公開日 2019/10/06 06:30
『天気の子』観るなら4D上映が最高。これほど“濡れたい”作品は他にない!
4DX/MX4D、どっちが良い?
恐るべし、“大雨の子”! これほどまでに劇中で描かれる気象シーンが、4Dアトラクションとベストマッチする作品とは思いもよらなかった。
9月27日、公開11週目を迎えた大ヒット映画『天気の子』が4DXとMX4Dでの上映を開始した。筆者は早速、2種の4D上映を連続鑑賞。4DXとMX4Dの大きな違いと、それぞれの魅力を体感してきた。
新海誠監督の長編アニメ『天気の子』は、すでに興収132億円を超え、本年度の記録はもちろん、昨年から約1年のロングランを続ける『ボヘミアン・ラプソディ』を抜き、歴代興収ランキングも16位となっている。
本作はこれまで通常2D版とIMAX版の2バージョンによる上映が行われていた。ここに加わった4D上映では、体感型機能である、“水” “風” “フラッシュ” “モーションシート” などによって、作品に新しい発見と意外な深みがもたらされていた。
なお、本稿では作中のさまざまなシーンに触れるため、ネタバレを避けたい未視聴の方はご注意いただきたい。
■実は2系統存在する4D上映。ただ“揺れる”“動く” だけではない
4D上映の概要について、あらためて紹介することは控えるが、4D上映は“アトラクション型の上映システム” として、2009年に韓国で4DXの『センター・オブ・ジ・アース』 が誕生して以来、丸10年が経った。現在世界62ヵ国(4DX)に普及、日本にも2013年に4DX、2015年にMX4Dが上陸している。
国内でも100本以上の作品がこれまで4D上映されてきた。またその初期から積極的に4D効果を活用するスタジオや監督も少なくない。ディズニー作品に至っては必ずと言っていいほど採用されるバージョンになっている。
4DXとMX4Dは開発メーカーが違う。採用する映画館チェーンも異なるだけでなく、そもそも仕様が異なるので、その体感効果に差がある。しかも機能も、新規導入館で年々進化している。ただ “揺れる” “動く” だけではないのだ。
■4DXは『天気の子』にうってつけ。「濡れたい人だけスイッチをオン」に
『天気の子』は全編で、雨が降り続く東京を描いている。本作の4D上映はむしろ必然で、なぜ今なのかが不思議なほど。観客動員のダメ押しに取っておいたような気さえする。とくに4DXの持つ、“雨” “風” “霧” “フラッシュ” “嵐” “水” “雪” などの機能がうってつけの作品なのである。
当然 “4DX” で観るべきだろうと、まず初日はユナイテッドシネマ豊洲で4DXを鑑賞することにした。4DX作品では、『呪怨』シリーズの清水崇監督が4DX専用に手がけたホラー作品『雨女』(2016年)がある。本作は35分という短編なのだが、とにかく頭から “ずぶ濡れ” になる。こんな映画は初めてだった。
そんな経験から、本気で『天気の子』のシーン通りに4DX効果を実施した場合、同じ目に遭うかもしれないという不安がよぎった。しかも、今回『天気の子』を鑑賞したユナイテッドシネマ豊洲では、入場時に「水のボタンがOFFになっています」とアナウンスされた。入場時にこんな注意喚起をされる映画も初めてだ。
通常、4DX劇場で右レストのドリンクホルダー近くにあるWATERボタンは、入場時にONになっている。作品上映前に濡れたくない人は自分でOFFにするのだ。それが本作では逆の対応。「濡れたい人はONにしてください」という意味だろう。
『天気の子』はオープニングからエンディングまで、雨・雨・雨…。遊園地のウォーターコースターで雨がっぱを着る人、水族館のイルカショーで最前列に座りたくない人、そんな人には4DXは不向きかもしれない。一抹の不安を抱えながら覚悟して臨むと、序盤は意外と雨が少なめだったりする。その意味はやがて分かるのが、他のシーンとのコントラストをつけるためだろう。
家出をした穂高が、東京に向かうフェリー船上の局所的豪雨のシーンあたりから、徐々に雨・風の機能が開放されていく。劇場内はフォグ(霧)と水の噴射機能で、たえず空気はしっとりとしている。そこに扇風機による風が吹くので、継続的に濡れる。とはいえ、かつての『雨女』のように頭からずぶ濡れということはない。『雨女』のときは、自分の顔から水がしたたり落ちた。
■“濡れない” MX4Dも異なるアプローチが魅力だが、4DXの “リアルな雪” にはかなわない
一方のMX4Dでは、同じ4Dでも雨や嵐といったバリエーションがない。頭部に水を噴射するスプラッシュ的なものはあるが、水にまつわる機能はそれだけである。『天気の子』のような全編にわたる雨のシーンをリアルに再現するのには、どちらかというと不向きといえる。
しかしながら、翌日TOHOシネマズ新宿で鑑賞したMX4Dは、まったく違ったアプローチで迫ってきた。冒頭の見どころ、母を看病していた陽菜が病院を抜け出し、廃ビル屋上の鳥居をくぐった瞬間の未知の浮揚感。これをMX4Dは、雨のない分、アームレストからの風で補っている。空中を浮遊している間、ずっと風が顔に吹き付けている。鳥居をくぐっての空中浮遊はクライマックスにも控えているが、これはMX4D演出のほうが好適である。
単なる雨よりも暴風雨のシーンが多い『天気の子』。それをリアルに再現し続けられたら鑑賞に堪えないだろう。MX4Dではあえて水を多用せず、別の機能で雰囲気を想像させる。手や顔、服などを濡らしたくないという人もMX4Dで十分といえよう。このアームレストからの風は、作品後半、夏美のバイクで逃走するシーンでも疾走感を演出するのに効果的に使われている。
とはいえ、『天気の子』は気象変動を描いた作品。やはり水まわりの演出が豊富な4DXに軍配が上がるシーンも多い。そのひとつが作品終盤、池袋駅周辺や渋谷駅、新宿駅などで、真夏なのに雪が降るシーン。ここで、4DXでは劇場に “雪” が降ってくるのだ!
これは前方スクリーンの左右から噴出させた泡を雪に見立てたもの。『アナと雪の女王』(2014年)の4DX上映のときにも感動した演出である。MX4Dのイマジネーションをかきたてる工夫も、さすがに、この “リアルな雪” にはかなわない。
■MX4Dは光の色使いが美しい/モーションシートも作品の深みを増す
中盤、神宮外苑花火大会を、外苑から六本木ヒルズまでドローン的なカメラワークで捉える、打ち上げ花火のシーンがある。4DX/MX4Dともに、ここでは打ち上げ花火とシンクロするフラッシュ効果が添えられるのだが、ここで確認できるのは、4DXではライトが単色であるのに対し、MX4DではLEDライトに色がついていること。それも、「橙」→「緑」→「青」→「赤」→「青」→「赤」…と花火の炎色に合わせて色が変わるのだ。美しい仕掛けである。
このカラーLEDフラッシュは、終盤、池袋で逃亡中のトラック爆発シーンや雷光などでも橙色に光っている。ピストルの発砲でも使われていた。
また、4DX/MX4Dともに、本作で意外な気付きがあったのは “トレインビュー(電車)” である。4D上映の基本は、当然、前後左右に動く “モーションシート” である。東京のターミナル駅や、山手線をはじめとした電車がたびたび登場する本作は、電車の騒音や振動、揺れをモーションシートで表現している。
印象的なシーンとしては、穂高がはじめて訪れた、田端駅近くの陽菜のアパート。地震のような突然の揺れに、穂高が驚くシーンがあるが、それはアパートの近くを通る電車の振動だ。通常の2D上映では、何気なく観ていたシーンだが、実際にシートがガタガタと揺れると、穂高の気持ちに少し近づくことができる。
■クライマックスの空中浮遊は、ぜひ4D上映で
なんといっても、本作の見どころはクライマックスの雲上の二人の空中浮遊である。このシーンを体験するだけでも、今回の4D上映は価値がある。雨や嵐、雪の演出は自在に水量を操ることができる4DXのほうが楽しい。しかし前述したとおり、アームレストからの風とモーションシートによる空中浮遊に関しては、MX4Dのほうが没入感が高く、全体としては甲乙つけがたい。
これまで4D上映では、なかなか4DXとMX4Dの違いを明確に区別できる作品がなかったが、『天気の子』は、2つの4D上映方式の魅力を知ることができる、ある意味でリファレンス的な作品である。上映期間が限られているので、ぜひ早めに『天気の子』を4D体験してみて欲しい。
(鑑賞:2019/9/27/ユナイテッドシネマ豊洲/ビスタ/4DX)
(鑑賞:2019/9/28/TOHOシネマズ新宿/ビスタ/MX4D)
9月27日、公開11週目を迎えた大ヒット映画『天気の子』が4DXとMX4Dでの上映を開始した。筆者は早速、2種の4D上映を連続鑑賞。4DXとMX4Dの大きな違いと、それぞれの魅力を体感してきた。
新海誠監督の長編アニメ『天気の子』は、すでに興収132億円を超え、本年度の記録はもちろん、昨年から約1年のロングランを続ける『ボヘミアン・ラプソディ』を抜き、歴代興収ランキングも16位となっている。
本作はこれまで通常2D版とIMAX版の2バージョンによる上映が行われていた。ここに加わった4D上映では、体感型機能である、“水” “風” “フラッシュ” “モーションシート” などによって、作品に新しい発見と意外な深みがもたらされていた。
なお、本稿では作中のさまざまなシーンに触れるため、ネタバレを避けたい未視聴の方はご注意いただきたい。
■実は2系統存在する4D上映。ただ“揺れる”“動く” だけではない
4D上映の概要について、あらためて紹介することは控えるが、4D上映は“アトラクション型の上映システム” として、2009年に韓国で4DXの『センター・オブ・ジ・アース』 が誕生して以来、丸10年が経った。現在世界62ヵ国(4DX)に普及、日本にも2013年に4DX、2015年にMX4Dが上陸している。
国内でも100本以上の作品がこれまで4D上映されてきた。またその初期から積極的に4D効果を活用するスタジオや監督も少なくない。ディズニー作品に至っては必ずと言っていいほど採用されるバージョンになっている。
4DXとMX4Dは開発メーカーが違う。採用する映画館チェーンも異なるだけでなく、そもそも仕様が異なるので、その体感効果に差がある。しかも機能も、新規導入館で年々進化している。ただ “揺れる” “動く” だけではないのだ。
■4DXは『天気の子』にうってつけ。「濡れたい人だけスイッチをオン」に
『天気の子』は全編で、雨が降り続く東京を描いている。本作の4D上映はむしろ必然で、なぜ今なのかが不思議なほど。観客動員のダメ押しに取っておいたような気さえする。とくに4DXの持つ、“雨” “風” “霧” “フラッシュ” “嵐” “水” “雪” などの機能がうってつけの作品なのである。
当然 “4DX” で観るべきだろうと、まず初日はユナイテッドシネマ豊洲で4DXを鑑賞することにした。4DX作品では、『呪怨』シリーズの清水崇監督が4DX専用に手がけたホラー作品『雨女』(2016年)がある。本作は35分という短編なのだが、とにかく頭から “ずぶ濡れ” になる。こんな映画は初めてだった。
そんな経験から、本気で『天気の子』のシーン通りに4DX効果を実施した場合、同じ目に遭うかもしれないという不安がよぎった。しかも、今回『天気の子』を鑑賞したユナイテッドシネマ豊洲では、入場時に「水のボタンがOFFになっています」とアナウンスされた。入場時にこんな注意喚起をされる映画も初めてだ。
通常、4DX劇場で右レストのドリンクホルダー近くにあるWATERボタンは、入場時にONになっている。作品上映前に濡れたくない人は自分でOFFにするのだ。それが本作では逆の対応。「濡れたい人はONにしてください」という意味だろう。
『天気の子』はオープニングからエンディングまで、雨・雨・雨…。遊園地のウォーターコースターで雨がっぱを着る人、水族館のイルカショーで最前列に座りたくない人、そんな人には4DXは不向きかもしれない。一抹の不安を抱えながら覚悟して臨むと、序盤は意外と雨が少なめだったりする。その意味はやがて分かるのが、他のシーンとのコントラストをつけるためだろう。
家出をした穂高が、東京に向かうフェリー船上の局所的豪雨のシーンあたりから、徐々に雨・風の機能が開放されていく。劇場内はフォグ(霧)と水の噴射機能で、たえず空気はしっとりとしている。そこに扇風機による風が吹くので、継続的に濡れる。とはいえ、かつての『雨女』のように頭からずぶ濡れということはない。『雨女』のときは、自分の顔から水がしたたり落ちた。
■“濡れない” MX4Dも異なるアプローチが魅力だが、4DXの “リアルな雪” にはかなわない
一方のMX4Dでは、同じ4Dでも雨や嵐といったバリエーションがない。頭部に水を噴射するスプラッシュ的なものはあるが、水にまつわる機能はそれだけである。『天気の子』のような全編にわたる雨のシーンをリアルに再現するのには、どちらかというと不向きといえる。
しかしながら、翌日TOHOシネマズ新宿で鑑賞したMX4Dは、まったく違ったアプローチで迫ってきた。冒頭の見どころ、母を看病していた陽菜が病院を抜け出し、廃ビル屋上の鳥居をくぐった瞬間の未知の浮揚感。これをMX4Dは、雨のない分、アームレストからの風で補っている。空中を浮遊している間、ずっと風が顔に吹き付けている。鳥居をくぐっての空中浮遊はクライマックスにも控えているが、これはMX4D演出のほうが好適である。
単なる雨よりも暴風雨のシーンが多い『天気の子』。それをリアルに再現し続けられたら鑑賞に堪えないだろう。MX4Dではあえて水を多用せず、別の機能で雰囲気を想像させる。手や顔、服などを濡らしたくないという人もMX4Dで十分といえよう。このアームレストからの風は、作品後半、夏美のバイクで逃走するシーンでも疾走感を演出するのに効果的に使われている。
とはいえ、『天気の子』は気象変動を描いた作品。やはり水まわりの演出が豊富な4DXに軍配が上がるシーンも多い。そのひとつが作品終盤、池袋駅周辺や渋谷駅、新宿駅などで、真夏なのに雪が降るシーン。ここで、4DXでは劇場に “雪” が降ってくるのだ!
これは前方スクリーンの左右から噴出させた泡を雪に見立てたもの。『アナと雪の女王』(2014年)の4DX上映のときにも感動した演出である。MX4Dのイマジネーションをかきたてる工夫も、さすがに、この “リアルな雪” にはかなわない。
■MX4Dは光の色使いが美しい/モーションシートも作品の深みを増す
中盤、神宮外苑花火大会を、外苑から六本木ヒルズまでドローン的なカメラワークで捉える、打ち上げ花火のシーンがある。4DX/MX4Dともに、ここでは打ち上げ花火とシンクロするフラッシュ効果が添えられるのだが、ここで確認できるのは、4DXではライトが単色であるのに対し、MX4DではLEDライトに色がついていること。それも、「橙」→「緑」→「青」→「赤」→「青」→「赤」…と花火の炎色に合わせて色が変わるのだ。美しい仕掛けである。
このカラーLEDフラッシュは、終盤、池袋で逃亡中のトラック爆発シーンや雷光などでも橙色に光っている。ピストルの発砲でも使われていた。
また、4DX/MX4Dともに、本作で意外な気付きがあったのは “トレインビュー(電車)” である。4D上映の基本は、当然、前後左右に動く “モーションシート” である。東京のターミナル駅や、山手線をはじめとした電車がたびたび登場する本作は、電車の騒音や振動、揺れをモーションシートで表現している。
印象的なシーンとしては、穂高がはじめて訪れた、田端駅近くの陽菜のアパート。地震のような突然の揺れに、穂高が驚くシーンがあるが、それはアパートの近くを通る電車の振動だ。通常の2D上映では、何気なく観ていたシーンだが、実際にシートがガタガタと揺れると、穂高の気持ちに少し近づくことができる。
■クライマックスの空中浮遊は、ぜひ4D上映で
なんといっても、本作の見どころはクライマックスの雲上の二人の空中浮遊である。このシーンを体験するだけでも、今回の4D上映は価値がある。雨や嵐、雪の演出は自在に水量を操ることができる4DXのほうが楽しい。しかし前述したとおり、アームレストからの風とモーションシートによる空中浮遊に関しては、MX4Dのほうが没入感が高く、全体としては甲乙つけがたい。
これまで4D上映では、なかなか4DXとMX4Dの違いを明確に区別できる作品がなかったが、『天気の子』は、2つの4D上映方式の魅力を知ることができる、ある意味でリファレンス的な作品である。上映期間が限られているので、ぜひ早めに『天気の子』を4D体験してみて欲しい。
(鑑賞:2019/9/27/ユナイテッドシネマ豊洲/ビスタ/4DX)
(鑑賞:2019/9/28/TOHOシネマズ新宿/ビスタ/MX4D)