最新作『ボレロ』の裏側に迫る
ジャズシーンを代表するアレンジャー、デビッド・マシューズが語る「サウンド」とは?
― ところで『ボレロ』はCDだけではなく、「音が良い」として近年注目されるハイレゾ音源でもリリースされています。マシューズさん自身はこのように「音の情報量が増える」ということについて、音楽的にはどのようなメリットがあると考えていますか?
マシューズ この「ハイレゾ」というテクノロジーを必要と思うか否かは、人によって異なると思います。自分にとっては、自分の作品が最高の状態でリスナーに届けられるということは非常に重要だと思いますね。
― このインタビューを行う前にハイレゾ版の『ボレロ』を聴いたとのことですが、どういう印象でしたか?
マシューズ 本当に美しい音でした。目の前に演奏者がいるようでしたね。世の中の技術はまだ発展しているさなかで、最高地点に到達して以降は誰にも予測できない未知の世界が広がっています。この最高地点に到達するまでは、今回のハイレゾのような進歩は避けられないと思うんです。これは好む、好まないにかぎらず、みんなが巻き込まれていくんです。だからしょうがないですね(笑)。
ただし、機械的な技術があってもいい音楽がなければ何にもならないと思います。自分にとっては、自分の体から音楽が出てくる、それが機械を通して誰かが聴いてくれる。その機械がよければ良いほどありがたいと思っています。その一方で、音楽家として音質とか機械の性能よりもずっとずっと大切にしているのが、音楽そのものです。セロニアス・モンクとジョン・コルトレーンがファイブスポットでプレイした伝説的な作品があるのですが、この作品はワイヤーレコーダーで録音されていたので、いまの水準から見れば録音状態は最悪です。でも、この作品に出会った時、「こんなに素晴らしい音楽はない!」と思ったんです。つまり、音楽に対する愛情は、音質だけではないんですね。最高のテクニックで録音してもらえることは非常に嬉しいことなのですが、本当に大事なのは音楽そのものなんです。
― 確かに、音楽がなければそもそもオーディオにおいて音が良い悪いといったことは話題に上りませんからね。
マシューズ 実は、ちょっと前までは音質のみ優先するようなリスナーに少し腹を立てていたんですね。“何かちょっと違うんじゃないか“って。いまはまぁ、人それぞれと思えるようになりました。素晴らしい音楽ではなく、素晴らしい音質ばかりを追求する人もいるんだな、と。だけど、私は音楽を一番大事にしたいというのが、いまのスタンスですね。
― 私たちとしても、やはり良い音楽がまずあって、それからその魅力を存分に引き出すべく、良い音を追求してほしいと考えています。そんな「音にこだわる音楽ファン」である私達の読者の皆様へ、最後にメッセージをお願いします。
マシューズ 皆さんが再生において最高の環境で私の作品を聴いていただけることは、すごく嬉しく思います。だけど、私が本当に大切にしているのはあくまで音楽そのものです。ここだけ忘れずに、好きなだけハイクオリティにして、思う存分私の音楽を楽しんいただけると、これ以上に嬉しいことはないですね。
【最新作品】
ボレロ
マンハッタン・ジャズ・オーケストラ
【CD版】¥3,000(税別) KICJ 676(キングレコード)
【ハイレゾ版】¥3,333(税別) 96kHz/24bit FLAC、96kHz/24bit WAV、5.6MHz/1bit DSF(キングレコード)
日本で最もポピュラーなビッグバンド、MJOの最新アルバムはなんと全編クラシックの楽曲をジャズにアレンジ! 冒頭の「ツァラトゥストラはかく語りき」から最後を飾る「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」まで、誰もが耳にしたことがある楽曲を、見事にマシューズ色へ染め上げている。今季必聴の一枚だ。
【キングレコード最新情報】
▼12/10
フュージョン名門レーベル「エレクトリック・バード」約50タイトルをハイレゾ配信
配信サイト:e-onkyo music/mora/VICTOR STUDIO HD-Music.
▼ジャズの名門「CTI」珠玉の40タイトルをハイレゾ配信中
http://www.e-onkyo.com/feature/31/