公開日 2022/02/21 06:35
音楽の喜びを存分に引き出す。究極のオーディオラック「グランドタワー」を徹底解剖
【特別企画】AAEX2022 グランプリ受賞
アンダンテラルゴの起源ともいえるオーディオラック「リジッドシリーズ」が誕生したのが2007年のこと。1台1台をオーダーメイドで製作し、オーディオラックの理想である「軽量・堅牢・コンパクト・制振」を初めて具現化した唯一無二のラックである。その思想をベースに、各所に新設計を採用したフラグシップ多段式ラック「グランドタワー」が、「オーディオアクセサリー銘機賞2022」で最高峰の“グランプリ”に輝いた。ここでは、6人の審査員がその魅力を解説する。
■フレームのジョイント部やパイプの妥協なき強化(林)
アンダンテラルゴの最高峰ラック「グランドタワー」は、いかにして生まれたのか? オリジナルの「リジッドタワー」と聴き比べ、改めてパイプやコーナージョイント(3方ジョイント)を観察すると、作り手である鈴木 良氏の想いがはっきりと理解できる。
大胆なようだがこれは「リジッドタワー」の否定である。というか、リジッドであることと軽量さの絶妙なバランスを一旦捨て、コストを度外視してラックの理想を追求。特にフレームコーナー部に用いているジョイントが違う。
超々ジュラルミンのインゴットからマシンで削り出し(コストは20倍以上だ)、チタン製のパイプもφ25mmからφ32mmの極太とした。ラックの「軽量」であることのポリシーを少々犠牲にしても、圧倒的な強度の違いを一度試したかったという鈴木氏である。
パイプとの接合には航空機やレーシングカーに用いられる極めて強度の高い接着剤を用い、溶接やロウづけでは望めない微震振動の抑制などの性能を得ているのだ。
このラグ構造はオーダーメイド自転車からヒントを得たそうだ。実際に持ち上げてみると、「グランドタワー」は意外に軽い。中を中空にしたのは、重量の軽減だけでなく振動がより表面部分だけを走るためだ。振動の伝達における位相のズレが発生しないのではないか。あくまで仮説だが、後ほど検証しよう。
一本一本のパイプのチューニングと組み立ては音決めの際に特に重要で、以前工房を見学した時、そこまでやるのかと感嘆させられた。チタンフレームのパイプ内のコーティングや共鳴を抑えるキャンセルウェイトを中心部に埋設しているのは「リジッドタワー」や「リジッドテーブル」と同じ手法だが、「グランドタワー」ではさらにひと手間もふた手間もかけている。非常に高価で流動性の高いシリコンを充填させパイプの内側に薄く複数回コーティングした上で、オーストラリア産のふわふわした羊毛を詰めているわけだ。これらの事前処理を施したパイプは驚異的に静かになる。
“世界一静か”なラックの秘密がこれだ。改めて試聴した際には、チタン製のパイプがバラで数本用意してあり、キャンセルウェイトのありなしや、内部コーティングのありなし、また羊毛を出し入れして、その都度金属製ハンマーで叩いたところ、「チーン」→「チン」→「コッ」とおもしろいようにパイプの鳴き(共鳴音)が収まっていった。
棚板は非対称形状の開口部を設けた積層合板だ。この棚板はすべてスパイクで支持される。脚部のスパイクには、定評のある同社のサイレントマウント(別売)がベストマッチであろう。
■透明感が高まり、倍音の成分をきれいに引き出す
では「リジッドタワー」と「グランドタワー」の3段ラック同士で比較試聴してみよう。以前アンダンテラルゴの試聴室でも実験しており、その時の印象と合わせてレポートする。
「リジッドタワー」だけ聴けば、同じクラスの他社製ラックと比べてもS/Nや情報量、濁りのないすっきりとした音場の透明さなど、まったく不満がないどころか、コンポの性能がうまく引き出されてオーディオ再生の愉しさを実感できる。いままで聴こえなかったフレーズ感や微妙なニュアンス、内面的な音楽の感動も次々に現れる感じである。
ところが一旦CDプレーヤーを載せ替えると「グランドタワー」は別世界だ。振動を処理するキャパが違うためか、そもそも静けさが違う。体感上のS/Nのひらきが圧倒的で、地面に吸い付いたように音場が安定するのが「グランドタワー」だとすれば、「リジッドタワー」は時折安定が外れたり微妙なふわつきがあった。
いや「グランドタワー」が安定しすぎなのだ。スパイクが大地に直結したようなさまざまな感触は、たとえアースをとっても得られないだろう。その結果、低音を受け止める力が上がっていて音量感も違う。つまみひとつ違う感じで、ジャズはドラムのアタックやピッキングベースなどダイレクト感が強烈だ。
トリフォニフのピアノ協奏曲は、コーダがぐっと深い低音で結構大音量なのにつぶれない。分離明快。キレ味鮮烈。キラキラ輝きながらもうるさくなく高音域のノビも良い。目のさめるような高速演奏が聴きどころだ。速いパッセージで混乱することもない。
これは手ごわいクラシックソフトで、並のラックなら制御不能に陥るのではないか。「負けました!」と投了するしかない。「グランドタワー」では、何度聴いても生のコンサートのように、音楽に参加しているようなプレゼンス(実在感)がしっかり保たれる。床からの振動の戻りも私には検知不能だ。
このほか、幸田浩子のオペラアリアなどをかけたが、最後に分かったのは、このラックは太いパイプを使って剛直な音になるのではなく、透明感が高まって倍音の成分をきれいに引き出すということ。トレードオフの関係にあるような音の関係が、見事に両立しているのは素晴らしい。最高のパフォーマンスといえるだろう。
これだけのこだわりと作り込み、そして実際の音楽再生のクオリティの高さは得がたい。グランドタワーがなぜ高額なのか? その答えが分かった気がした。
あえてもう一度言う。ハイエンドユーザーであれば、高額なオーディオ機器を買い替えるくらいなら、その前に「グランドタワー」を導入すべきだと。世界に二つとないコンポの家だ。音楽の喜びを存分に引き出す究極のオーディオラックであると私は確信した。
■フレームのジョイント部やパイプの妥協なき強化(林)
アンダンテラルゴの最高峰ラック「グランドタワー」は、いかにして生まれたのか? オリジナルの「リジッドタワー」と聴き比べ、改めてパイプやコーナージョイント(3方ジョイント)を観察すると、作り手である鈴木 良氏の想いがはっきりと理解できる。
大胆なようだがこれは「リジッドタワー」の否定である。というか、リジッドであることと軽量さの絶妙なバランスを一旦捨て、コストを度外視してラックの理想を追求。特にフレームコーナー部に用いているジョイントが違う。
超々ジュラルミンのインゴットからマシンで削り出し(コストは20倍以上だ)、チタン製のパイプもφ25mmからφ32mmの極太とした。ラックの「軽量」であることのポリシーを少々犠牲にしても、圧倒的な強度の違いを一度試したかったという鈴木氏である。
パイプとの接合には航空機やレーシングカーに用いられる極めて強度の高い接着剤を用い、溶接やロウづけでは望めない微震振動の抑制などの性能を得ているのだ。
このラグ構造はオーダーメイド自転車からヒントを得たそうだ。実際に持ち上げてみると、「グランドタワー」は意外に軽い。中を中空にしたのは、重量の軽減だけでなく振動がより表面部分だけを走るためだ。振動の伝達における位相のズレが発生しないのではないか。あくまで仮説だが、後ほど検証しよう。
一本一本のパイプのチューニングと組み立ては音決めの際に特に重要で、以前工房を見学した時、そこまでやるのかと感嘆させられた。チタンフレームのパイプ内のコーティングや共鳴を抑えるキャンセルウェイトを中心部に埋設しているのは「リジッドタワー」や「リジッドテーブル」と同じ手法だが、「グランドタワー」ではさらにひと手間もふた手間もかけている。非常に高価で流動性の高いシリコンを充填させパイプの内側に薄く複数回コーティングした上で、オーストラリア産のふわふわした羊毛を詰めているわけだ。これらの事前処理を施したパイプは驚異的に静かになる。
“世界一静か”なラックの秘密がこれだ。改めて試聴した際には、チタン製のパイプがバラで数本用意してあり、キャンセルウェイトのありなしや、内部コーティングのありなし、また羊毛を出し入れして、その都度金属製ハンマーで叩いたところ、「チーン」→「チン」→「コッ」とおもしろいようにパイプの鳴き(共鳴音)が収まっていった。
棚板は非対称形状の開口部を設けた積層合板だ。この棚板はすべてスパイクで支持される。脚部のスパイクには、定評のある同社のサイレントマウント(別売)がベストマッチであろう。
■透明感が高まり、倍音の成分をきれいに引き出す
では「リジッドタワー」と「グランドタワー」の3段ラック同士で比較試聴してみよう。以前アンダンテラルゴの試聴室でも実験しており、その時の印象と合わせてレポートする。
「リジッドタワー」だけ聴けば、同じクラスの他社製ラックと比べてもS/Nや情報量、濁りのないすっきりとした音場の透明さなど、まったく不満がないどころか、コンポの性能がうまく引き出されてオーディオ再生の愉しさを実感できる。いままで聴こえなかったフレーズ感や微妙なニュアンス、内面的な音楽の感動も次々に現れる感じである。
ところが一旦CDプレーヤーを載せ替えると「グランドタワー」は別世界だ。振動を処理するキャパが違うためか、そもそも静けさが違う。体感上のS/Nのひらきが圧倒的で、地面に吸い付いたように音場が安定するのが「グランドタワー」だとすれば、「リジッドタワー」は時折安定が外れたり微妙なふわつきがあった。
いや「グランドタワー」が安定しすぎなのだ。スパイクが大地に直結したようなさまざまな感触は、たとえアースをとっても得られないだろう。その結果、低音を受け止める力が上がっていて音量感も違う。つまみひとつ違う感じで、ジャズはドラムのアタックやピッキングベースなどダイレクト感が強烈だ。
トリフォニフのピアノ協奏曲は、コーダがぐっと深い低音で結構大音量なのにつぶれない。分離明快。キレ味鮮烈。キラキラ輝きながらもうるさくなく高音域のノビも良い。目のさめるような高速演奏が聴きどころだ。速いパッセージで混乱することもない。
これは手ごわいクラシックソフトで、並のラックなら制御不能に陥るのではないか。「負けました!」と投了するしかない。「グランドタワー」では、何度聴いても生のコンサートのように、音楽に参加しているようなプレゼンス(実在感)がしっかり保たれる。床からの振動の戻りも私には検知不能だ。
このほか、幸田浩子のオペラアリアなどをかけたが、最後に分かったのは、このラックは太いパイプを使って剛直な音になるのではなく、透明感が高まって倍音の成分をきれいに引き出すということ。トレードオフの関係にあるような音の関係が、見事に両立しているのは素晴らしい。最高のパフォーマンスといえるだろう。
これだけのこだわりと作り込み、そして実際の音楽再生のクオリティの高さは得がたい。グランドタワーがなぜ高額なのか? その答えが分かった気がした。
あえてもう一度言う。ハイエンドユーザーであれば、高額なオーディオ機器を買い替えるくらいなら、その前に「グランドタワー」を導入すべきだと。世界に二つとないコンポの家だ。音楽の喜びを存分に引き出す究極のオーディオラックであると私は確信した。