公開日 2012/02/14 11:11
Androidアプリで楽しみ方は自由自在 ー エプソン“MOVERIO”の使いこなしに迫る
ワンセグ視聴にも挑戦
エプソンからシースルーモバイルビューアー“MOVERIO”「BT-100」が発売され話題を集めている。今回はライターの海上忍氏が、Androidアプリの上手な楽しみ方なども含めた、本機の使いこなしを徹底的に検証する。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
エプソン“MOVERIO”が実現する「パーソナルな大画面」体験
エプソンから発売されたMOVERIO「BT-100」は、いわゆるヘッドマウントディスプレイ(HMD)に分類される製品だ。構造はヘッドセットとコントローラの2つに分かれ、専用のケーブルで接続するしくみ。ヘッドセットを眼鏡のように耳にかけ、さらにヘッドフォンを装着することで、パーソナルなAVシステムとして機能する。
MOVERIOを装着すると、視野の中心部分に向けて、最大320インチ相当の画面が視界に浮かび上がる。それだけなら従来のHMDと変わりないが、注目すべきは「装着した人物の目の焦点にあわせて画面が大きく見える」という視聴感を実現したことだ。
従来HMDといえば、視界を完全に遮る密閉型の製品が大半を占めていたが、MOVERIOでは光学透過型(シースルー)の表示装置を採用。装着状態でも周囲を見渡せるため、電車や飛行機で移動しているときなどの"ながら利用"が可能になった。密閉型の場合、その構造上外界からほぼ遮断されてしまうが、シースルーならばそのような懸念はない。
これまで一般向けに発売されたHMDは、ほぼすべてが密閉型だ。例外はこのMOVERIOと、ブラザー工業から2011年夏に発売された網膜投影方式の「AiRScouter」くらいだろう。ただし網膜投影方式はコストが高く、普及価格帯での提供は難しい。光学透過型は、プロジェクターを得意とするエプソンの"お家芸"を活かせるという点でも適していたわけだ。
今回、本機の開発担当者を取材した際、「光学系の設計や樹脂材料の高精度成形といったフロントプロジェクターで培った社内技術を活かせば、新しいタイプのHMDをつくれるはず。そこからMOVERIOの開発が始まった」(セイコーエプソン株式会社 ビジュアルプロダクツ事業部 VA事業推進部 課長 馬場宏行氏)という開発経緯をうかがい、その言葉からもエプソンだから実現できた製品だということがわかった(MOVERIO開発者インタビュー)。一見するとHMDだが、MOVERIOはただのHMDではないのだ。
軽量な本体で軽快な装着性を実現
シースルー型ゆえに"ながら使用"が可能とはいえ、MOVERIOはHMDの一種。眼鏡のように装着しなければならず、耳や眼の周囲にある程度の違和感を伴うことは避けられない。重量は240g(一般的なメガネは50g以下)あるが、同時期に発売されたSONY「HMZ-T1」が倍近い420gであることを考慮すれば、HMDとしては軽量級ともいえる。なお、メガネをかけた状態でも装着しやすいよう、高さ調整可能なフックをツルの内側に装着することができる。
ヘッドセット部のサイズは、幅205×高さ47×奥行き178mm。メガネのツルにあたる部分には、0.52型/QHD(960×540ピクセル)のマイクロディスプレイ「ULTIMICRON」が左右に1基ずつ内蔵され、そこから投写した映像を導光板でハーフミラー層へと導くことで、眼前に浮かぶように映像を結像させるのだ。
ものは試しとデモムービーを再生すると、眼前の机に重なるように映像が現れた。遠くを見るほど画面が大きく見える仕組み(参考記事)を頭では理解していても、肉眼のピントを近くのものに合わせると小さめに、遠くのものに合わせると大きめになる映像を目の当たりにすると、なんとも不思議な感覚を覚える。
装着感は、当初の予想より軽めの印象。しかし筆者の鼻の形に合わないのか、しばらくするとズレてくる。側頭部を締め付けるツルの力は強すぎないため、240gという重量は鼻パッドで支えているようなかたちになる。鼻パッドは3タイプ用意されているが、筆者の場合どれもベストフィットとはいかず、ときどき"メガネを上げる"仕草が必要だった。個人差もあるだろうが、映画を見るときなど長時間連続着用する前には、ツルの位置や鼻パッドのチューニングを念入りにしておくとよい。
MOVERIOには着脱可能なシェードが付属しており、より高い没入感を得たいときはこれをディスプレイ部に取り付ける。人間の眼でピントをあわせることで映像を大きく見せる仕組みである以上、完全には密閉できないため、シェードは半透明となっている。この点が密閉型HMDとの最大の違いだろう。
十分な明るさを確保した映像
肝心の映像だが、予想以上に「明るさ」が確保されている。青空を背景として映像を見ても、空の明るさに負けることはない。解像感のある、コントラストも高い映像が屋外でも楽しめることだろう。
光学透過型は、小型プロジェクターとハーフミラーを使い現実の視界を妨げないよう映像を投影する「虚像投影方式」と、直接網膜に映像を送る「網膜投影方式」の2種類があり、MOVERIOは前者を採用しているが、鏡の反射率等の問題から映像が暗くなりがちだった。この点MOVERIOでは、専用設計されたLEDバックライトが奏功していると言える。
サイドバイサイドの3D映像に対応することも、MOVERIOのアドバンテージだ。2D/3Dコンバーターは搭載されていないため、YouTubeなどのサイトで公開されているコンテンツに頼るしかないが、3Dコンテンツは構造上フリッカーが発生しないMOVERIOの得意分野となっている。
MOVERIOで大画面がより身近に ー アプリ次第で楽しみ方も広がる
周囲に迷惑をかけずに映像を大画面で楽しみたい、という望みをかなえてくれるHMDというデバイスは、その反面周囲から隔絶してしまうというデメリットを併せ持つ。今回試したMOVERIOは光学透過型を採用、密閉型では難しい屋外や移動中での利用を可能にした。通勤・通学では人目が気になりそうだが、出張時の航空機内や宿泊先の室内など、大画面の映像を楽しめる場面を確実に増やしてくれる。そういったデバイスを探していた方々には、まさに待望の製品といえるだろう。
光学透過型を採用した最大のメリットは、肉眼のピントにあわせて画面サイズが変わる点だろう。小さな画面をレンズで拡大する密閉型とは異なり、視野に占める映像の割合は一定のため、近くを見れば小さく、遠くを見れば大きくなる。シースルーは伊達ではなく、光学透過型ゆえの必然といえる。投影の原理からして他製品と一線を画すこの製品は、プロジェクターの分野で豊富な実績を持つエプソンの面目躍如と言っていいだろう。
MOVERIOの購入を検討するにあたって気になるところが、コンテンツの確保だろう。入力端子の搭載を敢えて見送ったことにより、場所を選ばず視聴できる強みを獲得したものの、Blu-rayやデジタル放送など著作権保護されたコンテンツは再生できない。
一方でOSにAndroid 2.2を採用したことは正解、というより唯一の選択肢だったといえる。WebブラウザやYouTubeを利用できるだけでなく、豊富なアプリで機能を拡張できるからだ。
ほかにも、左右独立した投影によりフリッカーが発生しない3D、Dolby Mobileによるリアリティある音場の再現、動画再生時約6時間という小型ながらパワフルなバッテリーと、MOVERIOに見どころは多い。これまでにないタイプのHMDということもあり、できれば本機を展示している店頭などで体験してみることをお勧めしたい。
海上 忍 プロフィール
ITジャーナリスト・コラムニスト。13歳のときにはすでに、自ら開発したマシン語のパソコンソフトを雑誌に投稿するなどしていた、おそらく最初期のデジタルネイティブ世代。コンピュータテクノロジ方面全般での豊富な執筆経験を持ち、Mac OS XやLinux、デジタル家電関連の著作は累計30冊におよぶ。
【問い合わせ先】
エプソン 液晶プロジェクター インフォメーションセンター
TEL/050-3155-7010
エプソン“MOVERIO”が実現する「パーソナルな大画面」体験
エプソンから発売されたMOVERIO「BT-100」は、いわゆるヘッドマウントディスプレイ(HMD)に分類される製品だ。構造はヘッドセットとコントローラの2つに分かれ、専用のケーブルで接続するしくみ。ヘッドセットを眼鏡のように耳にかけ、さらにヘッドフォンを装着することで、パーソナルなAVシステムとして機能する。
MOVERIOを装着すると、視野の中心部分に向けて、最大320インチ相当の画面が視界に浮かび上がる。それだけなら従来のHMDと変わりないが、注目すべきは「装着した人物の目の焦点にあわせて画面が大きく見える」という視聴感を実現したことだ。
従来HMDといえば、視界を完全に遮る密閉型の製品が大半を占めていたが、MOVERIOでは光学透過型(シースルー)の表示装置を採用。装着状態でも周囲を見渡せるため、電車や飛行機で移動しているときなどの"ながら利用"が可能になった。密閉型の場合、その構造上外界からほぼ遮断されてしまうが、シースルーならばそのような懸念はない。
これまで一般向けに発売されたHMDは、ほぼすべてが密閉型だ。例外はこのMOVERIOと、ブラザー工業から2011年夏に発売された網膜投影方式の「AiRScouter」くらいだろう。ただし網膜投影方式はコストが高く、普及価格帯での提供は難しい。光学透過型は、プロジェクターを得意とするエプソンの"お家芸"を活かせるという点でも適していたわけだ。
今回、本機の開発担当者を取材した際、「光学系の設計や樹脂材料の高精度成形といったフロントプロジェクターで培った社内技術を活かせば、新しいタイプのHMDをつくれるはず。そこからMOVERIOの開発が始まった」(セイコーエプソン株式会社 ビジュアルプロダクツ事業部 VA事業推進部 課長 馬場宏行氏)という開発経緯をうかがい、その言葉からもエプソンだから実現できた製品だということがわかった(MOVERIO開発者インタビュー)。一見するとHMDだが、MOVERIOはただのHMDではないのだ。
軽量な本体で軽快な装着性を実現
シースルー型ゆえに"ながら使用"が可能とはいえ、MOVERIOはHMDの一種。眼鏡のように装着しなければならず、耳や眼の周囲にある程度の違和感を伴うことは避けられない。重量は240g(一般的なメガネは50g以下)あるが、同時期に発売されたSONY「HMZ-T1」が倍近い420gであることを考慮すれば、HMDとしては軽量級ともいえる。なお、メガネをかけた状態でも装着しやすいよう、高さ調整可能なフックをツルの内側に装着することができる。
ヘッドセット部のサイズは、幅205×高さ47×奥行き178mm。メガネのツルにあたる部分には、0.52型/QHD(960×540ピクセル)のマイクロディスプレイ「ULTIMICRON」が左右に1基ずつ内蔵され、そこから投写した映像を導光板でハーフミラー層へと導くことで、眼前に浮かぶように映像を結像させるのだ。
ものは試しとデモムービーを再生すると、眼前の机に重なるように映像が現れた。遠くを見るほど画面が大きく見える仕組み(参考記事)を頭では理解していても、肉眼のピントを近くのものに合わせると小さめに、遠くのものに合わせると大きめになる映像を目の当たりにすると、なんとも不思議な感覚を覚える。
装着感は、当初の予想より軽めの印象。しかし筆者の鼻の形に合わないのか、しばらくするとズレてくる。側頭部を締め付けるツルの力は強すぎないため、240gという重量は鼻パッドで支えているようなかたちになる。鼻パッドは3タイプ用意されているが、筆者の場合どれもベストフィットとはいかず、ときどき"メガネを上げる"仕草が必要だった。個人差もあるだろうが、映画を見るときなど長時間連続着用する前には、ツルの位置や鼻パッドのチューニングを念入りにしておくとよい。
MOVERIOには着脱可能なシェードが付属しており、より高い没入感を得たいときはこれをディスプレイ部に取り付ける。人間の眼でピントをあわせることで映像を大きく見せる仕組みである以上、完全には密閉できないため、シェードは半透明となっている。この点が密閉型HMDとの最大の違いだろう。
十分な明るさを確保した映像
肝心の映像だが、予想以上に「明るさ」が確保されている。青空を背景として映像を見ても、空の明るさに負けることはない。解像感のある、コントラストも高い映像が屋外でも楽しめることだろう。
光学透過型は、小型プロジェクターとハーフミラーを使い現実の視界を妨げないよう映像を投影する「虚像投影方式」と、直接網膜に映像を送る「網膜投影方式」の2種類があり、MOVERIOは前者を採用しているが、鏡の反射率等の問題から映像が暗くなりがちだった。この点MOVERIOでは、専用設計されたLEDバックライトが奏功していると言える。
サイドバイサイドの3D映像に対応することも、MOVERIOのアドバンテージだ。2D/3Dコンバーターは搭載されていないため、YouTubeなどのサイトで公開されているコンテンツに頼るしかないが、3Dコンテンツは構造上フリッカーが発生しないMOVERIOの得意分野となっている。
MOVERIOで大画面がより身近に ー アプリ次第で楽しみ方も広がる
周囲に迷惑をかけずに映像を大画面で楽しみたい、という望みをかなえてくれるHMDというデバイスは、その反面周囲から隔絶してしまうというデメリットを併せ持つ。今回試したMOVERIOは光学透過型を採用、密閉型では難しい屋外や移動中での利用を可能にした。通勤・通学では人目が気になりそうだが、出張時の航空機内や宿泊先の室内など、大画面の映像を楽しめる場面を確実に増やしてくれる。そういったデバイスを探していた方々には、まさに待望の製品といえるだろう。
光学透過型を採用した最大のメリットは、肉眼のピントにあわせて画面サイズが変わる点だろう。小さな画面をレンズで拡大する密閉型とは異なり、視野に占める映像の割合は一定のため、近くを見れば小さく、遠くを見れば大きくなる。シースルーは伊達ではなく、光学透過型ゆえの必然といえる。投影の原理からして他製品と一線を画すこの製品は、プロジェクターの分野で豊富な実績を持つエプソンの面目躍如と言っていいだろう。
MOVERIOの購入を検討するにあたって気になるところが、コンテンツの確保だろう。入力端子の搭載を敢えて見送ったことにより、場所を選ばず視聴できる強みを獲得したものの、Blu-rayやデジタル放送など著作権保護されたコンテンツは再生できない。
一方でOSにAndroid 2.2を採用したことは正解、というより唯一の選択肢だったといえる。WebブラウザやYouTubeを利用できるだけでなく、豊富なアプリで機能を拡張できるからだ。
ほかにも、左右独立した投影によりフリッカーが発生しない3D、Dolby Mobileによるリアリティある音場の再現、動画再生時約6時間という小型ながらパワフルなバッテリーと、MOVERIOに見どころは多い。これまでにないタイプのHMDということもあり、できれば本機を展示している店頭などで体験してみることをお勧めしたい。
海上 忍 プロフィール
ITジャーナリスト・コラムニスト。13歳のときにはすでに、自ら開発したマシン語のパソコンソフトを雑誌に投稿するなどしていた、おそらく最初期のデジタルネイティブ世代。コンピュータテクノロジ方面全般での豊富な執筆経験を持ち、Mac OS XやLinux、デジタル家電関連の著作は累計30冊におよぶ。
【問い合わせ先】
エプソン 液晶プロジェクター インフォメーションセンター
TEL/050-3155-7010