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公開日 2007/11/26 17:54
東京フィルメックス映画祭受賞作が決定 − 慶大と連携した動画配信やポッド・キャスティングも
第8回東京フィルメックス映画祭(主催:特定非営利活動法人東京フィルメックス実行委員会 共催:朝日新聞社 J-WAVE 他)が、東京有楽町の朝日ホールを中心にて、11月17日(土)から25日(日)まで開催され、37作品が上映された。
■世界の映画の二つの傾向を示す受賞作
11月25日には、アジアを中心とする新進映画作家を対象としているコンペティションの受賞作が決定した。最優秀作品賞は、「テヒリーム」(ラファエル・ナジャリ監督)が、コダックVISIONアワード(審査員特別賞)は「アイ・イン・ザ・スカイ」(ヤウ・ナイホイ監督)がそれぞれ受賞した。
最優秀作の「テヒリーム」は、イスラエルを舞台に、失踪した厳格なユダヤ教聖職者の父を探す二人の兄弟を中心にしたドラマ。
記者会見で審査委員長のイ・チャンドン氏は、受賞理由について「独自の手法で、今日の世界が抱える『方向性の欠如』という普遍的な問題を、一般的な家庭の問題を通じて浮き彫りにしている」などと説明。プロデューサーと共に記者会見に登場した監督は「受賞に驚き感謝している」などと述べた。ナジャリ監督は1971年マルセイユで生まれ。フランス、ニューヨークのTV界で活躍し、すでにカンヌ映画祭、ベルリン映画祭などで作品が上映されており本作品は長編5作目だ。
コダックVISIONアワードの「アイ・イン・ザ・スカイ」(Eye in the sky)は、「アジアの商業映画の中でも群を抜く演出力でキャラクター間の緊張感とテンポにより、観客の注意を常に喚起していた」と評価された。本作は香港の連続宝石強盗団とそれを追跡する香港警察の捜査官のアクションが、最新機器などを使ってリアルに展開される。現在、次回作の編集中という理由により、来日できなかったヤウ監督は、「この映画では映画を撮る事の困難を学んだが、受賞は大きな自信になる」などとコメントを寄せた。1968年香港生まれの監督はジョニー・トー監督作品を中心に多くの劇場映画の脚本を担当し、これが劇場用映画のデビュー作。香港映画界期待の新星だ。
観客が選ぶアニエス・ベー・アワード(観客賞)は、マカオのギャング団の抗争を派手な銃撃戦場面たっぷりに描く香港アクション映画で、特別招待作品として上映されたジョニー・トー監督の「Exiled 放・遂」が選ばれた。
審査委員長のイ・チャンドン氏は、審査の経過について「5人の審査員が5・6本の作品について真剣に話し合った結果、全員一致でこの二つの作品を選定した。これは、現在の映画の世界の重要な二つの傾向を示す結果となった」と述べた。
その“重要な傾向”のついて委員長は具体的には説明しなかったが、受賞作作品の内容からいうと、その二つの傾向とは、日常生活に焦点をあてながら、個人の内面を掘り下げて人が生きる普遍的な問題を考えていくという態度と、社会におこる事件を素材としてアクションも取り入れて映画的なおもしろさを堪能させるもの、ということになるだろう。静と動という二つの相反する傾向だが、撮影、編集への最新機器の導入が製作内容と上映環境に大きな寄与をしていることは共通である。
■多彩なトークショーと特集
コンペ以外では、東京フィルメックスではこれまであまり紹介されなかった世界の古典映画の紹介や、また日本のクラシックというべき映画を英語字幕付きで上映し、世界に発信する活動を継続している。本年も、国際交流基金と東京国立近代美術館フィルムセンターとの共催により、インド映画作家、リッティク・ゴトク監督と、日本の社会派映画の巨匠として知られる山本薩夫監督を特集した。
リッティク・ゴトク監督特集では、監督の子息、リトバン・ゴトク氏が来日。シンポジウムでは、ゴトク監督の生地、インドベンガル地方(現在のインド西ベンガル州およびバングラディシュ)の水に満ちた風土や、イギリス、インドの両国に翻弄されてきた同地方の歴史について語られた。ゴトク監督が書き残した文章をリトバン氏が披露して、ベンガル出身のゴトク監督が、いかにこの地方を愛していたか、また映画作家となったのは、多くの人に自分の考えを伝えるためだったなどと、エピソードが披露される場面もあり、日本ではあまり知られていなかった作家に、多くの人が関心を持つきっかけになったようだ。
ベンガル地方出身のインド映画作家としては、サタジット・レイが巨匠として世界的に有名だが、風土と民衆の歴史に根ざした作品を作ったゴトク監督は、ベンガルではレイ監督にも増して愛され、現在、世界的な再評価の気運もあるという。
■慶應大学の連携によるコンテンツを動画配信+ポッド・キャスティング
東京フィルメックスでは昨年度より慶應大学DMC(慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構)と協力し、フィルメックスが蓄積しているコンテンツの一部を動画配信+ポッドキャスティングする試みを行っている。
動画配信においては、アジアの映画作家の声を慶大DMCが開発したインターフェース<VOLUMEONE>装備の動画プラットフォームを使用して配信されている。また昨年度映画祭開催中10日間のポッド・キャスティングアクセス数は1万ログを超え、ニーズが実証された。詳細については下記HPを参照いただきたい。
慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構
http://www.dmc.keio.ac.jp/topics/060510volumeone.html
(取材・文 山之内優子)
■世界の映画の二つの傾向を示す受賞作
11月25日には、アジアを中心とする新進映画作家を対象としているコンペティションの受賞作が決定した。最優秀作品賞は、「テヒリーム」(ラファエル・ナジャリ監督)が、コダックVISIONアワード(審査員特別賞)は「アイ・イン・ザ・スカイ」(ヤウ・ナイホイ監督)がそれぞれ受賞した。
最優秀作の「テヒリーム」は、イスラエルを舞台に、失踪した厳格なユダヤ教聖職者の父を探す二人の兄弟を中心にしたドラマ。
記者会見で審査委員長のイ・チャンドン氏は、受賞理由について「独自の手法で、今日の世界が抱える『方向性の欠如』という普遍的な問題を、一般的な家庭の問題を通じて浮き彫りにしている」などと説明。プロデューサーと共に記者会見に登場した監督は「受賞に驚き感謝している」などと述べた。ナジャリ監督は1971年マルセイユで生まれ。フランス、ニューヨークのTV界で活躍し、すでにカンヌ映画祭、ベルリン映画祭などで作品が上映されており本作品は長編5作目だ。
コダックVISIONアワードの「アイ・イン・ザ・スカイ」(Eye in the sky)は、「アジアの商業映画の中でも群を抜く演出力でキャラクター間の緊張感とテンポにより、観客の注意を常に喚起していた」と評価された。本作は香港の連続宝石強盗団とそれを追跡する香港警察の捜査官のアクションが、最新機器などを使ってリアルに展開される。現在、次回作の編集中という理由により、来日できなかったヤウ監督は、「この映画では映画を撮る事の困難を学んだが、受賞は大きな自信になる」などとコメントを寄せた。1968年香港生まれの監督はジョニー・トー監督作品を中心に多くの劇場映画の脚本を担当し、これが劇場用映画のデビュー作。香港映画界期待の新星だ。
観客が選ぶアニエス・ベー・アワード(観客賞)は、マカオのギャング団の抗争を派手な銃撃戦場面たっぷりに描く香港アクション映画で、特別招待作品として上映されたジョニー・トー監督の「Exiled 放・遂」が選ばれた。
審査委員長のイ・チャンドン氏は、審査の経過について「5人の審査員が5・6本の作品について真剣に話し合った結果、全員一致でこの二つの作品を選定した。これは、現在の映画の世界の重要な二つの傾向を示す結果となった」と述べた。
その“重要な傾向”のついて委員長は具体的には説明しなかったが、受賞作作品の内容からいうと、その二つの傾向とは、日常生活に焦点をあてながら、個人の内面を掘り下げて人が生きる普遍的な問題を考えていくという態度と、社会におこる事件を素材としてアクションも取り入れて映画的なおもしろさを堪能させるもの、ということになるだろう。静と動という二つの相反する傾向だが、撮影、編集への最新機器の導入が製作内容と上映環境に大きな寄与をしていることは共通である。
■多彩なトークショーと特集
コンペ以外では、東京フィルメックスではこれまであまり紹介されなかった世界の古典映画の紹介や、また日本のクラシックというべき映画を英語字幕付きで上映し、世界に発信する活動を継続している。本年も、国際交流基金と東京国立近代美術館フィルムセンターとの共催により、インド映画作家、リッティク・ゴトク監督と、日本の社会派映画の巨匠として知られる山本薩夫監督を特集した。
リッティク・ゴトク監督特集では、監督の子息、リトバン・ゴトク氏が来日。シンポジウムでは、ゴトク監督の生地、インドベンガル地方(現在のインド西ベンガル州およびバングラディシュ)の水に満ちた風土や、イギリス、インドの両国に翻弄されてきた同地方の歴史について語られた。ゴトク監督が書き残した文章をリトバン氏が披露して、ベンガル出身のゴトク監督が、いかにこの地方を愛していたか、また映画作家となったのは、多くの人に自分の考えを伝えるためだったなどと、エピソードが披露される場面もあり、日本ではあまり知られていなかった作家に、多くの人が関心を持つきっかけになったようだ。
ベンガル地方出身のインド映画作家としては、サタジット・レイが巨匠として世界的に有名だが、風土と民衆の歴史に根ざした作品を作ったゴトク監督は、ベンガルではレイ監督にも増して愛され、現在、世界的な再評価の気運もあるという。
■慶應大学の連携によるコンテンツを動画配信+ポッド・キャスティング
東京フィルメックスでは昨年度より慶應大学DMC(慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構)と協力し、フィルメックスが蓄積しているコンテンツの一部を動画配信+ポッドキャスティングする試みを行っている。
動画配信においては、アジアの映画作家の声を慶大DMCが開発したインターフェース<VOLUMEONE>装備の動画プラットフォームを使用して配信されている。また昨年度映画祭開催中10日間のポッド・キャスティングアクセス数は1万ログを超え、ニーズが実証された。詳細については下記HPを参照いただきたい。
慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構
http://www.dmc.keio.ac.jp/topics/060510volumeone.html
(取材・文 山之内優子)