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公開日 2018/12/18 17:59
「Broadway/S」「Formula S」

XI AUDIOの新型DAC「SagraDAC」&ヘッドホンアンプを一斉レビュー。創設者がポイントを解説

佐々木喜洋

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先日開催された秋のヘッドフォン祭においてトップウイングが扱うXI AUDIO(イレブンオーディオ)の新製品が発表された。今回その中から、DAC製品の「SagraDAC」とヘッドホンアンプ製品の「Broadway」、「Broadway S」、そして「Formula S」について早速試聴することができた。同イベントで来日中だったXI AUDIO創設者のマイケル・シャオ氏へのインタビューも叶ったので、同氏の解説も交えつつこれらの魅力について紹介したい。

イレブンオーディオの新型DAC&アンプを試聴


SagraDACの概要
驚異の精度での音楽変換を実現するR-2R方式DAC

今回の発表のメインと言えるのが、DAC製品の「SagraDAC」だ。主催のマイケル・シャオ氏いわく、名称はスペインのサグラダファミリアから取ったという。彼は実際に見たその姿に感銘して、人々が驚くほど存在感があるDACを目指したそうだ。またサグラダファミリアと同様にオーディオには直線はなく、人が感動するほどの細部も備えていなければならないという意味も含めたということだが、このことは音を聴いてみるとさらによくわかる。

R2Rラダー抵抗変換方式の「SagraDAC」。価格は¥490,000(税別)

「SagraDAC」の一番の特徴はR-2R DACであるということだ。R-2R形式DACのRはRegister(抵抗)の意味で抵抗を組み合わせたDACだが、日本ではマルチビットDACという名のほうが通りが良いだろう。様々な呼び方がありラダーDACともいうが、マルチビットDACとはいま全盛の1ビットから6ビット程度のDACを用いたいわゆるデルタシグマDACと対をなすDACの形式のことだ。

マルチビットDACはデジタル黎明期からある古い形式で新しい概念ではない。デジタル時代は80年代のPCMから始まったが、PCMはいわばコード化された音楽のデータであり、そのまま音として聴くことはできず、ただの雑音となる。音楽として再生するには各ビットごとに対応する抵抗回路でデコード(コード化を復号)し、アナログ信号にすることで音として聴くことができる。これがマルチビットDACである。あるメーカーではDACのことをデコーディング・コンピュータというが、それはいい得て妙と言える。つまりマルチビットDACとはコード化(エンコード)されたPCMをデコードするためのDACであり、抵抗回路はPCMを復号するためのコード表のようなものだ。

対してデルタシグマ方式のDAC/ADCは、元々マルチビットDACの抵抗精度要求を無くすために考案された1ビットDAC/ADC。そしてこの1ビットのデータストリームをフォーマット化したのがDSDだ。つまり本方式において、DSDはデジタルのままで簡単なローパスフィルタを掛けることでそのまま音として聴くことができる点が、PCMとの大きな違いである。

編集部注:現在は、1ビットだと十分に可聴域のノイズを減らすためにノイズシェーピングの次数を上げると極めて動作が不安定になることや、可聴域外のノイズが極めて高くなるなどの問題があるため、6ビット程度のDACとデルタシグマ方式を組み合わせた、マルチビットデルタシグマ型(海外では真のマルチビットDACと区別するために、a few bits Delta Sigma DACと呼ばれることも)が主流。

実のところいまDACと呼ばれているICはほぼすべてがデルタシグマ形式であり、マルチビット形式ではたまにPCM1704 ICを採用したDACを見かける程度だ。そのPCM1704でさえ生産はすでに終えているために、在庫を利用しているのが現状だ。

この理由は端的にいうと16bitを超えるハイビット化・ハイレゾ化の要求である。マルチビット形式はビット数が増すごとに精度がより高く必要とされるため普通は16bit止まりであり、24bitを達成するのはとても難しい(ちなみにPCM1704は23bit精度のDACを2つ用いることで、24bit精度のDACになっている)。このためにまず音楽の製作現場で困ることになり、家庭でのオーディオまでハイビット化の要求が出てくるとハイビット化が容易な1bit DACはマルチビットDACを駆逐してしまった。

しかし音楽ソースの主流は(国内の場合)依然PCMのCDであり、ダウンロードやストリーミングでもソースはほぼPCMである。こうなるとDACは1ビットから6ビット形式であり、PCMと1ビットから6ビット形式はまったく違うので必然的に変換が必要になる。そしてこの変換は、いわゆる「デジタル臭さ」を生む一端を担ってしまう可能性も出てくるのだ。ただ逆に言い換えれば、ソースがPCMならば「変換」の必要のないマルチビットDACであれば、デジタル臭さ、音のきつさが少なくなるとも言える。しかしながらマルチビットDAC ICは現在生産されていないので、いま実現するのであればディスクリートで作ることになる。

ここでポイントとなるのは、シャオ氏が語ったように現代では精度の高い抵抗やパーツ類がデジタル黎明期よりも容易に入手できるということだ。また、R-2R形式を選んだのはもっともシンプルに音楽の変換ができるからだと語る。つまり抵抗の精度と質の良い電源があれば、優れたR-2R DACが出来るということだ。加えて、1ビット形式固有のノイズもないため対策も不要なことも、PCMの再生にマルチビットDAC(R-2R DAC)がもっとも向いている理由と言える。

XI AUDIO創設者のマイケル・シャオ氏。今回登場した新型モデルの魅力について伺った

マルチビットの優位点を説明するために前置きが少々長くなったが、「SagraDAC」はディスクリート形式のR-2R(マルチビット)DACである。デンマークSOEKRIS社の特注の高精度の抵抗を216個採用していて、各抵抗は0.012%の高精度であるという。

「SagraDAC」で驚くのは27bitもの変換精度を有しているということだ。音楽再生では24bitあれば足りるが、それ以外の3bitは冗長性(余裕)であり、あたかも小数点演算での小数点以下3桁のように、音の精度の高さを担保してくれる。この余剰の3bitが音楽を聴く上では音の細部の再現性、空気感や伸びなど微小表現に効いてくるというわけだ。このため、「SagraDAC」は130dBものダイナミックレンジ(つまり音の大小の差)を有しているという。まさに冒頭で述べたようにサグラダファミリアのような壮大でいて、かつ人を感動させるほど細部の表現に秀でているということだろう。

もちろんデジタルオーディオとして高い性能を得るために基本的なポイントも確実に押さえている。クロックをリビルドすることで、ジッターを低減。また注目は、電源部に9つもの独立電源が使用されていること。アナログ部分の電源はディスクリートであり、もちろんアナログとデジタルも別電源で構成され、デジタル入力も別電源が当てられている。この電源に力を入れるという点は、XI AUDIOの特徴のひとつだ。ちなみに、ヘッドホンアンプの「Formula S」用の外部電源、「Powerman」の回路にも同じものが採用されている。

デジタル信号は、PCMが最大384kHz/24bitまで入力することができる。DSDは11.2MHzまで対応するが、PCMに変換されてすべてマルチビットDACで処理される。これは普通のDACとは逆であることに注意してほしい。音のコメントでものちに言及する。

デジタル入力ではRCA(S/PDIF)、USB、AES/EBU、TOS、BNC、HDMI(I2S)の計7通りの入力が可能である。RCAは2系統が用意されていて、一組はトランスを介するいわば通常方式で、もしグランドがうまく取れてなくても壊れにくいためこれが安全な接続法だ。もう一組は入力をダイレクトに使うのでより音は良いが、扱いに注意が必要である。これには自社独自技術が用いられているという。

SagraDACのリア。デジタル入力には、USB、RCA同軸、BNC、AES/EBU、光TOS、HDMIと幅広く対応する

USBではイタリアのアマネロ製のUSBコントローラを採用している。アマネロは一般的なXMOSよりも高価な製品だ。XI AUDIOはアマネロ社の中国代理店であり、XI AUDIOの要求をよく受け入れてくれるということで、「SagraDAC」にはアマネロ社に特注したパーツを使用している。BNCは業界標準であり、AES/EBUはプロオーディオ向けである。HDMI(I2S)はDAC内部と同様にクロックとデジタル信号を別に送る形式で、もっとも優れたデジタル伝送方式だ。「SagraDAC」はいわゆるPS Audio方式を採用していて、独自のものではないためにPS AudioのI2S入力に対応するトランスポート等機材を使うことができるだろう。


SagraDACのサウンドに迫る

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