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公開日 2021/08/02 06:30

真空管プリメイン「JUNONE 845S」はトライオードの“最高傑作”、音の完成度が極めて高い

【特別企画】音の消え際の美しさは天下一品
石原 俊
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JUNONE第2弾となるプリメインアンプが登場

トライオードが新プリメインアンプ「JUNONE 845S」を発売した。ちなみにJUNONEというブランド名は、創業者の山順一氏の名にちなむものである。

本機はJUNONEの名を冠した2代目のモデルだ。初代の「Reference One」は電源別筐体・ツインモノラル構成のプリアンプで、たしかに理想的だが、現実味が乏しいという側面もあった。それに対して本機では理想と現実が等しく追求されている。内容を見ていこう。

真空管プリメインアンプ「JUNONE 845S」:¥968,000(税込)

大型送信管を採用しながらコンパクトなサイズを実現

本機は全段三極管構成のステレオプリメインアンプである。使用管は入力段が双三極管12AX7、次段が同12AT7、ドライバー段が中型直熱三極管300B、終段が大型三極管845のシングルで、出力は22W×2だ(出力端子は4-8Ωに対応)。

終段の真空管としても使える300Bをドライバー段に持ってくるという、何とも贅沢な設計になっている。この手法は昔からあるのだが、その種の回路を持つのは特殊な業務用機器か、さもなければごく一部の数寄者のために作られた特注品がほとんどで、プロダクションモデルもあるにはあるが一般人には手の届かないプライスタグがつけられていた。ところが本機の価格は税込968,000円と、常識の範囲に収まっている。

サイズも常識の範囲内だ。300B/845のアンプはともすると常識を欠くビッグサイズになってしまいがちなのだが、本機は驚くほどコンパクトにまとまっている。このコンパクトさは、真空管式プリメイン/パワーアンプを約50機種も手掛けてきたトライオードの技術的経験値によってもたらされたものであろう。

本機の上部は大型トランスを採用しているため、チョークトランスやブロックコンデンサーなどは内部に収められている。熟練工による手配線とプリント基板を用い、効率よくまとめられている

電源部は巨大なトランスを擁する本格派だ。日本ケミコンに特注した電解コンデンサーが使用されており、845に1000Vのプレート電圧を安定的に供給している。845のソケットも特注品だ。一般に出回っている845用のソケットはバネで固定するため大音量時に共振しやすい。それに対して特注品は金メッキピンにテーパーがついているので、845の脚をしっかりと固定することができる。だから1000Vの電圧をかけても心配がない。

845は固定バイアスで動作しているため、交換時にはバイアス調整をしなければならない。フロントパネルの中央にはバイアス調整メーターがあり、その左側のスイッチを「BIAS ADJUST」に切り替えて、そのまた左のスイッチで真空管を選択し、トップパネルのバイアス調整ボリュームをバイアス調整用ドライバーで回転させて調整を行う。

なお、リアパネルのスイッチを「INTEGRATED」から「MAIN IN」に切り替え、プリアンプの出力を「MAIN IN」に入力すると、本機をステレオパワーアンプとして使用することができる。

真空管の動作状況がいつでも確認できるバイアスメーターを装備。シャーシ上部には、ハムバランサーボリュームとバイアス調整ボリュームがあり、簡単に調整が可能となっている

透明で見晴らしの良い音場感。コクと深みのある音像を再現

実際に聴いてみると、極めて完成度の高い音である。845や211のアンプは、アマチュアの作はもとより、プロダクションモデルでも大型トランスの重みにシャーシが耐え兼ねて、音に機械的な歪み感が乗っているケースがままあるのだが、本機の音には機械的な歪み感もなければ電気的な歪み感もない。後者については、本機の終段が出力を欲張らないシングルであることも大きく影響しているものと思われる。音の消え際の美しさは天下一品だ。

信号が出力トランスを通ってはいるものの帯域制限感はない。ワイドレンジを強調したソリッドステート機のような薄さはなく、音場は透明で澄みきってはいるものの、音像には大型直熱三極管機らしいコクと深みがある。とくに低音の伸びと実存リアリティは素晴らしい。

トライオードが本機のために新規開発した845用のソケット。汎用の差し込みバネ式のものに比べ、ぐらつきがなくしっかりと真空管をホールドする

音楽的には傍観者的ではなく、楽曲・演奏に適度に絡むのだが、それがちっとも鬱陶しくない。ウォームアップは速く、15分ほどでほぼ本調子になる。スピーカーのドライブ能力は極めて高い。これはスピーカーの逆起電力をキャンセルしてくれる出力トランスのご利益であろう。

『THE SNAPPER』(松尾明 NEWFRONTIER QUINTET)は、小音量はもとより、大音量でも一種の静寂が感じられる。音の立ち上がりが速く、しかも音の見通しが良く、クインテットのメンバーの誰が何をどう演奏しているかが掌を指すかの如く分かる。サックスとトランペットの3度のハモリが明晰かつ美しい。リズムセクションの明瞭度もピカイチだ。

『Close Your Eyes』(ELLE)は、ELLEの透明で温かみのある声が絶妙に表現できた。表情の変化にも鋭敏で、それまで清楚だった表現がトラック9の「ベサメムーチョ」で妖艶に転じるのが非常に印象的だった。バックの解像度も高く、不思議な和声と音階を繰り出してくるガラティのピアノに耳を傾けるのが楽しい。

『ベートーヴェン・ピアノ・ソナタ集3 ハンマークラヴィーア&告別台27番』(川村尚子)は、楽譜が透けて見えるかのよう。これはシングルアンプの神通力だ。素子をパラったアンプでは響きがゴージャスになりすぎて、音楽の核心的部分が理解しにくくなるのに対して、シングルアンプのシンプルな響きは終期ソナタの複雑な書法を理解するのに適している。

『ベートーヴェン:交響曲 第9番「合唱」』(ジョナサン・ノット指揮:東京交響楽団)は、ヴァイオリン両翼配置の「ステレオ効果」が絶妙だった。この配置はヴァイオリンを舞台下手に集めたモダン配置よりも混濁しやすいのだが、本機を介した再生音は非常に明晰だ。

対応スピーカーインピーダンスは4-8Ω。RCAの入力が4系統のほか、パワーアンプとして使用する時のためのMAIN IN端子が備わっている

最後に本機をパワーアンプとして使用した。プリアンプにアキュフェーズの「C‐3900」を使用したこともあるのだが、こちらのほうが高い解像度を得ることができた。トライオードのアンプはゲインが統一されているのでバイアンプを試みるのも面白い。ともあれ使いこなしは奥が深そうだから、オーナーの楽しみは尽きない。本機はトライオードの最高傑作だと、筆者は確信する。
<Specification>
●回路型式:A級シングル●使用真空管:845×2、PSVANE WE300B×2、12AT7×2、12AX7×2●バイアス方式:固定バイアス●定格出力:22W+22W(8Ω)●周波数特性:25Hz-36kHz(-3dB)●SN比:85dB●入力端子:RCA×4、MAIN IN×1●入力感度/インピーダンス:LINE/220mV/100kΩ、MAIN IN/1500mV/10kΩ●スピーカー出力端子:1系統(4-8Ω)●消費電力:330W●サイズ:430W×277H×410Dmm●質量:45kg●付属品:真空管ボンネット、電源ケーブル(TR-PS2)、リモコン●取り扱い:(株)トライオード
本記事は季刊オーディオアクセサリー vol.180 SPRINGからの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから

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