公開日 2021/05/04 07:00
真空管の種類や働きを整理
知識ゼロからの真空管アンプ選び。これだけ覚えればOK!
飯田有抄
ほのかに灯る光とともに、柔らかな響きが立ち上る——そんな時間を過ごさせてくれるのが真空管アンプです。……とは言ってみたものの、そもそも真空管アンプってどんな仕組みなの? 球にもアンプにも、いろんな種類があるようだけどどう違うの? マニアックな情報は多いけれど、入門者にやさしい入り口になるような情報がなかなか見当たらない! というわけで、ここではイチ、いやゼロから真空管アンプについて学び、アンプ選びに最低限必要な知識をまとめてみました。
ご協力いただいたのは、数々の真空管アンプのヒット作を世に送り出しているメーカー「トライオード」の社長・山崎順一さん。何もわかっていない超ド初心者の筆者でもわかるように、辛抱強くいろいろな質問にお答えいただきました。
■真空管ってなに?
CDプレーヤーやレコードプレーヤー自体が発する音の信号はとても弱いため、そのままではスピーカーを鳴らすだけの力がありません。そこで、アンプが必要になるわけですが、プレーヤーからの音の情報を電気的に増幅させる際に真空管を使ったものが、いわゆる真空管アンプです(管球式アンプとも呼ばれます)。
真空管とは、電球のような形のガラス管で、その内部は文字通り真空状態になっています。管の中には電気の流れる回路が仕込んであります。
アンプで使用される真空管の内部には、3つの回路がセットされています。そのため「三極管」と呼ばれます。ちなみに、覚える必要はぜんぜんありませんが、その3つの回路に付けられている部品の名称は、「フィラメント」「グリッド」「プレート」です。それぞれの役割についてはここでは深入りしないことにしますが、ものすごく簡単に言えば、フィラメントとプレートの間を行き来する電子の量をグリッドが調整し、それによって音の増幅がコントロールできる仕組みになっています。
なお、三極管が発明される前に、2つの回路からなる「二極管」が発明されています。二極管にはグリッドが存在せず、フィラメントとプレートの間を電子が流れ、熱や光を出したり、電気の流れを(交流から直流へと)変える“整流”の働きをします。
■真空管アンプの構造と管球の種類
真空管アンプとひとくちに言っても、全体のサイズや、使用される球の数も形もさまざまです。何を基準に選び、どんなものを購入すれば良いかを知るために、真空管アンプの大まかな構造と、管球の種類について、ざっくりとつかんでおきましょう。
【入力管】
どちらのモデルも真空管が複数本使われてますが、「入力管」と「出力管」に分かれています(「プリ管/パワー管」、「電圧増幅管/電力増幅管」などといった言い方もされます)。入力管は、CDプレーヤーやレコードプレーヤーからの音楽信号を最初に受け取る場所です。まずは一旦ここでエネルギー(電圧・電流)を増幅し、出力管へと信号を送ります。「12AX7」(ECC83とも呼ばれます、国によって呼び方が違うだけで同じものを指します)、「12AU7」(ECC82)、「12AT7」(ECC81)などがあります。
【出力管】
入力管から受け取った信号をさらに増幅させて、スピーカーから鳴らせるようにします。真空管の王様とも呼ばれる「300B」や「KT88」、「EL34」といったモデルが有名です。
【整流管】
一般の家庭に流れてくる電気はAC100Vです(ACとはAlternating Currentの略で、交流の意味)。しかし多くの電気製品はDC(Direct Current、直流の意味)に変換しなくては使用できません。そこで、整流作用が必要になります。昨今では整流ダイオードによって整流されることがほとんですが、上述の二極管を整流管として用いるアンプもあります。「274B」や「5AR4」といった管球が知られています。
ここで、入力管と出力管に使用される真空管の種類を整理してみましょう。トライオードの製品を例に、具体的に見ていきます。
小型の機種「Ruby」および「Pearl」では、入力管も出力管も、見た目に小さなサイズの真空管が4本使用されています。入力管は内側の2つで「12AX7」という球。出力管は外側の2つで「6BQ5」という球です。2つずつあるのは、左右のスピーカーのためにそれぞれ増幅しているからです。
一方、より大きなサイズの「TRV-A300XR」では5本の真空管が使われています。入力管は2段階になっており、まずは中央に1本ある「12AX7」で受けます。スピーカーは左右あるのに、なぜここは1本で良いのでしょうか? 実は「12AX7」という球はとても小さいのに優秀で、先に説明した「三極管」が、1つのガラス管の中に2つ入っているのです! こうした三極管のことを「双三極管」と呼びます。
1本の「12AX7」で受けた音の信号は一旦増幅されて両隣の「12AU7」に送られます。ここまでが入力管です。
3本の入力管の後ろに控えているのが、存在感のある大きな出力管です。TRV-A300XRにはPSVANE(プスヴァン)の「300B」という人気の高い真空管が使われています。「300B」はまさにオーディオファンの憧れ、国内外を問わず多くのブランドが300B搭載モデルを発売しています。
なお、形についての名称もあります。300Bのような形をした真空管は「ST管」、12AX7や6BQ5のように小型で、突起のついた銀色のベレー帽を被ったような格好をしているのは「MT管」です。MT管は現代の真空管アンプの主戦力として使われています。そのほかに、ST管とMT管の間のサイズで「GT管」というのもあります。
MT管のベレー帽のような頭部や、ST管の下部側面は銀色になった部分があります。これは「マグネシウム・ゲッタ」と呼ばれ、真空管内にガスや空気が入った場合に吸着し、真空を維持する働きをしています。
【トランス】
どんな真空管アンプでも、たいてい真空管の後ろに、四角い箱のようなものが並んでいますね。通常、2つないし3つの箱に分かれていますが、電源を変圧して供給する「電源トランス」と、真空管によって増幅された信号をスピーカーへと送る「出力トランス」です(RubyやTRV-A300XRの場合、真ん中の箱が「電源トランス」、左右の2つの箱が「出力トランス」)。
真空管アンプがずっしりと重いのは、このトランス部分が重いからなんですね。持ち上げるときは、トランスを自分の体側に持ってきた方が腰にいいみたいです(笑)。
さて、出力トランスは、アンプの音質の決め手といっていいくらい、とても重要な働きをしています。真空管からの高い電圧と、スピーカーが要する低い電圧との繋ぎ手になってくれるトランス。簡単に言ってしまえば、ここが大きくて重たい方が、いい音が出ます。大きいと値段も大きくなりますし、もちろん場所も取ります。購入の際には、音質・価格・スペースから総合的に判断して、納得のいくものを選びたいですね。
ご協力いただいたのは、数々の真空管アンプのヒット作を世に送り出しているメーカー「トライオード」の社長・山崎順一さん。何もわかっていない超ド初心者の筆者でもわかるように、辛抱強くいろいろな質問にお答えいただきました。
■真空管ってなに?
CDプレーヤーやレコードプレーヤー自体が発する音の信号はとても弱いため、そのままではスピーカーを鳴らすだけの力がありません。そこで、アンプが必要になるわけですが、プレーヤーからの音の情報を電気的に増幅させる際に真空管を使ったものが、いわゆる真空管アンプです(管球式アンプとも呼ばれます)。
真空管とは、電球のような形のガラス管で、その内部は文字通り真空状態になっています。管の中には電気の流れる回路が仕込んであります。
アンプで使用される真空管の内部には、3つの回路がセットされています。そのため「三極管」と呼ばれます。ちなみに、覚える必要はぜんぜんありませんが、その3つの回路に付けられている部品の名称は、「フィラメント」「グリッド」「プレート」です。それぞれの役割についてはここでは深入りしないことにしますが、ものすごく簡単に言えば、フィラメントとプレートの間を行き来する電子の量をグリッドが調整し、それによって音の増幅がコントロールできる仕組みになっています。
なお、三極管が発明される前に、2つの回路からなる「二極管」が発明されています。二極管にはグリッドが存在せず、フィラメントとプレートの間を電子が流れ、熱や光を出したり、電気の流れを(交流から直流へと)変える“整流”の働きをします。
■真空管アンプの構造と管球の種類
真空管アンプとひとくちに言っても、全体のサイズや、使用される球の数も形もさまざまです。何を基準に選び、どんなものを購入すれば良いかを知るために、真空管アンプの大まかな構造と、管球の種類について、ざっくりとつかんでおきましょう。
【入力管】
どちらのモデルも真空管が複数本使われてますが、「入力管」と「出力管」に分かれています(「プリ管/パワー管」、「電圧増幅管/電力増幅管」などといった言い方もされます)。入力管は、CDプレーヤーやレコードプレーヤーからの音楽信号を最初に受け取る場所です。まずは一旦ここでエネルギー(電圧・電流)を増幅し、出力管へと信号を送ります。「12AX7」(ECC83とも呼ばれます、国によって呼び方が違うだけで同じものを指します)、「12AU7」(ECC82)、「12AT7」(ECC81)などがあります。
【出力管】
入力管から受け取った信号をさらに増幅させて、スピーカーから鳴らせるようにします。真空管の王様とも呼ばれる「300B」や「KT88」、「EL34」といったモデルが有名です。
【整流管】
一般の家庭に流れてくる電気はAC100Vです(ACとはAlternating Currentの略で、交流の意味)。しかし多くの電気製品はDC(Direct Current、直流の意味)に変換しなくては使用できません。そこで、整流作用が必要になります。昨今では整流ダイオードによって整流されることがほとんですが、上述の二極管を整流管として用いるアンプもあります。「274B」や「5AR4」といった管球が知られています。
ここで、入力管と出力管に使用される真空管の種類を整理してみましょう。トライオードの製品を例に、具体的に見ていきます。
小型の機種「Ruby」および「Pearl」では、入力管も出力管も、見た目に小さなサイズの真空管が4本使用されています。入力管は内側の2つで「12AX7」という球。出力管は外側の2つで「6BQ5」という球です。2つずつあるのは、左右のスピーカーのためにそれぞれ増幅しているからです。
一方、より大きなサイズの「TRV-A300XR」では5本の真空管が使われています。入力管は2段階になっており、まずは中央に1本ある「12AX7」で受けます。スピーカーは左右あるのに、なぜここは1本で良いのでしょうか? 実は「12AX7」という球はとても小さいのに優秀で、先に説明した「三極管」が、1つのガラス管の中に2つ入っているのです! こうした三極管のことを「双三極管」と呼びます。
1本の「12AX7」で受けた音の信号は一旦増幅されて両隣の「12AU7」に送られます。ここまでが入力管です。
3本の入力管の後ろに控えているのが、存在感のある大きな出力管です。TRV-A300XRにはPSVANE(プスヴァン)の「300B」という人気の高い真空管が使われています。「300B」はまさにオーディオファンの憧れ、国内外を問わず多くのブランドが300B搭載モデルを発売しています。
なお、形についての名称もあります。300Bのような形をした真空管は「ST管」、12AX7や6BQ5のように小型で、突起のついた銀色のベレー帽を被ったような格好をしているのは「MT管」です。MT管は現代の真空管アンプの主戦力として使われています。そのほかに、ST管とMT管の間のサイズで「GT管」というのもあります。
MT管のベレー帽のような頭部や、ST管の下部側面は銀色になった部分があります。これは「マグネシウム・ゲッタ」と呼ばれ、真空管内にガスや空気が入った場合に吸着し、真空を維持する働きをしています。
【トランス】
どんな真空管アンプでも、たいてい真空管の後ろに、四角い箱のようなものが並んでいますね。通常、2つないし3つの箱に分かれていますが、電源を変圧して供給する「電源トランス」と、真空管によって増幅された信号をスピーカーへと送る「出力トランス」です(RubyやTRV-A300XRの場合、真ん中の箱が「電源トランス」、左右の2つの箱が「出力トランス」)。
真空管アンプがずっしりと重いのは、このトランス部分が重いからなんですね。持ち上げるときは、トランスを自分の体側に持ってきた方が腰にいいみたいです(笑)。
さて、出力トランスは、アンプの音質の決め手といっていいくらい、とても重要な働きをしています。真空管からの高い電圧と、スピーカーが要する低い電圧との繋ぎ手になってくれるトランス。簡単に言ってしまえば、ここが大きくて重たい方が、いい音が出ます。大きいと値段も大きくなりますし、もちろん場所も取ります。購入の際には、音質・価格・スペースから総合的に判断して、納得のいくものを選びたいですね。