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公開日 2009/10/07 14:52
【山形国際ドキュメンタリー映画祭 連続企画(2)】ディレクターが語る今年の映画祭
10月8日(木)から一週間、山形市で、山形国際ドキュメンタリー映画祭(Yamagata International Documentary Film Festival 以下YIDFF )が開催される。特徴のある運営や、制作者と鑑賞者が交流する暖かい雰囲気の国際映画祭として、世界的な評価を受けている。世界各地の現状を映画を通してリアルに知ることができる今年のプログラムについて、映画祭ディレクターの藤岡朝子さんにお話をうかがった。今回は、映画祭全体のプログラムについてご説明いただく。
◯ドキュメンタリー映画の魅力
_ いよいよ今週から、YIDFF(山形国際ドキュメンタリー映画祭)が開催されます。隔年で開催されるので、2年ぶりです。最近は一般の劇場でもドキュメンタリー映画が上映されるようになり、観客数も増加しているようですが、ドキュメンタリー映画のおもしろさについて、藤岡さんはどう思われますか?
藤岡:いろいろなことがありますが、私がおもしろいと思うのは、ドキュメンタリーには、あらゆる創作の原点、本質が写っているということです。何か作ろうとする人がいて、その人と世界が向き合ったときに、そこに緊張関係が生まれるじゃないですか。フィクションの場合は作っている人のほうの力が強いわけですよね。お金とか人とか駆使して自分の世界をつくりあげることができるけれど、ドキュメンタリーの場合は、作っている人と世界が、かけひきのなかで四つに組んでいる。そこのところがおもしろいですよね。
それと、もう一つは、今、社会が変わってきていると思いますが、ドキュメンタリーはいろんな人の視点がはっきり写っているメディアであるとも感じます。
◯コンペティション部門で世界とアジアを知る
_ 今年は、長編、短篇あわせて約130本の映画が上映されるということですが、これらはどんなプログラムでしょうか?
藤岡:まず一番の柱となるのは、インターナショナルコンペティションです。今年は、110の国と地域から応募された1,141本から最新の長編映画15本を上映します。
次に柱となっているのは、アジア千波万波部門です。アジアのまだ荒々しいけれど、これから可能性を感じられるような作家たちの新作をご紹介している部門で、こちらもコンペ形式です。今年は57の国と地域の655作品から選んだ19作品が上映されます。
_ この部門は、YIDFF発足以来、ドキュメンタリーを志すアジアの映画作家の登竜門と言われていますね。
藤岡 :今は他のアジアの国にもドキュメンタリー映画祭がありますので、YIDFFが発足した当初とは状況が変わってはいますが、ここから、これからも新人が育ってほしいと期待しています。YIDFFのアジア千波万波では、ウェルメイドに完成している作品というより、ごつごつしていても、それだけ個性があって、作品自体に若さがある作品を選んでいるのが特色です。
◯コアなファンが通う特集上映では「島」と「ギイ・ドゥボール」特集
_ その他にはどんな特集上映がありますか?
藤岡:ニュードックス・ジャパン部門は、主催国の映画を世界にご紹介するという、国際映画祭の使命を考えて、日本についての映画を上映してきました。今年はこの部門にも力を入れ、10本を上映します。
またキュレーターが、テーマに基づいて特集を組むプログラムもYIDFFの特徴があって、ここでしか見られない映画が多く上映されます。この部門に足しげく通っているコアなお客さんも多いんですよ。今回は島をテーマとする“シマ/島 − 漂流する映画たち”、それに、日仏学院との共催で上映する、ギィ・ドゥボールの特集があります。ギイ・ドゥボールはフランスの現代思想家であり、映画も作っているという人です。ゴダールなどの映画作家たちにも影響を与えていて、長らく特集企画を暖めていたんですが、やっと実現することができました。本邦初の上映です。
◯「やまがたと映画」で上映される「本田猪四郎」作品、ナトコ映画
藤岡:また、「やまがたと映画」特集では、山形県鶴岡市出身の本田猪四郎監督の貴重な映画が上映されます。『ゴジラ』の監督として有名な方ですが、実はドキュメンタリーの巨匠、ロバート・フラハティの影響も受けているんですよ。他に、戦後GHQの民主主義啓蒙政策として上映されたナトコ映画という一連の教育映画特集があります。山形では、このナトコ映画の上映が盛んだったという歴史があります。歴史的に、人口比の割に山形は映画館が多かったり、上映活動を活発にしている人がいたりしたんです。上映者と観客との出会いの場としてナトコ映画を考える試みになっています。現在、ほんの50年ほど前のフィルムが廃棄されたりして無くなっていることが多いんですが、今回は、NHK映像アーカイブから貴重なフィルムをお借りしました。
◯EUとの共同企画
_ 「明日へ向かって」という特集はどういう内容ですか?
藤岡:EUの中に東京に文化機関をおいているところが13カ所あり、それがEUNIC JAPAN(在日EU文化機関ネットワーク)という組織を作っています。「明日に向かって」はこの組織が、山形でひとつプログラムをやろうということでいただいた企画です。ありがたいことに、ここでお披露目をし、観客や映画祭に参加されている様々な方へのメッセージになると思ってくださっていますね。今回は子供や若者をテーマにした映画を集めて5本を上映します。制作や監督はEUであるけれども、自分の国でなく外に出て撮っている作品が多いです。
◯今年の特徴として
_ 今年の上映作品で特徴となっていることはありますか?
朝岡:「明日へ向かって」の作品もそうですが、監督が自分の国や所属するコミュニティとは別の場に出かけていって、外からの視点でコミュニティを見ている映画が多くなってきていますね。制作は単一組織のものから数カ国などに渡る複数で作っているものが、ますます増えています。また、技術的には、圧倒的にビデオでの制作が増えていますね。
YIDFFでは、監督と観客のトークセッションやセミナー、映画制作を志す者のためのワークショップも開催される。地元ボランティアスタッフが来日監督インタビューを行って、映画祭の模様を伝える新聞も連日発行され、映画祭をもりあげる。各国からきた監督たちと観客たちが、映画祭期間限定の居酒屋で深夜まで語り合う光景も山形の定番だ。親密な雰囲気の映画鑑賞体験に、山形に何度も足を運ぶ観客も多いという。
次回は、各部門プログラムから、作品をご紹介いただく。
プログラム等詳細については、以下のサイトへ。
山形国際ドキュメンタリー映画祭
http://www.yidff.jp/2009/2009.html
映画祭の入場券は、1回券(前売り¥1,000、当日¥1,200)、割引となる3枚綴り、10枚綴り券。全作品を鑑賞できるカタログ付き共通鑑賞券(¥10,000)が用意されている。
全国のチケットぴあ(Pコード 461−035)、コンビニ(サークルK、サンクス、ファミリーマート)、宮城、山形、福島のJR東日本みどりの窓口、びゅうプラザ、映画祭事務局で発売中。
【上映作品紹介】
◯インターナショナル・コンペティション部門
「RiP! リミックス宣言」RiP! A Remix Manifesto
カナダ/2008/英語/カラー/ビデオ/86分
監督:ブレット・ゲイラー Brett Gaylor
知的財産権について問いながら、オリジナリティとは何かを考察する。
「包囲:デモクラシーとネオリベラリズムの罠」Encirclement--Neo-Liberalism Ensnares Democracy
カナダ/2008/フランス語、英語/モノクロ/ビデオ/160分
監督:リシャール・ブルイエット Richard Brouillette
新自由主義イデオロギーの基盤をなすエリート主義と帝国主義支配の原理の起源と現状、メディア的制度を批判的に再構成するインタビュー・ドキュメンタリー。
「生まれたのだから」Because We Were Born
フランス、ブラジル/2008/ポルトガル語/カラー/35mm/90分
監督:ジャン=ピエール・デュレ、アンドレア・サンタナ Jean-Pierre Duret, Andrea Santana
ブラジルのペルナンブーコ州郊外に暮らす2人の少年が厳しい現実に向き合って生きる姿。
◯アジア千波万波
「馬先生の診療所」 Doctor Ma's Country Clinic
中国/2008/中国語/カラー/ビデオ/215分
監督:叢峰(ツォン・フォン) Cong Feng
甘粛省の山間にある、馬先生の東洋医学の診療所。待合室の来訪者の声に耳を澄まし、農村に生きる現実を映し出す。
「長居青春酔夢歌」Nagai Park Elegy
日本/2009/日本語/カラー/ビデオ/69分
監督:NDS佐藤零郎
大阪の長居公園。ブルーシートの家の住人が強制排除されようとしている状況が目の前にある時どうするか。2007年冬。NDS(中崎町ドキュメンタリースペース)製作。
ニュードックス・ジャパン より
「究竟の地 ― 岩崎鬼剣舞の一年」Ultimate Land--A Year of Iwasaki Onikenbai
日本/2008/ビデオ/161分
監督:三宅流 Miyake Nagaru
岩手県の農村に伝わる郷土芸能・岩崎鬼剣舞。地域の人々の身体に刻まれた伝統の記録。
(取材・構成 山之内優子 )
◯ドキュメンタリー映画の魅力
_ いよいよ今週から、YIDFF(山形国際ドキュメンタリー映画祭)が開催されます。隔年で開催されるので、2年ぶりです。最近は一般の劇場でもドキュメンタリー映画が上映されるようになり、観客数も増加しているようですが、ドキュメンタリー映画のおもしろさについて、藤岡さんはどう思われますか?
藤岡:いろいろなことがありますが、私がおもしろいと思うのは、ドキュメンタリーには、あらゆる創作の原点、本質が写っているということです。何か作ろうとする人がいて、その人と世界が向き合ったときに、そこに緊張関係が生まれるじゃないですか。フィクションの場合は作っている人のほうの力が強いわけですよね。お金とか人とか駆使して自分の世界をつくりあげることができるけれど、ドキュメンタリーの場合は、作っている人と世界が、かけひきのなかで四つに組んでいる。そこのところがおもしろいですよね。
それと、もう一つは、今、社会が変わってきていると思いますが、ドキュメンタリーはいろんな人の視点がはっきり写っているメディアであるとも感じます。
◯コンペティション部門で世界とアジアを知る
_ 今年は、長編、短篇あわせて約130本の映画が上映されるということですが、これらはどんなプログラムでしょうか?
藤岡:まず一番の柱となるのは、インターナショナルコンペティションです。今年は、110の国と地域から応募された1,141本から最新の長編映画15本を上映します。
次に柱となっているのは、アジア千波万波部門です。アジアのまだ荒々しいけれど、これから可能性を感じられるような作家たちの新作をご紹介している部門で、こちらもコンペ形式です。今年は57の国と地域の655作品から選んだ19作品が上映されます。
_ この部門は、YIDFF発足以来、ドキュメンタリーを志すアジアの映画作家の登竜門と言われていますね。
◯コアなファンが通う特集上映では「島」と「ギイ・ドゥボール」特集
_ その他にはどんな特集上映がありますか?
藤岡:ニュードックス・ジャパン部門は、主催国の映画を世界にご紹介するという、国際映画祭の使命を考えて、日本についての映画を上映してきました。今年はこの部門にも力を入れ、10本を上映します。
またキュレーターが、テーマに基づいて特集を組むプログラムもYIDFFの特徴があって、ここでしか見られない映画が多く上映されます。この部門に足しげく通っているコアなお客さんも多いんですよ。今回は島をテーマとする“シマ/島 − 漂流する映画たち”、それに、日仏学院との共催で上映する、ギィ・ドゥボールの特集があります。ギイ・ドゥボールはフランスの現代思想家であり、映画も作っているという人です。ゴダールなどの映画作家たちにも影響を与えていて、長らく特集企画を暖めていたんですが、やっと実現することができました。本邦初の上映です。
◯「やまがたと映画」で上映される「本田猪四郎」作品、ナトコ映画
藤岡:また、「やまがたと映画」特集では、山形県鶴岡市出身の本田猪四郎監督の貴重な映画が上映されます。『ゴジラ』の監督として有名な方ですが、実はドキュメンタリーの巨匠、ロバート・フラハティの影響も受けているんですよ。他に、戦後GHQの民主主義啓蒙政策として上映されたナトコ映画という一連の教育映画特集があります。山形では、このナトコ映画の上映が盛んだったという歴史があります。歴史的に、人口比の割に山形は映画館が多かったり、上映活動を活発にしている人がいたりしたんです。上映者と観客との出会いの場としてナトコ映画を考える試みになっています。現在、ほんの50年ほど前のフィルムが廃棄されたりして無くなっていることが多いんですが、今回は、NHK映像アーカイブから貴重なフィルムをお借りしました。
◯EUとの共同企画
_ 「明日へ向かって」という特集はどういう内容ですか?
藤岡:EUの中に東京に文化機関をおいているところが13カ所あり、それがEUNIC JAPAN(在日EU文化機関ネットワーク)という組織を作っています。「明日に向かって」はこの組織が、山形でひとつプログラムをやろうということでいただいた企画です。ありがたいことに、ここでお披露目をし、観客や映画祭に参加されている様々な方へのメッセージになると思ってくださっていますね。今回は子供や若者をテーマにした映画を集めて5本を上映します。制作や監督はEUであるけれども、自分の国でなく外に出て撮っている作品が多いです。
◯今年の特徴として
_ 今年の上映作品で特徴となっていることはありますか?
朝岡:「明日へ向かって」の作品もそうですが、監督が自分の国や所属するコミュニティとは別の場に出かけていって、外からの視点でコミュニティを見ている映画が多くなってきていますね。制作は単一組織のものから数カ国などに渡る複数で作っているものが、ますます増えています。また、技術的には、圧倒的にビデオでの制作が増えていますね。
YIDFFでは、監督と観客のトークセッションやセミナー、映画制作を志す者のためのワークショップも開催される。地元ボランティアスタッフが来日監督インタビューを行って、映画祭の模様を伝える新聞も連日発行され、映画祭をもりあげる。各国からきた監督たちと観客たちが、映画祭期間限定の居酒屋で深夜まで語り合う光景も山形の定番だ。親密な雰囲気の映画鑑賞体験に、山形に何度も足を運ぶ観客も多いという。
次回は、各部門プログラムから、作品をご紹介いただく。
プログラム等詳細については、以下のサイトへ。
山形国際ドキュメンタリー映画祭
http://www.yidff.jp/2009/2009.html
映画祭の入場券は、1回券(前売り¥1,000、当日¥1,200)、割引となる3枚綴り、10枚綴り券。全作品を鑑賞できるカタログ付き共通鑑賞券(¥10,000)が用意されている。
全国のチケットぴあ(Pコード 461−035)、コンビニ(サークルK、サンクス、ファミリーマート)、宮城、山形、福島のJR東日本みどりの窓口、びゅうプラザ、映画祭事務局で発売中。
【上映作品紹介】
◯インターナショナル・コンペティション部門
「RiP! リミックス宣言」RiP! A Remix Manifesto
カナダ/2008/英語/カラー/ビデオ/86分
監督:ブレット・ゲイラー Brett Gaylor
知的財産権について問いながら、オリジナリティとは何かを考察する。
「包囲:デモクラシーとネオリベラリズムの罠」Encirclement--Neo-Liberalism Ensnares Democracy
カナダ/2008/フランス語、英語/モノクロ/ビデオ/160分
監督:リシャール・ブルイエット Richard Brouillette
新自由主義イデオロギーの基盤をなすエリート主義と帝国主義支配の原理の起源と現状、メディア的制度を批判的に再構成するインタビュー・ドキュメンタリー。
「生まれたのだから」Because We Were Born
フランス、ブラジル/2008/ポルトガル語/カラー/35mm/90分
監督:ジャン=ピエール・デュレ、アンドレア・サンタナ Jean-Pierre Duret, Andrea Santana
ブラジルのペルナンブーコ州郊外に暮らす2人の少年が厳しい現実に向き合って生きる姿。
◯アジア千波万波
「馬先生の診療所」 Doctor Ma's Country Clinic
中国/2008/中国語/カラー/ビデオ/215分
監督:叢峰(ツォン・フォン) Cong Feng
甘粛省の山間にある、馬先生の東洋医学の診療所。待合室の来訪者の声に耳を澄まし、農村に生きる現実を映し出す。
「長居青春酔夢歌」Nagai Park Elegy
日本/2009/日本語/カラー/ビデオ/69分
監督:NDS佐藤零郎
大阪の長居公園。ブルーシートの家の住人が強制排除されようとしている状況が目の前にある時どうするか。2007年冬。NDS(中崎町ドキュメンタリースペース)製作。
ニュードックス・ジャパン より
「究竟の地 ― 岩崎鬼剣舞の一年」Ultimate Land--A Year of Iwasaki Onikenbai
日本/2008/ビデオ/161分
監督:三宅流 Miyake Nagaru
岩手県の農村に伝わる郷土芸能・岩崎鬼剣舞。地域の人々の身体に刻まれた伝統の記録。
(取材・構成 山之内優子 )