公開日 2010/11/01 13:24
“リアルサウンド”を追求した、SPECのHiFiプリメインアンプ「RSA-F1」を斎藤宏嗣氏が聴く
【AEx2011・銅賞受賞】速報レビュー
新鋭オーディオブランド「SPEC(スペック)」が、今秋に発売したデジタルプリメインアンプのハイエンドモデル「RSA-F1」がオーディオ銘機賞「銅賞」を受賞した。本機の実力をオーディオ評論家の斎藤宏嗣氏が詳しくレポートする。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【AEx2011・銅賞受賞モデル スペシャルレビュー】
注目のオーディオブランド“SPEC”から誕生した渾身のデジタルプリメインアンプ「RSA-F1」
将来、我国を代表するであろう本格的なコンポーネント・メーカーが誕生することを誰が予想したであろうか。そのメーカーの名は「SPEC(スペック)」だ。同社は東京・紀尾井町に2010年1月に創立、オーディオ・マニアや音楽ファンにとって最大の朗報である。そのポリシーは“自然の音”をそのままに“表現”する、広い意味での“Hi-Fi(原音忠実再生)”を掲げている。
SPECブランドにとってデビューを飾るフラッグシップモデルのHiFiプリメインアンプ「RSA-F1」は、テーマは“真空管アンプの自然で美しい音色と、半導体アンプの駆動力をあわせもった“リアルサウンド・アンプ”である。
国内のオーディオにおけるトップ・ブランドにおいて、豊富な経験を培ってきたエンジニアたちが集まって誕生したブランドだけに、今だかつて存在しなかった新しい表現力を備えたタイプのコンポーネントを目指して、将来を期待されるPWM構成のアンプにフレッシュな光を当てるのみならず、今後のオーディオ製品の開発にとって指針ともなり得る多くのアイディアが盛り込まれている。様々な視点から注目すべき製品の誕生である。
最新の高精度PWMスイッチングデバイスなど、高音質化への様々なアプローチを採用
前述のように「RSA-F1」には、未来のオーディオ・アンプの主流とみられている「PWM方式」が採用されている。パルス・スイッチング系アンプには、「PDM(パルス・デンシティー・モジュレーション)方式」と「PWM(パルス・ウィズ・モジュレーション)」方式がある。
前者はアナログ信号をパルスの密度の変化で変調するのに対して、後者はパルスの幅(矩形波)で変調した後、パワー・トランジスターのスイッチングで出力をローパス・フィルター(高域カット)に通してオーディオ出力を取り出す方式である。現在、多くのジャンルで定評のある形態はPWMアンプで、高品位を目指す本機にも採用されている。
心臓部は現在最も完成度の高いIR社のPWM変換チップを採用している。このデバイスはPWMの搬送波が約400kHzで、出力素子には新開発のパワーMOS-FETを採用。ノイズの発生が少なく高精度なスイッチングを実現している。
また、ドライバー段には高耐圧で時間軸制御にすぐれたICが採用され、MOS-FETの能力を最大限引き出すように配慮されている。最大出力は60W×2(8Ω)/80W×2(6Ω)/120W×2(4Ω)と強力である。
再生音のバランスや品位に影響を与える出力部のローパス・フィルターには、入念に吟味された特注コンデンサーを加えて艶やかな音色・音質を実現している。出力部をバックアップする電源部もアンプにとって重要なファクターとなる。デジタル系アンプの電源部としては、デジタル方式とアナログ方式との組み合わせがあるが、本機では後者でバックアップしている。96%の高効率出力部へ瞬時に電力を供給するためには、満々と水を蓄えたダムのような存在の電源部の構築が求められるからである。
本機では大容量EIトランス、特注コンデンサー、ウルトラファースト・ソフトリカバリー・ダイオードなど、強力な布陣で強力な電源を実現している。
高剛性アルミ・シャーシと木製ベースの特徴を巧みに融合させた筐体設計
本機の大きな特徴に木材シャーシ・ベースの採用がある。一般にアンプは、高剛性で制振された筐体が定着しているが、本機ではジャーマン・スプルース材のソリッド積層ベース・シャーシと、カエデ材とヒッコリー材のハイブリッドされた3点脚が採用されている。
このウッディーなシャーシ・ベースは、程よい制振効果と豊かなアコースティックな響きを演出する最大のポイントにもなっている。
楽器による「生演奏」を彷彿とさせられるサウンドを体験した
筆者は以前よりPWM系アンプの音が持つ雰囲気や、真空管アンプとの音の出方の類似について機会がある度にコメントしてきたが、今回新進のメーカーがメインテーマとして取り上げてくれたことに感激した。「RSA-F1」の再生音に触れ、理想として掲げたテーマが音楽再生に見事に実現されていることをリポートしたい。
限界を感じさせない広々とした両翼へのレンジの拡がり、帯域内を厚く満たした木目濃やかな音楽情報、柔らかく暖かく広がる音場空間や雰囲気。これらの環境にありながら、平面的ではなく立体的でクリーンな音像描写が実現されている。
注目のウッディーなシャーシ・ベースのもたらす“ほぐれのよい音色・音質”は、固まったオーディオ的な従来のパターンではなく、生演奏を彷彿させられるものであった。とくに、マスターコピーのCD-Rでは、生音に肉薄する存在感が印象に残った。
同社では現在、「RSA-F1」のジュニア・バージョンにあたる「RSA-V1」も開発中であるという。本機の完成も心待ちにしたい。
【RSA-F1 製品仕様】
●最大出力:60W×2(8Ω)、80W×2(6Ω)、120W×2(4Ω) ●周波数特性:10Hz〜30kHz(±1dB 6Ω 1W) ●高調波歪率:0.02%(1KHz、80%出力時) ●入力端子:XLR×1、RCA×3 ●スピーカー端子:1系統 ●外形寸法:450W×130H×422Dmm ●質量:20kg
【SPECの注目アクセサリー スペシャルレビュー】
スピーカーの音質向上を実現する“REAL-SOUND PROCESSOR”「RSP-101」を聴く
スピーカー・システムの周波数に対するインピーダンスは一定ではなく、低域共振周波付近で高まり、中域から高域にかけて上昇してゆく。低域では発音後に生じる逆起電力がアンプに戻り、高域方向の上昇も再生音の忠実度を著しく損なう。
SPECの“リアルサウンド・プロセッサー”「RSP-101」は、スピーカー・システムの入力端子付近に装着することによって、再生音のバランスや音色・音質を大きく改善するアクセサリーである。CR素子により構成されるこのインピーダンス補正回路は、シンプルだが多くのスピーカー・システムへの定数設定や、また部品の品位など高度な技術が求められる。RSP-101装備の成果は驚異的で、聴感的なバランスや品位が飛躍的に改善され音楽的な描写性も豊かになる。
【RSP-101 製品仕様】
●スピーカーの適合インピーダンス:10Ω以下が望ましい ●アンプの最大出力:1kW以下が望ましい ●外形寸法:100W×47H×117Dmm ●質量:約190g
【製品に関する問い合わせ先】
スペック(株)
TEL/03-6272-6011
◆執筆者プロフィール:斎藤宏嗣
武蔵工業大学電気通信科卒。電機メーカーのエンジニアとして高周波回路とVTRの開発を担当ののち、オーディオ専門誌に執筆を開始する。エンジニアとしての経験を生かした管球アンプの製作で注目を集める。『季刊・オーディオアクセサリー』誌では、テープオーディオの録再テストをはじめとする各種組み合わせ試聴(スクランブルテスト)の綿密なレポートで活躍。デジタルオーディオには実験段階から深く関わり、現在でも「デジタルオーディオの第一人者」の呼び声が高い。ソフトの録音評でも高い評価を得ており、実際に録音のアドバイザーとして関係した作品はアナログ録音時代から現在に至るまで数多い。
【AEx2011・銅賞受賞モデル スペシャルレビュー】
注目のオーディオブランド“SPEC”から誕生した渾身のデジタルプリメインアンプ「RSA-F1」
将来、我国を代表するであろう本格的なコンポーネント・メーカーが誕生することを誰が予想したであろうか。そのメーカーの名は「SPEC(スペック)」だ。同社は東京・紀尾井町に2010年1月に創立、オーディオ・マニアや音楽ファンにとって最大の朗報である。そのポリシーは“自然の音”をそのままに“表現”する、広い意味での“Hi-Fi(原音忠実再生)”を掲げている。
SPECブランドにとってデビューを飾るフラッグシップモデルのHiFiプリメインアンプ「RSA-F1」は、テーマは“真空管アンプの自然で美しい音色と、半導体アンプの駆動力をあわせもった“リアルサウンド・アンプ”である。
国内のオーディオにおけるトップ・ブランドにおいて、豊富な経験を培ってきたエンジニアたちが集まって誕生したブランドだけに、今だかつて存在しなかった新しい表現力を備えたタイプのコンポーネントを目指して、将来を期待されるPWM構成のアンプにフレッシュな光を当てるのみならず、今後のオーディオ製品の開発にとって指針ともなり得る多くのアイディアが盛り込まれている。様々な視点から注目すべき製品の誕生である。
最新の高精度PWMスイッチングデバイスなど、高音質化への様々なアプローチを採用
前述のように「RSA-F1」には、未来のオーディオ・アンプの主流とみられている「PWM方式」が採用されている。パルス・スイッチング系アンプには、「PDM(パルス・デンシティー・モジュレーション)方式」と「PWM(パルス・ウィズ・モジュレーション)」方式がある。
前者はアナログ信号をパルスの密度の変化で変調するのに対して、後者はパルスの幅(矩形波)で変調した後、パワー・トランジスターのスイッチングで出力をローパス・フィルター(高域カット)に通してオーディオ出力を取り出す方式である。現在、多くのジャンルで定評のある形態はPWMアンプで、高品位を目指す本機にも採用されている。
心臓部は現在最も完成度の高いIR社のPWM変換チップを採用している。このデバイスはPWMの搬送波が約400kHzで、出力素子には新開発のパワーMOS-FETを採用。ノイズの発生が少なく高精度なスイッチングを実現している。
また、ドライバー段には高耐圧で時間軸制御にすぐれたICが採用され、MOS-FETの能力を最大限引き出すように配慮されている。最大出力は60W×2(8Ω)/80W×2(6Ω)/120W×2(4Ω)と強力である。
再生音のバランスや品位に影響を与える出力部のローパス・フィルターには、入念に吟味された特注コンデンサーを加えて艶やかな音色・音質を実現している。出力部をバックアップする電源部もアンプにとって重要なファクターとなる。デジタル系アンプの電源部としては、デジタル方式とアナログ方式との組み合わせがあるが、本機では後者でバックアップしている。96%の高効率出力部へ瞬時に電力を供給するためには、満々と水を蓄えたダムのような存在の電源部の構築が求められるからである。
本機では大容量EIトランス、特注コンデンサー、ウルトラファースト・ソフトリカバリー・ダイオードなど、強力な布陣で強力な電源を実現している。
高剛性アルミ・シャーシと木製ベースの特徴を巧みに融合させた筐体設計
本機の大きな特徴に木材シャーシ・ベースの採用がある。一般にアンプは、高剛性で制振された筐体が定着しているが、本機ではジャーマン・スプルース材のソリッド積層ベース・シャーシと、カエデ材とヒッコリー材のハイブリッドされた3点脚が採用されている。
このウッディーなシャーシ・ベースは、程よい制振効果と豊かなアコースティックな響きを演出する最大のポイントにもなっている。
楽器による「生演奏」を彷彿とさせられるサウンドを体験した
筆者は以前よりPWM系アンプの音が持つ雰囲気や、真空管アンプとの音の出方の類似について機会がある度にコメントしてきたが、今回新進のメーカーがメインテーマとして取り上げてくれたことに感激した。「RSA-F1」の再生音に触れ、理想として掲げたテーマが音楽再生に見事に実現されていることをリポートしたい。
限界を感じさせない広々とした両翼へのレンジの拡がり、帯域内を厚く満たした木目濃やかな音楽情報、柔らかく暖かく広がる音場空間や雰囲気。これらの環境にありながら、平面的ではなく立体的でクリーンな音像描写が実現されている。
注目のウッディーなシャーシ・ベースのもたらす“ほぐれのよい音色・音質”は、固まったオーディオ的な従来のパターンではなく、生演奏を彷彿させられるものであった。とくに、マスターコピーのCD-Rでは、生音に肉薄する存在感が印象に残った。
同社では現在、「RSA-F1」のジュニア・バージョンにあたる「RSA-V1」も開発中であるという。本機の完成も心待ちにしたい。
【RSA-F1 製品仕様】
●最大出力:60W×2(8Ω)、80W×2(6Ω)、120W×2(4Ω) ●周波数特性:10Hz〜30kHz(±1dB 6Ω 1W) ●高調波歪率:0.02%(1KHz、80%出力時) ●入力端子:XLR×1、RCA×3 ●スピーカー端子:1系統 ●外形寸法:450W×130H×422Dmm ●質量:20kg
【SPECの注目アクセサリー スペシャルレビュー】
スピーカーの音質向上を実現する“REAL-SOUND PROCESSOR”「RSP-101」を聴く
スピーカー・システムの周波数に対するインピーダンスは一定ではなく、低域共振周波付近で高まり、中域から高域にかけて上昇してゆく。低域では発音後に生じる逆起電力がアンプに戻り、高域方向の上昇も再生音の忠実度を著しく損なう。
SPECの“リアルサウンド・プロセッサー”「RSP-101」は、スピーカー・システムの入力端子付近に装着することによって、再生音のバランスや音色・音質を大きく改善するアクセサリーである。CR素子により構成されるこのインピーダンス補正回路は、シンプルだが多くのスピーカー・システムへの定数設定や、また部品の品位など高度な技術が求められる。RSP-101装備の成果は驚異的で、聴感的なバランスや品位が飛躍的に改善され音楽的な描写性も豊かになる。
【RSP-101 製品仕様】
●スピーカーの適合インピーダンス:10Ω以下が望ましい ●アンプの最大出力:1kW以下が望ましい ●外形寸法:100W×47H×117Dmm ●質量:約190g
【製品に関する問い合わせ先】
スペック(株)
TEL/03-6272-6011
◆執筆者プロフィール:斎藤宏嗣
武蔵工業大学電気通信科卒。電機メーカーのエンジニアとして高周波回路とVTRの開発を担当ののち、オーディオ専門誌に執筆を開始する。エンジニアとしての経験を生かした管球アンプの製作で注目を集める。『季刊・オーディオアクセサリー』誌では、テープオーディオの録再テストをはじめとする各種組み合わせ試聴(スクランブルテスト)の綿密なレポートで活躍。デジタルオーディオには実験段階から深く関わり、現在でも「デジタルオーディオの第一人者」の呼び声が高い。ソフトの録音評でも高い評価を得ており、実際に録音のアドバイザーとして関係した作品はアナログ録音時代から現在に至るまで数多い。