公開日 2014/05/23 11:55
AKG「K3003」レビュー − 他に代えのない孤高のリファレンス・イヤホン
カスタムIEMの世界が身近となった現在でもその輝きを失わない「K3003」は、バランスド・アーマチュア型(以下、BA型)ドライバーのマルチ化がトレンドとなり、各社のハイエンド機が3ウェイ仕様へとシフトしていた2011年、彗星のごとく登場したAKGのフラグシップ・カナル型イヤホンだ。1949年の「K120」誕生以来長年培ってきたAKGのヘッドホン開発ノウハウを注ぎ込み、ヘッドホンの持つゆとりある再生能力をイヤホンでいかに再現するかに注力した名機である。
ダイナミック型ドライバーを長らく手掛けてきたAKGらしく、BA型とのハイブリッドという手法で低域の量感と高域の解像度、そしてワイドレンジな特性を獲得している。「K3003」以前のハイブリッド機は、コンセプトは理解できてもその理想にサウンドが届いていないというもどかしい現実を感じさせるものばかりで、高級機に耐えられる完成度の高いものはなかなかお目にかかれなかった。しかし「K3003」はスタイリッシュかつ高品位にまとめられた上質なデザインの中に、低域用ダイナミック型ドライバーと中域用、高域用の2つのBA型ドライバー、合計3ユニットをコンパクトなステンレスボディに凝縮。位相管理や帯域バランスのコントロールが難しいマルチウェイ・ハイブリッド機を巧みにまとめ上げ、ヘッドホン並みの自然な音場再現性を持たせることに成功した。
ダイナミック型ならではの緻密で高密度な低域と、ハリ良く瑞々しい倍音をほのかに乗せる繊細な高域を両立させた、ハイブリッド構成ならではの持ち味を生かしながらも、AKG伝統の流麗で清々しいディティール表現と深みのある空間再生能力を持たせた全方位でのバランスに優れたサウンドを持つ。
好みに応じて低域や高域の質感を調整できるメカニカル・チューニング・フィルターに加え、ラバー被覆と布製被覆を効果的に配し、タッチノイズを軽減させたハイブリッドシースの採用も見事である。
唯一の欠点といえるのが、8Ωというインピーダンスの低さ。オペアンプ駆動のヘッドホンアンプでは駆動しきれないのだ。本機が元来持つポテンシャルを生かすには、駆動環境にも気を配りたいところだ。
■ハイブリッド構成カナル型イヤホンの完成形
他に代えのない孤高のリファレンス・モデル
今回の試聴はiBasso Audio「HDP-R10」を用意して行った。クラシックのレヴァイン指揮/シカゴ交響楽団『惑星』〜「木星」(CDリッピング:44.1kHz/16bit・WAV)の弦は細身で爽やかな旋律を聴かせてくれた。ホーンも浮き立ちもキレ良く、ティンパニは皮のハリが鮮やかで胴鳴りも締まり良く解像度の高い描写となる。ホールトーンは澄んでおり、瑞々しい余韻が響く。ステージは雄大で奥行き感も出ており、レンジ感もナチュラルで品性が良い。
オスカー・ピーターソン・トリオ『プリーズ・リクエスト』〜「ユー・ルック・グッド・トゥ・ミー」(CDリッピング:44.1kHz/16bit・WAV)のピアノは軽やかで、透明感あるハーモニクスがころころと響く。中低域への伸びも自然でゆったりとして余裕ある描写能力を実感。ウッドベースの弦のたわみはハリ良く、胴鳴りははね良く引き締まっている。ドラムの立体感も高く、ブラシの生々しいタッチがすっきりと際立つ。
デイヴ・メニケッティ『メニケッティ』〜「メッシン・ウィズ・ミスター・ビッグ」(CDリッピング:44.1kHz/16bit・WAV)ではエレキのリフはブライトだが、中域のエナジーも深く、歪みの質も素直。粘りあるディストーションの質感とざっくりしたミュートの響きをバランス良く融合させている。キックとベースの量感も厚みがありバランス良い。スネアとシンバルはハリ良くエッジが際立ち、リズムのタイトさをより良く感じさせてくれた。ボーカルはボトムも安定し、口元をハリ艶良く表現してくれる。
続いてハイレゾ音源である長谷川友二『音展2009・ライブレコーディング』〜「ゲット・バック」(筆者自身によるDSD録音)を聴いてみたが、カラッと抜け良く煌めくアコギの弦と、弾力良くたわみの艶が際立つウッドベースが小気味よいグルーヴを作り出してくれる。ボーカルはハリ良くほのかにふっくらとしており、空間性も自然で定位も滑らかに感じられた。
『Pure2-Ultimate Cool Japan Jazz-』〜「届かない恋」「夢であるように」(192kHz/24bit・WAVマスターデータ)のホーンがソリッドでハリは強めだ。シンバルは爽やかに拡散し澄んだ音場が展開。ウッドベースも引き締まり、ドラムは立体的に定位する。ハードタッチで透明感が高いピアノはクリスタルのような美しい旋律を聴かせてくれた。アンビエントは輝き強く華やか。ボーカルは口元をクールに描き、ハリ鮮やかに浮かぶ。ウェットでキレ良い艶を放ち、輪郭感が一層際立つ。ボトムは厚みがあり安定感も高い。
クラシカルなソースであるイ・ソリスティ・ディ・ペルージャ『ヴィヴァルディ:四季』〜「春」(HQM:192kHz/24bit・WAV)のストリングスは明るく爽やかに浮かび上がる。一つ一つのタッチが粒立ち細かく繊細だ。チェンバロも細くシャープなタッチで、余韻は抜け良く収束もきれいにまとまってゆく。上品な響きに満ちた音場を堪能することができた。
続く飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート2013『プロコフィエフ:古典交響曲』〜第一楽章(e-onkyo:96kHz/24bit・WAV)でもストリングスがキレ良く余韻も素早く爽快に収まる。ホーンはすっきりとして粒立ちはきめ細やか。輝き良いハーモニーで音場の深みや広がりを丁寧に描き出してくれた。抑揚丁寧でダイナミックレンジが広い高解像度の見本となるような、見事なオーケストラサウンドである。
ポップスから、シカゴ『17』〜「ワンス・イン・ア・ライフタイム」(e-onkyo:192kHz/24bit・FLAC)を聴く。ベースは深く沈み、押し出しパワフルでキレが良い。ギターやシンセはカチっとした輪郭を持ち、ソリッドで鮮明な表現だ。ボーカルは口元を潤い良く繊細に描写。生き生きして解像感も高く、リヴァーブも澄み渡る。ホーンセクションはソリッドで鮮明なアタックが耳当たり爽やかだ。低域の量感は弾力良くむっちりとして質の良い倍音の豊かさを味わえる。
Suara『DSDライブセッション』〜「桜」(OTOTOY:2.8MHz・DSD)のヴァイオリンはハリ良くソリッド。アコギはカラッとヌケ良くシャープに際立つ。ボーカルはクールでウェットな描写となり、キレ良くスマートなタッチでまとめられる。安定したボトムの太さも感じさせる一方でボディの引き締めも強い。リヴァーブの清々しい響きはプレート系の上品な華やかさを感じさせてくれた。
カナル型ハイブリッド構成のモデルはこの数年格段に数を増やしたが、「K3003」はその完成形といえるクオリティの高さを誇る。イヤホンのハイエンドモデルのなかでも希少な清潔さを持つサウンドは、他に代えのない孤高のリファレンスと言えるだろう。
ダイナミック型ドライバーを長らく手掛けてきたAKGらしく、BA型とのハイブリッドという手法で低域の量感と高域の解像度、そしてワイドレンジな特性を獲得している。「K3003」以前のハイブリッド機は、コンセプトは理解できてもその理想にサウンドが届いていないというもどかしい現実を感じさせるものばかりで、高級機に耐えられる完成度の高いものはなかなかお目にかかれなかった。しかし「K3003」はスタイリッシュかつ高品位にまとめられた上質なデザインの中に、低域用ダイナミック型ドライバーと中域用、高域用の2つのBA型ドライバー、合計3ユニットをコンパクトなステンレスボディに凝縮。位相管理や帯域バランスのコントロールが難しいマルチウェイ・ハイブリッド機を巧みにまとめ上げ、ヘッドホン並みの自然な音場再現性を持たせることに成功した。
ダイナミック型ならではの緻密で高密度な低域と、ハリ良く瑞々しい倍音をほのかに乗せる繊細な高域を両立させた、ハイブリッド構成ならではの持ち味を生かしながらも、AKG伝統の流麗で清々しいディティール表現と深みのある空間再生能力を持たせた全方位でのバランスに優れたサウンドを持つ。
好みに応じて低域や高域の質感を調整できるメカニカル・チューニング・フィルターに加え、ラバー被覆と布製被覆を効果的に配し、タッチノイズを軽減させたハイブリッドシースの採用も見事である。
唯一の欠点といえるのが、8Ωというインピーダンスの低さ。オペアンプ駆動のヘッドホンアンプでは駆動しきれないのだ。本機が元来持つポテンシャルを生かすには、駆動環境にも気を配りたいところだ。
■ハイブリッド構成カナル型イヤホンの完成形
他に代えのない孤高のリファレンス・モデル
今回の試聴はiBasso Audio「HDP-R10」を用意して行った。クラシックのレヴァイン指揮/シカゴ交響楽団『惑星』〜「木星」(CDリッピング:44.1kHz/16bit・WAV)の弦は細身で爽やかな旋律を聴かせてくれた。ホーンも浮き立ちもキレ良く、ティンパニは皮のハリが鮮やかで胴鳴りも締まり良く解像度の高い描写となる。ホールトーンは澄んでおり、瑞々しい余韻が響く。ステージは雄大で奥行き感も出ており、レンジ感もナチュラルで品性が良い。
オスカー・ピーターソン・トリオ『プリーズ・リクエスト』〜「ユー・ルック・グッド・トゥ・ミー」(CDリッピング:44.1kHz/16bit・WAV)のピアノは軽やかで、透明感あるハーモニクスがころころと響く。中低域への伸びも自然でゆったりとして余裕ある描写能力を実感。ウッドベースの弦のたわみはハリ良く、胴鳴りははね良く引き締まっている。ドラムの立体感も高く、ブラシの生々しいタッチがすっきりと際立つ。
デイヴ・メニケッティ『メニケッティ』〜「メッシン・ウィズ・ミスター・ビッグ」(CDリッピング:44.1kHz/16bit・WAV)ではエレキのリフはブライトだが、中域のエナジーも深く、歪みの質も素直。粘りあるディストーションの質感とざっくりしたミュートの響きをバランス良く融合させている。キックとベースの量感も厚みがありバランス良い。スネアとシンバルはハリ良くエッジが際立ち、リズムのタイトさをより良く感じさせてくれた。ボーカルはボトムも安定し、口元をハリ艶良く表現してくれる。
続いてハイレゾ音源である長谷川友二『音展2009・ライブレコーディング』〜「ゲット・バック」(筆者自身によるDSD録音)を聴いてみたが、カラッと抜け良く煌めくアコギの弦と、弾力良くたわみの艶が際立つウッドベースが小気味よいグルーヴを作り出してくれる。ボーカルはハリ良くほのかにふっくらとしており、空間性も自然で定位も滑らかに感じられた。
『Pure2-Ultimate Cool Japan Jazz-』〜「届かない恋」「夢であるように」(192kHz/24bit・WAVマスターデータ)のホーンがソリッドでハリは強めだ。シンバルは爽やかに拡散し澄んだ音場が展開。ウッドベースも引き締まり、ドラムは立体的に定位する。ハードタッチで透明感が高いピアノはクリスタルのような美しい旋律を聴かせてくれた。アンビエントは輝き強く華やか。ボーカルは口元をクールに描き、ハリ鮮やかに浮かぶ。ウェットでキレ良い艶を放ち、輪郭感が一層際立つ。ボトムは厚みがあり安定感も高い。
クラシカルなソースであるイ・ソリスティ・ディ・ペルージャ『ヴィヴァルディ:四季』〜「春」(HQM:192kHz/24bit・WAV)のストリングスは明るく爽やかに浮かび上がる。一つ一つのタッチが粒立ち細かく繊細だ。チェンバロも細くシャープなタッチで、余韻は抜け良く収束もきれいにまとまってゆく。上品な響きに満ちた音場を堪能することができた。
続く飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート2013『プロコフィエフ:古典交響曲』〜第一楽章(e-onkyo:96kHz/24bit・WAV)でもストリングスがキレ良く余韻も素早く爽快に収まる。ホーンはすっきりとして粒立ちはきめ細やか。輝き良いハーモニーで音場の深みや広がりを丁寧に描き出してくれた。抑揚丁寧でダイナミックレンジが広い高解像度の見本となるような、見事なオーケストラサウンドである。
ポップスから、シカゴ『17』〜「ワンス・イン・ア・ライフタイム」(e-onkyo:192kHz/24bit・FLAC)を聴く。ベースは深く沈み、押し出しパワフルでキレが良い。ギターやシンセはカチっとした輪郭を持ち、ソリッドで鮮明な表現だ。ボーカルは口元を潤い良く繊細に描写。生き生きして解像感も高く、リヴァーブも澄み渡る。ホーンセクションはソリッドで鮮明なアタックが耳当たり爽やかだ。低域の量感は弾力良くむっちりとして質の良い倍音の豊かさを味わえる。
Suara『DSDライブセッション』〜「桜」(OTOTOY:2.8MHz・DSD)のヴァイオリンはハリ良くソリッド。アコギはカラッとヌケ良くシャープに際立つ。ボーカルはクールでウェットな描写となり、キレ良くスマートなタッチでまとめられる。安定したボトムの太さも感じさせる一方でボディの引き締めも強い。リヴァーブの清々しい響きはプレート系の上品な華やかさを感じさせてくれた。
カナル型ハイブリッド構成のモデルはこの数年格段に数を増やしたが、「K3003」はその完成形といえるクオリティの高さを誇る。イヤホンのハイエンドモデルのなかでも希少な清潔さを持つサウンドは、他に代えのない孤高のリファレンスと言えるだろう。