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公開日 2017/10/17 19:14

トップウイングの新方式カートリッジ「青龍」- 最先端技術でトレースされたサウンドを聴く

「コアレス・ストレートフラックス」採用
貝山知弘
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世界的にも注目モデルがひしめき合う日本のカートリッジブランドに名乗りを上げた新たなブランド、トップウイング。「最先端の技術で、変わることのないレコードの溝をトレースしたらどうなるか」というロマンを求め開発された処女作「青龍」は、登場するや否や早くも多くのアナログファンの注目を集めた。貝山知弘氏もそのひとり。この度、氏の試聴室《ボワ・ノアール》に青龍を持ち込み、そのサウンドを聴いた。その評価はいかに。

TOPWING「青龍」コアレス・ストレートフラックス型カートリッジ

■男達のロマンから生まれた最先端のカートリッジ

以前から気になっていたカートリッジがあった。その名も青龍。トップウイングが満を持して開発したMMでもMCでもない「コアレス・ストレートフラックス」型というカートリッジだ。すでに長い歴史のあるアナログの歴史のなかにあって、新しい方式を送り出す。「アナログには終わりはない」というメッセージのようでもある。

新し物好きの私は、青龍の音を聴いてみたいとリクエストしていた。今回はその念願が叶い、《ボワ・ノアール》でこの“青い龍”を聴くことができた。

青龍を語る時には、何人かの登場人物がいる。その中心にいたのは、佐々木原幸一氏。機械である以上は時間が経つにつれて劣化は否めないなかで、アナログディスクだけはそのままの形を保つ。そう考えた佐々木原氏は、「その音溝を現在の技術で引っ掻いたらどんな音がするのか」というロマンを持っていた。時を同じくして彼の目の前に現れたのが、かつてグレースF-9などのカートリッジを手掛けた目黒弘氏だった。

コアレス・ストレートフラックス方式は、この目黒氏が長い期間温め続けていたアイデアだったという。コア材をコイルに持たせずにマグネットをカンチレバーの根本に配置して、そのすぐ上にV字型のマグネットを設ける構造。スタイラスから拾ったサウンドを、最小の磁束変化としてトレースできるこの構造を聞いた佐々木原氏は、ブランド初の製品としてカートリッジの開発を決めたそうだ。

コアレス・ストレートフラックス型とは、コア材を持たずにマグネットのすぐ上にV字型のコイルを配置した構造を採用する方式。磁束内で不規則に変化するMCの欠点を補う構造として注目される新方式である

その特徴は多く、どれも評価に値するものだが、それを解説するのは私の肌には合わない。それよりも結果、すなわち音がもっとも肝心である。私はバイオリンの音にうるさいと自負しているが、この《ボワ・ノアール》で青龍がどのようなバイオリンを聴かせてくれるのか。これこそが今回の主題だ。

青龍をヘッドシェルに装着したところ。ボディ部はナットを装着しやすいようデザインされていることも特徴だ

青龍のボディは、レーザーマウントの分野で世界的な評価を獲得するファーストメカニカルデザインという会社が担当した。その剛性は極めて高く、不要共振を徹底的に排除することを実現。これも青龍の力強くも緻密なサウンドに大きく貢献している

普段からよく聴くヴァイオリンのアナログ・ディスクを幾つか用意し、試聴に備える。試聴システムはターンテーブルがテクニクス「SP10MK3」、トーンアームにはグランツ「MH-104S」。昇圧トランスにマイソニック「Stage1030」、フォノイコライザーにパス「Xono」、プリアンプはアキュフェーズ「C-3850」、パワーアンプも同「A-200」2台。スピーカーシステムがフォステクス「G2000a」だ。

■バイオリニストの振る舞いまで表出する

青龍が音溝をトレースしてすぐ、その解像度の高さに気がついた。一流のバイオリン奏者は、指を少しずつずらしながら音色を変えるなど、実に細かなテクニックを駆使しているが、青龍ではその振る舞いが非常によく分かるのだ。立ち上がりも速い。正直にいえば、青龍という名前から力強さを連想していた私だが、実際の音はそれだけではない、緻密さも兼ね備えているものである。

オーケストラでは、最近手に入れたラトルとベルリン・フィルによる『ベートーヴェン/交響曲全集』を聴いた。このレコードで、全ての楽器のバランスを正確に再現できるカートリッジにそうそう出会うことはないが、青龍はホールの中で音が飽和する様子まで表出した。最近の演奏はなるたけ力強い音を出すのが流行りで、この力強さが出なければ正解ではない。しかし、青龍はここでも豊かな情報量をトレースし、聴いていて気持ちが良い。この表現の力強さとバランス、それも一番大事な低音と高音のバランスもしっかりと表現したのである。 

音は振動そのもののスピードが大事だ。そう考えれば、音の入口であるカートリッジから余計なものは鳴らさないという考え方で作り込むことは理にかなっている。処女作でこの音であれば、今後も期待してしまうのが人情だ。アナログにはまだまだ終わりはないと、この青龍は改めて示していた。

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