公開日 2016/11/21 12:00
オーディオ銘機賞2017 製品特別大賞受賞
モニターオーディオの旗艦スピーカー「PLATINUM」はここまで進化した。旧シリーズ刷新で到達した境地とは
井上千岳
英国のスピーカーブランドMONITOR AUDIOの新たなフラグシップシリーズとして登場した「PLATINUM SERIESII」。約9年ぶりにフルモデルチェンジを果たした今回の新シリーズでは、従来のトップエンド「PL300」の上に、3ウェイ・7スピーカーのバーチカルツイン(仮想同軸)型「PL500II」が最上位モデルとして加わり、日本でも今年春から発売を開始。
トゥイーターを従来のリボン型から独自のハイルドライバー「MPD」へと刷新し、ミッドやウーファーも「RDTII」ドライバーへと進化させるなど、大幅なモデルチェンジを実現し、本年度の「オーディオ銘機賞2017」にて、金賞に準ずる「製品特別大賞」を受賞している。本項では同シリーズの歴史を知る井上千岳氏が登場。旧シリーズとの比較を中心として、詳細なレポートをお届けしよう。
■旧シリーズからの進化
トゥイーターの劇的な刷新。ウーファやミッドも進化した
このスピーカーについては、言うべきことが山ほどある。しかしそれをしたところで何がわかるというわけでもないので、主に旧シリーズとの比較から特徴を掴んでもらうことにしたい。
一見してまず目に付くのがトゥイーターだ。従来はリボン型だったのを、このシリーズではMPD(マイクロ・プリーテッド・ダイアフラム)とした。いわゆるハイルドライバーである。
ウーファーとミッドレンジは外側からではわかりづらいが、裏側にカーボンファイバー織布が貼ってある。またダイナミック・カップリング・フィルター(DCF)といって、振動板の背圧を開放するリング状の部材が装着されている。そのほかサスペンションの構造も改良されているし、ボイスコイルはエッジワイズ巻きとなった。さらにユニットの固定はテンションロッド1本で背後から引っ張り、リアバッフルで止める方式とした。これまでのシルバーやゴールドで採用された手法で、Vスルー方式と呼ぶようである。
あらゆる部分を綿密に解析し、旧モデルを徹底的に洗い直す
これに伴ってキャビネットもさらに高剛性化が進められた。ブレーシングはマトリクス・スタイルで、全体としての統合性を厳しく突きつめた構造だ。
また、サーモセットポリマーをベースとするアンチレゾナンス・コンポジットを内部の随所に使用し、剛性の向上と共振の排除を図っている。
設計プロセスで気が付くのが、FEA(有限要素解析)による最適化である。ドライバーからキャビネット、制振材などあらゆる部分で綿密な解析が行われ、最も適した構造や形状が決定されている。そこから旧シリーズを徹底的に洗い直した印象が浮かび上がる。
さらなる耐入力を追求したMPDトゥイーターの魅力
結局旧シリーズと同じところはひとつもないと言っていい。継承したものはたくさんあるはずだが、そのまま踏襲してはいないのである。ある意味では旧モデルの否定とさえ言える。そのいい例がトゥイーターだ。
旧プラチナムのリボン・トゥイーターはC‐CAMを振動板とした画期的な設計であったが、それを一世代限りであっさりと捨ててしまった。何が不満だったのか?
開発の指揮を執るディーン・ハートレー氏によれば、耐入力がさらに欲しかったという。確かにMPDは振動板面積が格段に広く、パワーハンドリングに優れている。それにしても一旦は成功した成果を、あっさりと廃棄できる決断力には唖然とする思いがある。
旧シリーズからは9年を経ているが、MPDの開発は3年ほど前からだという。それまではさんざんリボンの改良を試みていたのだろうと想像される。
他の部分については、旧モデルの全否定ということにはなっていない。しかしまだまだ上には上があるという思考が、厳しい追求を実現させたのであろう。C-CAMの表面処理など、いったい何世代目になるのか。裏面に貼ったドイツ製のカーボンスキンは第2世代のRDT(リジッド・ダイアフラム・テクノロジー)だというが、1999年のGRシリーズ以来細かく見れば片手では利かない。
■旧シリーズとの音質の違い
リボンより明らかに好相性。ミッドと完全に一体化する
まさに飽くなき探求というのはこういうことを言うのだろう。プラチナムIIは旧プラチナムとは全く違う。旧シリーズのイメージのままでこのスピーカーを判断しようというのはあまりにも甘い。旧リボンと現MPDを比較すること自体が、そもそも何もわかっていない証左と言うしかない。
音のことに移ろう。C-CAMリボンは非常に画期的だったから、そのイメージに引きずられると新シリーズのMPDはいかにも頼りなく見えるのかもしれない。実際音を聴いても、鳴っているのかいないのかわからないくらいだ。だが例えばPL-300IIで言えば、これがミッドレンジと完全に一体となって鳴っていることに気が付く。トゥイーターということばかりに気を取られているとそれがわからない。リボンの方がよかった、これではちっとも鳴っているのがわからないじゃないか。そういう声が聞こえてきそうである。
だから無意味な比較をするなというのだ。スピーカーは鳴っているのがわからないのが理想なのである。ディーンはそれを知っていたのだ。PL300IIでは、ミッドレンジとトゥイーターはひとつのものになっている。プラチナムに関しては、リボンより明らかに理想に近い。
低域の実在感の高さに驚く。ハイスピードで量感も十分
トゥイーターの存在がわからない代わりに、低域の実在感はぎょっとするほど高まっている。それも低音々々した仰々しさとは、全く逆の形での実在感である。
再びPL300IIで言うと、色がないという点ではミッド/トゥイーターと同様である。しかし意外に量感はある。しかしぼってりと重くはなく、透明でスピードが速い。その点で高域とぴったり揃っているため、音調の統一感が極めて高いのである。旧シリーズではここまでの無色透明な感触はなく、わずかに重さが感じられたものである。
音質面でも格段に進化した。旧モデルとは全く別の製品
結局音の点でも、新シリーズは格段の進化を遂げたのである。だから旧シリーズとは別の製品なのだと思った方がいい。
PL500IIは一般家庭に置くようなものではないのでここでは省く。上位モデルのPL300IIはミッドレンジとダブルウーファーの3ウェイ。PL200II はそれより一回り小さなやはり3ウェイ。そしてPL100IIは2ウェイのブックシェルフである。
この中でPL100IIが一番わかりやすい。ミッドがないだけトゥイーターの存在感が出やすいのである。またPL200IIは、日本家屋で最もバランスのいいモデルかもしれない。PL300IIはやや広い空間を必要とする。
いずれにしてもトゥイーターの色のなさに気が付いてほしいのである。PL100IIならほとんどフルレンジだ。フロア型もスピーカーの存在がほぼ消える。それこそディーンの実現したかった理想ではなかったか。
プラチナムはここまで進化したのだ。それを理解できずに何を言おうが構わないが、現代スピーカーがここまで来ていることは確かなのである。
■メーカーは語る
テクニカルディレクター Dean Hartle氏からのコメント
我々の新しい「Platinum II シリーズ」が、音元出版オーディオアクセサリー誌からこのような栄えある賞をいただくことができ、とても嬉しく思っています。我々のデザインチームはPlatinum II シリーズのために、どんな細かなディテールまでもこだわりぬきました。こういった小さな積み重ねが、この素晴らしいスピーカーを具現化し、素晴らしい結果に導いてくれたのだと思っています。
オーディオアクセサリー誌がスピーカーづくりに関する我々の努力や精神をよく理解してくれたこと、オーディオ銘機賞2017 製品特別大賞を授与してくれたことは、献身的に働いてくれたスタッフに誇りを与えてくれました。これからもよりよい製品を生み出していけるよう、一層邁進していきたいと思います。
PL500II
●型式:3ウェイ・7スピーカー構成バスレフ型/フロア型 ●ユニット:MPDトランスデューサー×1、100mm RDT II ミッド×2、200mmRDT IIウーファー×4 ●周波数特性:22Hz〜100kHz ●クロスオーバー:460Hz/3.6kHz ●感度:91dB ●インピーダンス:4Ω ●許容入力:400W ●推奨アンプ出力:150W〜400W ●サイズ:504W×1,848H×626Dmm ●質量:99.1kg
PL300II
●型式:3ウェイ・4スピーカー構成バスレフ型/フロア型 ●ユニット:MPDトランスデューサー×1、100mm RDT II ミッド×1、200mm RDT II ウーファー×2 ●周波数特性:28Hz〜100kHz ●クロスオーバー:500Hz/3.4kHz ●感度:90dB ●インピーダンス:4Ω ●許容入力:300W ●推奨アンプ出力:100W〜300W ●サイズ:410W×1,158H×470Dmm ●質量:54.52kg
PL200II
●型式:3ウェイ・4スピーカー構成バスレフ型/フロア型 ●ユニット:MPDトランスデューサー×1、100mm RDT II ミッド×1、165mmRDT II ウーファー×2 ●周波数特性:35Hz〜100kHz ●クロスオーバー:750Hz/3.9kHz ●感度:90dB ●インピーダンス:4Ω ●許容入力:250W ●推奨アンプ出力:100W〜250W ●サイズ:360W×1043H×375Dmm ●質量:36.08kg
PL100II
●専用スタンド(¥120,000/ペア・税抜)●型式:2ウェイ・2スピーカー構成バスレフ型/ブックシェルフ型 ●ユニット:MPDトランスデューサー×1、165mm RDT II ミッド/ウーファー×1 ●周波数特性:40Hz〜100kHz ●クロスオーバー:3.0kHz ●感度:88dB ●インピーダンス:4Ω ●許容入力:120W ●推奨アンプ出力:60W〜120W ●サイズ:225W×370H×285Dmm ●質量:14.94kg
トゥイーターを従来のリボン型から独自のハイルドライバー「MPD」へと刷新し、ミッドやウーファーも「RDTII」ドライバーへと進化させるなど、大幅なモデルチェンジを実現し、本年度の「オーディオ銘機賞2017」にて、金賞に準ずる「製品特別大賞」を受賞している。本項では同シリーズの歴史を知る井上千岳氏が登場。旧シリーズとの比較を中心として、詳細なレポートをお届けしよう。
■旧シリーズからの進化
トゥイーターの劇的な刷新。ウーファやミッドも進化した
このスピーカーについては、言うべきことが山ほどある。しかしそれをしたところで何がわかるというわけでもないので、主に旧シリーズとの比較から特徴を掴んでもらうことにしたい。
一見してまず目に付くのがトゥイーターだ。従来はリボン型だったのを、このシリーズではMPD(マイクロ・プリーテッド・ダイアフラム)とした。いわゆるハイルドライバーである。
ウーファーとミッドレンジは外側からではわかりづらいが、裏側にカーボンファイバー織布が貼ってある。またダイナミック・カップリング・フィルター(DCF)といって、振動板の背圧を開放するリング状の部材が装着されている。そのほかサスペンションの構造も改良されているし、ボイスコイルはエッジワイズ巻きとなった。さらにユニットの固定はテンションロッド1本で背後から引っ張り、リアバッフルで止める方式とした。これまでのシルバーやゴールドで採用された手法で、Vスルー方式と呼ぶようである。
あらゆる部分を綿密に解析し、旧モデルを徹底的に洗い直す
これに伴ってキャビネットもさらに高剛性化が進められた。ブレーシングはマトリクス・スタイルで、全体としての統合性を厳しく突きつめた構造だ。
また、サーモセットポリマーをベースとするアンチレゾナンス・コンポジットを内部の随所に使用し、剛性の向上と共振の排除を図っている。
設計プロセスで気が付くのが、FEA(有限要素解析)による最適化である。ドライバーからキャビネット、制振材などあらゆる部分で綿密な解析が行われ、最も適した構造や形状が決定されている。そこから旧シリーズを徹底的に洗い直した印象が浮かび上がる。
さらなる耐入力を追求したMPDトゥイーターの魅力
結局旧シリーズと同じところはひとつもないと言っていい。継承したものはたくさんあるはずだが、そのまま踏襲してはいないのである。ある意味では旧モデルの否定とさえ言える。そのいい例がトゥイーターだ。
旧プラチナムのリボン・トゥイーターはC‐CAMを振動板とした画期的な設計であったが、それを一世代限りであっさりと捨ててしまった。何が不満だったのか?
開発の指揮を執るディーン・ハートレー氏によれば、耐入力がさらに欲しかったという。確かにMPDは振動板面積が格段に広く、パワーハンドリングに優れている。それにしても一旦は成功した成果を、あっさりと廃棄できる決断力には唖然とする思いがある。
旧シリーズからは9年を経ているが、MPDの開発は3年ほど前からだという。それまではさんざんリボンの改良を試みていたのだろうと想像される。
他の部分については、旧モデルの全否定ということにはなっていない。しかしまだまだ上には上があるという思考が、厳しい追求を実現させたのであろう。C-CAMの表面処理など、いったい何世代目になるのか。裏面に貼ったドイツ製のカーボンスキンは第2世代のRDT(リジッド・ダイアフラム・テクノロジー)だというが、1999年のGRシリーズ以来細かく見れば片手では利かない。
■旧シリーズとの音質の違い
リボンより明らかに好相性。ミッドと完全に一体化する
まさに飽くなき探求というのはこういうことを言うのだろう。プラチナムIIは旧プラチナムとは全く違う。旧シリーズのイメージのままでこのスピーカーを判断しようというのはあまりにも甘い。旧リボンと現MPDを比較すること自体が、そもそも何もわかっていない証左と言うしかない。
音のことに移ろう。C-CAMリボンは非常に画期的だったから、そのイメージに引きずられると新シリーズのMPDはいかにも頼りなく見えるのかもしれない。実際音を聴いても、鳴っているのかいないのかわからないくらいだ。だが例えばPL-300IIで言えば、これがミッドレンジと完全に一体となって鳴っていることに気が付く。トゥイーターということばかりに気を取られているとそれがわからない。リボンの方がよかった、これではちっとも鳴っているのがわからないじゃないか。そういう声が聞こえてきそうである。
だから無意味な比較をするなというのだ。スピーカーは鳴っているのがわからないのが理想なのである。ディーンはそれを知っていたのだ。PL300IIでは、ミッドレンジとトゥイーターはひとつのものになっている。プラチナムに関しては、リボンより明らかに理想に近い。
低域の実在感の高さに驚く。ハイスピードで量感も十分
トゥイーターの存在がわからない代わりに、低域の実在感はぎょっとするほど高まっている。それも低音々々した仰々しさとは、全く逆の形での実在感である。
再びPL300IIで言うと、色がないという点ではミッド/トゥイーターと同様である。しかし意外に量感はある。しかしぼってりと重くはなく、透明でスピードが速い。その点で高域とぴったり揃っているため、音調の統一感が極めて高いのである。旧シリーズではここまでの無色透明な感触はなく、わずかに重さが感じられたものである。
音質面でも格段に進化した。旧モデルとは全く別の製品
結局音の点でも、新シリーズは格段の進化を遂げたのである。だから旧シリーズとは別の製品なのだと思った方がいい。
PL500IIは一般家庭に置くようなものではないのでここでは省く。上位モデルのPL300IIはミッドレンジとダブルウーファーの3ウェイ。PL200II はそれより一回り小さなやはり3ウェイ。そしてPL100IIは2ウェイのブックシェルフである。
この中でPL100IIが一番わかりやすい。ミッドがないだけトゥイーターの存在感が出やすいのである。またPL200IIは、日本家屋で最もバランスのいいモデルかもしれない。PL300IIはやや広い空間を必要とする。
いずれにしてもトゥイーターの色のなさに気が付いてほしいのである。PL100IIならほとんどフルレンジだ。フロア型もスピーカーの存在がほぼ消える。それこそディーンの実現したかった理想ではなかったか。
プラチナムはここまで進化したのだ。それを理解できずに何を言おうが構わないが、現代スピーカーがここまで来ていることは確かなのである。
■メーカーは語る
テクニカルディレクター Dean Hartle氏からのコメント
我々の新しい「Platinum II シリーズ」が、音元出版オーディオアクセサリー誌からこのような栄えある賞をいただくことができ、とても嬉しく思っています。我々のデザインチームはPlatinum II シリーズのために、どんな細かなディテールまでもこだわりぬきました。こういった小さな積み重ねが、この素晴らしいスピーカーを具現化し、素晴らしい結果に導いてくれたのだと思っています。
オーディオアクセサリー誌がスピーカーづくりに関する我々の努力や精神をよく理解してくれたこと、オーディオ銘機賞2017 製品特別大賞を授与してくれたことは、献身的に働いてくれたスタッフに誇りを与えてくれました。これからもよりよい製品を生み出していけるよう、一層邁進していきたいと思います。
PL500II
●型式:3ウェイ・7スピーカー構成バスレフ型/フロア型 ●ユニット:MPDトランスデューサー×1、100mm RDT II ミッド×2、200mmRDT IIウーファー×4 ●周波数特性:22Hz〜100kHz ●クロスオーバー:460Hz/3.6kHz ●感度:91dB ●インピーダンス:4Ω ●許容入力:400W ●推奨アンプ出力:150W〜400W ●サイズ:504W×1,848H×626Dmm ●質量:99.1kg
PL300II
●型式:3ウェイ・4スピーカー構成バスレフ型/フロア型 ●ユニット:MPDトランスデューサー×1、100mm RDT II ミッド×1、200mm RDT II ウーファー×2 ●周波数特性:28Hz〜100kHz ●クロスオーバー:500Hz/3.4kHz ●感度:90dB ●インピーダンス:4Ω ●許容入力:300W ●推奨アンプ出力:100W〜300W ●サイズ:410W×1,158H×470Dmm ●質量:54.52kg
PL200II
●型式:3ウェイ・4スピーカー構成バスレフ型/フロア型 ●ユニット:MPDトランスデューサー×1、100mm RDT II ミッド×1、165mmRDT II ウーファー×2 ●周波数特性:35Hz〜100kHz ●クロスオーバー:750Hz/3.9kHz ●感度:90dB ●インピーダンス:4Ω ●許容入力:250W ●推奨アンプ出力:100W〜250W ●サイズ:360W×1043H×375Dmm ●質量:36.08kg
PL100II
●専用スタンド(¥120,000/ペア・税抜)●型式:2ウェイ・2スピーカー構成バスレフ型/ブックシェルフ型 ●ユニット:MPDトランスデューサー×1、165mm RDT II ミッド/ウーファー×1 ●周波数特性:40Hz〜100kHz ●クロスオーバー:3.0kHz ●感度:88dB ●インピーダンス:4Ω ●許容入力:120W ●推奨アンプ出力:60W〜120W ●サイズ:225W×370H×285Dmm ●質量:14.94kg