公開日 2011/05/10 09:57
充実のサウンドパフォーマンス − ELAC「50 LINE」のブックシェルフスピーカーを聴く
幅広いリスニングスタイルに対応
欧州を代表するスピーカーブランドであるエラックから、最新モデル「50 LINE」が登場した。今回はシリーズにラインナップするブックシェルフモデル「BS 53.2」「BS 52.2」によるピュアオーディオ再生の魅力を、評論家の山之内正氏が連続レポートする。
上位モデルのサウンドデザインを継承する「50 LINE」
上位シリーズのエッセンスを継承しつつコストダウンを実現するのは、どのジャンルにおいてもけっして簡単なことではない。だが、ドイツのエラックはその難しいプロジェクトを相次いで成功させ、注目を集めている。
180 LINEはその代表的な例だが、さらに同社はエントリークラスに50 LINEを投入し、エラックのサウンドを幅広い音楽ファンに向けて提供することに意欲を見せる。
50 LINEでは、エラックの技術を代表するJETトゥイーターやクリスタルライン振動板の搭載を見送る代わりに、既存ユニットではなく、新規にドライバーユニットを開発した。技術的なバックグラウンドは前回紹介した通りで、ドームトゥイーターにはシルクファブリック振動板、ウーファーにはペーパーコーンを搭載。バッフル板のラッカー塗装や内部のリブ補強など、キャビネット構造と仕上げにも入念な作業が盛り込まれている。その成果はシリーズのフロアスタンドモデル「FS 57.2」の再生音から確実に聴き取ることができた。
今回は、FS 57.2と同じコンセプトで開発された50 LINEのフルラインナップの中から、ブックシェルフタイプの2モデル「BS 53.2」と「BS 52.2」に焦点を合わせ、掘り下げて見ていくことにしよう。
ブックシェルフはバスレフ型「BS 53.2」/密閉型「BS 52.2」の2モデル構成
BS 53.2はFS 57.2と同サイズ(145mm口径)のウーファーと、25mmのドーム型トゥイーターを組み合わせたコンパクトな2ウェイスピーカーであり、外形寸法は200 LINEのBS 243(170W×285H×232Dmm)とほぼ変わらない(BS 53.2は170W×285H×235Dmm)。
バスレフ型キャビネットはフロントバッフルにラッカー塗装を施し、四辺を包み込む堅牢なメタル製グリルが付属する。バスレフポートに挿入して、低音のバランスを調整するセパレート型コントロールプラグを同梱している点もFS 57.2と同様だ。
BS 52.2はウーファーのサイズが110mmとひとまわり小さいが、トゥイーターは同一口径。キャビネットはこれらのユニットを収めるほぼ限界のサイズに凝縮しており、トゥイータープレートの上下をカットして両ユニットを接近させるなど、このサイズにこだわって設計していることがわかる。
50 LINEの他のモデルとは異なり、密閉型キャビネットを採用している点にも注目したい。リアの開口部がないので、文字通り棚のなかに設置できるなど、セッティングの自由度はかなり高い。
FS 57.2と同様、自宅試聴室でディスクやネットオーディオのソースを聴いた。
バランスの良い再生音が特徴 − サラウンドやデスクトップ再生にも幅広く使える
BS 53.2は耳に心地よい柔らかさを備えながらも一音一音の粒立ちに曖昧さはなく、小音量から大音量まで、バランスの良い再生音を楽しむことができた。ピアノ協奏曲ではソロとオーケストラの響きが立体的に交錯する様子がリアルで、小型スピーカーならではの深いサウンドステージを再現する。ピアノの音色はプレゼンスに包み込むような柔らかさがあり、エラックの上位シリーズに共通する懐の深い響きを受け継いでいることがわかる。
ボーカルは声のなめらかな立ち上がりとクリアな発音が両立し、鮮度の高さが素晴らしい。歌手と聴き手の距離が縮まったかのようなリアリティは伴奏のベースやギターにもそのまま当てはまり、ギターのスチール弦の音色など、アコースティックな質感が豊かだ。ベースはかなり量感があるので、設置条件によっては付属のコントロールプラグで調整することをお薦めする。ちなみに今回の試聴ではドーナツ状プラグの外側だけを装着し、最適なバランスを得ることができた。
NASとパソコンをつないでハイレゾリューション音源を再生すると、ホールトーンや演奏者の息遣いを生々しく伝え、臨場感などの空間情報を漏らさず再現していることに気付く。
BS 52.2をつなぎ、同じソースを聴く。ピアノ協奏曲は重心がやや上がるとはいえ、小口径ウーファーらしく中低域の反応がいいので、演奏にそなわるダイナミックな推進力は少しも衰えない。音色にくせがないので、ピアノは低音から高音まで上位モデルにかなり近い響きを楽しむことができた。
ジャズボーカルはさすがにベースがややタイトになるが、声の伸びやかさはBS 53.2に迫るものがあり、立体感のある音像を再現する。試しに1.5mから2m程度まで近付いて聴いてみたが、その距離でも響きがスケールダウンすることがなく、音像のリアリティもキープした。
ハイレゾリューション音源ではオーケストラをやや大きめの音量で鳴らしてみたが、サイズから想像するよりも余裕のある音圧感が得られ、意外にパワーが入ることに感心した。低音は切れが良く、リズムの動きはとても軽快だ。
BS 53.2は自然なバランスと懐の深さが両立し、サイズに似合わずダイナミックな表現力もそなえている。ステレオ再生のメインスピーカーとしてはもちろん、FS 57.2と組み合わせてサラウンド再生に利用する用途にも向きそうだ。
BS 52.2は密閉型ならではの質感の高い低音再生に特徴があり、ボーカルの素直な音像など、コンパクトなサイズにエラックの魅力を凝縮した注目機だ。パソコンと組み合わせた高品位なデスクトップオーディオなど、新しいスタイルの用途も視野に入る。
【BS 53.2 スペック】●価格:52,500円(ペア・税込) ●型式:2ウェイ・バスレフ型 ●ウーファー:145mm ELACオリジナル・パルプコーン×1 ●トゥイーター:25mm ELACオリジナル・シルクドーム×1 ●クロスオーバー周波数:2,200Hz ●能率:87dB(2.83 V/1m) ●インピーダンス:4Ω ●周波数特性:46〜25,000Hz ●定格入力:50W ●最大入力:70W ●外形寸法:170W×285H×235Dmm ●質量:5.5kg
【BS 52.2 スペック】●価格:42,000円(ペア・税込) ●型式:2ウェイ・密閉型 ●ウーファー:110mm ELACオリジナル・パルプコーン×1 ●トゥイーター:25mm ELACオリジナル・シルクドーム×1 ●クロスオーバー周波数:2,500Hz ●能率:84dB(2.83 V/1m) ●インピーダンス:6Ω ●周波数特性:65〜25,000Hz ●定格入力:40W ●最大入力:60W ●外形寸法:136W×210H×165Dmm ●質量:2.3kg
【問い合わせ先】(株)ユキム Mail/support@yukimu.com TEL/03-5743-6202
山之内正 プロフィール
出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。
上位モデルのサウンドデザインを継承する「50 LINE」
上位シリーズのエッセンスを継承しつつコストダウンを実現するのは、どのジャンルにおいてもけっして簡単なことではない。だが、ドイツのエラックはその難しいプロジェクトを相次いで成功させ、注目を集めている。
180 LINEはその代表的な例だが、さらに同社はエントリークラスに50 LINEを投入し、エラックのサウンドを幅広い音楽ファンに向けて提供することに意欲を見せる。
50 LINEでは、エラックの技術を代表するJETトゥイーターやクリスタルライン振動板の搭載を見送る代わりに、既存ユニットではなく、新規にドライバーユニットを開発した。技術的なバックグラウンドは前回紹介した通りで、ドームトゥイーターにはシルクファブリック振動板、ウーファーにはペーパーコーンを搭載。バッフル板のラッカー塗装や内部のリブ補強など、キャビネット構造と仕上げにも入念な作業が盛り込まれている。その成果はシリーズのフロアスタンドモデル「FS 57.2」の再生音から確実に聴き取ることができた。
今回は、FS 57.2と同じコンセプトで開発された50 LINEのフルラインナップの中から、ブックシェルフタイプの2モデル「BS 53.2」と「BS 52.2」に焦点を合わせ、掘り下げて見ていくことにしよう。
ブックシェルフはバスレフ型「BS 53.2」/密閉型「BS 52.2」の2モデル構成
BS 53.2はFS 57.2と同サイズ(145mm口径)のウーファーと、25mmのドーム型トゥイーターを組み合わせたコンパクトな2ウェイスピーカーであり、外形寸法は200 LINEのBS 243(170W×285H×232Dmm)とほぼ変わらない(BS 53.2は170W×285H×235Dmm)。
バスレフ型キャビネットはフロントバッフルにラッカー塗装を施し、四辺を包み込む堅牢なメタル製グリルが付属する。バスレフポートに挿入して、低音のバランスを調整するセパレート型コントロールプラグを同梱している点もFS 57.2と同様だ。
BS 52.2はウーファーのサイズが110mmとひとまわり小さいが、トゥイーターは同一口径。キャビネットはこれらのユニットを収めるほぼ限界のサイズに凝縮しており、トゥイータープレートの上下をカットして両ユニットを接近させるなど、このサイズにこだわって設計していることがわかる。
50 LINEの他のモデルとは異なり、密閉型キャビネットを採用している点にも注目したい。リアの開口部がないので、文字通り棚のなかに設置できるなど、セッティングの自由度はかなり高い。
FS 57.2と同様、自宅試聴室でディスクやネットオーディオのソースを聴いた。
バランスの良い再生音が特徴 − サラウンドやデスクトップ再生にも幅広く使える
BS 53.2は耳に心地よい柔らかさを備えながらも一音一音の粒立ちに曖昧さはなく、小音量から大音量まで、バランスの良い再生音を楽しむことができた。ピアノ協奏曲ではソロとオーケストラの響きが立体的に交錯する様子がリアルで、小型スピーカーならではの深いサウンドステージを再現する。ピアノの音色はプレゼンスに包み込むような柔らかさがあり、エラックの上位シリーズに共通する懐の深い響きを受け継いでいることがわかる。
ボーカルは声のなめらかな立ち上がりとクリアな発音が両立し、鮮度の高さが素晴らしい。歌手と聴き手の距離が縮まったかのようなリアリティは伴奏のベースやギターにもそのまま当てはまり、ギターのスチール弦の音色など、アコースティックな質感が豊かだ。ベースはかなり量感があるので、設置条件によっては付属のコントロールプラグで調整することをお薦めする。ちなみに今回の試聴ではドーナツ状プラグの外側だけを装着し、最適なバランスを得ることができた。
NASとパソコンをつないでハイレゾリューション音源を再生すると、ホールトーンや演奏者の息遣いを生々しく伝え、臨場感などの空間情報を漏らさず再現していることに気付く。
BS 52.2をつなぎ、同じソースを聴く。ピアノ協奏曲は重心がやや上がるとはいえ、小口径ウーファーらしく中低域の反応がいいので、演奏にそなわるダイナミックな推進力は少しも衰えない。音色にくせがないので、ピアノは低音から高音まで上位モデルにかなり近い響きを楽しむことができた。
ジャズボーカルはさすがにベースがややタイトになるが、声の伸びやかさはBS 53.2に迫るものがあり、立体感のある音像を再現する。試しに1.5mから2m程度まで近付いて聴いてみたが、その距離でも響きがスケールダウンすることがなく、音像のリアリティもキープした。
ハイレゾリューション音源ではオーケストラをやや大きめの音量で鳴らしてみたが、サイズから想像するよりも余裕のある音圧感が得られ、意外にパワーが入ることに感心した。低音は切れが良く、リズムの動きはとても軽快だ。
BS 53.2は自然なバランスと懐の深さが両立し、サイズに似合わずダイナミックな表現力もそなえている。ステレオ再生のメインスピーカーとしてはもちろん、FS 57.2と組み合わせてサラウンド再生に利用する用途にも向きそうだ。
BS 52.2は密閉型ならではの質感の高い低音再生に特徴があり、ボーカルの素直な音像など、コンパクトなサイズにエラックの魅力を凝縮した注目機だ。パソコンと組み合わせた高品位なデスクトップオーディオなど、新しいスタイルの用途も視野に入る。
【BS 53.2 スペック】●価格:52,500円(ペア・税込) ●型式:2ウェイ・バスレフ型 ●ウーファー:145mm ELACオリジナル・パルプコーン×1 ●トゥイーター:25mm ELACオリジナル・シルクドーム×1 ●クロスオーバー周波数:2,200Hz ●能率:87dB(2.83 V/1m) ●インピーダンス:4Ω ●周波数特性:46〜25,000Hz ●定格入力:50W ●最大入力:70W ●外形寸法:170W×285H×235Dmm ●質量:5.5kg
【BS 52.2 スペック】●価格:42,000円(ペア・税込) ●型式:2ウェイ・密閉型 ●ウーファー:110mm ELACオリジナル・パルプコーン×1 ●トゥイーター:25mm ELACオリジナル・シルクドーム×1 ●クロスオーバー周波数:2,500Hz ●能率:84dB(2.83 V/1m) ●インピーダンス:6Ω ●周波数特性:65〜25,000Hz ●定格入力:40W ●最大入力:60W ●外形寸法:136W×210H×165Dmm ●質量:2.3kg
【問い合わせ先】(株)ユキム Mail/support@yukimu.com TEL/03-5743-6202
山之内正 プロフィール
出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。