【連載】PIT INNその歴史とミュージシャンたち
第11回:坂田 明さんが語る「ピットイン」のステージの快感<後編>
新しいこともまだまだやるけど年相応の役割もあると思っている
佐藤:ところでソロになってから30年間。「ピットイン」にもたくさん出演していただきました。
坂田:うーん。いろいろやったねえ。坂田明オーケストラやWha-ha-haとその系統のバンドとか。そういえば六本木「ピットイン」にも結構出ていて、新宿とは違う六本木っぽい音楽もやった。
佐藤:欲張りですよね。思い立ったらすぐだし。
坂田:そうしないと気分が醒めちゃう。熱いうちにやらないと。
佐藤:次はなにやるんだろう、という期待感がお客さんにはある。それが湯水のように出てくるからすごい。プレッシャーを感じていないでしょう。
坂田:そんなことはないですよ。「ピットイン」のお客さんは世の中で一番厳しいからね。わぁーと盛り上がることもあるけど、しーんとしらけることだってある。こっち次第でいくらでも変わってしまう。「ピットイン」を満杯にできれば、どこへ行っても大丈夫でしょう。それは、山下洋輔トリオのときに分かった。毎週月曜日に「ピットイン」で大騒ぎしていた演奏を、ヨーロッパに持っていったって、大いにうけた。日本人でも大丈夫だと思った。逆に海外からの来日ミュージシャンが「ピットイン」でやりたがる。こちらもセッションに加わる。とてもいい関係ができているね。
いま64歳なんだけど、25歳も年下の連中が、高校生の時に山下トリオから影響を受けて、いまなおギンギラギンになってがんばっている。そういう人たちと共演して、”よし“こっちもまだまだがんばるぞ、という気になる。彼らにしてみれば、伝説の坂田明だからみっともないことはできない。
佐藤:第二、第三の坂田明が出てきているようです。
坂田:そう。それは本当にうれしいね。アブナイ新しいこともまだまだやるけど、後輩たちに示しをつけるという年相応の役割もあると思っている。
佐藤:また年配層にもグッと来るようなメロディアスな音楽もやっていますね。山下さんも森山さんも、それぞれ年齢とともに円熟してきている。
坂田:誰かが言っていたけど、年を取るとね、どこかにちゃんとしたベースがないと不安になるらしい。ぐちゃぐちゃな音楽をずっとやる人生もあるのかもしれないけど、「浜辺の歌」でも「見上げてごらん夜の星を」でもなんでもいいから、いい曲を普通に吹けることも大事。それをフリー・ジャズと同じような感覚で吹ければいい。
全体像を掴めていなくても、物事を始められる
だから、間違いというものがないジャズでよかった
まずは好きなように吹いてみること
やりながら考えられるのが僕の特性
佐藤:坂田さんといえばミジンコですよ。世界的な権威になっています。
坂田:権威ということはないけど、自分で撮ったDVDをアメリカの専門家に監修してもらって、ミジンコ研究の世界版ができた。それを見れば、自分の業績は世界の人間が分かるところまでになった。まあ、分かる人に分かってもらえればそれでいいけど。
佐藤:そう思うと、坂田明の全体像は捉えがたいですね。いつも動いているから。雲をつかむような人間が坂田明ですね。
坂田:日本人はなにか一筋というのが大好き。手を広げていっぱいやっていると評価しない。あれもこれもやらないで、きちっと一本にしろとなる。だから僕みたいな人間は、理解されにくいのね。ぱっとすぐに始めちゃうし。
佐藤:それは高校のときに楽器を始めたのと同じですね。とにかく好きなように吹いてみることから出発する。
坂田:僕は全体像を掴めていなくても、物事を始められるの。やりながら考えられる。失敗もあるけどね。
佐藤:ジャズの世界でそれは合っていますね。
坂田:ジャズでよかった。ふつうなら食っていけないよ。間違いというものがない音楽だからね。過去の音楽を反復すれば、間違いというものが出てくる。僕の場合、吹いたものがすべて正しいということになる。音をはずしてもそれを3回やれば正しいことになる(笑)。「ピットイン」はそういうことを許してきた場所なんですよ。
佐藤:そういったオリジナリティがないと生き残れませんからね。
坂田:だから「ピットイン」はいまでも緊張する。最もシビアに試される気がする。
佐藤:でも言っておきますけど、その風土を作ったのは私じゃないですよ。ミュージシャンとお客さんなんです。
坂田:良武さんは、余計な口出しをしないでみんながうまくいくように筋道をつけている。そこがいいね。
佐藤:口出ししたくてもステージ上のことは、よく分からないんだから。もうお任せするしかない。
坂田:お任せと言われると、自分を出し尽くすしかない。やっぱり「ピットイン」はしんどいよね。
写真:君嶋寛慶
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坂田 明さん Akira Sakata (ミュージシャン)
1945年広島県呉市生まれ。広島大学水畜産学部水産学科卒業。1969年上京後に『細胞分裂』を結成。1972年、山下洋輔トリオに参加し、1979年末まで在籍する。1980年、自己のトリオを結成、以来、様々なグループの結成、解体を繰り返しながら音楽シーンの最前線を目指す。現在はレギュラーユニットでの活動と同時に、内外のミュージシャンとの交流も活発で、2005年春には、ジム・オルークとの共同プロジェクトをスタートさせ、『テトロドトキシン』(2005年)、『explosion』(2006年)『ハ行』(2008年)の三枚の作品を発表する。そして、昨年秋にはジム・オルーク、ダーリン・グレイ、クリス・コルサーノとのユニットで日本ツアーを行った。また、オランダのアムステルダムに拠点を置く電子音楽センター「STEIM」との共演なども活発に行われ、2009年3月にはヨーロッパ各地でのセッションが行われた。また、長年にわたるミジンコの研究も有名で、その普及活動が認められ、日本プランクトン学会より特別表彰も受けている。
ホームページアドレス http://www.akira-sakata.com/
佐藤:ところでソロになってから30年間。「ピットイン」にもたくさん出演していただきました。
坂田:うーん。いろいろやったねえ。坂田明オーケストラやWha-ha-haとその系統のバンドとか。そういえば六本木「ピットイン」にも結構出ていて、新宿とは違う六本木っぽい音楽もやった。
佐藤:欲張りですよね。思い立ったらすぐだし。
坂田:そうしないと気分が醒めちゃう。熱いうちにやらないと。
佐藤:次はなにやるんだろう、という期待感がお客さんにはある。それが湯水のように出てくるからすごい。プレッシャーを感じていないでしょう。
坂田:そんなことはないですよ。「ピットイン」のお客さんは世の中で一番厳しいからね。わぁーと盛り上がることもあるけど、しーんとしらけることだってある。こっち次第でいくらでも変わってしまう。「ピットイン」を満杯にできれば、どこへ行っても大丈夫でしょう。それは、山下洋輔トリオのときに分かった。毎週月曜日に「ピットイン」で大騒ぎしていた演奏を、ヨーロッパに持っていったって、大いにうけた。日本人でも大丈夫だと思った。逆に海外からの来日ミュージシャンが「ピットイン」でやりたがる。こちらもセッションに加わる。とてもいい関係ができているね。
いま64歳なんだけど、25歳も年下の連中が、高校生の時に山下トリオから影響を受けて、いまなおギンギラギンになってがんばっている。そういう人たちと共演して、”よし“こっちもまだまだがんばるぞ、という気になる。彼らにしてみれば、伝説の坂田明だからみっともないことはできない。
佐藤:第二、第三の坂田明が出てきているようです。
坂田:そう。それは本当にうれしいね。アブナイ新しいこともまだまだやるけど、後輩たちに示しをつけるという年相応の役割もあると思っている。
佐藤:また年配層にもグッと来るようなメロディアスな音楽もやっていますね。山下さんも森山さんも、それぞれ年齢とともに円熟してきている。
坂田:誰かが言っていたけど、年を取るとね、どこかにちゃんとしたベースがないと不安になるらしい。ぐちゃぐちゃな音楽をずっとやる人生もあるのかもしれないけど、「浜辺の歌」でも「見上げてごらん夜の星を」でもなんでもいいから、いい曲を普通に吹けることも大事。それをフリー・ジャズと同じような感覚で吹ければいい。
全体像を掴めていなくても、物事を始められる
だから、間違いというものがないジャズでよかった
まずは好きなように吹いてみること
やりながら考えられるのが僕の特性
佐藤:坂田さんといえばミジンコですよ。世界的な権威になっています。
坂田:権威ということはないけど、自分で撮ったDVDをアメリカの専門家に監修してもらって、ミジンコ研究の世界版ができた。それを見れば、自分の業績は世界の人間が分かるところまでになった。まあ、分かる人に分かってもらえればそれでいいけど。
佐藤:そう思うと、坂田明の全体像は捉えがたいですね。いつも動いているから。雲をつかむような人間が坂田明ですね。
坂田:日本人はなにか一筋というのが大好き。手を広げていっぱいやっていると評価しない。あれもこれもやらないで、きちっと一本にしろとなる。だから僕みたいな人間は、理解されにくいのね。ぱっとすぐに始めちゃうし。
佐藤:それは高校のときに楽器を始めたのと同じですね。とにかく好きなように吹いてみることから出発する。
坂田:僕は全体像を掴めていなくても、物事を始められるの。やりながら考えられる。失敗もあるけどね。
佐藤:ジャズの世界でそれは合っていますね。
坂田:ジャズでよかった。ふつうなら食っていけないよ。間違いというものがない音楽だからね。過去の音楽を反復すれば、間違いというものが出てくる。僕の場合、吹いたものがすべて正しいということになる。音をはずしてもそれを3回やれば正しいことになる(笑)。「ピットイン」はそういうことを許してきた場所なんですよ。
佐藤:そういったオリジナリティがないと生き残れませんからね。
坂田:だから「ピットイン」はいまでも緊張する。最もシビアに試される気がする。
佐藤:でも言っておきますけど、その風土を作ったのは私じゃないですよ。ミュージシャンとお客さんなんです。
坂田:良武さんは、余計な口出しをしないでみんながうまくいくように筋道をつけている。そこがいいね。
佐藤:口出ししたくてもステージ上のことは、よく分からないんだから。もうお任せするしかない。
坂田:お任せと言われると、自分を出し尽くすしかない。やっぱり「ピットイン」はしんどいよね。
写真:君嶋寛慶
坂田 明さん Akira Sakata (ミュージシャン)
ホームページアドレス http://www.akira-sakata.com/