しい事業に取り組むスピンアウトの中間に位置する事業モデルだ。今回のケースで言うと、ソニーは技術や販売など様々な支援をエフ・イー・テクノロジーズ社に対して行うが、資本による支配は行わない。一方、出資する投資ファンドは、事業を成功させ、資金を回収することを目指す。ソニーは、将来エフ・イー・テクノロジーズ社を再び傘下に入れたくなった場合、M&Aの際の優先権を与えられている。
カーブアウトを決めた経緯については、ソニー(株)技術戦略部 部長の武田 立氏もコメント。「ソニーとして、開発してきたディスプレイをすべて市場に出すことはできない。現在は液晶テレビと有機ELを中心に研究開発している。一方、FEDはソニーが長年温めてきた技術で完成度が高く、埋もれさせるのは忍びない。今回、カーブアウトという手法で、FEDが新たな可能性を持った。ぜひ成功してもらいたいし、そのための協力を惜しまない」と述べた。
長谷川氏は、「薄型テレビは激しいシェア争いを行っており、量産合戦による価格下落から利益率が下がっている。我々は小さな規模だからできるマーケットを開発していく」と独自路線を歩むことを強調。まずはプロの映像クリエーター、放送局、ゲーム制作会社など、ハイエンドユーザー向けに販売を行う。実際の商品化は「ベストケースで2009年に発売できるかどうか」とのことで、その際の画面サイズは24型、もしくは26型を検討しているという。解像度は1,920×1,080のフルHDになるとのことだが、価格については明言しなかった。なお、放送局などへの販売では、ソニーの協力を得る考えだ。
民生用への展開については、「最終的にはテレビも発売したいが、いきなり量産のための設備投資を行うのは無理。まずは業務用を成功させ、“小さく産んで大きく育てる”ことを実現したい。シェアは追わずに、健全な利益体質を目指す」と語った。
前述したように、会場には液晶やプラズマとFEDを比較する展示も行われていたが、長谷川氏は、「FEDの特長を分かってもらいたいという気持ちで置いたもので、液晶やPDPが劣っていることを示すためにやっているわけではない。我々は液晶をやっつけたいとか、PDPに勝ちたいなどと大それた事は考えていない。クルマが軽自動車から高級車まであるように、ディスプレイにも液晶やPDP以外の選択肢があってしかるべき、と考えている」とした。
(Phile-web編集部)
今回開発した試作機は19.2型、解像度は1,280×960ドット。輝度は400cd/m2、コントラスト比は20,000対1。デモでは、縦にしたパネルを2枚並べ、26型のフルHD相当にしたディスプレイも展示された。なお、4月11日から東京ビッグサイトで開催される「Display 2007」で、本日公開されたものとほぼ同じ内容のデモが実施されるという。
●FEDとは何か
FEDは電界放出型ディスプレイとも呼ばれ、蛍光体に向けて電子を放出し、発光させるのはCRTと同様だが、CRTが一つの電子銃から電子ビームを放出するのに対し、FEDでは画素ごとに発光領域が設けられ、無数のエミッター(電子放出部)が用意されている。このため、CRTの高い色再現性、高速応答性、階調表現力に加え、固定画素ディスプレイの解像力が同時に得られる。
FEDはエミッターの構造によって、大きく3つに分けられ、それぞれスピント型、SED型、CNT型と呼ばれる。今回エフ・イー・テクノロジーズ社が開発したのはスピント型。SED型は、名前の通り、キヤノンが開発を進めている「SED」に用いられている。
なお、今回同社が採用したエミッターは、ゲートホールが120nmと極小の「ナノスピントエミッター」で、これがエミッター領域の中に、超高密度に配置されている。一つ一つの画素に大量のエミッターがあることで、画素の発光効率が平均化される「アンサンブル効果」が起き、画面の均一性(ユニフォーミティー)が高まる。また、ナノスピントエミッターの採用により低電圧で駆動でき、液晶用のドライバーを流用して開発できるため、コスト削減にもつながるという。
FEDは、液晶のように同じ映像を1フレームのあいだ保持する「ホールド型」のディスプレイと異なり、フレームの最初に一瞬だけ映像が光る「インパルス型」で駆動する。このため、動きの速い映像でもボケて見えないという利点がある。同社説明員によると、APDC方式による動画解像度も測定したとのことで、「SXGAのパネルを使い、720pの映像をテストしたので動画解像度は720本になったが、まったく映像のボケが感じられなかった。フルHDのパネルなら1080本表示できるはず」という。
実際に、120フレームの倍速表示を行った液晶テレビと、60フレーム表示のFEDとで、細かい文字が書かれた動画を高速でスクロールさせる比較展示も行われていたが、液晶では映像がボケて文字が読めないほどなのに対して、FEDでは全くと言っていいほどボケが感じられない。高い動画解像度を実感することができた。
また、FEDは様々なフレームレートに対応できるのも特長。24フレームから240フレームまでの映像をデモ機で駆動して問題ないことを実証しているほか、需要があれば240フレームを超える映像にも対応できるという。また、インターレース駆動にもかんたんに対応できるなど、プロ仕様の特殊用途にも対応することが可能だ。
階調表現力が高いのもFEDの利点の一つで、ガンマ値は約3.6程度と、テレビ放送のガンマ特性のグラフに似ており、無駄なビット数を使わずに高い階調を表現できるという。
色再現性では、特に低階調領域での色再現能力が高いのが特長。全階調領域で安定した色再現特性が得られる。
対環境性では、-20度から+60度での通常動作を確認しており、動画特性はほとんど変わらないという。低温地での活用など、特殊用途にも対応できる。
さらに消費電力が低いのも特筆すべき点で、画面輝度によって実際の消費電力が変わるが、試作機では暗いシーンで数ワット、明るいシーンで40ワット程度だという。これは、同サイズの液晶ディスプレイの半分程度となる。
寿命の面では、蛍光体の寿命、エミッターの寿命とも、10,000時間まではほとんど劣化しないことを確かめている。コストの点でも、液晶に比べるとパネル構造がシンプルなことから、「本質的には安く作ることができるデバイス。ただし量産効果があるので、はじめから低コストで作れるわけではない」(同社技術企画本部の監物秀憲氏)という。
FEDが液晶に比べて明らかに劣っているのは、明所でのコントラスト。これについて同社の担当者は「蛍光体自体が白いので、周りから光が入るとどうしてもコントラストが落ちる」と説明。同社では、明所コントラストはPDPと同程度とアナウンスしている。反面、前述したように暗所でのコントラスト感は非常に高く、業務用のマスターモニターと比べても遜色のない、高い質感が感じられた。
●エフ・イー・テクノロジーズ社 設立の経緯
FEDは、もともと1998年にソニーが開発を開始し、1999年からは米キャンデセント社と共同で開発を進めていた。エフ・イー・テクノロジーズは昨年12月に設立されたが、社長の長谷川正平氏はソニー出身の技術者で、もともとトリニトロンCRTの開発や、PROFEEL PROの設計、PALCディスプレイの開発などを行ってきた、自称「ディスプレイ一筋、きれいな映像大好き人間」。「2005年にソニーが、次世代ディスプレイの開発を有機EL中心で行うことを決定したが、FEDも社内で評判が悪いわけではなかった。そこで、投資ファンドである(株)テックゲートインベストメントからの出資を仰ぎ、“カーブアウト”というかたちで事業化を目指すことになった」と説明する。
“カーブアウト(Carve-Out)”とは、直訳すると「切り出す、削り出す」の意。親会社の手厚い保護のもとで新規事業を育成する社内ベンチャーと、会社を飛び出して新しい事業に取り組むスピンアウトの中間に位置する事業モデルだ。今回のケースで言うと、ソニーは技術や販売など様々な支援をエフ・イー・テクノロジーズ社に対して行うが、資本による支配は行わない。一方、出資する投資ファンドは、事業を成功させ、資金を回収することを目指す。ソニーは、将来エフ・イー・テクノロジーズ社を再び傘下に入れたくなった場合、M&Aの際の優先権を与えられている。
カーブアウトを決めた経緯については、ソニー(株)技術戦略部 部長の武田 立氏もコメント。「ソニーとして、開発してきたディスプレイをすべて市場に出すことはできない。現在は液晶テレビと有機ELを中心に研究開発している。一方、FEDはソニーが長年温めてきた技術で完成度が高く、埋もれさせるのは忍びない。今回、カーブアウトという手法で、FEDが新たな可能性を持った。ぜひ成功してもらいたいし、そのための協力を惜しまない」と述べた。
長谷川氏は、「薄型テレビは激しいシェア争いを行っており、量産合戦による価格下落から利益率が下がっている。我々は小さな規模だからできるマーケットを開発していく」と独自路線を歩むことを強調。まずはプロの映像クリエーター、放送局、ゲーム制作会社など、ハイエンドユーザー向けに販売を行う。実際の商品化は「ベストケースで2009年に発売できるかどうか」とのことで、その際の画面サイズは24型、もしくは26型を検討しているという。解像度は1,920×1,080のフルHDになるとのことだが、価格については明言しなかった。なお、放送局などへの販売では、ソニーの協力を得る考えだ。
民生用への展開については、「最終的にはテレビも発売したいが、いきなり量産のための設備投資を行うのは無理。まずは業務用を成功させ、“小さく産んで大きく育てる”ことを実現したい。シェアは追わずに、健全な利益体質を目指す」と語った。
前述したように、会場には液晶やプラズマとFEDを比較する展示も行われていたが、長谷川氏は、「FEDの特長を分かってもらいたいという気持ちで置いたもので、液晶やPDPが劣っていることを示すためにやっているわけではない。我々は液晶をやっつけたいとか、PDPに勝ちたいなどと大それた事は考えていない。クルマが軽自動車から高級車まであるように、ディスプレイにも液晶やPDP以外の選択肢があってしかるべき、と考えている」とした。
(Phile-web編集部)