公開日 2022/12/19 06:40
DGPイメージングアワード2022受賞インタビュー
シグマ山木社長に聞く。大反響「SIGMA 20mm F1.4 DG DN | Art」への想いと変化する市場での取り組み
PHILE WEB ビジネス 編集部・竹内純
DGPイメージングアワード2022
受賞インタビュー:シグマ
「SIGMA 20mm F1.4 DG DN | Art」がDGPイメージングアワード2022・交換レンズ部門で総合金賞を受賞した。市場から寄せられた予想を超える反響はまさに、高い技術力を持ち細部にまで徹底してこだわるレンズメーカーとしての存在意義を知らしめた。本機への想いやコロナ禍で変化する市場での取り組みを山木和人社長に聞く。
株式会社シグマ
代表取締役社長
山木和人氏
プロフィール/1968年 東京生まれ。上智大学大学院卒業後、1993年に株式会社シグマに入社。2000年 取締役・経営企画室長を経て、2003年 取締役副社長、2005年 取締役社長、2012年 代表取締役社長に就任。
―― 今夏に発売された「SIGMA 20mm F1.4 DG DN | Art」がDGPイメージングアワード2022の交換レンズ部門で総合金賞を受賞しました。おめでとうございます。ここまでの手応えや反響はいかがですか。
山木 代表的なターゲットユーザーである星を撮るユーザーからは、日本のみならず世界各国より「きちんと丸く星景が撮れる」と予想を超える反響をいただいています。ワイド系ではそうしたレンズがほぼ無く、当社が継続的に投資を行いチャレンジを続けてきた非球面レンズが商品化への大きなカギを握っています。設計者をはじめ工場で非球面レンズを手掛けるエンジニアの長年の努力の積み重ねが結実したレンズと言えます。
「これはいいものができるぞ」と設計者やエンジニアには強い自信があったのですが、“星景”は一番難しいテーマのひとつで、ユーザーの皆様からのご意見も大変厳しく、どこまでご評価いただけるのか正直不安でした。そうした一番厳しい“目”に高くご評価いただけたことが本当にはうれしいですね。
―― 同時に「SIGMA 24mm F1.4 DG DN | Art」も発表され、こちらは「24?を持ち歩き、日常の一コマを切り取ろう」をテーマにキャンペーンも展開されました。
山木 基本的に両モデルは同じコンセプトで設計されています。24mmの方が日常的なストリートフォトグラフィーなどにも十分に使える焦点距離となることから、より広範囲の用途で使っていただきたくメッセージを込めました。ただ、一般的には20mmともなると、これまではちょっと特殊な領域に入るイメージがあったのですが、最近はスマートフォンにワイド機能が入ったり、Vloggerからワイドのニーズが拡がったり、“特殊”な印象が俄かに薄まりつつあり、20mmでも星を撮らない方に対してもしっかりとアピールができています。お客様のレンズに対する感覚がこれまでと変わって来ているように思います。
―― ワイドレンズに対する敷居が下がってきたタイミングにもうまく合致したわけですね。
山木 星景の撮影はレンズの収差も一番わかりやすく出てしまいますから、最も嫌なレンズテストのようなものです。しかし、そこで認められれば、風景写真もスナップ写真も静物撮影もどんな分野にも安心してお使いいただけます。一番高いハードルをベンチマークに設定した「星がきちんと撮れます」というメッセージは、どんなお客様にも安心してお使いいただけることを訴えるメッセージでもあります。
―― 「SIGMA 20mm F1.4 DG DN | Art」「SIGMA 24mm F1.4 DG DN | Art」をはじめとする製品貸出しモニターキャンペーンを発売直後の8月20日から9月2日まで行われました。関心もかなり高かったのではないでしょうか。
山木 従来は会場をお借りして、近辺を自由に撮影いただくケースが多かったのですが、今回は星をはじめとして、じっくりと時間をかけて使っていただきたい意図から、期間を設けてご使用いただく試みとしました。ご使用いただいた皆さんにはバラエティに富んだ作品をSNSに投稿いただくなど、大きな反響を得ることができました。
オンラインがコロナ禍の様々なシーンで当たり前となり、その可能性の大きさは理解しています。当社もオンラインによる製品発表をはじめ、コンテンツの提供にはかなり力を入れています。しかし、頻度や相手にできる人数は桁が違いますが、リアルの体験もやはり重要です。販売店さんはもちろん、メーカー自身でもお客様とのリアルなタッチポイントをしっかり提供していくことが引き続き大切です。
―― SIGMAのものづくりを語る上で、常に新しい技術や変革に挑戦し続ける開発姿勢と、その挑戦を現実のものにする会津工場の存在が挙げられます。
山木 レンズメーカーはサードパーティと言われる立場にあり、かつてはカメラメーカーの純正レンズより価格がかなり安く提供されていることに存在意義がありました。しかし、それでは面白くないし、新しく入ってくる社員のモチベーションも上がりません。専業メーカーだからこその味や性能を出していくことこそが重要であり、レンズメーカーの立場を上げていく意味からも、しっかりとした品質のものを作っていくことが社内のコンセンサスとしてあります。
また、ものづくりの観点からは、今は円安ですが、労働条件の制約等もあって日本でのものづくりは厳しさを増しています。量産品は東南アジアや中国には敵いませんから、何かに特化した、これだけは負けないというものをつくらなくてはいけない。他社が敢えてやらないこと、凄く作りづらいもの、生産性が落ちてしまうもの、そうしたところに逆に日本のものづくりの勝機があり、積極的にやろうと声を掛けています。
唯一の生産拠点である会津工場の人たちもそうしたことをよく理解しています。総合金賞を受賞した「SIGMA 20mm F1.4 DG DN | Art」でも、最新の光学設計と高精度に加工された大型の両面非球面レンズが大きなポイントとなっていますが、そうした難しいテーマにどん欲に取り組んでくれています。チャレンジする意識がすべての社員の間に共有されていることがとても大きいですね。
―― 今年はシネレンズが映画「トップガン マーヴェリック」の撮影に採用されたことでも話題を集めましたが、福島でも大きく取り上げられたそうですね。
山木 地方紙の福島民報が取材に来て、世界が認めた「会津レンズ」と一面で大きく取り上げていただきました。地元では凄い反響があったそうで、私も福島県知事から電話をいただきましたし、以前に経産省でカメラの担当をされていて、今は復興庁にいらっしゃる方からメールをいただくなど、たくさんの方から声を掛けていただきました。工場では自分の仕事に誇りを持ち、前向きに取り組んでいる方ばかりですが、こうして認められて結果として表れるとやはり皆盛り上がりますね(笑)。
―― カメラではフルサイズミラーレスカメラ「SIGMA fp L」が2021年4月16日に発売されてから2年近くになります。ファン待望の“次”の進捗はいかがでしょうか。
山木 シグマがカメラをやるからには差別化が必要です。現行機種の「SIGMA fp」「SIGMA fp L」は、同じベイヤーセンサーであれば何か違う切り口をと、「デジタルカメラの再構築」を掲げて取り組みました。“使うひと本位”を一番に考え、撮ることの真ん中だけを凝縮した結果、市場でも大きな話題となりました。SNSからも満足して使い込まれている人が少なくないことがうかがわれますし、ひとつのマイルストーンになったと感じています。その時その時に得られるテクノロジーを使って、大手さんがなかなかできないような特徴ある製品をしっかり作り込んでいくことが当社のミッションになります。
―― イメージング市場もコロナ禍の逆風が収まりつつあります。カメラ、レンズをはじめとする新製品は大きなインパクトをもたらしますが、今年5月に完成した御社の新社屋も大きな話題を提供しました。コンセプトギャラリー「Lens Cellar」はグッドデザイン賞も受賞されました。
山木 職人がひとつひとつ手作業で行う面取りや部品と部品の合わせ面の追い込みなど、レンズの精度に対するこだわりはお客様にはなかなかお気づきいただけません。そうした世界観を表現できるショールームをはじめとする場所が当社にはなかったこともあり、今回の新社屋建設のタイミングに、せめて社内にできればと完成させたのが「Lens Cellar」です。
カメラの内部を想起させるレイアウトになっていて、壁面下部に設けた窓はファインダーやレンズ越しに見える世界を、向かいの発光面はセンサー、さらにそこに浮かび上がるグリッド状に並んだ歴代の製品を画素に見立てています。
新社屋については、特にソフトウェア関係の技術者が増えて、旧本社が手狭になったことが一番の理由ですが、せっかく建てるのであればと建築家に3つの要望を出しました。ひとつはスペースをきちんと確保した居心地のいい空間であること。仕事はチームワークでやるべきだと私は考えており、当社は現在、基本的に社員全員が出社しています。皆が来る場所ですから、楽しくて心地よい場所であることが重要です。
次に、コミュニケーションが促進できる場であること。人間はひとりでできる勉強は限られますし、切磋琢磨も容易ではありません。人と触れ合うことで刺激を受け、多くのことを学んでいきます。会社でも机にへばりついて誰ともしゃべらないのではなく、いろいろな部門の人と情報をやり取りして、刺激を受け、成長できる場にしたい。
最後は、社員の7割強がエンジニアで、しかも一人暮らしが多いものですから、朝カーテンを閉めたまま家を出て、夜家に帰るともう暗くて、コンビニ弁当を食べて、就寝して1日が終わってしまう、そんな生活パターンが多いのではないかと心配しています。そこで、せめて会社にいる間は外の緑も見られるようにと窓はふんだんに大きくとり、季節の移り変わりを感じ、日光をきちんと浴びて、体内時計がきちんと回るようにしました。
―― 社員の精神衛生まで考えられたスペースだったんですね。
山木 それがいい仕事をするための大前提です。当社は規模こそ中小企業ですが、市場では大手メーカーと渡り合っています。製品では絶対に負けたくない。そのためには、それぞれの社員が120%の力を発揮すること。働く環境を整えるのは重要なことです。社員が心地よく感じてくれていればいいのですが、旧本社の時代よりも社員の表情も明るくなり、コミュニケーションもスペースが増えて活発になっているように感じています。
―― 半導体をはじめとする部品不足による商品供給の滞りが大きな課題となっています。今後の市場をどのように展望されていますか。
山木 特に問題になっているのが半導体関係ですが、それ以外にもシリコンや銅を使用した部品など、コロナ以降は常に何かが逼迫している状況が続いています。ただし、製品供給に関して言えば、恐らく業界では当社が一番影響が小さいと思われます。それは、すべて日本でものづくりを行っているからです。中国もベトナムもマレーシアもロックダウンがありましたが、日本にはありません。感染対策をとり、常に工場は稼働しています。協力工場もほぼ日本ですから、何か起こればすぐに対応できます。
一番安い部品を調達するためのグローバルサプライチェーンは、部品から組み立ての工程まで物凄く複雑な構造になっています。それに対して当社は1箇所、孫請けはほとんどなく一次でつながりますから管理も行き届きます。コロナ禍にはこのシンプルなサプライチェーンが大変うまく機能しています。
―― 販促面にもコロナ禍ではさまざまな変化があり、御社ではオンラインでの発表会「SIGMA STAGE ONLINE」もすっかり定番となりましたが、今後の店頭施策やイベントについてのお考えをお聞かせください。
山木 カメラやレンズも単価がジワジワと上がり、そう気軽に購入できるものではなくなってきています。オンラインの取り組みは他社に先駆けて、かなり早期から行うことができましたが、商品をしっかりと検討していただくには、店頭で実物を確かめて、販売員さんの話を聞いて、最後に背中を一押ししてもらうのがやはり基本スタイル。店頭の整備やお客様にアピールしやすい売り場づくりを引き続きしっかり行っていきます。
また、買ったら終わりではなく、買った後にどう使いこなすか、楽しむかが非常に重要なこともカメラやレンズの特徴のひとつ。相談できる販売員さんがいることはお客様にとっても心強いはずで、メーカーとしても撮影会やフォトウォークをはじめとするイベントを通じて、使いこなしや楽しみ方をお伝えしていきます。
―― 行動制限が緩和され、観光地やイベントでの撮影も増えています。さらなる需要喚起へ向けての意気込みをお願いします。
山木 まず何と言っても重要なのが新製品です。交換レンズのニーズは無限なはずです。新しい切り口からの提案ができれば、需要はいくらでも創造できる。今後も新製品を積極的に投入して参ります。
テーマパークへ行くとついあれもこれもと買い込んでしまうように、販売店さんへ行くワクワク感も大切。販売店さんにご協力いただきながら、お客様のニーズをきちんと汲み取れるタイムリーな企画を打っていきたい。業界はこの10年の間、基本的には縮小傾向にあり、盛り上げていくために、当社も微力なからコミットして参ります。
シグマではミッションとして“すべての「ハッピーモーメント」のために”を掲げています。すべての幸せの瞬間に携わる、貢献するという意味が込められています。小さなころに父(創業者・先代社長:山木道広氏)から「写真というのは幸せの瞬間を撮るものだから悪い仕事じゃないぞ」と言われたことをはっきりと覚えています。それがこのミッションのベースとしてあります。お客様が幸せになれば社員も幸せになる。取引会社さんや地域の方にも還元できます。気を引き締めて取り組んで参ります。
受賞インタビュー:シグマ
「SIGMA 20mm F1.4 DG DN | Art」がDGPイメージングアワード2022・交換レンズ部門で総合金賞を受賞した。市場から寄せられた予想を超える反響はまさに、高い技術力を持ち細部にまで徹底してこだわるレンズメーカーとしての存在意義を知らしめた。本機への想いやコロナ禍で変化する市場での取り組みを山木和人社長に聞く。
株式会社シグマ
代表取締役社長
山木和人氏
プロフィール/1968年 東京生まれ。上智大学大学院卒業後、1993年に株式会社シグマに入社。2000年 取締役・経営企画室長を経て、2003年 取締役副社長、2005年 取締役社長、2012年 代表取締役社長に就任。
■スマホやVloggerなど俄然注目高まるワイドレンズ
―― 今夏に発売された「SIGMA 20mm F1.4 DG DN | Art」がDGPイメージングアワード2022の交換レンズ部門で総合金賞を受賞しました。おめでとうございます。ここまでの手応えや反響はいかがですか。
山木 代表的なターゲットユーザーである星を撮るユーザーからは、日本のみならず世界各国より「きちんと丸く星景が撮れる」と予想を超える反響をいただいています。ワイド系ではそうしたレンズがほぼ無く、当社が継続的に投資を行いチャレンジを続けてきた非球面レンズが商品化への大きなカギを握っています。設計者をはじめ工場で非球面レンズを手掛けるエンジニアの長年の努力の積み重ねが結実したレンズと言えます。
「これはいいものができるぞ」と設計者やエンジニアには強い自信があったのですが、“星景”は一番難しいテーマのひとつで、ユーザーの皆様からのご意見も大変厳しく、どこまでご評価いただけるのか正直不安でした。そうした一番厳しい“目”に高くご評価いただけたことが本当にはうれしいですね。
―― 同時に「SIGMA 24mm F1.4 DG DN | Art」も発表され、こちらは「24?を持ち歩き、日常の一コマを切り取ろう」をテーマにキャンペーンも展開されました。
山木 基本的に両モデルは同じコンセプトで設計されています。24mmの方が日常的なストリートフォトグラフィーなどにも十分に使える焦点距離となることから、より広範囲の用途で使っていただきたくメッセージを込めました。ただ、一般的には20mmともなると、これまではちょっと特殊な領域に入るイメージがあったのですが、最近はスマートフォンにワイド機能が入ったり、Vloggerからワイドのニーズが拡がったり、“特殊”な印象が俄かに薄まりつつあり、20mmでも星を撮らない方に対してもしっかりとアピールができています。お客様のレンズに対する感覚がこれまでと変わって来ているように思います。
―― ワイドレンズに対する敷居が下がってきたタイミングにもうまく合致したわけですね。
山木 星景の撮影はレンズの収差も一番わかりやすく出てしまいますから、最も嫌なレンズテストのようなものです。しかし、そこで認められれば、風景写真もスナップ写真も静物撮影もどんな分野にも安心してお使いいただけます。一番高いハードルをベンチマークに設定した「星がきちんと撮れます」というメッセージは、どんなお客様にも安心してお使いいただけることを訴えるメッセージでもあります。
―― 「SIGMA 20mm F1.4 DG DN | Art」「SIGMA 24mm F1.4 DG DN | Art」をはじめとする製品貸出しモニターキャンペーンを発売直後の8月20日から9月2日まで行われました。関心もかなり高かったのではないでしょうか。
山木 従来は会場をお借りして、近辺を自由に撮影いただくケースが多かったのですが、今回は星をはじめとして、じっくりと時間をかけて使っていただきたい意図から、期間を設けてご使用いただく試みとしました。ご使用いただいた皆さんにはバラエティに富んだ作品をSNSに投稿いただくなど、大きな反響を得ることができました。
オンラインがコロナ禍の様々なシーンで当たり前となり、その可能性の大きさは理解しています。当社もオンラインによる製品発表をはじめ、コンテンツの提供にはかなり力を入れています。しかし、頻度や相手にできる人数は桁が違いますが、リアルの体験もやはり重要です。販売店さんはもちろん、メーカー自身でもお客様とのリアルなタッチポイントをしっかり提供していくことが引き続き大切です。
■難しいことだからこそやる専業メーカーとしての存在意義
―― SIGMAのものづくりを語る上で、常に新しい技術や変革に挑戦し続ける開発姿勢と、その挑戦を現実のものにする会津工場の存在が挙げられます。
山木 レンズメーカーはサードパーティと言われる立場にあり、かつてはカメラメーカーの純正レンズより価格がかなり安く提供されていることに存在意義がありました。しかし、それでは面白くないし、新しく入ってくる社員のモチベーションも上がりません。専業メーカーだからこその味や性能を出していくことこそが重要であり、レンズメーカーの立場を上げていく意味からも、しっかりとした品質のものを作っていくことが社内のコンセンサスとしてあります。
また、ものづくりの観点からは、今は円安ですが、労働条件の制約等もあって日本でのものづくりは厳しさを増しています。量産品は東南アジアや中国には敵いませんから、何かに特化した、これだけは負けないというものをつくらなくてはいけない。他社が敢えてやらないこと、凄く作りづらいもの、生産性が落ちてしまうもの、そうしたところに逆に日本のものづくりの勝機があり、積極的にやろうと声を掛けています。
唯一の生産拠点である会津工場の人たちもそうしたことをよく理解しています。総合金賞を受賞した「SIGMA 20mm F1.4 DG DN | Art」でも、最新の光学設計と高精度に加工された大型の両面非球面レンズが大きなポイントとなっていますが、そうした難しいテーマにどん欲に取り組んでくれています。チャレンジする意識がすべての社員の間に共有されていることがとても大きいですね。
―― 今年はシネレンズが映画「トップガン マーヴェリック」の撮影に採用されたことでも話題を集めましたが、福島でも大きく取り上げられたそうですね。
山木 地方紙の福島民報が取材に来て、世界が認めた「会津レンズ」と一面で大きく取り上げていただきました。地元では凄い反響があったそうで、私も福島県知事から電話をいただきましたし、以前に経産省でカメラの担当をされていて、今は復興庁にいらっしゃる方からメールをいただくなど、たくさんの方から声を掛けていただきました。工場では自分の仕事に誇りを持ち、前向きに取り組んでいる方ばかりですが、こうして認められて結果として表れるとやはり皆盛り上がりますね(笑)。
■レンズ精度に挑む世界観を訴えた「Lens Cellar」
―― カメラではフルサイズミラーレスカメラ「SIGMA fp L」が2021年4月16日に発売されてから2年近くになります。ファン待望の“次”の進捗はいかがでしょうか。
山木 シグマがカメラをやるからには差別化が必要です。現行機種の「SIGMA fp」「SIGMA fp L」は、同じベイヤーセンサーであれば何か違う切り口をと、「デジタルカメラの再構築」を掲げて取り組みました。“使うひと本位”を一番に考え、撮ることの真ん中だけを凝縮した結果、市場でも大きな話題となりました。SNSからも満足して使い込まれている人が少なくないことがうかがわれますし、ひとつのマイルストーンになったと感じています。その時その時に得られるテクノロジーを使って、大手さんがなかなかできないような特徴ある製品をしっかり作り込んでいくことが当社のミッションになります。
―― イメージング市場もコロナ禍の逆風が収まりつつあります。カメラ、レンズをはじめとする新製品は大きなインパクトをもたらしますが、今年5月に完成した御社の新社屋も大きな話題を提供しました。コンセプトギャラリー「Lens Cellar」はグッドデザイン賞も受賞されました。
山木 職人がひとつひとつ手作業で行う面取りや部品と部品の合わせ面の追い込みなど、レンズの精度に対するこだわりはお客様にはなかなかお気づきいただけません。そうした世界観を表現できるショールームをはじめとする場所が当社にはなかったこともあり、今回の新社屋建設のタイミングに、せめて社内にできればと完成させたのが「Lens Cellar」です。
カメラの内部を想起させるレイアウトになっていて、壁面下部に設けた窓はファインダーやレンズ越しに見える世界を、向かいの発光面はセンサー、さらにそこに浮かび上がるグリッド状に並んだ歴代の製品を画素に見立てています。
新社屋については、特にソフトウェア関係の技術者が増えて、旧本社が手狭になったことが一番の理由ですが、せっかく建てるのであればと建築家に3つの要望を出しました。ひとつはスペースをきちんと確保した居心地のいい空間であること。仕事はチームワークでやるべきだと私は考えており、当社は現在、基本的に社員全員が出社しています。皆が来る場所ですから、楽しくて心地よい場所であることが重要です。
次に、コミュニケーションが促進できる場であること。人間はひとりでできる勉強は限られますし、切磋琢磨も容易ではありません。人と触れ合うことで刺激を受け、多くのことを学んでいきます。会社でも机にへばりついて誰ともしゃべらないのではなく、いろいろな部門の人と情報をやり取りして、刺激を受け、成長できる場にしたい。
最後は、社員の7割強がエンジニアで、しかも一人暮らしが多いものですから、朝カーテンを閉めたまま家を出て、夜家に帰るともう暗くて、コンビニ弁当を食べて、就寝して1日が終わってしまう、そんな生活パターンが多いのではないかと心配しています。そこで、せめて会社にいる間は外の緑も見られるようにと窓はふんだんに大きくとり、季節の移り変わりを感じ、日光をきちんと浴びて、体内時計がきちんと回るようにしました。
―― 社員の精神衛生まで考えられたスペースだったんですね。
山木 それがいい仕事をするための大前提です。当社は規模こそ中小企業ですが、市場では大手メーカーと渡り合っています。製品では絶対に負けたくない。そのためには、それぞれの社員が120%の力を発揮すること。働く環境を整えるのは重要なことです。社員が心地よく感じてくれていればいいのですが、旧本社の時代よりも社員の表情も明るくなり、コミュニケーションもスペースが増えて活発になっているように感じています。
■最後に販売員さんに背中を押してもらうのが基本スタイル
―― 半導体をはじめとする部品不足による商品供給の滞りが大きな課題となっています。今後の市場をどのように展望されていますか。
山木 特に問題になっているのが半導体関係ですが、それ以外にもシリコンや銅を使用した部品など、コロナ以降は常に何かが逼迫している状況が続いています。ただし、製品供給に関して言えば、恐らく業界では当社が一番影響が小さいと思われます。それは、すべて日本でものづくりを行っているからです。中国もベトナムもマレーシアもロックダウンがありましたが、日本にはありません。感染対策をとり、常に工場は稼働しています。協力工場もほぼ日本ですから、何か起こればすぐに対応できます。
一番安い部品を調達するためのグローバルサプライチェーンは、部品から組み立ての工程まで物凄く複雑な構造になっています。それに対して当社は1箇所、孫請けはほとんどなく一次でつながりますから管理も行き届きます。コロナ禍にはこのシンプルなサプライチェーンが大変うまく機能しています。
―― 販促面にもコロナ禍ではさまざまな変化があり、御社ではオンラインでの発表会「SIGMA STAGE ONLINE」もすっかり定番となりましたが、今後の店頭施策やイベントについてのお考えをお聞かせください。
山木 カメラやレンズも単価がジワジワと上がり、そう気軽に購入できるものではなくなってきています。オンラインの取り組みは他社に先駆けて、かなり早期から行うことができましたが、商品をしっかりと検討していただくには、店頭で実物を確かめて、販売員さんの話を聞いて、最後に背中を一押ししてもらうのがやはり基本スタイル。店頭の整備やお客様にアピールしやすい売り場づくりを引き続きしっかり行っていきます。
また、買ったら終わりではなく、買った後にどう使いこなすか、楽しむかが非常に重要なこともカメラやレンズの特徴のひとつ。相談できる販売員さんがいることはお客様にとっても心強いはずで、メーカーとしても撮影会やフォトウォークをはじめとするイベントを通じて、使いこなしや楽しみ方をお伝えしていきます。
―― 行動制限が緩和され、観光地やイベントでの撮影も増えています。さらなる需要喚起へ向けての意気込みをお願いします。
山木 まず何と言っても重要なのが新製品です。交換レンズのニーズは無限なはずです。新しい切り口からの提案ができれば、需要はいくらでも創造できる。今後も新製品を積極的に投入して参ります。
テーマパークへ行くとついあれもこれもと買い込んでしまうように、販売店さんへ行くワクワク感も大切。販売店さんにご協力いただきながら、お客様のニーズをきちんと汲み取れるタイムリーな企画を打っていきたい。業界はこの10年の間、基本的には縮小傾向にあり、盛り上げていくために、当社も微力なからコミットして参ります。
シグマではミッションとして“すべての「ハッピーモーメント」のために”を掲げています。すべての幸せの瞬間に携わる、貢献するという意味が込められています。小さなころに父(創業者・先代社長:山木道広氏)から「写真というのは幸せの瞬間を撮るものだから悪い仕事じゃないぞ」と言われたことをはっきりと覚えています。それがこのミッションのベースとしてあります。お客様が幸せになれば社員も幸せになる。取引会社さんや地域の方にも還元できます。気を引き締めて取り組んで参ります。
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