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公開日 2009/10/08 15:21
【山形国際ドキュメンタリー映画祭 連続企画(3)】ディレクターが語る今年の映画祭・各作品リコメンド
10月8日(木)から15日(木)まで、山形市で山形国際ドキュメンタリー映画祭(Yamagata International Documentary Film Festival 以下YIDFF )が開催されている。国際的にも評価の高い映画祭の今年のプログラムについて、映画祭東京事務局ディレクターの藤岡朝子さんにインタビューした。
◯インターナショナル・コンペティション部門
本日から山形国際ドキュメンタリー映画祭が開催される。開会式の後、オープニング作品として、佐藤真監督の「阿賀の記憶」上映の後、メイン会場では、いよいよインターナショナル・コンペティション作品の上映が始まる。
映画祭の柱となるインターナショナル・コンペティションについて、山形国際ドキュメンタリー映画祭ディレクターの藤岡朝子氏にうかがった。
_ 今年はインターナショナル・コンペティション部門に110の国と地域から1,140の作品が応募されています。このうち上映される15作品を選ぶ選考方法ですが、YIDFFでは複数の選考委員が討議で上映作品を選ぶと聞いています。
藤岡朝子氏(山形国際ドキュメンタリー映画祭ディレクター):はい。欧米の映画祭ではディレクター制で、一人の人が上映作品を決めることが多いのですが、YIDFFでは山形と東京で、市民も含めた選考委員たちが合議制で上映作品の選考をしています。
_ コンペティション審査員の作品上映もあるということですが、今年の審査員はどんな方ですか?
藤岡:インターナショナル・コンペティションは5人の審査員が作品を選考します。フランスからいらっしゃるヌリット・アヴィヴさんはフランス初の女性撮影監督でアニエス・ヴァルダ、アモス・ギタイ、ジャック・ドワイヨンなど大物監督の作品を撮影をされた方です。彼女はイスラエル系フランス人で、今回上映する作品も、イスラエルを舞台にしています。
中国からは中国インディペンデント・ドキュメンタリーフィルムの第一人者の呉文光(ウー・ウェンガン)監督が10年ぶりに来日します。インドネシアのガリン・ヌグロホ監督は、フィクションもドキュメンタリーも国際的に評価の高いインドネシアの中堅監督です。日本からは、近年、映像作品のシリーズを展開されている現代詩人の吉増剛造さんが審査員として参加されます。沖縄に関心の深い吉増さんの作品は、島についての特集でも上映されます。
審査員の中で一番謎の人物なのが、チェコのカレル・ヴァヘックさんです。60年代チェコで活動を禁止された伝説の反体制映画作家なんですが、今まで日本では紹介されていない方です。89年に冷戦が終わって自由に表現ができるようになったといわれている時代以降、映画制作を再開し、現状への痛烈な社会批評のある映画を作っています。『監視員を監視するのは誰?』という今回上映する作品は、スメタナの「ダリボル」というオペラをプラハの国立劇場で練習しているところに、元テロリストとか社会運動家を呼んで来て、社会についてしゃべってもらうというおもしろい表現の映画です。音楽もいいですよ。
_ コンペで上映される15作品について、今年の特色などがありますか?
藤岡:何かテーマを先に設定して選んでいるのではないので様々な作品があるんですが、異文化交流というか、外部の者が新たな目で何かを問い返すという視点がある作品が増えていますね。
「ナオキ」はイギリス人の監督が山形のワーキングプアのおじさんを撮っています。今までだと外国の人が日本を撮ろうと思ったときに、エキゾチックだったり美化しているものが多く、日本人が見て、まさにこれが日本だというような納得のいくものがなかったと思うんです。この映画はそうした映画とは違っています。日本、しかも山形についてのテーマの作品がインターナショナル・コンペで上映されることは、山形でもとても話題になっています。この作品は日本人に大きな問題をつきつけていて、いろんな問題をかかえながらカップルでいるというのはどういうことかなあと思わせられますね。
私の大好きな映画、「生まれたのだから」はフランス人の監督がブラジル人のパートナーと一緒に、ブラジルで暮らす二人の少年の姿を追っているものです。何がおこるというわけではなく、現実の中に生きる少年が、現実についてや未来について考えたりしているというものなんです。貧しくて子供というと、それだけでこういうものかなと被写体としてきめつけがちなんですが、彼らのつぶやく言葉は、ブラジルの少年の言葉なのに、日本に生きている自分の人生をはっと振り返ってしまうほど哲学的で考えさせられるところがある。監督はブラジルの主要な映画の音響をやっていた方です。
「母」はウクライナのおばさんの話で、子供を9人育てている女性と家族の日常生活を追っただけといえば、そうなんですが、それが見事です。彼女の顔にカメラが切迫していくんですよ。写されている状況は悲惨なものなんですが、顔を見ていると彼女は一心不乱に子供たちのことを思って生きているんです。スイス人ジャーナリストとロシア人カメラマンの共同監督です。
「アポロノフカ桟橋」はウクライナの港町の一夏をルーマニア出身のドイツ人監督が撮影しています。
_ 他にもいろいろなタイプの作品があるようですね。
藤岡:「Z32」は、イスラエルの監督の作品ですが、外からの目でイスラエルの戦闘地に行かされている若者、兵士の問題を扱おうとしている作品です。
アメリカ人フェミニスト映像作家の「私と運転席の男たち」は、自分の人生を振り返って自分のアイデンティティを確認しているというパーソナルドキュメンタリーのタイプの作品です。これは、今までも多かったタイプの作品です。
「RIP! リミックス宣言」は映画作品の再利用をしたりする場合の著作権の問題を扱っています。文明がもっている創造性は前の世代が作ったものを真似したり、改変したりするもので、文明は個人が所有できるものではないのではないかという問いかけがあります。
(インタビューは次回に続く)
この他にもアムステルダム国立美術館の内幕を描く「アムステルダム新国立美術館」や、「若きウェルテルの悩み」のモデルである先祖を持つハンガリー旧家の250年の歴史を描く「私はフォンホフレル(ヴェルテル変奏曲)」など、ヨーロッパの歴史に関連する作品、また、新自由主義の基盤をなすエリート主義を批判する「包囲:デモクラシーとネオリベラリズムの罠」、スイスの難民収容施設で難民の日常的な“選別”が行われている実態を描く「要塞」など、多様な切り口の作品がそろっている。
次回は、アジアの作品を含め、他の部門について、うかがう。
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【上映作品紹介】
<映画祭オープニング上映作品>
阿賀の記憶」
日本/2004/日本語/カラー/16mm/55分 監督:佐藤真
佐藤真監督は日本のドキュメンタリーを牽引していくと期待されていたが、2007年に急逝した。今回、関係の深かった山形でオープニング上映が行われる「阿賀の記憶」は、名作『阿賀に生きる』から10年たち、撮影隊が新潟の阿賀野川のほとりに暮らす人々を再訪する映画。人々の生活と記憶をめぐる思索の物語でもある。
<インターナショナル・コンペティション審査員作品より>
ある詩人
インドネシア/2000年/監督 ガリン・ヌグロホ
アチェ地方の伝統歌謡ディドンの形式を借り、スハルトによる市民の大虐殺事件(1965)を描く
監視員を監視するのは誰?
チェコ/監督 カレル・ヴァヘック
60年代チェコで活動を禁止された伝説の反体制映画作家カレル・ヴァヘックは89年以降、活動を再開した。本作はプラハの国立劇場でのスメタナのオペラと社会批判の言葉が交錯する。
<インターナショナル・コンペティション 応募作品より>
ナオキ Japan: A Story of Love and Hate
イギリス、日本/2008/英語、日本語/カラー/ビデオ/110分
監督:ショーン・マカリスター Sean Mcallister
イギリス人監督が山形を舞台に日本のワーキングプア層の悲哀と希望を描く国際共同製作作品。
生まれたのだから Because We Were Born
フランス、ブラジル/2008/ポルトガル語/カラー/35mm/90分
監督:ジャン=ピエール・デュレ、アンドレア・サンタナ
ブラジルのペルナンブーコ州郊外に暮らす2人の少年。厳しい現実を生きる少年たちの顔には希望の光が差している。
母 The Mother
スイス、フランス、ロシア/2007/ロシア語/カラー/ビデオ/80分
監督:アントワーヌ・カタン、パヴェル・コストマロフ
9人の子どもを連れて暴力的な夫から逃げ出したリューバ。貧しくとも、営み続ける母なる力を見せつけてくれる。
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プログラム等詳細については、以下のサイトへ。
山形国際ドキュメンタリー映画祭
http://www.yidff.jp/2009/2009.html
映画祭の入場券は、1回券(前売り¥1,000、当日¥1,200)、割引となる3枚綴り、10枚綴り券。全作品を鑑賞できるカタログ付き共通鑑賞券(¥10,000)が用意されている。
全国のチケットぴあ(Pコード 461−035)、コンビニ(サークルK、サンクス、ファミリーマート)、宮城、山形、福島のJR東日本みどりの窓口、びゅうプラザ、映画祭事務局で発売中。
(取材・構成 山之内優子)
◯インターナショナル・コンペティション部門
本日から山形国際ドキュメンタリー映画祭が開催される。開会式の後、オープニング作品として、佐藤真監督の「阿賀の記憶」上映の後、メイン会場では、いよいよインターナショナル・コンペティション作品の上映が始まる。
映画祭の柱となるインターナショナル・コンペティションについて、山形国際ドキュメンタリー映画祭ディレクターの藤岡朝子氏にうかがった。
_ 今年はインターナショナル・コンペティション部門に110の国と地域から1,140の作品が応募されています。このうち上映される15作品を選ぶ選考方法ですが、YIDFFでは複数の選考委員が討議で上映作品を選ぶと聞いています。
藤岡朝子氏(山形国際ドキュメンタリー映画祭ディレクター):はい。欧米の映画祭ではディレクター制で、一人の人が上映作品を決めることが多いのですが、YIDFFでは山形と東京で、市民も含めた選考委員たちが合議制で上映作品の選考をしています。
_ コンペティション審査員の作品上映もあるということですが、今年の審査員はどんな方ですか?
藤岡:インターナショナル・コンペティションは5人の審査員が作品を選考します。フランスからいらっしゃるヌリット・アヴィヴさんはフランス初の女性撮影監督でアニエス・ヴァルダ、アモス・ギタイ、ジャック・ドワイヨンなど大物監督の作品を撮影をされた方です。彼女はイスラエル系フランス人で、今回上映する作品も、イスラエルを舞台にしています。
中国からは中国インディペンデント・ドキュメンタリーフィルムの第一人者の呉文光(ウー・ウェンガン)監督が10年ぶりに来日します。インドネシアのガリン・ヌグロホ監督は、フィクションもドキュメンタリーも国際的に評価の高いインドネシアの中堅監督です。日本からは、近年、映像作品のシリーズを展開されている現代詩人の吉増剛造さんが審査員として参加されます。沖縄に関心の深い吉増さんの作品は、島についての特集でも上映されます。
審査員の中で一番謎の人物なのが、チェコのカレル・ヴァヘックさんです。60年代チェコで活動を禁止された伝説の反体制映画作家なんですが、今まで日本では紹介されていない方です。89年に冷戦が終わって自由に表現ができるようになったといわれている時代以降、映画制作を再開し、現状への痛烈な社会批評のある映画を作っています。『監視員を監視するのは誰?』という今回上映する作品は、スメタナの「ダリボル」というオペラをプラハの国立劇場で練習しているところに、元テロリストとか社会運動家を呼んで来て、社会についてしゃべってもらうというおもしろい表現の映画です。音楽もいいですよ。
_ コンペで上映される15作品について、今年の特色などがありますか?
藤岡:何かテーマを先に設定して選んでいるのではないので様々な作品があるんですが、異文化交流というか、外部の者が新たな目で何かを問い返すという視点がある作品が増えていますね。
「ナオキ」はイギリス人の監督が山形のワーキングプアのおじさんを撮っています。今までだと外国の人が日本を撮ろうと思ったときに、エキゾチックだったり美化しているものが多く、日本人が見て、まさにこれが日本だというような納得のいくものがなかったと思うんです。この映画はそうした映画とは違っています。日本、しかも山形についてのテーマの作品がインターナショナル・コンペで上映されることは、山形でもとても話題になっています。この作品は日本人に大きな問題をつきつけていて、いろんな問題をかかえながらカップルでいるというのはどういうことかなあと思わせられますね。
私の大好きな映画、「生まれたのだから」はフランス人の監督がブラジル人のパートナーと一緒に、ブラジルで暮らす二人の少年の姿を追っているものです。何がおこるというわけではなく、現実の中に生きる少年が、現実についてや未来について考えたりしているというものなんです。貧しくて子供というと、それだけでこういうものかなと被写体としてきめつけがちなんですが、彼らのつぶやく言葉は、ブラジルの少年の言葉なのに、日本に生きている自分の人生をはっと振り返ってしまうほど哲学的で考えさせられるところがある。監督はブラジルの主要な映画の音響をやっていた方です。
「母」はウクライナのおばさんの話で、子供を9人育てている女性と家族の日常生活を追っただけといえば、そうなんですが、それが見事です。彼女の顔にカメラが切迫していくんですよ。写されている状況は悲惨なものなんですが、顔を見ていると彼女は一心不乱に子供たちのことを思って生きているんです。スイス人ジャーナリストとロシア人カメラマンの共同監督です。
「アポロノフカ桟橋」はウクライナの港町の一夏をルーマニア出身のドイツ人監督が撮影しています。
_ 他にもいろいろなタイプの作品があるようですね。
藤岡:「Z32」は、イスラエルの監督の作品ですが、外からの目でイスラエルの戦闘地に行かされている若者、兵士の問題を扱おうとしている作品です。
アメリカ人フェミニスト映像作家の「私と運転席の男たち」は、自分の人生を振り返って自分のアイデンティティを確認しているというパーソナルドキュメンタリーのタイプの作品です。これは、今までも多かったタイプの作品です。
「RIP! リミックス宣言」は映画作品の再利用をしたりする場合の著作権の問題を扱っています。文明がもっている創造性は前の世代が作ったものを真似したり、改変したりするもので、文明は個人が所有できるものではないのではないかという問いかけがあります。
(インタビューは次回に続く)
この他にもアムステルダム国立美術館の内幕を描く「アムステルダム新国立美術館」や、「若きウェルテルの悩み」のモデルである先祖を持つハンガリー旧家の250年の歴史を描く「私はフォンホフレル(ヴェルテル変奏曲)」など、ヨーロッパの歴史に関連する作品、また、新自由主義の基盤をなすエリート主義を批判する「包囲:デモクラシーとネオリベラリズムの罠」、スイスの難民収容施設で難民の日常的な“選別”が行われている実態を描く「要塞」など、多様な切り口の作品がそろっている。
次回は、アジアの作品を含め、他の部門について、うかがう。
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【上映作品紹介】
<映画祭オープニング上映作品>
阿賀の記憶」
日本/2004/日本語/カラー/16mm/55分 監督:佐藤真
佐藤真監督は日本のドキュメンタリーを牽引していくと期待されていたが、2007年に急逝した。今回、関係の深かった山形でオープニング上映が行われる「阿賀の記憶」は、名作『阿賀に生きる』から10年たち、撮影隊が新潟の阿賀野川のほとりに暮らす人々を再訪する映画。人々の生活と記憶をめぐる思索の物語でもある。
<インターナショナル・コンペティション審査員作品より>
ある詩人
インドネシア/2000年/監督 ガリン・ヌグロホ
アチェ地方の伝統歌謡ディドンの形式を借り、スハルトによる市民の大虐殺事件(1965)を描く
監視員を監視するのは誰?
チェコ/監督 カレル・ヴァヘック
60年代チェコで活動を禁止された伝説の反体制映画作家カレル・ヴァヘックは89年以降、活動を再開した。本作はプラハの国立劇場でのスメタナのオペラと社会批判の言葉が交錯する。
<インターナショナル・コンペティション 応募作品より>
ナオキ Japan: A Story of Love and Hate
イギリス、日本/2008/英語、日本語/カラー/ビデオ/110分
監督:ショーン・マカリスター Sean Mcallister
イギリス人監督が山形を舞台に日本のワーキングプア層の悲哀と希望を描く国際共同製作作品。
生まれたのだから Because We Were Born
フランス、ブラジル/2008/ポルトガル語/カラー/35mm/90分
監督:ジャン=ピエール・デュレ、アンドレア・サンタナ
ブラジルのペルナンブーコ州郊外に暮らす2人の少年。厳しい現実を生きる少年たちの顔には希望の光が差している。
母 The Mother
スイス、フランス、ロシア/2007/ロシア語/カラー/ビデオ/80分
監督:アントワーヌ・カタン、パヴェル・コストマロフ
9人の子どもを連れて暴力的な夫から逃げ出したリューバ。貧しくとも、営み続ける母なる力を見せつけてくれる。
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プログラム等詳細については、以下のサイトへ。
山形国際ドキュメンタリー映画祭
http://www.yidff.jp/2009/2009.html
映画祭の入場券は、1回券(前売り¥1,000、当日¥1,200)、割引となる3枚綴り、10枚綴り券。全作品を鑑賞できるカタログ付き共通鑑賞券(¥10,000)が用意されている。
全国のチケットぴあ(Pコード 461−035)、コンビニ(サークルK、サンクス、ファミリーマート)、宮城、山形、福島のJR東日本みどりの窓口、びゅうプラザ、映画祭事務局で発売中。
(取材・構成 山之内優子)