公開日 2021/08/26 06:30
【特別企画】神楽物語 -第3回-
電源部こそ「Kagura2」の命。2系統の電源、独立トランスなど音質チューニングの妙技を探る
林 正儀
オーディオノートの真空管パワーアンプ「Kagura」の魅力に迫る連載「神楽物語」。3回目は「Kagura2」の性能を支える上で重要な電源部、そのこだわりについて迫りたい。
■立体的なレイアウトで、配線を極力最短に
開発リーダーであるオーディオ・ノートの廣川嘉行氏は、その設計ポリシーとして「シグナルループを小さく」「配線は極力短く」という点をあげていた。
トランスが林立するシャーシ構造のどこにそんな秘密が隠されているのか。前回紹介したモジュール化されたユニットがその解答である。縦にぐっと空間を広げ、立体的なレイアウトにすれば最短結線が可能で、シンプルな回路でコンパクトにまとめられるわけだ。回路図と実物を見比べると、実に合理的かつ知的で繊細な設計であるなと感心した。このモジュールはパワーアンプではKaguraで初めて採用したものだが、世界に例がない。
前回はコンデンサー関連で、自社製の銀箔コンデンサー(カップリングコンデンサーに採用)および電源のオイルコンなどを主に解説してきたが、今回はゴージャスな電源まわりに突入しよう。
■B電源とヒーター用を独立したトランスで構成する
「Kagura2」の重量の大半はトランスとチョークだろう。中央に鎮座するのが新開発のOPT(出力トランス)だ。電源トランスは3個。上に出ているのは回路を動かすB電源を作るための電源トランスで、このほかシャーシ内には整流管GZ34のヒーター用トランスと211の直下に増幅管のヒーター用を内蔵。さらにチョークコイルが4つ、OPTの左右に2個ずつ並ぶさまは壮観だ。
そしてKaguraは電源ケーブルもヒーター系とB電源系の2本を備える。ポイントを解説してもらうと、「初代Kaguraから4つ搭載しているチョークコイルのコア材に、OPTで使っている高品質のカットコアタイプを初めて採用しました」とのこと。コアをOPTと同じグレードにしたことは大きい。「さらに2つのヒーター用トランスということで、整流管用と増幅管用のトランスを独立させています」。
というのも傍熱タイプであっても、整流管のヒーターは脈流の影響を受けノイズをばらまくからだ。「それと他の巻線が一緒で良いわけがないという発想で、整流管用のヒーター巻線をひとつのトランスにまとめ、整流管の直近に配置したのです」。整流管については、211のB電源(約1000V)としてGZ34×4本で構成されるブリッジ型全波整流回路を採用。そのリップル(脈流)成分が、整流管のヒーター部に大きな影響を与えることが、さまざまなテストの結果から分かったそうだ。
増幅段のヒーターにもひと工夫があった。電圧増幅段はAC点火であるのに、211だけ整流したあとにDC点火としている。大型直熱管である211は3A以上ものヒーター電流が流れ、ハムを引きやすいからだ。「そのため大容量4万μF×2のリップルフィルターを経て、211のヒーター部に直流供給しています」。ハムバランサーは無調整でもよいほどで、直熱管としては異例のS/Nを得ているのだ。
そのほか書ききれないほどの創意工夫があり、スーパーハイエンドアンプとしての開発姿勢に頭が下がる。
■ボビンとスペーサーに挟む層間紙が音質の決め手に
出力トランスはKagura2のハイライトだ。もともと初代Kaguraから、オーディオ・ノート直伝の銀線巻きOPTを採用してきた。試作を7〜8回行い、慎重に作り込んだ自信作である。
特性の優秀さは周知のとおりだが、さらなる向上を求めて、新たにボビン(巻枠)から設計し直したそうだ。そもそもカットコアは断面が四角形をしている。そのため周りに線を巻いていくと、厳密には四隅だけ線がタッチして平面部分は太鼓状になるわけだ。「緩みがでて振動の影響を受けやすくなります。それを解消すべくスペーサーを4方向に挿入。これによって多角形(12角形)になったようなイメージで、均一にしっかり巻けるわけです」。
簡単なアイデアのようだが効果は絶大。特に中低域の厚みや表現力が増したそうだ。ボビンとスペーサー自体はガラエポだが、決め手になったのが間に挟む層間紙(そうかんし)だろう。マイラーとクラフトフィルムが貼り合わさったものを組みあわせているそうだ。「何でもよいわけじゃなく、紙だと紙くさい音。高分子フィルムはつるっとして無気質な音になる。ヴォーカルがダメでしたね」。たくさん捨てたそうだ。そういう実験を経て完成した仕様である。
■銀線ワイヤーの本数で音質を細かくチューニング
最後にステージごとのコンデンサーと抵抗による、細かな音質調整に触れよう。チューニングのキモといえるパーツだが、これまで解説してきたそれぞれ数種のフィルムコンデンサーや電解コンデンサーによる、デカップリングコンデンサー群。抵抗では、金属皮膜抵抗や巻線抵抗、及びホーロー抵抗などを使い分けている。ただのパーツじゃなく音質に配慮していると知って欲しい。
配線材は例によってSSWと呼ぶ銀線ワイヤーを使う。「これを1本使いだったり、2本にしたり3本撚りにして使い分けています」。リスニングテストで最終的に3本撚りに決めたとしよう。普通に考えたら断面積が大きいほどロスが少なくてよさそうだが、そこが難しい。「断面積が大きすぎると、聴感上ダイナミックではあるけれども、繊細感や情緒感、悲しみの表現などが引き出せない傾向です。実は4本撚りも試しています。やり過ぎるところまでやないとベストポイントがわかりませんから」。CRパーツもすべてそうだが、一瞬で違いを聴き分けられる。いかにKaguraの反応がよいかの証明だろう。
最終回は改めてKagura2の進化をまとめ、“神が宿る”至高のサウンドに浸りたいと思う。
(提供:オーディオ・ノート)
この記事は『季刊・analog vol.71』からの転載です。
■立体的なレイアウトで、配線を極力最短に
開発リーダーであるオーディオ・ノートの廣川嘉行氏は、その設計ポリシーとして「シグナルループを小さく」「配線は極力短く」という点をあげていた。
トランスが林立するシャーシ構造のどこにそんな秘密が隠されているのか。前回紹介したモジュール化されたユニットがその解答である。縦にぐっと空間を広げ、立体的なレイアウトにすれば最短結線が可能で、シンプルな回路でコンパクトにまとめられるわけだ。回路図と実物を見比べると、実に合理的かつ知的で繊細な設計であるなと感心した。このモジュールはパワーアンプではKaguraで初めて採用したものだが、世界に例がない。
前回はコンデンサー関連で、自社製の銀箔コンデンサー(カップリングコンデンサーに採用)および電源のオイルコンなどを主に解説してきたが、今回はゴージャスな電源まわりに突入しよう。
■B電源とヒーター用を独立したトランスで構成する
「Kagura2」の重量の大半はトランスとチョークだろう。中央に鎮座するのが新開発のOPT(出力トランス)だ。電源トランスは3個。上に出ているのは回路を動かすB電源を作るための電源トランスで、このほかシャーシ内には整流管GZ34のヒーター用トランスと211の直下に増幅管のヒーター用を内蔵。さらにチョークコイルが4つ、OPTの左右に2個ずつ並ぶさまは壮観だ。
そしてKaguraは電源ケーブルもヒーター系とB電源系の2本を備える。ポイントを解説してもらうと、「初代Kaguraから4つ搭載しているチョークコイルのコア材に、OPTで使っている高品質のカットコアタイプを初めて採用しました」とのこと。コアをOPTと同じグレードにしたことは大きい。「さらに2つのヒーター用トランスということで、整流管用と増幅管用のトランスを独立させています」。
というのも傍熱タイプであっても、整流管のヒーターは脈流の影響を受けノイズをばらまくからだ。「それと他の巻線が一緒で良いわけがないという発想で、整流管用のヒーター巻線をひとつのトランスにまとめ、整流管の直近に配置したのです」。整流管については、211のB電源(約1000V)としてGZ34×4本で構成されるブリッジ型全波整流回路を採用。そのリップル(脈流)成分が、整流管のヒーター部に大きな影響を与えることが、さまざまなテストの結果から分かったそうだ。
増幅段のヒーターにもひと工夫があった。電圧増幅段はAC点火であるのに、211だけ整流したあとにDC点火としている。大型直熱管である211は3A以上ものヒーター電流が流れ、ハムを引きやすいからだ。「そのため大容量4万μF×2のリップルフィルターを経て、211のヒーター部に直流供給しています」。ハムバランサーは無調整でもよいほどで、直熱管としては異例のS/Nを得ているのだ。
そのほか書ききれないほどの創意工夫があり、スーパーハイエンドアンプとしての開発姿勢に頭が下がる。
■ボビンとスペーサーに挟む層間紙が音質の決め手に
出力トランスはKagura2のハイライトだ。もともと初代Kaguraから、オーディオ・ノート直伝の銀線巻きOPTを採用してきた。試作を7〜8回行い、慎重に作り込んだ自信作である。
特性の優秀さは周知のとおりだが、さらなる向上を求めて、新たにボビン(巻枠)から設計し直したそうだ。そもそもカットコアは断面が四角形をしている。そのため周りに線を巻いていくと、厳密には四隅だけ線がタッチして平面部分は太鼓状になるわけだ。「緩みがでて振動の影響を受けやすくなります。それを解消すべくスペーサーを4方向に挿入。これによって多角形(12角形)になったようなイメージで、均一にしっかり巻けるわけです」。
簡単なアイデアのようだが効果は絶大。特に中低域の厚みや表現力が増したそうだ。ボビンとスペーサー自体はガラエポだが、決め手になったのが間に挟む層間紙(そうかんし)だろう。マイラーとクラフトフィルムが貼り合わさったものを組みあわせているそうだ。「何でもよいわけじゃなく、紙だと紙くさい音。高分子フィルムはつるっとして無気質な音になる。ヴォーカルがダメでしたね」。たくさん捨てたそうだ。そういう実験を経て完成した仕様である。
■銀線ワイヤーの本数で音質を細かくチューニング
最後にステージごとのコンデンサーと抵抗による、細かな音質調整に触れよう。チューニングのキモといえるパーツだが、これまで解説してきたそれぞれ数種のフィルムコンデンサーや電解コンデンサーによる、デカップリングコンデンサー群。抵抗では、金属皮膜抵抗や巻線抵抗、及びホーロー抵抗などを使い分けている。ただのパーツじゃなく音質に配慮していると知って欲しい。
配線材は例によってSSWと呼ぶ銀線ワイヤーを使う。「これを1本使いだったり、2本にしたり3本撚りにして使い分けています」。リスニングテストで最終的に3本撚りに決めたとしよう。普通に考えたら断面積が大きいほどロスが少なくてよさそうだが、そこが難しい。「断面積が大きすぎると、聴感上ダイナミックではあるけれども、繊細感や情緒感、悲しみの表現などが引き出せない傾向です。実は4本撚りも試しています。やり過ぎるところまでやないとベストポイントがわかりませんから」。CRパーツもすべてそうだが、一瞬で違いを聴き分けられる。いかにKaguraの反応がよいかの証明だろう。
最終回は改めてKagura2の進化をまとめ、“神が宿る”至高のサウンドに浸りたいと思う。
(提供:オーディオ・ノート)
この記事は『季刊・analog vol.71』からの転載です。