公開日 2010/11/09 16:26
違いはどこに? − ソニーとビクターから登場した3Dプロジェクターを村瀬氏が見る(1)
「VPL-VW90ES」と「DLA-X7」の3D画質をチェック
11月20日にソニーの「VPL-VW90ES」、12月上旬にはビクター「DLA-X7」「DLA-X3」と3D対応のプロジェクターの発売が間近に迫ってきた。評論家の村瀬孝矢氏がチェックした両者の3D画質を、2回に渡ってお届けする。
■ソニーとビクターから待望の3Dプロジェクターが登場
ソニー「VPL-VW90ES」、そしてビクター「DLA-X7」「DLA-X3」と、いよいよ待望の3Dプロジェクターが登場してきた。これらのモデルはいずれも反射型液晶(LCOS)パネルを使用するが、それぞれオリジナルのフルHDパネル(1920×1080ドット×3枚)というのが特徴だ。
ソニーのパネルはSXRDで、ビクターのパネルはD-ILAだ。基本構造はLCOSなので同じだが、サイズや画素間構造などが違っており、ビクターの方が少しサイズが大きい。
両者ともLCOSを採用した理由は、動作スピードの速さが関係している。特に、3D表示を行わせるためには、アナログの場合は少なくとも240Hz動作ができないと、クロストーク抑制のために良好な結果が得られないからだ。なお、ビクターはデジタル動作なので120Hz動作で十分としている。
■VPL-VW90ESは新開発のSXRDパネルを搭載 − 新パネルは3D画質にも好影響
さて、まずはソニーのVPL-VW90ESについて見ていこう。前作の「VPL-VW85」と本機との大きな違いは0.61型の新SXRDパネルになったこと、また3D対応を果たしたことである。
新パネルは画素ピッチを0.2μmへと、より狭めたのが特徴だ。なぜ画素ピッチを狭めたかというと、この隙間により光の乱れが生じて黒浮きを招くからだ。これを狭めることにより乱れる光を極力抑え、黒浮きを少なくしコントラスト値に向上に役立てている。ネイティブコントラスト比が向上したことは映像を見ても良く分かり、シネマサイズ表示時などの黒帯部分の黒が沈んでいることからも実感できる。
これが3D画質にも好結果を導いた。新パネルで基本画質が大幅に改善したことによって黒浮きが抑えられたというメリットが生まれたが、さらに、輝度アップを図っても画質への影響が少なくなった。これにより、明るさは前機種の800ルーメンから1,000ルーメンへと向上している。それが3D採用への原動力ともなったわけだ。
なお、3Dドライブ(表示)方法は、同社の液晶テレビ“BRAVIA”とほぼ共通の240Hzドライブの2度書き形式である。ただ、液晶テレビのようにLEDバックライトによる発光制御はできないため、アクティブシャッターメガネの開閉タイミングの制御をシビアに設計、左右それぞれの映像がきっちり描かれた瞬間を選んでシャッターを開けクロストークを細小に抑える工夫を図る。映像を2度書きさせる狙いは、なるべく早く1画面を描かせたいためである。
なお、製品には3Dメガネ「TDG−BR100」が2個付属するが、このメガネには最初から偏光フィルターが付いている(偏光フィルターは脱着可能)。これにより、マット系スクリーンでの3D視聴を可能にするなど、スクリーン対応度を高めているわけだ。このフィルターを装着しているため、頭を傾けても3D効果や色合いなどの変化がほとんど出ない点もメリットだろう。
このほか、2D−3D変換機能を搭載したのも特徴だ。ライバルのDLA-X7はこれを搭載しないのでこの機能に興味にある方には朗報になろう。また、VPL-VW90ESは3Dメガネを2個付属することに加えて、トランスミッターも内蔵。本体から発した信号をスクリーンで反射させてメガネと同期させる。改めてトランスミッターを置く場所を用意せずに済むように配慮しているわけだ。一方、ビクターは3Dトランスミッターとメガネを別売で購入する方式だ。このあたりに3Dへ対しての両社の考え方の違いが感じられる。
■「3D映画館が家にやってきた」と実感
さて3Dの視聴である。視聴時に使用した3Dソフトは、主に「くもりときどきミートボール」や同社のデモソフトなどを鑑賞した。画面サイズ100V型時の印象は概ね良好ではあるが、厳しく言えば画面の暗さが若干気になる部分もあった。シアタールームのような真っ暗な環境にできる場合、また3Dモードで自動的に明るさアップされても、もっとコントラスト感を上げて欲しいとも思った。
もっとも、これはビクターDLA-X7時でも同じように感じた部分で、3D対応プロジェクターの今後の課題と言えるかもしれない。どちらの場合も、もう少し明るく白ピーク感を引き出すようにした方が好ましいと思う。
3D時に気になりやすいクロストークの見映えだが、同社の“BRAVIA”と同程度という印象を受けた。クロストークに関しては、同社の液晶テレビとプロジェクターにそれほど大きな差はないように思う。なお、3Dメガネの明るさ変更などが行えるので、これらの3D映像調整を活用すればクロストークを低減させることができる。
さて、3Dメガネを通して鑑賞する映像で懸念される問題に色合いの変化があるが、これはかなり少なく抑えられており良く出来ていた。またメガネを通してみた時には明るさが下がることもあり黒浮きも抑えられ、表示される映像の質感は良好である。
なお今回は視聴に100V型スクリーンを使用したのだが、3D鑑賞でもっとも重要なのは大画面による鑑賞にある。画面サイズからくる迫力感、没入感というものが生まれるのである。液晶テレビなどが大きいサイズと言ってもそれは50V型前後であり、そのサイズでは得られない感覚を伴った3D映像の世界が目の前に浮かび上がるのだ。今回登場した両社のプロジェクターはフレームシーケンシャル方式で、映画館で定番になっている偏光方式と異なっていることからくる諸々の違いこそあるが、映像を見たら「3D映画館が家にやってきた」と実感するであろう。
◆執筆者プロフィール:村瀬孝矢
1948年、愛知県生まれ。オーディオ専門誌「ラジオ技術」誌の編集を経て、1978年よりフリーでA&V評論やコンサルティング活動を始める。1991年にAV&Cの普及を目指したAVC社を設立。1998年よりプロジェクター専門誌「PROJECTORS」誌を編集、発行。国内外メーカーの最新プロジェクターを同一条件でチェックしており、国内でもっともプロジェクターの素性を知る人間のひとりである。日本画質学会副会長も務める。AVC社のホームページ http://www.jah.ne.jp/~avcpj/
■ソニーとビクターから待望の3Dプロジェクターが登場
ソニー「VPL-VW90ES」、そしてビクター「DLA-X7」「DLA-X3」と、いよいよ待望の3Dプロジェクターが登場してきた。これらのモデルはいずれも反射型液晶(LCOS)パネルを使用するが、それぞれオリジナルのフルHDパネル(1920×1080ドット×3枚)というのが特徴だ。
ソニーのパネルはSXRDで、ビクターのパネルはD-ILAだ。基本構造はLCOSなので同じだが、サイズや画素間構造などが違っており、ビクターの方が少しサイズが大きい。
両者ともLCOSを採用した理由は、動作スピードの速さが関係している。特に、3D表示を行わせるためには、アナログの場合は少なくとも240Hz動作ができないと、クロストーク抑制のために良好な結果が得られないからだ。なお、ビクターはデジタル動作なので120Hz動作で十分としている。
■VPL-VW90ESは新開発のSXRDパネルを搭載 − 新パネルは3D画質にも好影響
さて、まずはソニーのVPL-VW90ESについて見ていこう。前作の「VPL-VW85」と本機との大きな違いは0.61型の新SXRDパネルになったこと、また3D対応を果たしたことである。
新パネルは画素ピッチを0.2μmへと、より狭めたのが特徴だ。なぜ画素ピッチを狭めたかというと、この隙間により光の乱れが生じて黒浮きを招くからだ。これを狭めることにより乱れる光を極力抑え、黒浮きを少なくしコントラスト値に向上に役立てている。ネイティブコントラスト比が向上したことは映像を見ても良く分かり、シネマサイズ表示時などの黒帯部分の黒が沈んでいることからも実感できる。
これが3D画質にも好結果を導いた。新パネルで基本画質が大幅に改善したことによって黒浮きが抑えられたというメリットが生まれたが、さらに、輝度アップを図っても画質への影響が少なくなった。これにより、明るさは前機種の800ルーメンから1,000ルーメンへと向上している。それが3D採用への原動力ともなったわけだ。
なお、3Dドライブ(表示)方法は、同社の液晶テレビ“BRAVIA”とほぼ共通の240Hzドライブの2度書き形式である。ただ、液晶テレビのようにLEDバックライトによる発光制御はできないため、アクティブシャッターメガネの開閉タイミングの制御をシビアに設計、左右それぞれの映像がきっちり描かれた瞬間を選んでシャッターを開けクロストークを細小に抑える工夫を図る。映像を2度書きさせる狙いは、なるべく早く1画面を描かせたいためである。
なお、製品には3Dメガネ「TDG−BR100」が2個付属するが、このメガネには最初から偏光フィルターが付いている(偏光フィルターは脱着可能)。これにより、マット系スクリーンでの3D視聴を可能にするなど、スクリーン対応度を高めているわけだ。このフィルターを装着しているため、頭を傾けても3D効果や色合いなどの変化がほとんど出ない点もメリットだろう。
このほか、2D−3D変換機能を搭載したのも特徴だ。ライバルのDLA-X7はこれを搭載しないのでこの機能に興味にある方には朗報になろう。また、VPL-VW90ESは3Dメガネを2個付属することに加えて、トランスミッターも内蔵。本体から発した信号をスクリーンで反射させてメガネと同期させる。改めてトランスミッターを置く場所を用意せずに済むように配慮しているわけだ。一方、ビクターは3Dトランスミッターとメガネを別売で購入する方式だ。このあたりに3Dへ対しての両社の考え方の違いが感じられる。
■「3D映画館が家にやってきた」と実感
さて3Dの視聴である。視聴時に使用した3Dソフトは、主に「くもりときどきミートボール」や同社のデモソフトなどを鑑賞した。画面サイズ100V型時の印象は概ね良好ではあるが、厳しく言えば画面の暗さが若干気になる部分もあった。シアタールームのような真っ暗な環境にできる場合、また3Dモードで自動的に明るさアップされても、もっとコントラスト感を上げて欲しいとも思った。
もっとも、これはビクターDLA-X7時でも同じように感じた部分で、3D対応プロジェクターの今後の課題と言えるかもしれない。どちらの場合も、もう少し明るく白ピーク感を引き出すようにした方が好ましいと思う。
3D時に気になりやすいクロストークの見映えだが、同社の“BRAVIA”と同程度という印象を受けた。クロストークに関しては、同社の液晶テレビとプロジェクターにそれほど大きな差はないように思う。なお、3Dメガネの明るさ変更などが行えるので、これらの3D映像調整を活用すればクロストークを低減させることができる。
さて、3Dメガネを通して鑑賞する映像で懸念される問題に色合いの変化があるが、これはかなり少なく抑えられており良く出来ていた。またメガネを通してみた時には明るさが下がることもあり黒浮きも抑えられ、表示される映像の質感は良好である。
なお今回は視聴に100V型スクリーンを使用したのだが、3D鑑賞でもっとも重要なのは大画面による鑑賞にある。画面サイズからくる迫力感、没入感というものが生まれるのである。液晶テレビなどが大きいサイズと言ってもそれは50V型前後であり、そのサイズでは得られない感覚を伴った3D映像の世界が目の前に浮かび上がるのだ。今回登場した両社のプロジェクターはフレームシーケンシャル方式で、映画館で定番になっている偏光方式と異なっていることからくる諸々の違いこそあるが、映像を見たら「3D映画館が家にやってきた」と実感するであろう。
◆執筆者プロフィール:村瀬孝矢
1948年、愛知県生まれ。オーディオ専門誌「ラジオ技術」誌の編集を経て、1978年よりフリーでA&V評論やコンサルティング活動を始める。1991年にAV&Cの普及を目指したAVC社を設立。1998年よりプロジェクター専門誌「PROJECTORS」誌を編集、発行。国内外メーカーの最新プロジェクターを同一条件でチェックしており、国内でもっともプロジェクターの素性を知る人間のひとりである。日本画質学会副会長も務める。AVC社のホームページ http://www.jah.ne.jp/~avcpj/