公開日 2009/06/09 19:12
潜在需要を掘り起こせ − “体験型AVストア”の可能性
●展示場所の選択に悩まされる商品が増えてきた
この数年、メーカー関係者から「どこの売場に置いて良いのか分からない」という声を聞くことが増えた。
AVとPCの境界線がますます曖昧になってきており、AV機器とPC機器、どちらに属するか峻別できない製品が多くなったからだろう。
一方で実際にこういった商品を販売する量販店の構成は、フロアによってPC売場、AV機器売場が分かれているところが多い。
結局どちらに展示するかは、商品の価格や機能、あるいはそのメーカーが元々どちらを主力事業としているか、また営業のフロア担当者との密接度などにより、ケースバイケースで決まるのが現状だ。
だが、PCとつながって初めて真価を発揮するAV機器もあれば、その逆も存在する。こういうタイプの機器は、よほど展示内容を工夫してもらわない限り、来店者の目を引くことができない。
●急速に複雑化しつつあるAV機器の機能
ではテレビやレコーダーなど、純然たるAV機器の場合はどうだろう。急速に複雑化しつつある機能を、店頭で十分に伝えられているだろうか。もちろん各店とも工夫を凝らしているが、最近のAV機器の多機能ぶりにキャッチアップできていないところも多いのではないだろうか。
特にネットワーク機能を備えた製品では「できること」が爆発的に増加する。日常的に機器の情報に触れている身としても、実際に会社や店頭で触ってみると「こんな機能があったんだ」と驚かされることが良くある。日々AV機器の情報に接している者でもこんな状態なのだから、もともとAV機器にそれほど興味のない方が、店頭で機能を深く知ることはまず無理だろう。店員がうまく来店者のニーズを聞き出し、それにマッチする製品を紹介する必要がある。
だが、そもそも「自分が求めている機能が何かわからない」という消費者も多く存在する。私の両親などがこの典型なのだが、親切心(?)を発揮して店頭で色々と説明しても混乱するばかり。結局最後には「あんたが決めてよ」と投げ出されてしまう。
妻も同様だ。私が電器店で製品を触り出すと、最初のうちは我慢してくれるが、少しでも長くなると、みるみるうちに不機嫌になっていく。もともとAV機器に興味がないのだから仕方がないが、一緒に楽しめるような店舗がないものか。
●展示スペース自体がエンターテイメントとして機能するIKEA
こんなことを考えていたとき、先日たまたまIKEAに行く機会があった。グルグルと店舗を周回しながら、同社の方法論をAV/PC機器の店舗運営に応用できないかと考えてみた。
日本に初出店する際、メディアで連日大報道が繰り広げられたので、IKEAの概要についてはをご存じの方が多いだろう。スウェーデンに本拠を構える世界的な家具販売大手で、比較的デザイン性の高い商品を格安で販売している。現在のところ国内で5店舗を展開しており、私はこのうち船橋店と新三郷店に行ったことがあるが、建物の構造は両店ともほとんど変わらない。
IKEAストアでは、まず2階に設けられた部屋のイメージルーム展示を見て回る必要がある。1階の製品を購入できるゾーンにいきなり入ることは許されない。
2階には広大な敷地に多くの部屋が用意され、その一つ一つが、スタッフがコーディネートしたイメージルームになっている。インテリアのカタログ写真をそのまま部屋にしたようなものだ。リビング一つ取っても様々なスタイルの部屋があるので、自分の好みに合う部屋だけをじっくりと見るということもできる。
当然ながら置かれているのはIKEA商品ばかりだが、商品が魅力的に見えるよう、実に巧妙に商品が配置されている。
たとえば写真を飾るマグネットを例に取ると、モノだけ見せられてもどう使うのかイメージが湧きにくいが、部屋に飾っている様子を見ると「部屋に置いたらこうなるのか。使ってみたい」と思わせられる。こうして、来店時に渡されたメモ用紙に「欲しいモノリスト」がどんどん書き加えられていく。「この部屋の家具全部で○万円」と書かれたPOPを見るに至っては、「いっそのこと全部買い換えたい」というヤケクソな思いに駆られる。一言で言えば、展示スペース自体がエンターテイメントとして機能しているのだ。
●顕在化していなかった需要を掘り起こせ
この展示スタイルをAV機器に応用したらどうなるか。実際に製品を設置した部屋をいくつもテーマごとに用意し、ネットワーク機能など様々なソリューションを個別にデモすることで、まったくAV機器に対する理解がない人にも、商品の魅力を効果的に伝えることができるのではないか。
また新味を出すためにも、あえてAV機器とPCを並列に展示する。こうすれば両者のボーダーラインにある先端的な商品も魅力的に紹介できる。もちろん、各部屋にはゆったりと座れるソファーなどを用意し、心ゆくまで製品を体験できるよう工夫する必要もあるだろう。
先ほど私の妻がAV機器に興味がないと書いたが、「1階にあるレコーダーで録った番組を、2階のプロジェクターで見られるんだよ」と言えば興味を示す。この機器を買ったらこういう便利な生活が待っている、というアプローチで攻めれば、それなりの手応えが得られるのだ。この方法論をリアル店舗に落とし込み、便利さ、手軽さをわかりやすく伝えることで、これまで顕在化していなかった需要を掘り起こすことができるのではないか。
IKEAではローコスト運営を徹底しており、フロアにはほとんどスタッフがいないが、AV機器販売でこの運営スタイルを踏襲するのは無謀だ。適度にスタッフを配置するなり、商品の詳細な機能をかんたんに調べられる専用機器を置くなどの工夫が必要になる。
またAV機器は高額なものが多いので、IKEAのようなまとめ買い、ついで買いはあまり期待できない。ならば単価アップのために、たとえば部屋に展示した家具や雑貨を一緒に売ってしまっても良い。夫はAV機器目当て、妻は家具や雑貨目当てであっても、双方が展示に満足して購入に繋がれば問題はない。
これまではメーカーのショールームやAVイベントが、ソースから出力機器、周辺機器までのトータルソリューションを紹介する役目を担ってきた。だが、わざわざショールームに足を運ぶ来場者の絶対数には限りがあるし、そもそも1つのショールームでは1ブランドの機器しか体験できない。
一方でイベントは大きな集客力を持つが、出展料を各メーカーが個別に払うこともあり、やはりメーカー単位の展示が中心となってしまうことに変わりはない。店舗が主体となり、メーカーの分け隔て無くユニークな商品の魅力をわかりやすく伝えることができたら、消費者にとってのメリットは大きいはずだ。
もちろん、こういう体験型の店舗運営にはコストがかかる。一番重要な要素である収益性については、規模メリットをどの程度働かせられるかによって大きく変わってくるだろう。
製品ごとの販売台数、収益性だけでなく、単位面積あたりの販売金額など様々な指標が毎日シビアにチェックされる電気量販店で、この店舗運営スタイルは無謀かもしれない。だが一消費者としては、このような店舗があればぜひ行ってみたい。
規模の大小を問わず、電気店はネットショップの攻勢にさらされている。ただし、実際に製品に触れてじっくりと使ってみなければ、製品の魅力を深く理解することができないことも確かだ。しかも、その要求を満足させてくれる店舗が少ないことも事実としてある。体験型店舗に可能性があると考える所以である。
この数年、メーカー関係者から「どこの売場に置いて良いのか分からない」という声を聞くことが増えた。
AVとPCの境界線がますます曖昧になってきており、AV機器とPC機器、どちらに属するか峻別できない製品が多くなったからだろう。
一方で実際にこういった商品を販売する量販店の構成は、フロアによってPC売場、AV機器売場が分かれているところが多い。
結局どちらに展示するかは、商品の価格や機能、あるいはそのメーカーが元々どちらを主力事業としているか、また営業のフロア担当者との密接度などにより、ケースバイケースで決まるのが現状だ。
だが、PCとつながって初めて真価を発揮するAV機器もあれば、その逆も存在する。こういうタイプの機器は、よほど展示内容を工夫してもらわない限り、来店者の目を引くことができない。
●急速に複雑化しつつあるAV機器の機能
ではテレビやレコーダーなど、純然たるAV機器の場合はどうだろう。急速に複雑化しつつある機能を、店頭で十分に伝えられているだろうか。もちろん各店とも工夫を凝らしているが、最近のAV機器の多機能ぶりにキャッチアップできていないところも多いのではないだろうか。
特にネットワーク機能を備えた製品では「できること」が爆発的に増加する。日常的に機器の情報に触れている身としても、実際に会社や店頭で触ってみると「こんな機能があったんだ」と驚かされることが良くある。日々AV機器の情報に接している者でもこんな状態なのだから、もともとAV機器にそれほど興味のない方が、店頭で機能を深く知ることはまず無理だろう。店員がうまく来店者のニーズを聞き出し、それにマッチする製品を紹介する必要がある。
だが、そもそも「自分が求めている機能が何かわからない」という消費者も多く存在する。私の両親などがこの典型なのだが、親切心(?)を発揮して店頭で色々と説明しても混乱するばかり。結局最後には「あんたが決めてよ」と投げ出されてしまう。
妻も同様だ。私が電器店で製品を触り出すと、最初のうちは我慢してくれるが、少しでも長くなると、みるみるうちに不機嫌になっていく。もともとAV機器に興味がないのだから仕方がないが、一緒に楽しめるような店舗がないものか。
●展示スペース自体がエンターテイメントとして機能するIKEA
こんなことを考えていたとき、先日たまたまIKEAに行く機会があった。グルグルと店舗を周回しながら、同社の方法論をAV/PC機器の店舗運営に応用できないかと考えてみた。
日本に初出店する際、メディアで連日大報道が繰り広げられたので、IKEAの概要についてはをご存じの方が多いだろう。スウェーデンに本拠を構える世界的な家具販売大手で、比較的デザイン性の高い商品を格安で販売している。現在のところ国内で5店舗を展開しており、私はこのうち船橋店と新三郷店に行ったことがあるが、建物の構造は両店ともほとんど変わらない。
IKEAストアでは、まず2階に設けられた部屋のイメージルーム展示を見て回る必要がある。1階の製品を購入できるゾーンにいきなり入ることは許されない。
2階には広大な敷地に多くの部屋が用意され、その一つ一つが、スタッフがコーディネートしたイメージルームになっている。インテリアのカタログ写真をそのまま部屋にしたようなものだ。リビング一つ取っても様々なスタイルの部屋があるので、自分の好みに合う部屋だけをじっくりと見るということもできる。
当然ながら置かれているのはIKEA商品ばかりだが、商品が魅力的に見えるよう、実に巧妙に商品が配置されている。
たとえば写真を飾るマグネットを例に取ると、モノだけ見せられてもどう使うのかイメージが湧きにくいが、部屋に飾っている様子を見ると「部屋に置いたらこうなるのか。使ってみたい」と思わせられる。こうして、来店時に渡されたメモ用紙に「欲しいモノリスト」がどんどん書き加えられていく。「この部屋の家具全部で○万円」と書かれたPOPを見るに至っては、「いっそのこと全部買い換えたい」というヤケクソな思いに駆られる。一言で言えば、展示スペース自体がエンターテイメントとして機能しているのだ。
●顕在化していなかった需要を掘り起こせ
この展示スタイルをAV機器に応用したらどうなるか。実際に製品を設置した部屋をいくつもテーマごとに用意し、ネットワーク機能など様々なソリューションを個別にデモすることで、まったくAV機器に対する理解がない人にも、商品の魅力を効果的に伝えることができるのではないか。
また新味を出すためにも、あえてAV機器とPCを並列に展示する。こうすれば両者のボーダーラインにある先端的な商品も魅力的に紹介できる。もちろん、各部屋にはゆったりと座れるソファーなどを用意し、心ゆくまで製品を体験できるよう工夫する必要もあるだろう。
先ほど私の妻がAV機器に興味がないと書いたが、「1階にあるレコーダーで録った番組を、2階のプロジェクターで見られるんだよ」と言えば興味を示す。この機器を買ったらこういう便利な生活が待っている、というアプローチで攻めれば、それなりの手応えが得られるのだ。この方法論をリアル店舗に落とし込み、便利さ、手軽さをわかりやすく伝えることで、これまで顕在化していなかった需要を掘り起こすことができるのではないか。
IKEAではローコスト運営を徹底しており、フロアにはほとんどスタッフがいないが、AV機器販売でこの運営スタイルを踏襲するのは無謀だ。適度にスタッフを配置するなり、商品の詳細な機能をかんたんに調べられる専用機器を置くなどの工夫が必要になる。
またAV機器は高額なものが多いので、IKEAのようなまとめ買い、ついで買いはあまり期待できない。ならば単価アップのために、たとえば部屋に展示した家具や雑貨を一緒に売ってしまっても良い。夫はAV機器目当て、妻は家具や雑貨目当てであっても、双方が展示に満足して購入に繋がれば問題はない。
これまではメーカーのショールームやAVイベントが、ソースから出力機器、周辺機器までのトータルソリューションを紹介する役目を担ってきた。だが、わざわざショールームに足を運ぶ来場者の絶対数には限りがあるし、そもそも1つのショールームでは1ブランドの機器しか体験できない。
一方でイベントは大きな集客力を持つが、出展料を各メーカーが個別に払うこともあり、やはりメーカー単位の展示が中心となってしまうことに変わりはない。店舗が主体となり、メーカーの分け隔て無くユニークな商品の魅力をわかりやすく伝えることができたら、消費者にとってのメリットは大きいはずだ。
もちろん、こういう体験型の店舗運営にはコストがかかる。一番重要な要素である収益性については、規模メリットをどの程度働かせられるかによって大きく変わってくるだろう。
製品ごとの販売台数、収益性だけでなく、単位面積あたりの販売金額など様々な指標が毎日シビアにチェックされる電気量販店で、この店舗運営スタイルは無謀かもしれない。だが一消費者としては、このような店舗があればぜひ行ってみたい。
規模の大小を問わず、電気店はネットショップの攻勢にさらされている。ただし、実際に製品に触れてじっくりと使ってみなければ、製品の魅力を深く理解することができないことも確かだ。しかも、その要求を満足させてくれる店舗が少ないことも事実としてある。体験型店舗に可能性があると考える所以である。