公開日 2021/02/03 06:45
コロナ禍で見直される“趣味”としてのオーディオ。2020年のトレンドを再検証&2021年はココに期待!
<2021年オーディオ業界提言>
■人の交流が制限された中、オーディオと音楽への要求が高まる
2020年から続くコロナ禍の状況で在宅時間が増え、音楽にじっくりと向き合える時間が増えた方、もしくは、在宅時間やリモートワークを快適化するためにオーディオ関連機器を充実させた方も多いだろう。この状況は、人と人との距離を、物理的にも心理的にも遠ざけてしまったが、その離ればなれの状況からの反動として、これまで以上に腰を据えて音楽を深く楽しみたい、という欲求も高まったのではないかと想像する。その意味では、音楽再生をより深く理解するツール、楽しむツールとしての「オーディオ」が真に求められる状況なのではないだろうか。
オーディオ趣味というと、一般的には装置を愛でる趣味、もしくはコレクター的な趣味とも見られがちだが、本質的には、音楽鑑賞をより立体的に味わうための行為でもある。それは、美術や文学、演劇などの鑑賞と同様に、人が生み出した創作物をより深く紐解こうという営みに他ならないと私は考えている。
これらの行為は、つまるところ他者理解、それを通した自己理解であるわけで、人と人との対面的なコミュニケーションが制限された現在の状況において、それらへの欲求が高まるのは必然であると感じる。中でも、強力な「同質効果」を手軽に得やすい音楽という存在は、強いストレスをもたらすこの厳酷な状況下において、とりわけ有用な存在であるはずだ。
実際のところ、製品ジャンルや価格帯で違いはあれど、2020年は総体的にはオーディオ機器の販売が好調だったという話を聞くとともに、例年通り多くの新製品が業界を賑わせた。ここでは、2020年に発売された製品で印象に残ったものを近年の動向を踏まえながら振り返ると共に、今後のオーディオに期待する可能性や展望を述べてみたい。
まず、2020年に発売された数多くの製品の中で、オーディオの存在意義や有用性を、本質的な意味でより広い層の人々に伝搬し得る可能性をもっとも感じたのが、マランツが発売したネットワークSACDプレーヤー「SACD 30n」であった。
この製品は、ロスレス・ストリーミングであるAmazon Music HDに対応しつつ、ファイル再生やBluetoothなどの無線再生もカバーし、CD/SACDにも対応するという製品だ。また、可変ボリュームを搭載しているためアクティブスピーカーにも直結でき、さらには、ディスクリート構成の良質なヘッドホンアンプを搭載する。そして、これら対応力の広さだけに留まらず、デザインと音質も、懐の広さを備えていることが、まさに今の時代にフィットした製品であると感じた。
多機能性によって音質を犠牲にしないどころか、普遍的な美しさを持ちつつ他の機器と組み合わせやすい汎用性の高い音質が達成されている点、そして、一般的なオーディオファン以外にも親しみやすい訴求力の高い筐体デザインを備えていることが、先述のオーディオの価値をより広く伝える力になっていると思うのである。
ストリーミング再生は、とりわけ使い勝手の意味ではまだ課題も多いことに加えて、開発するメーカーサイドとしても実装にはコストや音質面などで困難が多そうだが、今後、伝統的なオーディオ製品と共に、SACD 30nのように新たな価値を持つ製品の潮流が生み出されていくことで、社会に対してオーディオが持つ影響力は増していくのではないだろうか。
ストリーミング再生などネットワークを利用するオーディオ機器は、ネットワーク環境を含めた包括的なノイズ対策が肝となるが、これらの対策アクセサリーが充実してきたことも近年の動向の一つといえる。ネットワークハブや、LAN及び電源コンセント用のターミネーター、オーディオグレードのLANケーブルの登場など、ネットワークオーディオの重要性が増していることの表れだろう。この種の音楽再生がより訴求力の高い音質価値を得るためにも、尚更これらアクセサリーの充実に期待したい。
同じくデジタル再生では、MQA-CDに対応するCDプレーヤーが増えてきた。2019年に発売されたテクニクスのネットワーク対応SACDプレーヤー「SL-G700」をはじめ、2020年は真空管と半導体出力の両方が楽しめるなど趣味性の高さも魅力のトライオード「TRV-CD6SE」、そしてラックスマンの「D-03X」や「D-10X」をはじめ、エソテリックのプレーヤーもファームウェアアップデートでの対応を含め新製品では標準対応するなど、ハイエンドメーカーが続けて対応を発表したことも、CDメディアの人気の高さを伺わせる事実だろう。
安定した音質はもちろんのこと、コンパクトでありながらも、ブックレットで情報を読む楽しみなどを享受できることもその人気の秘訣であることは間違いない。国内メーカーのバラエティに富んだラインアップによって、ミドルクラス及びハイエンドの選択肢が大変充実している様子だ。
■現代だからこそ実現できるアナログ技術、そしてスピーカーもまた進化する
対して、アナログ再生の人気も衰えを知らないどころか、いまだ上昇傾向にあるようだ。世界的に見てもレコード販売枚数は増加し続けており、ジャケットも含めたパッケージメディアとしての魅力、そして、音質的な魅力が今の時代においても高く評価されているのだろう。
2020年も、アナログレコード関連の製品は、プレーヤーからカートリッジ、そして、アクセサリーまで、新たな製品が続々と登場し賑わいを見せていた。とりわけ、ハイファイ再生的な視点からは、近年話題を集めているMCカートリッジの実力をより十全に引き出すバランス駆動に対応したフォノイコライザーアンプをはじめ、リニアトラッキングアームを筆頭とする現代の技術だからこそ実現できる精巧なトーンアームの登場、そして、現代に蘇った光電型カートリッジや高性能MCカートリッジなど、多くの国内メーカーからも続々と新製品が登場した。
そして、そういった勢いに呼応するように、除電ツールやデガウザーなどのアクセサリーが充実化し、微に入り細を穿った音質追求が続いている印象である。それらアクセサリー以外の製品は、いずれもかなり高価格帯の製品となっている現実ではあるが、やはり供給数を踏まえたコストを考えると致し方ないのかもしれない。
一方で、老舗オーディオテクニカからは新たなフラグシップカートリッジに加え良質なエントリーグレードのプレーヤーが登場しているほか、ハンドリングの良いMMカートリッジ分野では、例えば老舗スタイラスメーカーであるJICOが今はなきシュアの替え針を今春一斉発売予定など、往年のカートリッジを含む身近な製品もしっかりと担保され、レコード再生の多彩な世界を支えている。
レコード再生は、オーディオファン以外からの興味・関心も高く、その趣味性の高さに加え、アナログ再生音質が本来的に持つ根源的で絶対的な魅力を、強く実感させるジャンルである。それだけに、エントリーユーザーやライトユーザーも気軽に楽しめる価格帯の製品のさらなる充実を望みたいところだ。
スピーカー分野では、やはり海外ブランドが席巻する状況が続いており、昨年の新製品では、B&Wやモニターオーディオ、ELAC、KEF、Focal、JBLなどの欧州ブランドを筆頭に、既存シリーズのブラッシュアップモデルや新シリーズが数多く登場していた。今般登場したばかりのソナスファベールLuminaシリーズも、エントリーラインとして、その価格に比して驚異的な実力と外観的質感の良さを備えた注目製品だといえる。それもあり、概ね20万円以下のモデルは、質、モデル数ともに、現状かなり充実している印象だ。
その中で異彩を放ったのが、デジタル入力やBluetoothによる無線接続などを、より手軽な操作性で実現させるとともに、サウンドクオリティを確保したアクティブスピーカー、AIRPULSE「A80」及び「A300 Pro」だろう。これらは、よりハンドリングの良いオーディオ機器として新たな世代のユーザー層にも訴求できる魅力があり、オーディオの裾野を広げる鍵を握る製品といえそうだ。
アクティブスピーカーといえば、近年では、音楽制作用のモニタースピーカーでも付属の専用マイクロフォンを使ってルームアコースティックを簡便に補正可能な製品も人気を博している。このような高度な補正技術やデジタル再生に対応する製品が、高いサウンドクオリティを伴ってホームオーディオで登場してくることも、今後のオーディオ市場発展への要素として期待したいところである。
加えて、より広義な意味でのオーディオ的な動向としては、イマーシブオーディオの新たな展開も見過ごせない。先般のCES2021でSONYが発表した「360 Reality Audio」の本格始動をはじめとして、YoutubeやFacebookなどをはじめとするメディアへのAmbisonicsの普及など、あくまでアウトプットはヘッドホン・イヤホンベースを主眼としつつも、よりパーソナルな音楽制作環境レベルにまでイマーシブオーディオの裾野が広がって来ている。これらは、ステレオ再生へも応用可能な立体音響技術といえ、今後制作される音楽作品やその再生装置にも影響を与える可能性がありそうだ。
■伝統的なオーディオ機器の発展に加え、新たなプロダクトの登場にも期待
最後に、オーディオ機器の「音質」や「使いこなし」といった側面についても述べておきたい。
まず、音質傾向的な意味では、私見を含むこともお断りの上で申し上げると、個性やキャラクターを重視するサウンド傾向よりも、魅力あるキャラクターを持ちつつ、音色的にはTransparency(透明性)を重視したナチュラルな音傾向を持った製品が増えてきたように感じる。こういった傾向は、マスターに近い音質が得やすいハイレゾ再生が容易となった環境や、それを意識した音作りのハイレゾソースの登場、先述のハイファイなレコード再生の実現ともリンクしているのかもしれない。
昨今リリースされる現時代のミュージシャンによるタイトルも、マジョリティに向けたほとんどのものは音質的に残念なものが多い現状ではあるが、ハイレゾ時代の録音制作機器の成熟もあり、根本的には、周波数的レンジが広く各楽器の分離に優れた音傾向を確認できる。先述の透明性を重視したオーディオ機器のトレンドは、それらのソースを聴く機会が特に多いであろう若年層の嗜好にもマッチしたものではないかと推察している。
また、そういった音質的な部分とともに、オーディオの難しさでもあり醍醐味でもある「使いこなし」、つまりは「機器の組み合わせ」や「セッティング及びルームアコースティック」といった要素へのユーザー対応がより容易かつ柔軟になる機能を、オーディオ機器自身が備えることで、さらに「オーディオ」という営みが広く一般に活用されるようになるのでは、と思う。
具体的には、ルームアコースティックの補正や、ユーザー環境に即した調整パラメータを持つラウドネス機能などによって、オーディオ再生、スピーカー再生における難しさや問題を解消するものだ(無論、良質なオーディオ再生においては、信号や処理のピュアネス及びシンプリシティが至上ではあるが、時として、状況的にそれを活かし切れない使用環境も多い)。これらの技術は、既にプロオーディオの分野では実装されている技術であるが、それが、サウンドクオリティを担保した上でホームオーディオへと応用されることにも期待したい。
以上、ポストコロナにおけるニューノーマルな生活様式となった現在だからこそ、伝統的なオーディオ機器の発展はもちろんのこと、先述のような要素を備えた新たなプロダクトの登場による、オーディオマーケット全体のさらなる発展を待望する。冒頭にも述べたように、このような厳酷な状況下だからこそ、オーディオの有用性が発揮されるはずなのだから。
引き続き本年も、どんなオーディオ製品に出会えるのか、いちユーザーとして今から心躍らせている。
2020年から続くコロナ禍の状況で在宅時間が増え、音楽にじっくりと向き合える時間が増えた方、もしくは、在宅時間やリモートワークを快適化するためにオーディオ関連機器を充実させた方も多いだろう。この状況は、人と人との距離を、物理的にも心理的にも遠ざけてしまったが、その離ればなれの状況からの反動として、これまで以上に腰を据えて音楽を深く楽しみたい、という欲求も高まったのではないかと想像する。その意味では、音楽再生をより深く理解するツール、楽しむツールとしての「オーディオ」が真に求められる状況なのではないだろうか。
オーディオ趣味というと、一般的には装置を愛でる趣味、もしくはコレクター的な趣味とも見られがちだが、本質的には、音楽鑑賞をより立体的に味わうための行為でもある。それは、美術や文学、演劇などの鑑賞と同様に、人が生み出した創作物をより深く紐解こうという営みに他ならないと私は考えている。
これらの行為は、つまるところ他者理解、それを通した自己理解であるわけで、人と人との対面的なコミュニケーションが制限された現在の状況において、それらへの欲求が高まるのは必然であると感じる。中でも、強力な「同質効果」を手軽に得やすい音楽という存在は、強いストレスをもたらすこの厳酷な状況下において、とりわけ有用な存在であるはずだ。
実際のところ、製品ジャンルや価格帯で違いはあれど、2020年は総体的にはオーディオ機器の販売が好調だったという話を聞くとともに、例年通り多くの新製品が業界を賑わせた。ここでは、2020年に発売された製品で印象に残ったものを近年の動向を踏まえながら振り返ると共に、今後のオーディオに期待する可能性や展望を述べてみたい。
まず、2020年に発売された数多くの製品の中で、オーディオの存在意義や有用性を、本質的な意味でより広い層の人々に伝搬し得る可能性をもっとも感じたのが、マランツが発売したネットワークSACDプレーヤー「SACD 30n」であった。
この製品は、ロスレス・ストリーミングであるAmazon Music HDに対応しつつ、ファイル再生やBluetoothなどの無線再生もカバーし、CD/SACDにも対応するという製品だ。また、可変ボリュームを搭載しているためアクティブスピーカーにも直結でき、さらには、ディスクリート構成の良質なヘッドホンアンプを搭載する。そして、これら対応力の広さだけに留まらず、デザインと音質も、懐の広さを備えていることが、まさに今の時代にフィットした製品であると感じた。
多機能性によって音質を犠牲にしないどころか、普遍的な美しさを持ちつつ他の機器と組み合わせやすい汎用性の高い音質が達成されている点、そして、一般的なオーディオファン以外にも親しみやすい訴求力の高い筐体デザインを備えていることが、先述のオーディオの価値をより広く伝える力になっていると思うのである。
ストリーミング再生は、とりわけ使い勝手の意味ではまだ課題も多いことに加えて、開発するメーカーサイドとしても実装にはコストや音質面などで困難が多そうだが、今後、伝統的なオーディオ製品と共に、SACD 30nのように新たな価値を持つ製品の潮流が生み出されていくことで、社会に対してオーディオが持つ影響力は増していくのではないだろうか。
ストリーミング再生などネットワークを利用するオーディオ機器は、ネットワーク環境を含めた包括的なノイズ対策が肝となるが、これらの対策アクセサリーが充実してきたことも近年の動向の一つといえる。ネットワークハブや、LAN及び電源コンセント用のターミネーター、オーディオグレードのLANケーブルの登場など、ネットワークオーディオの重要性が増していることの表れだろう。この種の音楽再生がより訴求力の高い音質価値を得るためにも、尚更これらアクセサリーの充実に期待したい。
同じくデジタル再生では、MQA-CDに対応するCDプレーヤーが増えてきた。2019年に発売されたテクニクスのネットワーク対応SACDプレーヤー「SL-G700」をはじめ、2020年は真空管と半導体出力の両方が楽しめるなど趣味性の高さも魅力のトライオード「TRV-CD6SE」、そしてラックスマンの「D-03X」や「D-10X」をはじめ、エソテリックのプレーヤーもファームウェアアップデートでの対応を含め新製品では標準対応するなど、ハイエンドメーカーが続けて対応を発表したことも、CDメディアの人気の高さを伺わせる事実だろう。
安定した音質はもちろんのこと、コンパクトでありながらも、ブックレットで情報を読む楽しみなどを享受できることもその人気の秘訣であることは間違いない。国内メーカーのバラエティに富んだラインアップによって、ミドルクラス及びハイエンドの選択肢が大変充実している様子だ。
■現代だからこそ実現できるアナログ技術、そしてスピーカーもまた進化する
対して、アナログ再生の人気も衰えを知らないどころか、いまだ上昇傾向にあるようだ。世界的に見てもレコード販売枚数は増加し続けており、ジャケットも含めたパッケージメディアとしての魅力、そして、音質的な魅力が今の時代においても高く評価されているのだろう。
2020年も、アナログレコード関連の製品は、プレーヤーからカートリッジ、そして、アクセサリーまで、新たな製品が続々と登場し賑わいを見せていた。とりわけ、ハイファイ再生的な視点からは、近年話題を集めているMCカートリッジの実力をより十全に引き出すバランス駆動に対応したフォノイコライザーアンプをはじめ、リニアトラッキングアームを筆頭とする現代の技術だからこそ実現できる精巧なトーンアームの登場、そして、現代に蘇った光電型カートリッジや高性能MCカートリッジなど、多くの国内メーカーからも続々と新製品が登場した。
そして、そういった勢いに呼応するように、除電ツールやデガウザーなどのアクセサリーが充実化し、微に入り細を穿った音質追求が続いている印象である。それらアクセサリー以外の製品は、いずれもかなり高価格帯の製品となっている現実ではあるが、やはり供給数を踏まえたコストを考えると致し方ないのかもしれない。
一方で、老舗オーディオテクニカからは新たなフラグシップカートリッジに加え良質なエントリーグレードのプレーヤーが登場しているほか、ハンドリングの良いMMカートリッジ分野では、例えば老舗スタイラスメーカーであるJICOが今はなきシュアの替え針を今春一斉発売予定など、往年のカートリッジを含む身近な製品もしっかりと担保され、レコード再生の多彩な世界を支えている。
レコード再生は、オーディオファン以外からの興味・関心も高く、その趣味性の高さに加え、アナログ再生音質が本来的に持つ根源的で絶対的な魅力を、強く実感させるジャンルである。それだけに、エントリーユーザーやライトユーザーも気軽に楽しめる価格帯の製品のさらなる充実を望みたいところだ。
スピーカー分野では、やはり海外ブランドが席巻する状況が続いており、昨年の新製品では、B&Wやモニターオーディオ、ELAC、KEF、Focal、JBLなどの欧州ブランドを筆頭に、既存シリーズのブラッシュアップモデルや新シリーズが数多く登場していた。今般登場したばかりのソナスファベールLuminaシリーズも、エントリーラインとして、その価格に比して驚異的な実力と外観的質感の良さを備えた注目製品だといえる。それもあり、概ね20万円以下のモデルは、質、モデル数ともに、現状かなり充実している印象だ。
その中で異彩を放ったのが、デジタル入力やBluetoothによる無線接続などを、より手軽な操作性で実現させるとともに、サウンドクオリティを確保したアクティブスピーカー、AIRPULSE「A80」及び「A300 Pro」だろう。これらは、よりハンドリングの良いオーディオ機器として新たな世代のユーザー層にも訴求できる魅力があり、オーディオの裾野を広げる鍵を握る製品といえそうだ。
アクティブスピーカーといえば、近年では、音楽制作用のモニタースピーカーでも付属の専用マイクロフォンを使ってルームアコースティックを簡便に補正可能な製品も人気を博している。このような高度な補正技術やデジタル再生に対応する製品が、高いサウンドクオリティを伴ってホームオーディオで登場してくることも、今後のオーディオ市場発展への要素として期待したいところである。
加えて、より広義な意味でのオーディオ的な動向としては、イマーシブオーディオの新たな展開も見過ごせない。先般のCES2021でSONYが発表した「360 Reality Audio」の本格始動をはじめとして、YoutubeやFacebookなどをはじめとするメディアへのAmbisonicsの普及など、あくまでアウトプットはヘッドホン・イヤホンベースを主眼としつつも、よりパーソナルな音楽制作環境レベルにまでイマーシブオーディオの裾野が広がって来ている。これらは、ステレオ再生へも応用可能な立体音響技術といえ、今後制作される音楽作品やその再生装置にも影響を与える可能性がありそうだ。
■伝統的なオーディオ機器の発展に加え、新たなプロダクトの登場にも期待
最後に、オーディオ機器の「音質」や「使いこなし」といった側面についても述べておきたい。
まず、音質傾向的な意味では、私見を含むこともお断りの上で申し上げると、個性やキャラクターを重視するサウンド傾向よりも、魅力あるキャラクターを持ちつつ、音色的にはTransparency(透明性)を重視したナチュラルな音傾向を持った製品が増えてきたように感じる。こういった傾向は、マスターに近い音質が得やすいハイレゾ再生が容易となった環境や、それを意識した音作りのハイレゾソースの登場、先述のハイファイなレコード再生の実現ともリンクしているのかもしれない。
昨今リリースされる現時代のミュージシャンによるタイトルも、マジョリティに向けたほとんどのものは音質的に残念なものが多い現状ではあるが、ハイレゾ時代の録音制作機器の成熟もあり、根本的には、周波数的レンジが広く各楽器の分離に優れた音傾向を確認できる。先述の透明性を重視したオーディオ機器のトレンドは、それらのソースを聴く機会が特に多いであろう若年層の嗜好にもマッチしたものではないかと推察している。
また、そういった音質的な部分とともに、オーディオの難しさでもあり醍醐味でもある「使いこなし」、つまりは「機器の組み合わせ」や「セッティング及びルームアコースティック」といった要素へのユーザー対応がより容易かつ柔軟になる機能を、オーディオ機器自身が備えることで、さらに「オーディオ」という営みが広く一般に活用されるようになるのでは、と思う。
具体的には、ルームアコースティックの補正や、ユーザー環境に即した調整パラメータを持つラウドネス機能などによって、オーディオ再生、スピーカー再生における難しさや問題を解消するものだ(無論、良質なオーディオ再生においては、信号や処理のピュアネス及びシンプリシティが至上ではあるが、時として、状況的にそれを活かし切れない使用環境も多い)。これらの技術は、既にプロオーディオの分野では実装されている技術であるが、それが、サウンドクオリティを担保した上でホームオーディオへと応用されることにも期待したい。
以上、ポストコロナにおけるニューノーマルな生活様式となった現在だからこそ、伝統的なオーディオ機器の発展はもちろんのこと、先述のような要素を備えた新たなプロダクトの登場による、オーディオマーケット全体のさらなる発展を待望する。冒頭にも述べたように、このような厳酷な状況下だからこそ、オーディオの有用性が発揮されるはずなのだから。
引き続き本年も、どんなオーディオ製品に出会えるのか、いちユーザーとして今から心躍らせている。