公開日 2023/10/10 06:30
ストリーミングやレコードブームに押されて、ちょっぴり“オワコン”扱いされがちなCD。そうはいっても、2022年には6,000万枚を超えるCDが流通し、音楽再生メディアとしての必要性はまだまだ高い。ちなみに2022年のレコードの売上枚数は約60万枚。レコードブームとはいうものの、実は圧倒的にCDの方が“売れている”メディアでもあるのだ。
そんなCDの楽しさを伝えたい、と日々奮闘しているのが、ディスクユニオン 新宿ロックCDストアの店長である矢富卓也さん。1960年から70年代の洋楽ロックの品揃えでは、国内随一を誇るこだわりの専門店である。矢富さんに、“CDならではの楽しさ”が伝わるセレクションをお願いしたところ、「ボックスセット」から「旧規格盤」、そして矢富さん自身の愛聴盤まで幅広くセレクトしてくれた。
「オーディオはあまり詳しくない」という矢富さんだが、いい音で聴くためのオーディオシステムには興味津々。ティアックの最新CD再生システムを活用し、ティアックの“ロック担当”景井裕二さんも交えてのロック談義をお届けしよう。
ーー矢富さんは新宿の「ディスクユニオン ロックCDストア」の店長をなさっているんですよね。
矢富 はい、うちの店は1960〜70年代の洋楽ロックをメインに、新品・中古のCDやDVDを濃く深く扱っております。今回はすごいオーディオ機器でロックをたっぷり聴かせていただけるということで、CDならではの楽しさを伝えられる盤をいくつかセレクトして持ってきました。
ーーちなみに、いまCDの新譜というのはどれくらい発売されているのでしょうか?
矢富 うちのジャンルで言うと毎週20タイトルくらいは出ている印象です。ちなみにディスクユニオンはロックだけでいっても当店のオールド・ロックの他、インディ・オルタナティブロック、プログレッシブロック、さらにヘヴィメタル、パンクと細かくジャンルを分けて取り扱っています。そこで各ジャンルごとに専門性を強めて発売していますから、おそらくすべて合わせると毎週100タイトル以上はあるんじゃないでしょうか。
ーー今回はティアックのCDトランスポート「PD-505T」を中心に、ロックのCDを色々聴きまくろうと思っています。最初に景井さん、「PD-505T」のポイントをちょっと教えていただけますか?
景井 「PD-505T」はDAコンバーターを搭載しないCDトランスポートでして、「CDを一番いい音で聴かせるためにはどうしたらいいのか」と考えて開発したものになります。
トランスポートですので、CDの再生には好みのDAコンバーターとの組み合わせが必要になります。CDドライブは、どうしても回転系の振動やデジタル回路のノイズ、サーボ電流の変動などがあり、それがアナログ変換時に影響を与えてしまいます。そこを排除したい、というのが今回トランスポートとDACを分けた大きな理由です。
ティアックは元々CDドライブも作っていた会社なので、今回も自社開発のドライブが搭載されています。ドライブの制御系のプロフェッショナルとして、専門的なメーカーでなければできない工夫も盛り込まれています。
ーーCDからいかにいい音を引き出すか、ということに特化して作られているものなのですね。それでは矢富さん、お持ちいただいたCDについて教えていただけますか?
矢富 はい、CDの良さに関しては私も語りたいことがたくさんあります! なによりフィジカルの良さというか、モノとして手元にある喜びがありますよね。いわゆる「箱物」「ボックスセット」って聞いたことがあると思いますが、過去の作品にボーナストラックを追加したり、ライヴ音源を入れたりしたデラックスエディションという形でよくリリースされています。
最初に持ってきたのは、オーストラリアで70年半ばから80年半ばにかけて活動したポップ・ロック・バンド、スプリット・エンズのCDボックスです。全アルバムとレア音源の合計11枚が収められていて、すべてデジタルマスタリングされています。世界的にはそれなりに有名ですが、日本ではあまり売れなかったみたいで、日本語のwikipediaもありません(笑)。でも、こういうアーティストでもボックスになっているなんて、ファンにはたまらないですね〜。
今日は79年に発売された4枚目のアルバム『フレンジー』を紹介したいと思います。特にアタマの2曲が滅茶苦茶カッコイイです。翌年のアルバム『True Colours』が大ヒットしたんですが、その前夜、まさにバンドにとってターニングポイントとなるアルバムです。
何故このアルバムを選んだかというと、このアルバムでは私の大好きなニール・フィンが初めてボーカルを取っているからなんです。ニール・フィンといえばスプリット・エンズ解散後に組んだクラウデッド・ハウスが有名で、私もあとからこのバンドを知りました。
実はこの4枚目だけサブスクでは配信されていないんです。アルバム・ミックスの出来でひと悶着があったため、と言われています。このボックスセットは新たにリミックスされていますので、やっとメンバーが納得する音が聴けるようになった、といえるのかもしれません。
ーー早速冒頭から聴いてみましょうか。今回はティアックの「PD-505T」をCDトランスポートに、USB-DAC&プリアンプに「UD-505-X」、パワーアンプに「AP-505」という“500番シリーズ”で揃えています。スピーカーはBowers&Wilkinsの「803 D4」です。
矢富 !!音がめちゃくちゃいいですね!これは自宅で聴くより全然いいです!こんなふうに聴こえるんですね、全体的に尖っていないというか、非常に滑らかに聴こえます。
ーーギターの厚み感もいいですね。
矢富 全体的には英国の王道ロックやアートロック、同時期のニューウェーブの影響を受けていますね。元々、スプリット・エンズはお兄さんであるティム・フィンが作ったバンドで、その縁でニールも参加するようになったみたいです。84年には解散しちゃうんですが、その後は再結成を繰り返しています。
景井 おー! こういう音楽、俺にはちょうどジャストミート。昔パンクバンドを組んでまして、J・ガイルズ・バンドなんかにも通じるところがありますね。
矢富 いまはサブスクでなんでも聴けるんだから、CDなくてもいいでしょ、とよく言われます。昔は「俺はCD何千枚持ってるぜ」なんてマウントもありましたが(笑)、いまはそんな会話自体成立しなくなっています。
特にお金のない10代の頃ってたくさんいろんな音楽を聴きたいですし、私もレンタルショップでよく借りてテープに録音したりしていました。でも、本当に欲しいものはやっぱり買っていたんですよね。今でもやっぱり好きなアーティストのアルバムはつい買ってしまいますね。
矢富 続いてはニック・デカロの1974年のアルバム『イタリアン・グラフィティ』です。アレンジャーとしても有名ですが、このアルバムは「AORを形作ったアルバム」と言われています。この後にボズ・スキャッグスなどAORが流行ってくるんです。これもサブスクに上がっていない名盤の一つですね。
今回持ってきたのは、2008年に紙ジャケットCDで再発されたものです。カバー曲が中心で、スティーヴィー・ワンダー、トッド・ラングレン、ジェニファー・ウォーンズなどの曲をやっています。
ーーお、プロデューサーはトミー・リピューマですね。名プロデューサーです。早速聴いてみましょう。
矢富 う〜ん、音がパーンって出てくるというか、一個一個が粒立って綺麗に聴こえますね。自宅で聴くともっとごちゃっとしちゃう感じなんです。それにボリュームをあげて聴けるというのもいいですねぇ。ちゃんとそれぞれの楽器が分かれて聴こえてきます。
ーーおしゃれで、ちょっとシティ・ポップっぽい匂いもしますね。
矢富 山下達郎さんもいち早く評価していたそうですし、いまもっと再評価されていい人ですね。AORという形が洗練されていく時代の流れを感じます。
ーー次もアメリカ録音のロックですね。
矢富 はい、ヴァン・モリソン1971年のソロ5枚目のアルバム『テュペロ・ハニー』です。ヴァン・モリソンはアイルランド出身でゼムというバンドを組んでいましたが、ソロになったあとはアメリカに移住して、ちょっと土臭い、アーシーな感じの音作りになっています。この人は昔からこの歌い方で全く変わらないですねぇ。もう70代後半だと思いますが、毎年アルバムを出している元気なおじいちゃんです。5曲目の「You're My Woman」聴いてみましょうか。
ーー渋くていいギターの音していますねぇ。
矢富 ジャケットに写っている女性は当時の恋人らしくて、熱烈な愛を捧げている曲なんです。でもその後別れてしまったそうで、後から見ると恥ずかしくなっちゃうやつですね(笑)。だからかもしれませんが、これもサブスクで配信されていません。ヴァン・モリソンのオリジナルアルバムはいまほとんど廃盤になっていて、新品では手に入らないんです。なので中古屋を探すしかないんですね。
ーーこれは録音もすごくいいですし、テンション上がりますね。このまま聴き惚れてしまいそうですが、終わらなくなってしまうので次にいきましょう!
矢富 CDの良さということで、次は紙ジャケットCDを持ってきました。通称「紙ジャケ」と呼ばれています。紙ジャケはオリジナルのレコードのジャケットを再現するという目的で、再発という形で発売されるものがほとんどです。CDサイズでオリジナルのジャケットを再現するのが醍醐味で、当時のジャケットの細かいギミックなども再現している場合が多いです。
基本的に発売してそのまま終了なので、大半の紙ジャケはすでに廃盤になっています。ということでこれも中古屋探すしかないですね。ただ、CDショップをずっとやっていますと、紙ジャケは常に一定数支持されている感じがします。買取でも定期的に出てきますし、在庫があればすぐに売れてしまいます。
今回持ってきたのは、ピンク・フロイド『原子心母』の7インチジャケットです。2021年発売。1971年の初来日から50周年になるということで発売されたものです。普通のCDジャケットより一回り大きいですね。
中を見てみますと、当時のレコードの帯なんかもそのまま再現されていますし、ジャケットもオリジナル盤同様見開きになっています。来日記念ということで、箱根アフロディーテのチラシやチケット、ツアーパンフなどもミニチュアサイズで入っています。またこんなやり方で出して…と物申したいところもあるんですが…でも買ってしまうんですよね。「またか」と言いながらも結局買わされるんです。しぶしぶ(笑)
ーー7インチサイズだとグッズも大きめにできて良いですね。
矢富 先ほどの『イタリアン・グラフィティ』がAORを形作ったアルバムとするならば、こちらは皆さんご承知のとおり、プログレッシブ・ロックを形作ったアルバムです。これも当たり前なんですけど、メンバーみんな若いんですよね。20代でこの音楽を作っている。若さゆえにオリジナリティとかパワー感はやっぱり突出しています。パソコンもない時代に曲のイメージを膨らませて展開を作っていくのとかね、いま聴いてもすごいです。
ーーCDはレコードと違ってずっとリピートで聴けるので、ちょっとトリップ感というかキメちゃった感じってありますよね。先日プラネタリムでピンク・フロイドの「狂気」を見るってイベントに参加してきたのですが、これがまたすごい夢遊感で…。
矢富 ロック談義はすぐ脱線する(笑)! 最後は旧規格盤。なんと中古価格で4万円します。エレクトリック・ライト・オーケストラ(ELO)のソニーから1982年11月に発売されたアルバムです。オリジナルの発売は1979年です。これ、どうみても40年前に発売されたとは思えないコンディションでしょう。美品だからこその価格です。日本で最初に発売されたCDは、ソニーのビリー・ジョエル『ニューヨーク52番街』というのが有名ですが、これはそのソニーから第2回目のシリーズとして発売されたCDです。
ーー盤面も金色なんですね。
矢富 そうなんです、初回限定でゴールド盤が出たということで、その点も貴重です。それにこの「箱帯」と呼ばれるボックス型の帯の形状も特徴です。これはソニーから発売されていた最初期のCDにだけついていた帯で、この箱帯が残っているとそれだけで中古の価格が上がります。見て分かる通り、すぐに破れちゃうんです。こういう「旧規格盤」のCDを骨董的に捉えて集めている人もいますね。
ーーコレクター心をくすぐる感じですね。
矢富 これもまたいい音というか、楽器ひとつひとつがよく見えますねぇ。元々ストリングスが得意なグループですが、今作に関してはディスコの影響も大きかったみたいですね。やっぱり曲が素晴らしい。ビートルズ直系のメロディの美しさがあります。
ーー声のふわっと消える感じも深くて、余韻がとてもいいですね。
矢富 ジェフ・リンは今もアルバムを出し続けていますが、本当ずるいなってメロディを作りますよね。CDだからこそ後追いで発見できるというのはあります。
景井 CDって今すごく安いというか…数年前までレコードもそうでしたが、中古CDっていま本当数百円でいくらでも手に入りますからね。ですから、CDでこれだけいい音が聴けるってことに気づくと、実は宝の山なんじゃないかって思います。
矢富 確かに、若い頃聴いていたCDを、いま改めてもう一度聴き直すのも大事かもしれません。サブスクではない発見がたくさんあると思います。
ーーいまの時代のCDプレーヤーで聴くからこそ新しい発見が出てきたりもしますよね。
矢富 いや、まさにその通りで、CDプレーヤーってちゃんとアップデートされていて、だからこそ古いCDでもこんなに新鮮に聴くことができるんだ、って驚きました!今日一番の発見です!
【特別企画】ロックCD専門ショップに訊く、CDが今も愛されるワケ
CDはまだまだ面白い!最新オーディオシステムでロックCD貴重盤を聴きまくった
構成:ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈まだまだ音楽再生メディアとして現役!CDの楽しさを伝えたい
ストリーミングやレコードブームに押されて、ちょっぴり“オワコン”扱いされがちなCD。そうはいっても、2022年には6,000万枚を超えるCDが流通し、音楽再生メディアとしての必要性はまだまだ高い。ちなみに2022年のレコードの売上枚数は約60万枚。レコードブームとはいうものの、実は圧倒的にCDの方が“売れている”メディアでもあるのだ。
そんなCDの楽しさを伝えたい、と日々奮闘しているのが、ディスクユニオン 新宿ロックCDストアの店長である矢富卓也さん。1960年から70年代の洋楽ロックの品揃えでは、国内随一を誇るこだわりの専門店である。矢富さんに、“CDならではの楽しさ”が伝わるセレクションをお願いしたところ、「ボックスセット」から「旧規格盤」、そして矢富さん自身の愛聴盤まで幅広くセレクトしてくれた。
「オーディオはあまり詳しくない」という矢富さんだが、いい音で聴くためのオーディオシステムには興味津々。ティアックの最新CD再生システムを活用し、ティアックの“ロック担当”景井裕二さんも交えてのロック談義をお届けしよう。
CDの可能性をとことんまで追求した、ティアック「PD-505T」
ーー矢富さんは新宿の「ディスクユニオン ロックCDストア」の店長をなさっているんですよね。
矢富 はい、うちの店は1960〜70年代の洋楽ロックをメインに、新品・中古のCDやDVDを濃く深く扱っております。今回はすごいオーディオ機器でロックをたっぷり聴かせていただけるということで、CDならではの楽しさを伝えられる盤をいくつかセレクトして持ってきました。
ーーちなみに、いまCDの新譜というのはどれくらい発売されているのでしょうか?
矢富 うちのジャンルで言うと毎週20タイトルくらいは出ている印象です。ちなみにディスクユニオンはロックだけでいっても当店のオールド・ロックの他、インディ・オルタナティブロック、プログレッシブロック、さらにヘヴィメタル、パンクと細かくジャンルを分けて取り扱っています。そこで各ジャンルごとに専門性を強めて発売していますから、おそらくすべて合わせると毎週100タイトル以上はあるんじゃないでしょうか。
ーー今回はティアックのCDトランスポート「PD-505T」を中心に、ロックのCDを色々聴きまくろうと思っています。最初に景井さん、「PD-505T」のポイントをちょっと教えていただけますか?
景井 「PD-505T」はDAコンバーターを搭載しないCDトランスポートでして、「CDを一番いい音で聴かせるためにはどうしたらいいのか」と考えて開発したものになります。
トランスポートですので、CDの再生には好みのDAコンバーターとの組み合わせが必要になります。CDドライブは、どうしても回転系の振動やデジタル回路のノイズ、サーボ電流の変動などがあり、それがアナログ変換時に影響を与えてしまいます。そこを排除したい、というのが今回トランスポートとDACを分けた大きな理由です。
ティアックは元々CDドライブも作っていた会社なので、今回も自社開発のドライブが搭載されています。ドライブの制御系のプロフェッショナルとして、専門的なメーカーでなければできない工夫も盛り込まれています。
ーーCDからいかにいい音を引き出すか、ということに特化して作られているものなのですね。それでは矢富さん、お持ちいただいたCDについて教えていただけますか?
矢富 はい、CDの良さに関しては私も語りたいことがたくさんあります! なによりフィジカルの良さというか、モノとして手元にある喜びがありますよね。いわゆる「箱物」「ボックスセット」って聞いたことがあると思いますが、過去の作品にボーナストラックを追加したり、ライヴ音源を入れたりしたデラックスエディションという形でよくリリースされています。
最初に持ってきたのは、オーストラリアで70年半ばから80年半ばにかけて活動したポップ・ロック・バンド、スプリット・エンズのCDボックスです。全アルバムとレア音源の合計11枚が収められていて、すべてデジタルマスタリングされています。世界的にはそれなりに有名ですが、日本ではあまり売れなかったみたいで、日本語のwikipediaもありません(笑)。でも、こういうアーティストでもボックスになっているなんて、ファンにはたまらないですね〜。
今日は79年に発売された4枚目のアルバム『フレンジー』を紹介したいと思います。特にアタマの2曲が滅茶苦茶カッコイイです。翌年のアルバム『True Colours』が大ヒットしたんですが、その前夜、まさにバンドにとってターニングポイントとなるアルバムです。
何故このアルバムを選んだかというと、このアルバムでは私の大好きなニール・フィンが初めてボーカルを取っているからなんです。ニール・フィンといえばスプリット・エンズ解散後に組んだクラウデッド・ハウスが有名で、私もあとからこのバンドを知りました。
実はこの4枚目だけサブスクでは配信されていないんです。アルバム・ミックスの出来でひと悶着があったため、と言われています。このボックスセットは新たにリミックスされていますので、やっとメンバーが納得する音が聴けるようになった、といえるのかもしれません。
ーー早速冒頭から聴いてみましょうか。今回はティアックの「PD-505T」をCDトランスポートに、USB-DAC&プリアンプに「UD-505-X」、パワーアンプに「AP-505」という“500番シリーズ”で揃えています。スピーカーはBowers&Wilkinsの「803 D4」です。
矢富 !!音がめちゃくちゃいいですね!これは自宅で聴くより全然いいです!こんなふうに聴こえるんですね、全体的に尖っていないというか、非常に滑らかに聴こえます。
ーーギターの厚み感もいいですね。
矢富 全体的には英国の王道ロックやアートロック、同時期のニューウェーブの影響を受けていますね。元々、スプリット・エンズはお兄さんであるティム・フィンが作ったバンドで、その縁でニールも参加するようになったみたいです。84年には解散しちゃうんですが、その後は再結成を繰り返しています。
景井 おー! こういう音楽、俺にはちょうどジャストミート。昔パンクバンドを組んでまして、J・ガイルズ・バンドなんかにも通じるところがありますね。
矢富 いまはサブスクでなんでも聴けるんだから、CDなくてもいいでしょ、とよく言われます。昔は「俺はCD何千枚持ってるぜ」なんてマウントもありましたが(笑)、いまはそんな会話自体成立しなくなっています。
特にお金のない10代の頃ってたくさんいろんな音楽を聴きたいですし、私もレンタルショップでよく借りてテープに録音したりしていました。でも、本当に欲しいものはやっぱり買っていたんですよね。今でもやっぱり好きなアーティストのアルバムはつい買ってしまいますね。
サブスク未解禁・AORの不朽の名盤&ヴァン・モリソンのラヴソング
矢富 続いてはニック・デカロの1974年のアルバム『イタリアン・グラフィティ』です。アレンジャーとしても有名ですが、このアルバムは「AORを形作ったアルバム」と言われています。この後にボズ・スキャッグスなどAORが流行ってくるんです。これもサブスクに上がっていない名盤の一つですね。
今回持ってきたのは、2008年に紙ジャケットCDで再発されたものです。カバー曲が中心で、スティーヴィー・ワンダー、トッド・ラングレン、ジェニファー・ウォーンズなどの曲をやっています。
ーーお、プロデューサーはトミー・リピューマですね。名プロデューサーです。早速聴いてみましょう。
矢富 う〜ん、音がパーンって出てくるというか、一個一個が粒立って綺麗に聴こえますね。自宅で聴くともっとごちゃっとしちゃう感じなんです。それにボリュームをあげて聴けるというのもいいですねぇ。ちゃんとそれぞれの楽器が分かれて聴こえてきます。
ーーおしゃれで、ちょっとシティ・ポップっぽい匂いもしますね。
矢富 山下達郎さんもいち早く評価していたそうですし、いまもっと再評価されていい人ですね。AORという形が洗練されていく時代の流れを感じます。
ーー次もアメリカ録音のロックですね。
矢富 はい、ヴァン・モリソン1971年のソロ5枚目のアルバム『テュペロ・ハニー』です。ヴァン・モリソンはアイルランド出身でゼムというバンドを組んでいましたが、ソロになったあとはアメリカに移住して、ちょっと土臭い、アーシーな感じの音作りになっています。この人は昔からこの歌い方で全く変わらないですねぇ。もう70代後半だと思いますが、毎年アルバムを出している元気なおじいちゃんです。5曲目の「You're My Woman」聴いてみましょうか。
ーー渋くていいギターの音していますねぇ。
矢富 ジャケットに写っている女性は当時の恋人らしくて、熱烈な愛を捧げている曲なんです。でもその後別れてしまったそうで、後から見ると恥ずかしくなっちゃうやつですね(笑)。だからかもしれませんが、これもサブスクで配信されていません。ヴァン・モリソンのオリジナルアルバムはいまほとんど廃盤になっていて、新品では手に入らないんです。なので中古屋を探すしかないんですね。
ーーこれは録音もすごくいいですし、テンション上がりますね。このまま聴き惚れてしまいそうですが、終わらなくなってしまうので次にいきましょう!
大判紙ジャケ&旧規格盤もコレクター心をくすぐる
矢富 CDの良さということで、次は紙ジャケットCDを持ってきました。通称「紙ジャケ」と呼ばれています。紙ジャケはオリジナルのレコードのジャケットを再現するという目的で、再発という形で発売されるものがほとんどです。CDサイズでオリジナルのジャケットを再現するのが醍醐味で、当時のジャケットの細かいギミックなども再現している場合が多いです。
基本的に発売してそのまま終了なので、大半の紙ジャケはすでに廃盤になっています。ということでこれも中古屋探すしかないですね。ただ、CDショップをずっとやっていますと、紙ジャケは常に一定数支持されている感じがします。買取でも定期的に出てきますし、在庫があればすぐに売れてしまいます。
今回持ってきたのは、ピンク・フロイド『原子心母』の7インチジャケットです。2021年発売。1971年の初来日から50周年になるということで発売されたものです。普通のCDジャケットより一回り大きいですね。
中を見てみますと、当時のレコードの帯なんかもそのまま再現されていますし、ジャケットもオリジナル盤同様見開きになっています。来日記念ということで、箱根アフロディーテのチラシやチケット、ツアーパンフなどもミニチュアサイズで入っています。またこんなやり方で出して…と物申したいところもあるんですが…でも買ってしまうんですよね。「またか」と言いながらも結局買わされるんです。しぶしぶ(笑)
ーー7インチサイズだとグッズも大きめにできて良いですね。
矢富 先ほどの『イタリアン・グラフィティ』がAORを形作ったアルバムとするならば、こちらは皆さんご承知のとおり、プログレッシブ・ロックを形作ったアルバムです。これも当たり前なんですけど、メンバーみんな若いんですよね。20代でこの音楽を作っている。若さゆえにオリジナリティとかパワー感はやっぱり突出しています。パソコンもない時代に曲のイメージを膨らませて展開を作っていくのとかね、いま聴いてもすごいです。
ーーCDはレコードと違ってずっとリピートで聴けるので、ちょっとトリップ感というかキメちゃった感じってありますよね。先日プラネタリムでピンク・フロイドの「狂気」を見るってイベントに参加してきたのですが、これがまたすごい夢遊感で…。
矢富 ロック談義はすぐ脱線する(笑)! 最後は旧規格盤。なんと中古価格で4万円します。エレクトリック・ライト・オーケストラ(ELO)のソニーから1982年11月に発売されたアルバムです。オリジナルの発売は1979年です。これ、どうみても40年前に発売されたとは思えないコンディションでしょう。美品だからこその価格です。日本で最初に発売されたCDは、ソニーのビリー・ジョエル『ニューヨーク52番街』というのが有名ですが、これはそのソニーから第2回目のシリーズとして発売されたCDです。
ーー盤面も金色なんですね。
矢富 そうなんです、初回限定でゴールド盤が出たということで、その点も貴重です。それにこの「箱帯」と呼ばれるボックス型の帯の形状も特徴です。これはソニーから発売されていた最初期のCDにだけついていた帯で、この箱帯が残っているとそれだけで中古の価格が上がります。見て分かる通り、すぐに破れちゃうんです。こういう「旧規格盤」のCDを骨董的に捉えて集めている人もいますね。
ーーコレクター心をくすぐる感じですね。
矢富 これもまたいい音というか、楽器ひとつひとつがよく見えますねぇ。元々ストリングスが得意なグループですが、今作に関してはディスコの影響も大きかったみたいですね。やっぱり曲が素晴らしい。ビートルズ直系のメロディの美しさがあります。
ーー声のふわっと消える感じも深くて、余韻がとてもいいですね。
矢富 ジェフ・リンは今もアルバムを出し続けていますが、本当ずるいなってメロディを作りますよね。CDだからこそ後追いで発見できるというのはあります。
景井 CDって今すごく安いというか…数年前までレコードもそうでしたが、中古CDっていま本当数百円でいくらでも手に入りますからね。ですから、CDでこれだけいい音が聴けるってことに気づくと、実は宝の山なんじゃないかって思います。
矢富 確かに、若い頃聴いていたCDを、いま改めてもう一度聴き直すのも大事かもしれません。サブスクではない発見がたくさんあると思います。
ーーいまの時代のCDプレーヤーで聴くからこそ新しい発見が出てきたりもしますよね。
矢富 いや、まさにその通りで、CDプレーヤーってちゃんとアップデートされていて、だからこそ古いCDでもこんなに新鮮に聴くことができるんだ、って驚きました!今日一番の発見です!
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