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ガジェット 公開日 2023/02/03 13:17
アップル新HomePodが対応、スマートホームがより便利になる「Matter」の価値
【連載】西田宗千佳のネクストゲート 第25回
スマートホームの世界で共通規格「Matter」が立ち上がりつつある。今週末、2月3日に発売されるアップルの新スマートスピーカー「HomePod」(第2世代)も、このMatterに対応する。
Matterは、1月はじめに米ラスベガスで開催された「CES 2023」でも1つのテーマとなっていた。特にサムスンは、自社ブースの中でMatter対応を強くアピールしていた。
では、Matterにはどのような意味があるのか、改めてまとめてみよう。そして、そのことがHomePodにどのような影響を与えるのかも考えていく。
■スマートホーム機器を広げる「Matter」とはなにか
スマートホーム機器はこれまで、「音声アシスタント」と「専用アプリ」に支配された世界だった。音声アシスタントごとにプラットフォームが分かれ、各機器はさらにアプリを入れることでカバーしていた。結果として、スマートホーム機器はどれを買えばいいかが分かりづらく、機能連携のセットアップも面倒、という問題が発生していた。
さらにいうと、実際には「大手3社の規格に対応」という製品は、Matterが出てくる前から存在する、というのが分かりにくい。結局各プラットフォームが必要とする機能も、そこへの対応方法も似ているので、アプリやネットワークサービスを介して対応はできるのだ。だが、設定方法はプラットフォームごとに違うし、機能にも若干の差異が生まれた。
そこで出てくるのが「Matter」だ。通信層をWi-Fi(すなわち家庭内LAN)ベース、設定にBluetoothを併用することで、各プラットフォーマーの間で接続と設定の互換性を維持する。
すなわち、機器を買う時には「Matter対応かどうか」を確認すればいいし、設定方法も統一される。このことは、基本的にどのメーカーにとってもプラスだ。
Amazon(Alexa)やGoogle(Googleアシスタント)にとっては、すでにある基盤を強化してスマートホーム機器の利用継続につなげることができる。そしてプラットフォームの普及数量として不利なアップルは、当然「対応機器拡大」という恩恵を受けることになる。
冒頭でサムスンがMatterに積極的、という話を紹介したが、これも理由は同じ。サムスン自身のプラットフォームである「SmartThings」はさほど普及していない。しかしMatter対応になれば他のプラットフォームと家庭内で「相互乗り入れ」もできるので、テレビやスマホから家庭に入っておけば、結果的にスマートホームビジネスに絡んでいく道筋が残る。
■アップルにとってMatterは追い風
初代のHomePodを改めて使ってみると、「便利だが不利」なのも見えてくる。仕事場にはAlexa対応の機器がいくつかあり、それらの中には「Siriにも対応」「HomeKit(アップルのスマートホームプラットフォーム)にも対応」というものがある。しかし、セットアップの方法が違うこと、機能を呼び出すための手法が違うことなどから、HomePodが使う「ホーム」アプリからの呼び出しや連携ができないものもあった。
HomePod(第2世代)には、新たに「室温」と「湿度」のセンサーが搭載された。実はHomePod miniにも搭載されており、最新のアップデートから利用可能になるのだという。
これらのセンサーは、単に温度・湿度を表示するだけでなく、家電機器との連携にも使える。「湿度が一定以上に下がったら加湿器をオンにする」とか、「朝5時以降で気温が一定以下になったらエアコンを入れる」みたいなことも簡単にできる。
ただそのためには、現状はHomeKitに対応している機器が必要になる。しかし、HomeKitはAlexaやGoogleアシスタントに比べシェアで不利であり、そうした連携ができる機器を探すのは大変だろう。Matter対応が広がることで、互角の戦いができる環境が整うというわけだ。
■普及はこれから、各社は乗り合って「UI」で差別化を
ただ、今日の段階でそのような理想的な環境が出来上がっているのか、というとそうではない。Matter対応の機器はまだほとんど市場には出ておらず、筆者もまだ、1つも手に入れていない状況だ。
現状はようやくプラットフォーマー側の準備が整いつつある……というレベルに過ぎない。すでにある機器の中には、ソフトウェアのアップデートでMatterに対応することを目指しているものもあるが、安価なものの中には「アップデートしない」ことを選ぶものもあるはずだ。
プラットフォーマーとしても、アップルとGoogleはMatterの準備を終えているが、Amazonはこれから数ヶ月の間で、同社のスマートスピーカー「Echo」をMatter対応へとアップデートしていく。
CESでもMatter対応機器は見かけたが、これらの状況を踏まえると、実際に製品が市場に広がるには、やはり半年から1年くらいの時間は必要になるだろう。そしてさらに、プラットフォーマーはその上から「同じMatterでも、自社ではこんなに簡単・便利です」という部分を競い始めることになる。
アップルは当然、自社製品同士での連携に力を入れ、「アップル製品同士だとこんなに便利」という点を強くアピールするだろう。Amazonも過去から「フラストレーションフリー・セットアップ」という技術を用意し、スマートホーム機器の設定を簡便化する方向性にある。これらプラットフォーマーによる差別化は「Matterの上位で動作するもの」になるので、彼らは今後も力を入れ続けるだろう。
アップルがHomePodをリニューアルしたのは、Matterの登場でスマートホームが再び活性化すると期待したからだろう。音楽ストリーミングサービスとして、Apple Musicは十分なシェアがあり、認知度も大きい。だが、そこからスマートスピーカーやスマートホームへの連携という意味では、Amazonほどうまくつなげられていない。Matterの登場は、当然そこで大きな武器になる。
他方でAmazonなどから見ても、アップルファンがアップルのプラットフォームだけを使うのではなく、「Alexaとの相互乗り入れ」で使う環境を想定しやすくなるので、やはりチャンスであることに変わりはないわけだ。
Matterは、1月はじめに米ラスベガスで開催された「CES 2023」でも1つのテーマとなっていた。特にサムスンは、自社ブースの中でMatter対応を強くアピールしていた。
では、Matterにはどのような意味があるのか、改めてまとめてみよう。そして、そのことがHomePodにどのような影響を与えるのかも考えていく。
■スマートホーム機器を広げる「Matter」とはなにか
スマートホーム機器はこれまで、「音声アシスタント」と「専用アプリ」に支配された世界だった。音声アシスタントごとにプラットフォームが分かれ、各機器はさらにアプリを入れることでカバーしていた。結果として、スマートホーム機器はどれを買えばいいかが分かりづらく、機能連携のセットアップも面倒、という問題が発生していた。
さらにいうと、実際には「大手3社の規格に対応」という製品は、Matterが出てくる前から存在する、というのが分かりにくい。結局各プラットフォームが必要とする機能も、そこへの対応方法も似ているので、アプリやネットワークサービスを介して対応はできるのだ。だが、設定方法はプラットフォームごとに違うし、機能にも若干の差異が生まれた。
そこで出てくるのが「Matter」だ。通信層をWi-Fi(すなわち家庭内LAN)ベース、設定にBluetoothを併用することで、各プラットフォーマーの間で接続と設定の互換性を維持する。
すなわち、機器を買う時には「Matter対応かどうか」を確認すればいいし、設定方法も統一される。このことは、基本的にどのメーカーにとってもプラスだ。
Amazon(Alexa)やGoogle(Googleアシスタント)にとっては、すでにある基盤を強化してスマートホーム機器の利用継続につなげることができる。そしてプラットフォームの普及数量として不利なアップルは、当然「対応機器拡大」という恩恵を受けることになる。
冒頭でサムスンがMatterに積極的、という話を紹介したが、これも理由は同じ。サムスン自身のプラットフォームである「SmartThings」はさほど普及していない。しかしMatter対応になれば他のプラットフォームと家庭内で「相互乗り入れ」もできるので、テレビやスマホから家庭に入っておけば、結果的にスマートホームビジネスに絡んでいく道筋が残る。
■アップルにとってMatterは追い風
初代のHomePodを改めて使ってみると、「便利だが不利」なのも見えてくる。仕事場にはAlexa対応の機器がいくつかあり、それらの中には「Siriにも対応」「HomeKit(アップルのスマートホームプラットフォーム)にも対応」というものがある。しかし、セットアップの方法が違うこと、機能を呼び出すための手法が違うことなどから、HomePodが使う「ホーム」アプリからの呼び出しや連携ができないものもあった。
HomePod(第2世代)には、新たに「室温」と「湿度」のセンサーが搭載された。実はHomePod miniにも搭載されており、最新のアップデートから利用可能になるのだという。
これらのセンサーは、単に温度・湿度を表示するだけでなく、家電機器との連携にも使える。「湿度が一定以上に下がったら加湿器をオンにする」とか、「朝5時以降で気温が一定以下になったらエアコンを入れる」みたいなことも簡単にできる。
ただそのためには、現状はHomeKitに対応している機器が必要になる。しかし、HomeKitはAlexaやGoogleアシスタントに比べシェアで不利であり、そうした連携ができる機器を探すのは大変だろう。Matter対応が広がることで、互角の戦いができる環境が整うというわけだ。
■普及はこれから、各社は乗り合って「UI」で差別化を
ただ、今日の段階でそのような理想的な環境が出来上がっているのか、というとそうではない。Matter対応の機器はまだほとんど市場には出ておらず、筆者もまだ、1つも手に入れていない状況だ。
現状はようやくプラットフォーマー側の準備が整いつつある……というレベルに過ぎない。すでにある機器の中には、ソフトウェアのアップデートでMatterに対応することを目指しているものもあるが、安価なものの中には「アップデートしない」ことを選ぶものもあるはずだ。
プラットフォーマーとしても、アップルとGoogleはMatterの準備を終えているが、Amazonはこれから数ヶ月の間で、同社のスマートスピーカー「Echo」をMatter対応へとアップデートしていく。
CESでもMatter対応機器は見かけたが、これらの状況を踏まえると、実際に製品が市場に広がるには、やはり半年から1年くらいの時間は必要になるだろう。そしてさらに、プラットフォーマーはその上から「同じMatterでも、自社ではこんなに簡単・便利です」という部分を競い始めることになる。
アップルは当然、自社製品同士での連携に力を入れ、「アップル製品同士だとこんなに便利」という点を強くアピールするだろう。Amazonも過去から「フラストレーションフリー・セットアップ」という技術を用意し、スマートホーム機器の設定を簡便化する方向性にある。これらプラットフォーマーによる差別化は「Matterの上位で動作するもの」になるので、彼らは今後も力を入れ続けるだろう。
アップルがHomePodをリニューアルしたのは、Matterの登場でスマートホームが再び活性化すると期待したからだろう。音楽ストリーミングサービスとして、Apple Musicは十分なシェアがあり、認知度も大きい。だが、そこからスマートスピーカーやスマートホームへの連携という意味では、Amazonほどうまくつなげられていない。Matterの登場は、当然そこで大きな武器になる。
他方でAmazonなどから見ても、アップルファンがアップルのプラットフォームだけを使うのではなく、「Alexaとの相互乗り入れ」で使う環境を想定しやすくなるので、やはりチャンスであることに変わりはないわけだ。