公開日 2014/03/13 13:05
ヤマハ「RX-V577」速攻レビュー − 同社初のWi-Fi内蔵AVアンプ
最新トレンドをリード
■最新のネットワーク仕様や新機軸のバーチャルサラウンド機能を盛り込み、トレンドをリードする「RX-V577」
AVアンプのボリュームゾーンが低価格帯にシフトし、特に5万円前後の製品は競争が激しい。そんななかで堅調な動きを見せているのがヤマハの製品で、同社のAVアンプは幅広い価格帯で安定した人気をキープしている。
その人気の秘密は2つある。まず、シネマDSPに代表されるヤマハ独自機能のファンが多いこと。もう1つはそのとき求められている最先端の機能をいち早く投入し、ユーザーの期待に応えていることだ。発売時期でも他社に先行し、その年のトレンドをリードする積極性を見せる。
今年の春モデルとしてまもなく登場する「RX-V577(関連ニュース)」もその例外ではない。ネットワーク機能を最先端の仕様にアップデートしつつ、新機軸のバーチャルサラウンド再生など、需要を先取りした新機能を盛り込んでライバルとの違いをアピールする。
ネットワーク再生は機能と音質の両面で大きな進化を遂げているが、まず機能面ではWi-Fi接続機能を内蔵し、さらにWireless Directをサポートしたことが新しい。スマホやタブレットがダイレクトにつながるので、ネットワークがない環境でも操作アプリでAVアンプをコントロールできるし、端末に保存した音源のワイヤレス再生も面倒な設定なしにすぐ使える。AirPlayの便利さも従来以上に実感でき、本機を選ぶ大きな理由になる。ネットワーク再生は低価格モデルにも浸透し始めたが、ヤマハはさらに一歩進めて、使い勝手の根本的な改善にまで踏み込んだのだ。
再生ファイル形式は待望のアップルロスレスに対応し、最大192kHz/24bitのWAV/FLACやAAC、WMA、MP3と合わせ、現在流注している大半の音源をサポートする。さらに、曲間の無音部分で音楽を途切れさせず、スムーズにつなぐ「ギャップレス再生」を実現したことも大きなニュースだ。ネットワークプレーヤーでは先行して実現していたが、ヤマハ製AVアンプでの実現は本機が最初の例であり、注目に値する。ベートーヴェンの『運命』など、休みなく次の楽章を演奏する「アタッカ」を指定通りに再現できるほか、ライヴ音源でも不自然な途切れが発生せず、ストレスなく音楽に集中することができる。
新機能の目玉とも言える「Virtual CINEMA FRONT」は、サラウンドスピーカーを前方に置いた状態でバーチャルスピーカーの効果を高める画期的な手法だ。テレビの脇などに小型スピーカーを置くだけでスケールの大きいサラウンド再生を狙えることに加え、シネマDSPの音場と組み合わせることもできる。リスニング位置の後方にサラウンドスピーカーを置けない環境でもテレビの脇は空いていることが多いので、実際にメリットを感じる人は少なくないはずだ。
小型ブックシェルフスピーカーだけでサラウンド再生を楽しんでいる環境では「Extra Bass」機能が絶大な威力を発揮する。低音の倍音成分を加えることで小型スピーカーの再生範囲よりも低い音の量感を増強するもので、80Hz以下のサブウーファー領域まで効果が期待できる。設置スペースの都合でサブウーファーを省略している場合でも量感のある低音を引き出す効果があり、映画と音楽の両方で威力を発揮する。リモコンに専用ボタンが用意されるので、操作もわかりやすい。
操作アプリのAV CONTROLLERは本機の発売を機にver.4.00にアップデートされる。今回の更新のポイントはシネマDSPのパラメーターを直感的に調整できるようになったこと。空間の広がりや音像定位の位置を画面で見ながら調整できるので、各モードの効果を把握しやすくなった。
■5〜6万円クラスのAVアンプ激戦区をリードする高いポテンシャルを持つモデル
ハイレゾ音源のネットワーク再生では、各楽器の明瞭な音像定位と粒立ちの良いクリアな音調を聴き取ることができた。中高域の粒立ちが鮮明なのでパーカッションやピアノが刻むリズムが旋律やベースに埋もれず、演奏が前に進む推進力とテンポ感の良さが際立つのだ。
オーケストラを聴くと、前後の遠近感、余韻が広がるスケール感に従来機との違いが現れる。本機の場合、ハイレゾ音源ならではの深みのある空間表現を味わうにはネットワーク再生が一番のお薦めだ。
BDのサラウンド再生では、サラウンドチャンネルも含めてエネルギーに余裕が感じられ、試聴室での大音量再生でも飽和した印象を受けない。『ローン・レンジャー』は静寂のなかに距離感豊かな効果音が展開して静と動の対比が見事な作品だが、本機はその奥行きと広がりを余裕で引き出し、大画面と組み合わせても十分に映像とわたり合えるスケール感を実感することができた。
『アフター・アース』では効果音が高密度に聴き手の周囲を満たし、ジャングルのなかでの孤立感を見事に再現してみせた。7chアンプの基本性能に余裕があるためか、シネマDSPが違和感なく自然な効果を引き出し、空間再現のポテンシャルを一気に高めてくれる。
今年は以前のエントリーに相当する5〜6万円クラスのAVアンプが激戦区になることが予想される。本機はそのカテゴリーをリードするポテンシャルを秘めている。
◆山之内 正 プロフィール
神奈川県横浜市出身。東京都立大学理学部卒。在学時は原子物理学を専攻する。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。近著に『ネットオーディオ入門』(講談社ブルーバックス/2013年)がある。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、現在もアマチュアオーケストラに所属し、定期演奏会も開催する。また年に数回、オペラ鑑賞のためドイツ、オーストリアへ渡航。趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。
AVアンプのボリュームゾーンが低価格帯にシフトし、特に5万円前後の製品は競争が激しい。そんななかで堅調な動きを見せているのがヤマハの製品で、同社のAVアンプは幅広い価格帯で安定した人気をキープしている。
その人気の秘密は2つある。まず、シネマDSPに代表されるヤマハ独自機能のファンが多いこと。もう1つはそのとき求められている最先端の機能をいち早く投入し、ユーザーの期待に応えていることだ。発売時期でも他社に先行し、その年のトレンドをリードする積極性を見せる。
今年の春モデルとしてまもなく登場する「RX-V577(関連ニュース)」もその例外ではない。ネットワーク機能を最先端の仕様にアップデートしつつ、新機軸のバーチャルサラウンド再生など、需要を先取りした新機能を盛り込んでライバルとの違いをアピールする。
ネットワーク再生は機能と音質の両面で大きな進化を遂げているが、まず機能面ではWi-Fi接続機能を内蔵し、さらにWireless Directをサポートしたことが新しい。スマホやタブレットがダイレクトにつながるので、ネットワークがない環境でも操作アプリでAVアンプをコントロールできるし、端末に保存した音源のワイヤレス再生も面倒な設定なしにすぐ使える。AirPlayの便利さも従来以上に実感でき、本機を選ぶ大きな理由になる。ネットワーク再生は低価格モデルにも浸透し始めたが、ヤマハはさらに一歩進めて、使い勝手の根本的な改善にまで踏み込んだのだ。
再生ファイル形式は待望のアップルロスレスに対応し、最大192kHz/24bitのWAV/FLACやAAC、WMA、MP3と合わせ、現在流注している大半の音源をサポートする。さらに、曲間の無音部分で音楽を途切れさせず、スムーズにつなぐ「ギャップレス再生」を実現したことも大きなニュースだ。ネットワークプレーヤーでは先行して実現していたが、ヤマハ製AVアンプでの実現は本機が最初の例であり、注目に値する。ベートーヴェンの『運命』など、休みなく次の楽章を演奏する「アタッカ」を指定通りに再現できるほか、ライヴ音源でも不自然な途切れが発生せず、ストレスなく音楽に集中することができる。
新機能の目玉とも言える「Virtual CINEMA FRONT」は、サラウンドスピーカーを前方に置いた状態でバーチャルスピーカーの効果を高める画期的な手法だ。テレビの脇などに小型スピーカーを置くだけでスケールの大きいサラウンド再生を狙えることに加え、シネマDSPの音場と組み合わせることもできる。リスニング位置の後方にサラウンドスピーカーを置けない環境でもテレビの脇は空いていることが多いので、実際にメリットを感じる人は少なくないはずだ。
小型ブックシェルフスピーカーだけでサラウンド再生を楽しんでいる環境では「Extra Bass」機能が絶大な威力を発揮する。低音の倍音成分を加えることで小型スピーカーの再生範囲よりも低い音の量感を増強するもので、80Hz以下のサブウーファー領域まで効果が期待できる。設置スペースの都合でサブウーファーを省略している場合でも量感のある低音を引き出す効果があり、映画と音楽の両方で威力を発揮する。リモコンに専用ボタンが用意されるので、操作もわかりやすい。
操作アプリのAV CONTROLLERは本機の発売を機にver.4.00にアップデートされる。今回の更新のポイントはシネマDSPのパラメーターを直感的に調整できるようになったこと。空間の広がりや音像定位の位置を画面で見ながら調整できるので、各モードの効果を把握しやすくなった。
■5〜6万円クラスのAVアンプ激戦区をリードする高いポテンシャルを持つモデル
ハイレゾ音源のネットワーク再生では、各楽器の明瞭な音像定位と粒立ちの良いクリアな音調を聴き取ることができた。中高域の粒立ちが鮮明なのでパーカッションやピアノが刻むリズムが旋律やベースに埋もれず、演奏が前に進む推進力とテンポ感の良さが際立つのだ。
オーケストラを聴くと、前後の遠近感、余韻が広がるスケール感に従来機との違いが現れる。本機の場合、ハイレゾ音源ならではの深みのある空間表現を味わうにはネットワーク再生が一番のお薦めだ。
BDのサラウンド再生では、サラウンドチャンネルも含めてエネルギーに余裕が感じられ、試聴室での大音量再生でも飽和した印象を受けない。『ローン・レンジャー』は静寂のなかに距離感豊かな効果音が展開して静と動の対比が見事な作品だが、本機はその奥行きと広がりを余裕で引き出し、大画面と組み合わせても十分に映像とわたり合えるスケール感を実感することができた。
『アフター・アース』では効果音が高密度に聴き手の周囲を満たし、ジャングルのなかでの孤立感を見事に再現してみせた。7chアンプの基本性能に余裕があるためか、シネマDSPが違和感なく自然な効果を引き出し、空間再現のポテンシャルを一気に高めてくれる。
今年は以前のエントリーに相当する5〜6万円クラスのAVアンプが激戦区になることが予想される。本機はそのカテゴリーをリードするポテンシャルを秘めている。
◆山之内 正 プロフィール
神奈川県横浜市出身。東京都立大学理学部卒。在学時は原子物理学を専攻する。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。近著に『ネットオーディオ入門』(講談社ブルーバックス/2013年)がある。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、現在もアマチュアオーケストラに所属し、定期演奏会も開催する。また年に数回、オペラ鑑賞のためドイツ、オーストリアへ渡航。趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。